第74話:新たな刺客、王宮内部の裏切り者
婚約内定から、一週間が経った。
ルーカスとセラは、普通の学院生活を送っていた。
しかし、平和は長くは続かなかった。
ある夜、王宮から緊急の知らせが届いた。
アルベルトからの手紙だった。
『ルーカスへ
緊急の報告がある。
王宮内部に、裏切り者がいることが判明した。
教会派と内通している者が、王宮の情報を流していた。
お前の婚約内定の件も、すでに教会派に知られている可能性がある。
警戒を強化してほしい。
詳細は、追って報告する。
アルベルトより』
ルーカスは、手紙を読んで顔を曇らせた。
裏切り者。
王宮の中にいる。
* * *
「殿下、どうなさいましたか」
セラが、ルーカスの表情を見て声をかけた。
「兄上から、手紙が届きました」
「何かあったのですか」
「王宮内部に、裏切り者がいるそうです」
「裏切り者……」
「教会派と内通している者が、情報を流していると」
セラの顔が、険しくなった。
「婚約内定のことも、知られている可能性があるそうです」
「まずいですね……」
「はい。警戒を強化しなければなりません」
二人は、顔を見合わせた。
* * *
翌日の夜、事件が起きた。
ルーカスが、寮の廊下を歩いていたとき。
突然、背後から気配を感じた。
振り返ると、黒い影が迫っていた。
「危ない!」
セラが、叫んだ。
彼女は、少し離れた場所にいた。
ルーカスは、反射的に身を翻した。
刃が、かすめていった。
「刺客……!」
黒い服を着た人物が、短剣を構えていた。
「殿下を、殺す」
低い声で、そう言った。
* * *
ルーカスは、後ろに下がりながら構えた。
剣は、持っていなかった。
寮の中だから、油断していた。
「くっ……」
刺客が、再び襲いかかってきた。
ルーカスは、攻撃を避けながら反撃の機会を窺った。
しかし、刺客は手練れだった。
動きが、速い。
素手では、対抗が難しい。
「殿下!」
セラが、駆けつけてきた。
剣を抜いて、刺客に斬りかかった。
「邪魔だ!」
刺客が、セラと剣を交えた。
しかし、セラは訓練を積んでいた。
刺客と、互角に渡り合った。
* * *
「殿下、逃げてください!」
「セラを置いて逃げられません!」
「殿下……!」
ルーカスは、周囲を見回した。
何か、武器になるものはないか。
廊下の壁に、装飾用の剣が飾ってあった。
ルーカスは、それを掴んだ。
「セラ、援護します!」
「殿下!」
二人で、刺客を挟み撃ちにした。
刺客は、焦り始めた。
一人なら楽勝だと思っていたのだろう。
しかし、二人を相手にするのは難しかった。
「くそ……!」
刺客が、窓から飛び出した。
逃走を図ったのだ。
* * *
「追いますか」
「いえ、やめましょう。夜の追跡は、危険です」
「はい……」
セラが、剣を収めた。
「殿下、怪我はありませんか」
「大丈夫です。セラのおかげで助かりました」
「良かった……」
セラが、ルーカスを抱きしめた。
「心配しました……」
「すみません。油断していました」
「いいえ……殿下が無事なら、それでいいです」
二人は、しばらくそのままでいた。
* * *
騒ぎを聞いて、寮監と警備隊が駆けつけてきた。
「何事ですか!」
「刺客です。殿下を狙って」
「刺客……!」
寮監が、青い顔になった。
「すぐに、学院長に報告します」
「お願いします」
寮監は、急いで走っていった。
警備隊が、窓の外を調べた。
しかし、刺客はすでに逃走した後だった。
* * *
翌日、学院長室で会議が開かれた。
ルーカス、セラ、そして学院長が出席していた。
「殿下、またしても襲撃があったとか」
「はい。刺客が一人、寮に侵入してきました」
「由々しき事態です」
学院長が、深刻な顔をしていた。
「学院内の警備は、強化しているはずなのですが……」
「刺客は、プロでした。警備をかいくぐる術を知っていたのでしょう」
「むう……」
学院長が、考え込んだ。
「これ以上の警備強化は、学院の機能を損なう可能性があります」
「どうすればいいでしょうか」
「……殿下の護衛を、さらに増やすしかありません」
「護衛……」
「王宮から、専門の護衛を派遣してもらいましょう」
学院長の提案に、ルーカスは頷いた。
* * *
数日後、王宮から護衛が派遣されてきた。
二人の騎士だった。
「殿下、初めまして。護衛を務めます、カールと申します」
「同じく、ハインツと申します」
「よろしくお願いします」
ルーカスは、二人に挨拶した。
二人は、ヴィクトルが選んだ腕利きの騎士だという。
信頼できる人物だ。
「殿下、これからは我々が、殿下をお守りします」
「ありがとうございます」
「ヴェルディ殿も、引き続き護衛を務められるそうですね」
「はい」
セラが、頷いた。
「三人で、殿下をお守りしましょう」
「お願いします」
護衛チームが、結成された。
* * *
護衛が増えたことで、ルーカスの生活は少し変わった。
常に、誰かが傍にいるようになった。
窮屈ではあったが、仕方がなかった。
命を狙われている以上、用心するしかない。
「殿下、不便をおかけして申し訳ありません」
「いいえ。守ってくれて、感謝しています」
「そう言っていただけると、ありがたいです」
カールが、頭を下げた。
「しかし、刺客の正体が気になります」
「そうですね……」
「教会派の手の者でしょうか」
「おそらく。しかし、証拠がありません」
ルーカスは、考え込んだ。
* * *
その夜、アルベルトから新しい手紙が届いた。
『ルーカスへ
裏切り者の正体が判明した。
王宮の侍従の一人だ。
教会派から金を受け取り、情報を流していた。
すでに拘束し、取り調べ中だ。
彼によると、教会派はお前を「排除」することを諦めていない。
暗殺が失敗しても、何度でも刺客を送ると言っていた。
用心してほしい。
護衛は、信頼できる者を選んだ。
彼らを信じて、身を守れ。
アルベルトより』
ルーカスは、手紙を読んで、ため息をついた。
教会派は、諦めていない。
何度でも、命を狙ってくる。
「殿下、どうなさいましたか」
セラが、声をかけてきた。
「兄上から、手紙です。裏切り者の正体が判明したそうです」
「それは、良かったですね」
「しかし、教会派は諦めていないようです」
「……」
「これからも、刺客が来る可能性があります」
「大丈夫です」
セラが、ルーカスの手を握った。
「私たちが、殿下を守ります」
「セラ……」
「殿下は、一人ではありません」
「……ありがとう」
ルーカスは、セラの手を握り返した。
敵は、諦めていない。
しかし、味方もいる。
この戦いを、乗り越えなければならない。
人間として生きるために。
ルーカスは、改めてそう決意した。




