十六歳の決意
ソラトの家では、家族四人が夕食を囲んでいた。
温かい湯気が立ちのぼり、いつもと変わらぬ食卓のはずなのに、
どこか緊張した空気が漂っている。
ソラトがスプーンを置き、静かに口を開いた。
「ぼく、グランツに行ってみるよ」
父は“やっぱりな”という顔でうなずく。
「そうか。お前ならそう言うと思ってた。賢者の血筋は好奇心が強いからな」
祖父が懐かしそうに笑う。
「わしがグランツに行ったのは二十四の時じゃ。それよりだいぶ早いのお」
「おじいちゃんは、何しに行ったの?」
ソラトが尋ねると、祖父は胸を張った。
「魔道具を見に行ったんじゃよ。魔力を持たん人間でも魔法が使えると聞いたら、
いてもたってもいられなくての」
しかしすぐに肩を落とす。
「じゃが、あの頃は魔道具が高価でな。結局、持って帰れんかった。
どのみち魔石が手に入らんリベッタ村じゃ使えんしの」
母は心配そうに眉を寄せた。
「でも、グランツまで歩いて一か月もかかるんでしょ。
そんなところまでソラト一人で大丈夫かしら」
「大丈夫だよ、母さん。ロックと何日も遠出してたし、野宿にも慣れてるよ」
「でも今度は一か月よ。それも一人で……」
母の声が揺れたそのとき、父が手を打った。
「そうだ。来週あたりにグランツの商人、ガルドさんが来るはずだ。
一緒に馬車に乗せてもらえば、十日ほどで着くぞ」
母の顔がぱっと明るくなる。
「そうだわ、ソラト。そうしましょう。
ガルドさんには交換品のネックレスを多めに渡しておくから、それで乗せてもらいましょ」
父も笑う。
「母さんの作るアクセサリーはグランツでも評判らしいから、きっと喜んで乗せてくれるよ」
そしてソラトに向き直る。
「出発は来週にするといい。それまでに準備もできるしな」
「うん。出発する前にやりたいことあるし、ちょうどよかったよ」
祖父は野菜スープをすすりながら満足げに言った。
「それにしても、今の野菜はどれも格別じゃのお」
母は笑いながら答える。
「リベッタの野菜は今が旬だからねぇ。
ガルドさん、この時期は絶対外さないわ。野菜も多めに渡しましょうよ。
ソラトのこともちゃんと見てもらわないと……」
父は苦笑した。
「いや、そこまでしなくても大丈夫だよ。
それよりソラト、出発前にやっておきたいことってなんだ?」
ソラトはスープから顔を上げ、まっすぐ父を見る。
「字を覚えるんだ」




