魔導書庫の朝
翌朝、ソラトはひとり魔導書庫へ向かった。
魔導書庫には魔導書だけでなく、先祖たちが残した古い記録や、
さまざまな言語の本がぎっしりと並んでいる。
ソラトは棚の奥から、この地で使われている〈ナカラム言語〉の入門書を取り出し、
ぱらぱらとページをめくり始めた。
旅立ちを前に、どうしても覚えておきたいのだ。
一方その頃、家の食卓では父が朝食を前にしていた。
「今日はソラト遅いな。まだ寝てるのか」
台所から戻ってきた母が席につき、湯気の立つスープを置く。
「ソラトなら、さっき食べ終わってもう魔導書庫に行きましたよ」
「なんだ、えらくやる気出してるじゃねえか」
父は少し驚いたように笑う。
「あんなに外で遊ぶのが好きだったのに……やっぱり魔法が覚醒した影響なんだろうな」
母はスプーンを置き、ふっと寂しそうに目を伏せた。
「でも……あの子が成長して、どんどん離れていくみたいで。なんだか、私、寂しいわ」
父はパンをちぎりながら、静かに言った。
「子供はいつか旅立つ時が来る。ソラトももう十六だ。
……俺たちの役割は、そろそろ終わりなのかもしれん」
母はその言葉を黙って聞いていた。
父は窓の外を見やり、ぽつりと続ける。
「それに……あいつには、この世界で果たすべき大きな役割があるんだと思うんだ」
その声には、寂しさと誇らしさが入り混じっていた。




