第70話:議会での攻防、法案阻止の戦い
「禁忌排除法」。
教会派が提出しようとしている、危険な法案。
それを阻止するために、王家派と貴族派が動き始めていた。
ルーカスは、学院にいながらも、その動きを見守っていた。
アルベルトから、定期的に報告が届いていた。
『ルーカスへ
議会の状況を報告する。
教会派は、来週の議会で法案を提出する予定だ。
我々は、反対票を集めている。
現時点で、王家派と貴族派を合わせれば、過半数を確保できる見込みだ。
しかし、油断はできない。
教会派が、何か策を仕掛けてくる可能性がある。
アルベルトより』
手紙を読み終えて、ルーカスは考え込んだ。
議会での戦い。
それは、自分には直接関われない戦いだった。
* * *
「殿下、お悩みですか」
セラが、声をかけてきた。
「少し。議会のことを考えていました」
「禁忌排除法のことですね」
「はい。兄上たちが、阻止しようとしてくれています」
「信じましょう。アルベルト殿下は、聡明な方です」
「……そうですね」
ルーカスは、頷いた。
しかし、不安は消えなかった。
もし、法案が成立したら。
自分は、「禁忌」として拘束される。
処分される可能性もある。
「殿下」
「はい」
「大丈夫です。殿下には、味方がたくさんいます」
「セラ……」
「私も、殿下の味方です。何があっても、殿下の傍にいます」
セラの言葉に、ルーカスの心が少し軽くなった。
* * *
数日後、議会の日が来た。
ルーカスは、学院の自室で、結果を待っていた。
落ち着かなかった。
何度も、窓の外を見た。
時間が、ゆっくりと過ぎていく。
「殿下、少し休まれては」
セラが、心配そうに言った。
「大丈夫です。結果が気になって……」
「分かります。でも、殿下が心配しても、結果は変わりません」
「……そうですね」
「信じましょう。きっと、良い結果が届きます」
セラが、ルーカスの手を握った。
その温かさに、少し落ち着いた。
* * *
夕方、馬車が学院に到着した。
王宮からの使者だった。
「殿下、議会の結果をお知らせします」
使者が、書状を差し出した。
ルーカスは、震える手で受け取った。
封を開け、読み始める。
『ルーカスへ
法案は、否決された。
賛成47票、反対53票。
僅差だったが、我々の勝利だ。
教会派は、予想以上に票を集めていた。
中立派の一部が、教会派に流れたようだ。
しかし、最終的には、貴族派の結束が勝った。
モンテス公爵の功績が大きい。
今後も、警戒は必要だ。
しかし、ひとまずは安心していい。
アルベルトより』
ルーカスは、深いため息をついた。
安堵の息だった。
「殿下、どうでしたか」
「否決されました。法案は、通りませんでした」
「良かった……」
セラの顔に、笑顔が浮かんだ。
「兄上たちが、守ってくれました」
「アルベルト殿下に、感謝ですね」
「はい。そして、モンテス公爵にも」
ルーカスは、改めて味方の存在のありがたさを感じた。
* * *
しかし、教会派は諦めていなかった。
法案が否決された翌日、新たな動きがあった。
「殿下、緊急の報告です」
モンテス公爵から、手紙が届いた。
『殿下へ
教会派が、新たな策を講じています。
法案が否決されたことで、彼らは別の方法を模索し始めました。
具体的には、「禁忌認定委員会」の設立を求めています。
議会を通さず、教会が独自に「禁忌」を認定できる仕組みです。
これは、法案よりも危険です。
議会の監視を逃れることができるからです。
対策を急ぐ必要があります。
モンテス公爵より』
ルーカスは、眉をひそめた。
教会派は、しつこい。
一度失敗しても、すぐに次の手を打ってくる。
「殿下、どうなさいますか」
「兄上に相談します。そして、対策を考えます」
「はい」
「セラ、僕は諦めません。何度でも、戦います」
「私も、お供します」
二人は、顔を見合わせて頷いた。
* * *
その夜、ルーカスはアルベルトに手紙を書いた。
『兄上へ
モンテス公爵から、情報が入りました。
教会派が、「禁忌認定委員会」の設立を求めているそうです。
これに対して、どう対処すべきでしょうか。
ご意見をお聞かせください。
ルーカスより』
返事は、翌日届いた。
『ルーカスへ
その情報は、私も把握している。
「禁忌認定委員会」は、教会の専権事項にしようとしている。
これは、明らかに越権行為だ。
王家として、これを認めるわけにはいかない。
父上も、同意している。
教会に対して、正式に抗議する予定だ。
お前は、学院で普通に過ごせ。
政治の戦いは、我々が担当する。
アルベルトより』
ルーカスは、兄の言葉に感謝した。
自分にできることは、限られている。
しかし、兄たちが前線で戦ってくれている。
「兄上、ありがとうございます……」
小さく呟いた。
* * *
数日後、王家から教会への抗議が行われた。
国王フリードリヒ二世が、直接、大司教に会ったという。
「教会の権限を、一方的に拡大することは認められない」
「禁忌認定は、王家と教会の協議の下で行われるべきだ」
「独断専行は、国の秩序を乱すものだ」
国王の言葉は、厳しかったという。
大司教は、渋々引き下がった。
しかし、不満を隠しきれていなかったという。
「殿下、良かったですね」
セラが、報告を聞いて喜んだ。
「はい。父上が、動いてくださいました」
「国王陛下も、殿下の味方ですね」
「そうみたいです」
ルーカスは、複雑な気持ちだった。
嬉しい反面、申し訳なさもあった。
自分のせいで、家族に迷惑をかけている。
そう思うと、心が痛んだ。
* * *
「殿下、そんな顔をしないでください」
セラが、ルーカスの表情を見て言った。
「え……」
「申し訳ないと思っているのでしょう」
「……分かりますか」
「はい。殿下の顔を見れば、分かります」
セラが、微笑んだ。
「殿下、家族は、家族のために戦うものです」
「でも、僕のせいで……」
「殿下のせいではありません。教会派が、悪いのです」
「……」
「殿下は、何も悪いことをしていません。ただ、生きているだけです」
「セラ……」
「生きていることが、罪になるはずがありません」
セラの言葉が、胸に染みた。
「ありがとう、セラ」
「お礼は、いりません。私は、本当のことを言っているだけです」
「でも、ありがとう」
ルーカスが、セラの手を握った。
セラも、握り返した。
* * *
議会での攻防は、一段落した。
法案は否決され、委員会設立も阻止された。
しかし、教会派との対立は、終わっていなかった。
「殿下、これからも戦いは続くでしょう」
「分かっています」
「覚悟は、できていますか」
「はい。僕は、人間として生きたい。そのためなら、何度でも戦います」
ルーカスの目には、強い意志があった。
教会派は、諦めていない。
また、新たな策を仕掛けてくるだろう。
しかし、ルーカスには味方がいる。
家族がいる。
セラがいる。
彼らと一緒に、戦い続ける。
人間として生きる権利を、勝ち取るために。
その決意を胸に、ルーカスは前を向いた。




