第67話:学院内での暗殺未遂事件
新学期が始まって、一週間が経った。
ルーカスは、普通の学院生活を送っていた。
しかし、平和は長くは続かなかった。
ある夜のこと。
ルーカスは、自分の部屋で読書をしていた。
セラは、すでに自分の部屋に戻っていた。
ふと、違和感を感じた。
感知能力が、何かを捉えていた。
「誰かが、近づいている……」
小さく呟いた。
一人ではない。
複数の気配だ。
そして、殺気を帯びている。
「まずい……」
ルーカスは、すぐに動いた。
部屋の窓を開け、外を確認する。
黒い影が、三つ。
壁を伝って、こちらに向かってきていた。
* * *
ルーカスは、剣を手に取った。
護身用に、常に部屋に置いていたものだ。
窓から、最初の刺客が侵入してきた。
黒い服に、覆面。
手には、短剣が握られていた。
「お前が、第三王子か」
「何者だ」
「それは、言えない。しかし、お前を殺すためにきた」
刺客が、襲いかかってきた。
ルーカスは、その攻撃を避けた。
そして、反撃する。
剣が、刺客の腕を斬りつけた。
「ぐっ……」
刺客が、よろめいた。
しかし、すぐに二人目、三人目が侵入してきた。
「三人か……」
ルーカスは、構え直した。
力を使えば、簡単に倒せる。
しかし、それは「禁忌」を見せることになる。
「仕方ない……」
今は、命が優先だ。
少し、力を解放する。
* * *
ルーカスの動きが、変わった。
人間離れした速度で、刺客たちに迫る。
「何だ、この速さ……!」
刺客たちが、驚いた声を上げた。
ルーカスは、一人目を蹴り飛ばした。
二人目の短剣を弾き、拳を叩き込む。
三人目は、逃げようとした。
しかし、ルーカスが先回りして、道を塞いだ。
「逃がさない」
「くそ……!」
三人目も、すぐに制圧した。
刺客たちは、全員気絶していた。
殺してはいない。
情報を得るために、生かしておく必要があった。
* * *
騒ぎを聞きつけて、寮監が駆けつけてきた。
「何事ですか!」
「刺客です。三人、侵入してきました」
「刺客……!」
寮監の顔が、青くなった。
「すぐに、学院長に報告します。殿下、怪我はありませんか」
「ありません」
「良かった……」
寮監は、急いで学院長室に向かった。
しばらくして、セラが駆けつけてきた。
「殿下! 大丈夫ですか!」
「セラ、大丈夫です」
「血が……」
「これは、刺客の血です。僕は、怪我していません」
「良かった……」
セラの目から、涙がこぼれた。
ルーカスは、彼女を抱きしめた。
「大丈夫です。僕は、無事です」
「殿下……」
「心配かけて、すみません」
「いいえ……殿下が無事なら、それでいいです」
二人は、しばらくそのままでいた。
* * *
翌日、学院長室で会議が開かれた。
ルーカス、セラ、マーガレット先生、そして学院長が出席していた。
「刺客の正体は、分かりましたか」
「尋問の結果、雇われた暗殺者であることが判明しました」
「雇い主は」
「口を割りませんでした。しかし、状況から考えて、教会派である可能性が高いです」
学院長の言葉に、ルーカスは頷いた。
予想通りだった。
「殿下、これからより一層、警戒が必要です」
「分かっています」
「学院内の警備を強化します。また、殿下の護衛も増やします」
「ありがとうございます」
「しかし、それだけでは限界があります」
学院長が、真剣な表情で言った。
「殿下自身も、常に気をつけてください」
「はい」
「そして、ヴェルディ殿。殿下の傍にいて、守ってあげてください」
「もちろんです」
セラが、力強く頷いた。
* * *
会議の後、ルーカスはセラと二人で話していた。
「殿下、本当に大丈夫ですか」
「はい。怪我はありません」
「体のことではなく、心のことです」
「心……」
「命を狙われて、怖くないですか」
セラの目には、心配の色があった。
「正直に言うと、少し怖いです」
「殿下……」
「でも、怖いからといって、何もしないわけにはいきません」
「……」
「僕は、人間として生きたいのです。そのためには、教会と戦う必要があるかもしれません」
「殿下……」
「セラ、僕は逃げません」
ルーカスの目は、真剣だった。
「私も、逃げません」
セラが、ルーカスの手を取った。
「殿下と一緒に、戦います」
「セラ……」
「約束しましたよね。ずっと傍にいると」
「はい」
「その約束を、守ります」
二人は、お互いの手を強く握った。
* * *
その日の夜、ルーカスは王宮に手紙を送った。
暗殺未遂事件のことを、アルベルトに報告するためだった。
『兄上へ
学院で、暗殺未遂事件がありました。
刺客が三人、僕の部屋に侵入してきました。
全員、制圧しました。怪我はありません。
刺客の雇い主は、不明ですが、教会派である可能性が高いです。
学院の警備は、強化されました。
しかし、今後も警戒が必要だと思います。
何かあれば、また報告します。
ルーカスより』
手紙を封じながら、ルーカスは考えていた。
教会派は、本気で自分を排除しようとしている。
暗殺という手段を、実際に使ってきた。
これから、何度も命を狙われるかもしれない。
「でも、諦めない……」
小さく呟いた。
セラがいる。
家族がいる。
味方がいる。
彼らのために、諦めるわけにはいかない。
人間として生きる夢を、叶えるために。
ルーカスは、そう決意しながら、眠りについた。




