第68話:セラの奮闘、護衛としての成長
暗殺未遂事件から数日後。
セラは、これまで以上にルーカスの傍にいるようになった。
朝から夜まで、常に彼を守るように。
「セラ、そんなに張り詰めていなくていいですよ」
「いいえ。私は、殿下の護衛です」
「護衛……」
「はい。これからは、正式に殿下をお守りします」
セラの目には、強い決意があった。
* * *
セラは、自主的に訓練を増やしていた。
朝早く起きて、剣の稽古。
授業の合間にも、体を動かす。
夜は、護身術の本を読む。
「ヴェルディ殿、最近、訓練熱心ですね」
騎士科の教官が、声をかけた。
「殿下を守るためです」
「殿下を……」
「はい。私は、殿下の護衛になりたいのです。そのために、もっと強くなりたいのです」
「……素晴らしい心がけですね」
教官が、微笑んだ。
「私も、協力しましょう。特別訓練を、組んであげます」
「本当ですか」
「はい。あなたの熱意に、応えたいと思います」
「ありがとうございます」
セラは、深くお辞儀をした。
* * *
特別訓練は、厳しかった。
通常の訓練よりも、はるかにハードな内容だった。
剣術、格闘術、射撃。
そして、護衛としての心得。
「護衛の基本は、観察です」
教官が、説明した。
「常に周囲を観察し、危険を察知すること。危険があれば、主人より先に動くこと」
「はい」
「そして、最も大切なのは、主人の命を守ること。自分の命よりも、主人の命を優先すること」
「……」
「それができますか」
「できます」
セラは、迷わず答えた。
「殿下のためなら、何でもします」
「……良い覚悟です」
教官が、頷いた。
* * *
訓練の成果は、すぐに現れた。
セラの動きが、以前よりも鋭くなった。
反応速度も、格段に上がった。
「セラ、強くなりましたね」
ルーカスが、感心した声で言った。
「まだまだです。もっと、強くなりたいです」
「でも、無理しすぎないでください」
「大丈夫です。殿下を守るためなら、どんな努力でもします」
「セラ……」
ルーカスは、セラの決意に胸を打たれた。
「ありがとう、セラ」
「お礼は、いりません。私の意志で、やっていることですから」
「でも、ありがとう」
二人は、微笑み合った。
* * *
ある日の午後、事件が起きた。
ルーカスとセラが、学院の廊下を歩いていたときのこと。
突然、横の窓から、何かが飛んできた。
小さな、光る物体。
「殿下!」
セラが、反射的に動いた。
ルーカスを突き飛ばし、自分が前に出る。
飛んできた物体を、剣で弾いた。
カキン!
金属音が、響いた。
物体は、廊下の壁にぶつかって、落ちた。
「これは……」
「投げナイフです」
セラが、冷静に言った。
「殿下を狙ったものです」
「セラ、大丈夫ですか」
「はい。私は、大丈夫です」
セラの額から、少し血が流れていた。
ナイフを弾いたとき、破片が当たったのだろう。
「怪我してます……」
「これくらい、大丈夫です」
「でも……」
「殿下を守れました。それが、大切です」
セラが、微笑んだ。
ルーカスは、彼女の強さに感動した。
* * *
すぐに、学院の警備隊が駆けつけた。
窓の外を調べたが、犯人はすでに逃走した後だった。
「殿下、お怪我はありませんか」
「僕は、大丈夫です。セラが、守ってくれました」
「ヴェルディ殿が……」
警備隊の隊長が、セラを見た。
彼女の額には、まだ血が滲んでいた。
「ヴェルディ殿、見事な反応でした」
「ありがとうございます」
「あの距離から、投げナイフを弾くとは……素晴らしい技術です」
「殿下を守るために、訓練してきましたから」
セラが、静かに答えた。
隊長は、感心したように頷いた。
* * *
その夜、ルーカスはセラの部屋を訪ねた。
彼女の額には、包帯が巻かれていた。
「セラ、本当にありがとう」
「お礼は、何度も言わなくていいですよ」
「でも、言いたいのです」
「殿下……」
「セラが、僕を守ってくれました。僕の命を、救ってくれました」
「それが、私の役目です」
「役目だけじゃないでしょう」
「……」
セラは、黙っていた。
「セラ、僕のために、怪我をしてくれました。それは、役目を超えています」
「殿下……」
「本当に、ありがとう」
ルーカスが、セラの手を取った。
「セラがいてくれて、本当に良かったです」
「私も……殿下がいてくれて、良かったです」
二人は、お互いを見つめた。
「殿下、私は……殿下を守るために、生きています」
「セラ……」
「殿下が無事なら、それでいいのです。殿下の笑顔を見られるなら、それで幸せなのです」
「……」
「だから、お礼は必要ありません。私は、私のために、殿下を守っているのですから」
セラの言葉に、ルーカスの目に涙が浮かんだ。
「セラ、僕もセラを守ります」
「え……」
「セラだけに、守らせるわけにはいきません。僕も、セラを守ります」
「殿下……」
「お互いを、守り合いましょう」
「……はい」
二人は、手を握り合った。
* * *
その後、セラの行動は、学院中で話題になった。
「殿下を守った騎士」として、彼女は一躍有名になった。
「ヴェルディ殿、すごかったですね」
「殿下を守るなんて、かっこいいです」
「私も、あんな風になりたいです」
騎士科の女子生徒たちが、セラに声をかけた。
「ありがとうございます。でも、私はまだまだです」
「謙虚ですね」
「いいえ。本当に、まだまだなのです。もっと強くならなければ、殿下を守れません」
セラは、真剣な表情で言った。
彼女の決意は、本物だった。
ルーカスを守るために、どこまでも強くなる。
それが、セラの生きる目的になっていた。




