第85話:教会派の最後の抵抗
表彰式から一週間が経った。
ルーカスは、学院に戻り、普通の生活を送っていた。
しかし、教会派が動き始めた。
「殿下、緊急のニュースです」
レオナルドが、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「何があったのですか」
「教会が、声明を発表しました」
「声明……」
「殿下の『禁忌』認定を、改めて確認する、と」
ルーカスは、顔を曇らせた。
* * *
教会の声明は、以下のようなものだった。
『第三王子ルーカス・フォン・ヴェルスタインは、国境での功績により称賛されている。
しかし、教会は改めて確認する。
彼の体は、神の摂理に反するものであり、「禁忌」である。
功績があっても、その事実は変わらない。
教会は、引き続き「禁忌」の排除を求める。』
「これは……」
ルーカスは、声明を読んで沈黙した。
「殿下……」
セラが、心配そうに声をかけた。
「大丈夫です。予想していました」
「でも……」
「教会派は、簡単には引かないでしょう。分かっていました」
ルーカスの声は、落ち着いていた。
* * *
しかし、世論は教会の声明を受け入れなかった。
「国を救った英雄を、排除するのか」
「教会は、何を考えているのだ」
「殿下は、我々を守ってくれた。それを忘れるのか」
批判の声が、各地から上がった。
新聞も、教会を批判する論調が多かった。
『教会の頑迷さ、国民感情を無視――英雄を「禁忌」と呼ぶ愚かさ』
「世論は、殿下の味方です」
レオナルドが、報告した。
「ありがとうございます」
「教会は、孤立しています」
「でも、彼らは諦めていません」
「……」
ルーカスは、考え込んだ。
* * *
その夜、アルベルトから手紙が届いた。
『ルーカスへ
教会の声明は、予想通りだ。
しかし、世論は完全に殿下の味方だ。
教会は、追い詰められている。
父上は、教会に対して正式な抗議を行った。
「国の英雄を禁忌と呼ぶことは、許されない」と。
大司教は、困惑しているようだ。
世論と王家の両方から、圧力を受けている。
もう少しで、教会派は折れるだろう。
しかし、最後の抵抗があるかもしれない。
警戒を続けてくれ。
アルベルトより』
ルーカスは、手紙を読んで少し安心した。
しかし、「最後の抵抗」という言葉が、気になった。
* * *
数日後、その「最後の抵抗」が起きた。
グレゴリウス先生が、再び動き出したのだ。
「殿下、お話があります」
グレゴリウス先生が、放課後、ルーカスを呼び止めた。
「何でしょうか」
「これが、最後の警告です」
「……」
「殿下が、自ら身を引かないなら、我々は実力行使に出ます」
「実力行使……」
「殿下を、物理的に排除します」
グレゴリウス先生の目は、冷酷だった。
「脅しですか」
「事実です」
「僕は、屈しません」
「そうですか……残念です」
グレゴリウス先生が、一歩近づいた。
* * *
しかし、その瞬間、複数の人影が現れた。
「そこまでだ」
エリアスが、グレゴリウス先生の前に立ちはだかった。
「ブレンナー殿……」
「殿下に手を出すなら、俺が相手だ」
「私も」
セラが、剣を抜いた。
「俺もいるぞ」
クラウスが、窓から飛び込んできた。
「私も、殿下の味方です」
レオナルドが、静かに言った。
グレゴリウス先生は、周囲を見回した。
完全に、囲まれていた。
* * *
「……これで終わりだと思うな」
グレゴリウス先生が、低い声で言った。
「教会は、諦めない」
「諦めるべきです」
ルーカスが、静かに言った。
「世論は、僕の味方です。王家も、味方です」
「……」
「これ以上抵抗しても、無駄です」
「殿下……」
「僕は、人間として生きたいだけです。それを、認めてもらえませんか」
ルーカスの目は、真剣だった。
グレゴリウス先生は、しばらく黙っていた。
そして、ため息をついた。
「……私一人の判断では、どうにもなりません」
「では、教会に伝えてください」
「何を……」
「僕は、対話を求めています。争いではなく、対話で解決したい」
「……」
「教会と、改めて話し合いたいのです」
ルーカスの言葉は、誠実だった。
* * *
グレゴリウス先生は、考え込んでいた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。教会に、伝えます」
「ありがとうございます」
「しかし、どうなるかは分かりません」
「構いません。対話の機会があれば、それで十分です」
「……」
グレゴリウス先生は、黙って立ち去った。
仲間たちが、ルーカスの周りに集まった。
「殿下、大丈夫でしたか」
「はい。みんなのおかげです」
「良かった……」
セラが、安堵の息をついた。
「対話を求めるとは、殿下らしいですね」
「争いでは、何も解決しませんから」
「……」
仲間たちは、ルーカスの姿勢に感心した。
* * *
最後の抵抗は、失敗に終わった。
グレゴリウス先生は、教会に戻っていった。
そして、ルーカスの対話の申し出が、教会に伝えられた。
教会派が、どう反応するか。
それが、次の焦点だった。
ルーカスは、希望を持って待つことにした。
対話で、解決できることを信じて。




