天才の片鱗
夕方、農作業から戻った父は、家の中にソラトの姿がないことに気づいた。
「おい、ソラトはまだやってるのか?」
母は洗い物の手を止めて振り返る。
「そうですよ。お昼も食べないで、ずっと魔導書庫にこもりっぱなしなんです」
そのとき魔導書庫から、ソラトが戻ってきた。
「つい夢中になっちゃって……もうこんな時間か。お腹ペコペコだよ」
母は呆れたように、でもどこか嬉しそうに言う。
「当たり前ですよ。お昼も食べてないんだから。すぐ夕飯の支度するから、座って待ってなさい」
父とソラトは食卓についた。
食卓に置いてあるパンを手に取り父が尋ねる
「で、ソラト。どれくらい進んだんだ? 来週までには全部いけそうか?」
ソラトはあっさりと言った。
「もう全部頭に入ったよ」
父はパンを落としそうになる。
「ええっ、もう全部覚えたのか?」
ソラトは平然としている。
「それとね、魔導書って基本エルフ語で書いてあるから、エルフ語も覚えたよ」
父はさらに目を丸くした。
「お、おいおい……俺なんてエルフ語マスターするのに半年かかったんだぞ」
ソラトは肩をすくめる。
「だって、ただ丸暗記するだけだから簡単だったよ」
父は言葉を失い、口をぱくぱくさせる。
そこへ母が両手に皿を持って現れた。
「どうしたんですか、そんな大きな声出して」
父は半ば呆れたように言う。
「こいつ、文字を全部覚えただけじゃなくて、エルフ語まで覚えたらしいんだ」
母は皿を置きながら目を丸くする。
「まあ……すごい。エルフ語も半日で覚えちゃったの?」
そしてふと父に視線を向ける。
「あなたもエルフ語できましたよね。どれくらいで覚えたんでしたっけ?」
父はなんだか恥ずかしそうに小声で答えた。
「……半年くらいかな」
母は思わず吹き出し、ソラトは照れくさそうに笑った。
そうだ、旅に出るまでまだ時間がある。
明日から魔導書庫の本を出来る限り読んでおこうとソラトは思った。




