第73話:王家からの正式な許可、婚約内定
ヴェルディ家との対面から、数日後。
ルーカスは、王宮からの呼び出しを受けた。
「父上が、会いたいとのことです」
使者が、そう伝えてきた。
ルーカスは、少し緊張した。
父王が、直接会いたいと言っている。
何か、重要な話があるのだろう。
* * *
週末、ルーカスは王宮を訪れた。
セラも、一緒だった。
「殿下、私も行っていいのでしょうか」
「もちろんです。父上も、セラに会いたがっていると思います」
「緊張します……」
「大丈夫です。僕が傍にいます」
二人は、手を繋いで王宮に入った。
* * *
謁見の間で、国王フリードリヒ二世が待っていた。
アルベルトとヴィクトルも、一緒だった。
「父上、お呼びでしょうか」
「ルーカス、来たか」
フリードリヒが、穏やかに微笑んだ。
「そして、セラフィーナ嬢。よく来てくれた」
「陛下、お会いできて光栄です」
セラが、深く頭を下げた。
「頭を上げなさい。今日は、堅苦しい話ではない」
「はい……」
セラは、緊張しながらも頭を上げた。
* * *
「ルーカス、今日呼んだ理由を言おう」
「はい」
「お前とセラフィーナ嬢の関係について、正式に認めようと思う」
「え……」
ルーカスは、驚いた。
「正式に、とは……」
「婚約の内定だ」
「婚約……」
「まだ正式な婚約ではない。しかし、将来の婚約を前提とした、内定だ」
フリードリヒの言葉に、ルーカスは言葉を失った。
* * *
「陛下、私などが……」
セラが、震える声で言った。
「セラフィーナ嬢、卑下する必要はない」
「しかし、私は田舎の伯爵令嬢で……」
「身分は関係ない」
フリードリヒが、きっぱりと言った。
「お前は、ルーカスの命を何度も救った。そして、ルーカスを支え続けている」
「……」
「それだけで、十分な資格がある」
「陛下……」
セラの目から、涙がこぼれた。
* * *
「ルーカス、お前は以前、セラフィーナ嬢との婚約を望むと言ったな」
「はい」
「その気持ちは、変わっていないか」
「変わっていません」
ルーカスは、はっきりと答えた。
「僕は、セラと結婚したいと思っています」
「……」
「セラは、僕にとって、かけがえのない存在です。彼女と一緒に生きていきたい」
ルーカスの言葉は、真剣だった。
フリードリヒは、満足げに頷いた。
「良い答えだ」
「父上……」
「ルーカス、セラフィーナ嬢。お前たちの婚約を、内定とする」
「ありがとうございます」
二人は、深く頭を下げた。
* * *
「ただし、条件がある」
フリードリヒが、続けた。
「条件……」
「正式な婚約は、お前たちが学院を卒業してからだ」
「卒業してから……」
「今は、まだ若い。学業に専念しなさい」
「はい」
「そして、この内定は、対外的には秘密にする」
「秘密……」
「教会派に知られれば、また騒ぎになる。今は、静かにしておく方がいい」
「分かりました」
ルーカスは、頷いた。
父王の配慮だった。
自分たちを、守ろうとしてくれている。
* * *
「ルーカス、良かったな」
アルベルトが、声をかけてきた。
「兄上……」
「父上に認められて、お前も嬉しいだろう」
「はい。とても嬉しいです」
「セラフィーナ嬢も、良い娘だ。お前にはもったいないくらいだ」
「兄上……」
アルベルトが、微笑んだ。
「冗談だ。お前たちは、お似合いだ」
「ありがとうございます」
「俺からも祝いを言う」
ヴィクトルが、近づいてきた。
「ルーカス、セラフィーナ嬢。おめでとう」
「ありがとうございます、ヴィクトル殿下」
「これからも、二人で仲良くやれ」
「はい」
二人は、兄たちの祝福を受けた。
* * *
謁見の間を出た後、ルーカスとセラは庭園を歩いていた。
「殿下、今日のこと、夢みたいです」
「僕も、まだ信じられません」
「婚約内定……」
「はい。父上に認められました」
二人は、顔を見合わせた。
「セラ、改めて言います」
「はい」
「僕と、結婚してください」
「……」
セラの目から、涙が溢れた。
「はい。殿下と、結婚します」
「ありがとう、セラ」
二人は、抱き合った。
庭園の花々が、二人を祝福するように風に揺れていた。
* * *
「殿下、私、本当に幸せです」
「僕も、幸せです」
「殿下と出会えて、本当に良かったです」
「僕も、セラと出会えて良かったです」
二人は、手を繋いで歩いた。
「これからも、一緒にいてくれますか」
「もちろんです。殿下の傍に、ずっといます」
「ありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます」
二人の影が、夕日に照らされて伸びていた。
* * *
学院に戻ると、レオナルドが出迎えてくれた。
「殿下、どうでしたか」
「レオナルド、聞いてください」
「何かあったのですか」
「父上に、婚約を内定していただきました」
「……え?」
レオナルドが、目を丸くした。
「婚約……内定……」
「はい。まだ正式ではありませんが、将来の婚約を認めていただきました」
「それは……おめでとうございます!」
レオナルドが、笑顔になった。
「殿下、ヴェルディ殿、本当におめでとうございます」
「ありがとう、レオナルド」
「ありがとうございます」
三人は、笑顔を交わした。
* * *
「しかし、驚きました」
「そうですか」
「いえ、殿下たちが結ばれることは、予想していました。しかし、こんなに早く王家から許可が出るとは」
「父上が、僕たちを認めてくださったのです」
「陛下は、懐の深い方ですね」
「はい。僕は、父上に感謝しています」
ルーカスは、心からそう思っていた。
国王は、自分を「禁忌」としてではなく、息子として見てくれている。
それが、とても嬉しかった。
* * *
その夜、ルーカスは自分の部屋で、考えていた。
婚約内定。
それは、大きな進歩だった。
しかし、まだ道は長い。
教会派との対立は、続いている。
正式な婚約は、学院を卒業してから。
それまでに、教会派の問題を解決しなければならない。
「でも、希望がある……」
小さく呟いた。
父王が、味方してくれている。
兄たちも、支えてくれている。
そして、セラが傍にいる。
困難は、まだある。
しかし、乗り越えられる。
そう信じることができた。
* * *
ドアをノックする音がした。
開けると、セラが立っていた。
「殿下、少しお話しできますか」
「もちろんです。入ってください」
セラが、部屋に入ってきた。
「どうしましたか」
「今日のこと、改めてお礼を言いたくて」
「お礼……」
「殿下が、私を選んでくださったこと」
「……」
「私を、婚約者にしてくださったこと」
「セラ……」
「本当に、ありがとうございます」
セラが、深く頭を下げた。
「顔を上げてください、セラ」
「……」
「僕の方こそ、感謝しています」
「殿下……」
「セラが傍にいてくれるから、僕は頑張れます」
「……」
「これからも、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
二人は、微笑み合った。
婚約内定。
それは、二人の新しい出発点だった。
これからも、一緒に歩いていく。
困難を乗り越えて、幸せな未来を掴むために。
その決意を胸に、二人は夜を過ごした。




