第72話:セラの家族、ヴェルディ家との対面
秋が深まり、学院は紅葉に彩られていた。
ある日、セラがルーカスに話しかけてきた。
「殿下、お願いがあります」
「何ですか」
「実は……両親が、殿下にお会いしたいと言っているのです」
「ご両親が……」
「はい。私と殿下の関係を知って、直接お会いしたいと」
セラの顔が、少し赤くなっていた。
* * *
ルーカスは、少し緊張した。
セラの両親に会う。
それは、正式に関係を認めてもらうことを意味していた。
「僕で、いいのでしょうか」
「はい。殿下に会いたいのは、両親の希望です」
「……分かりました。喜んでお会いします」
「ありがとうございます」
セラが、嬉しそうに微笑んだ。
「両親も、喜ぶと思います」
「緊張しますね」
「大丈夫です。両親は、優しい人たちですから」
「そうですか……」
ルーカスは、少し安心した。
しかし、緊張は消えなかった。
* * *
週末、ヴェルディ伯爵が王都を訪れた。
セラの実家は、王都から離れた領地にある。
両親が、わざわざ会いに来てくれたのだ。
待ち合わせは、王都の高級レストランだった。
ルーカスは、セラと一緒に向かった。
「殿下、緊張していますか」
「少し……」
「大丈夫です。私が傍にいます」
「ありがとう、セラ」
二人は、手を繋いでレストランに入った。
* * *
個室に通されると、二人の人物が待っていた。
一人は、40代くらいの男性。
茶色の髪に、穏やかな表情。
もう一人は、同じく40代くらいの女性。
セラによく似た、美しい顔立ち。
「父上、母上」
セラが、駆け寄った。
「セラフィーナ、久しぶりだな」
「元気そうで良かったわ」
両親が、セラを抱きしめた。
その光景を見て、ルーカスは胸が温かくなった。
家族の絆。
それは、美しいものだった。
* * *
「殿下、初めまして」
ヴェルディ伯爵が、一礼した。
「ヴェルディ伯爵家当主、アレクサンダー・ヴェルディと申します」
「初めまして。ルーカス・フォン・ヴェルスタインです」
「妻の、マリアンヌです」
「初めまして、殿下」
マリアンヌ夫人が、優しく微笑んだ。
「どうぞ、お座りください」
四人は、テーブルを囲んで座った。
* * *
「殿下、セラフィーナがいつもお世話になっております」
「いいえ。僕の方こそ、セラにはいつも助けられています」
「そうですか……」
アレクサンダーが、穏やかに頷いた。
「セラフィーナから、手紙で殿下のことを聞いています」
「……」
「殿下が、どれほど素晴らしい方か。何度も書いてきました」
「父上……」
セラが、恥ずかしそうに顔を赤くした。
「本当のことを、書いただけです」
「ふふ、照れなくてもいいのよ」
マリアンヌが、微笑んだ。
* * *
食事をしながら、会話が続いた。
「殿下、セラフィーナは、幼い頃から騎士に憧れていました」
「そうなのですか」
「はい。男の子に混じって、剣の稽古をしていました」
「父上……」
「泣き虫だったくせに、負けず嫌いで」
「父上!」
セラが、顔を真っ赤にした。
ルーカスは、微笑んだ。
セラの幼い頃の話。
とても、興味深かった。
「セラは、泣き虫だったのですか」
「殿下、忘れてください」
「いいえ、もっと聞きたいです」
「殿下……」
セラが、恥ずかしそうに俯いた。
* * *
「殿下、一つお聞きしてもいいですか」
アレクサンダーが、真剣な表情になった。
「何でしょうか」
「殿下は、セラフィーナのことを、どう思っていらっしゃいますか」
「……」
ルーカスは、姿勢を正した。
真剣に答えなければならない質問だった。
「セラは、僕にとって、かけがえのない存在です」
「……」
「最初は、監視官として出会いました。しかし、今は違います」
「どう違いますか」
「セラは、僕の……」
ルーカスは、少し言葉に詰まった。
しかし、はっきりと言った。
「僕の、最も大切な人です」
「……」
「僕は、セラを愛しています」
はっきりと、そう言った。
* * *
セラが、目を見開いた。
ルーカスが、両親の前で「愛している」と言った。
それは、正式な告白に等しかった。
「殿下……」
「セラ、本当のことです」
「……」
セラの目から、涙がこぼれた。
アレクサンダーとマリアンヌは、顔を見合わせた。
そして、微笑んだ。
「殿下、ありがとうございます」
「……」
「殿下のお気持ち、確かに受け取りました」
「伯爵……」
「セラフィーナを、よろしくお願いいたします」
アレクサンダーが、深く頭を下げた。
* * *
「殿下、正直に申しますと、最初は心配していました」
マリアンヌが、静かに言った。
「心配……」
「はい。殿下は、王子です。セラフィーナは、田舎の伯爵令嬢。身分が違います」
「……」
「セラフィーナが、傷つくのではないかと心配していました」
「母上……」
「しかし、今日、殿下にお会いして、安心しました」
マリアンヌが、微笑んだ。
「殿下は、本当にセラフィーナを大切に思っていらっしゃる」
「はい」
「それが分かっただけで、私たちは安心です」
「ありがとうございます」
ルーカスは、深く頭を下げた。
* * *
「殿下、一つお願いがあります」
アレクサンダーが、言った。
「何でしょうか」
「セラフィーナを、守ってやってください」
「……」
「彼女は、強い子です。しかし、一人で全てを背負い込む癖があります」
「はい、知っています」
「殿下が傍にいれば、彼女も安心できるでしょう」
「……」
「どうか、彼女の傍にいてやってください」
アレクサンダーの言葉は、父親としての願いだった。
「約束します」
ルーカスは、はっきりと言った。
「僕は、セラを守ります。そして、セラに守ってもらいます」
「守ってもらう……」
「はい。お互いに、守り合います。それが、僕たちの関係です」
ルーカスの言葉に、アレクサンダーは目を細めた。
「素晴らしい考えですね」
「セラが、教えてくれました」
「……」
アレクサンダーは、セラを見た。
セラは、泣きながら微笑んでいた。
「良い娘を持ったな」
「父上……」
「殿下、セラフィーナをよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
二人は、固く握手を交わした。
* * *
食事が終わり、別れの時が来た。
「殿下、今日は本当にありがとうございました」
「いいえ。僕の方こそ、お会いできて光栄でした」
「またお会いしましょう」
「はい」
ルーカスとセラは、レストランを出た。
両親を見送った後、二人で歩いた。
「殿下、今日は……ありがとうございました」
「セラ……」
「殿下の言葉、嬉しかったです」
「本当のことを、言っただけです」
「……」
セラが、ルーカスの腕を取った。
「私も、殿下を愛しています」
「……」
「殿下と一緒に、生きていきたいです」
「僕も、セラと一緒に生きていきたいです」
二人は、夕暮れの中を歩いた。
両親に認められた。
それは、大きな一歩だった。
二人の関係は、より深く、より確かなものになった。
これからも、一緒に歩いていく。
その決意を胸に、二人は学院に戻った。




