第69話:貴族派との協力関係構築
暗殺未遂事件が続いた後、ルーカスは貴族派との関係を強化することを決めた。
モンテス公爵からの提案を、受け入れることにしたのだ。
「殿下、お会いできて光栄です」
モンテス公爵が、にこやかに迎えてくれた。
場所は、王都にある公爵の別邸だった。
週末を利用して、ルーカスは訪れていた。
「公爵、お招きありがとうございます」
「いいえ。殿下とお話しできることが、私の喜びです」
二人は、応接室で向かい合った。
セラも、ルーカスの傍に控えていた。
* * *
「殿下、学院での事件、聞いております」
「暗殺未遂のことですね」
「はい。教会派の仕業でしょう」
「証拠はありませんが、おそらく」
「彼らは、手段を選びませんね」
公爵が、険しい表情を見せた。
「殿下、私は以前から申し上げています。殿下には、味方が必要です」
「分かっています」
「貴族派は、殿下を支持する用意があります」
「支持……とは、具体的に何をしていただけるのですか」
「情報提供、政治的支援、そして……護衛の派遣です」
「護衛……」
「はい。教会派の動きを監視し、殿下を守る者たちを、派遣できます」
公爵の提案は、魅力的だった。
しかし、ルーカスは慎重だった。
「公爵、一つ聞いてもいいですか」
「何でしょう」
「貴族派が僕を支持する理由は、何ですか」
「理由……」
「純粋な善意ではないでしょう。何か、見返りを期待しているはずです」
ルーカスの言葉に、公爵は少し驚いた顔をした。
しかし、すぐに微笑んだ。
「殿下は、賢い方ですね」
「正直に、教えてください」
「……分かりました」
公爵が、姿勢を正した。
* * *
「貴族派は、教会派と対立しています」
「それは、知っています」
「教会の影響力が強くなりすぎると、貴族の立場が弱くなります。それを、防ぎたいのです」
「つまり、僕を支持することで、教会派に対抗したい、と」
「はい。殿下は、教会派にとって目障りな存在です。殿下を守ることは、教会派を牽制することになります」
「なるほど」
「もちろん、それだけではありません」
「他にも、理由があるのですか」
「殿下は、優れた人物です。将来、この国の要職に就く可能性もあります。今から、殿下と良い関係を築いておきたいのです」
公爵の言葉は、率直だった。
ルーカスは、その正直さを評価した。
「分かりました。公爵の提案を、受け入れます」
「ありがとうございます、殿下」
「ただし、条件があります」
「何でしょう」
「僕は、貴族派の道具にはなりません。自分の意志で行動します」
「もちろんです。殿下の意志を、尊重いたします」
「それなら、協力関係を結びましょう」
二人は、握手を交わした。
* * *
公爵邸を出た後、ルーカスとセラは馬車の中で話していた。
「殿下、良い判断だったと思います」
「そうですか」
「はい。味方は、多い方がいいです」
「でも、彼らも打算で動いています」
「それは、仕方のないことです。政治とは、そういうものです」
「セラ、詳しいですね」
「少しだけ。父が、領地経営をしていたので」
セラが、少し微笑んだ。
「大切なのは、お互いの利益が一致していることです」
「利益が一致……」
「はい。殿下と貴族派は、教会派という共通の敵がいます。その点で、利益は一致しています」
「なるほど」
「ただし、油断はできません。利益が一致しなくなれば、彼らは殿下を見捨てるかもしれません」
「厳しい世界ですね」
「はい。でも、殿下には私がいます」
「セラ……」
「私は、利益に関係なく、殿下の味方です」
セラが、ルーカスの手を取った。
ルーカスは、その温かさに安心した。
* * *
数日後、モンテス公爵から報告があった。
教会派の動きについての、情報だった。
「殿下、新しい情報が入りました」
「何ですか」
「教会派が、殿下を排除するための法案を、議会に提出しようとしています」
「法案……」
「『禁忌排除法』というものです。『禁忌』と認定された者を、強制的に拘束・処分できるという内容です」
「そんな法律が……」
「まだ、提出されていません。しかし、準備は進んでいるようです」
公爵の報告に、ルーカスは顔を曇らせた。
「法律で、僕を排除しようとしている……」
「はい。暗殺が失敗したので、合法的な手段に切り替えたのでしょう」
「合法的……」
「殿下、この法案を阻止しなければなりません」
「どうすれば」
「議会で、反対票を集める必要があります。貴族派の議員は、反対に回ります。しかし、それだけでは足りません」
「王家派にも、協力を求める必要がある、と」
「はい」
ルーカスは、考え込んだ。
政治の戦い。
それは、剣の戦いとは違う、複雑なものだった。
* * *
その夜、ルーカスはアルベルトに手紙を書いた。
『兄上へ
教会派が、「禁忌排除法」という法案を準備しているそうです。
この法案が成立すれば、僕は拘束・処分される可能性があります。
法案を阻止するために、王家派の協力が必要です。
どうすればいいか、教えてください。
ルーカスより』
返事は、すぐに届いた。
『ルーカスへ
その情報は、私も把握している。
王家派は、すでに反対の立場を表明している。
父上も、この法案には反対だ。
議会での戦いは、我々に任せろ。
お前は、学院で普通の生活を送れ。
そして、これ以上の敵を作らないようにしろ。
アルベルトより』
兄の言葉に、ルーカスは少し安心した。
家族が、動いてくれている。
自分は、一人ではない。
「兄上、ありがとうございます……」
小さく呟いた。
政治の戦いは、兄たちに任せる。
自分は、自分にできることをする。
学院で、味方を増やす。
そして、セラと一緒に、強くなる。
それが、今の自分にできる最善のことだった。




