商人ガルド、リベッタ村へ
グランツの商人ガルドがリベッタ村へ姿を見せるのは、年に三度。
その周期は、村人たちにとって季節の移ろいと同じくらい確かなものになっていた。
山あいの小さな村で織られる布。
朝霧の湿り気を吸った野菜や、陽光をたっぷり浴びた果物。
そして、村では作れない包丁や食器、農具の数々。
ガルドは、それらを運び、また持ち帰る。
村と外の世界をつなぐ、静かな橋のような存在だった。
夕暮れの色が濃くなりはじめた頃、ガルドの荷馬車が集会場の前で止まった。
きぃ、と木の扉が開き、ソラトの父が姿を見せる。
「やあ、ガルドさん。お待ちしてました」
夕方の空気に溶けるような穏やかな声だった。
ガルドは道中の埃を軽く払い落とし、にこやかに帽子を上げる。
「ごきげんよう、リヴェルさん」
ソラトの父が応えるより早く、小屋の奥から三人の村人が現れた。
積み込みを手伝うために集まってきたのだ。
「じゃあ、さっそく始めましょうか」
声がかかると、村人たちは手際よく馬車の荷を下ろし、小屋へと運び込んでいく。
代わりに、小屋の中から野菜や織物の詰まった木箱が次々と馬車へ積み込まれていった。
ガルドは一つひとつの箱を開け、品の状態を確かめる。
「今年の野菜もいい出来ですねぇ……おや、少し多いのでは?」
「今年は豊作だったから、少し多めに持って行ってください」
「こりゃ、いつもありがとうございます、リヴェルさん」
ガルドが頭を下げると、ソラトの父は一回り小さな木箱を手に取って差し出した。
「これが日持ちの悪い分です」
「おお、例のミラッタの実ですな」
ガルドは嬉しそうに受け取り、馬車の隅に置かれた魔道具の箱を開ける。
内部にはひんやりとした空気が漂い、食品の鮮度を保つ淡い光が揺れていた。
ガルドは慎重に果物の箱をその中へ収める。
作業は滞りなく終わり、ガルドとソラトの父は並んで家へ向かった。
ガルドはリベッタ村に来ると、いつもソラトの家に泊まり、翌朝に出発するのが習わしになっている。
玄関の扉が開くと、温かな湯気と香ばしい匂いがふわりと流れ出た。
台所では母が夕食の準備をしており、ソラトもその横で皿を並べるのを手伝っている。
「あら、ガルドさん。いらっしゃい」
母が振り返り、柔らかく微笑んだ。
「どうも奥さん。いつもお世話をかけます」
ガルドは帽子を軽く持ち上げて挨拶する。
その時、皿を抱えたソラトが台所から出てきた。
「おお、ソラトくん。こんばんは。お父さんから話は聞いたよ」




