第65話:教会勢力の陰謀が明らかに
エリアスの訪問から数日後。
ルーカスは、アルベルトから緊急の呼び出しを受けた。
「兄上、何かあったのですか」
「ああ。重要な情報が入った」
アルベルトの表情は、いつになく厳しかった。
「教会派が、動いている」
「教会派が……」
「お前を排除するための、計画を立てているらしい」
「排除……」
ルーカスの顔が、少し青くなった。
* * *
「詳しく教えてください」
「モンテス公爵から、情報が入った」
「モンテス公爵から……」
「彼は、教会派の動きを監視していた。その結果、不穏な計画が明らかになった」
アルベルトが、書類を取り出した。
「これを見てくれ」
書類には、教会派の会議の記録が書かれていた。
密かに行われた会議の、盗み聞きした内容らしい。
「『第三王子は、禁忌である。排除すべきである』……」
「それだけではない。続きを読んでくれ」
「『王家を説得できない場合は、別の手段を取る』……別の手段?」
「暗殺だ」
アルベルトが、低い声で言った。
「暗殺……」
「教会派は、お前を暗殺することを、検討している」
「……」
ルーカスは、言葉を失った。
暗殺。
それは、命を狙われるということだ。
* * *
「兄上、これは確かな情報ですか」
「モンテス公爵は、信頼できる情報源を持っている。嘘ではないだろう」
「……」
「ルーカス、これから気をつけなければならない」
「はい……」
「一人で行動するな。常に、護衛をつけろ」
「分かりました」
ルーカスは、頷いた。
しかし、内心は動揺していた。
命を狙われている。
それが、現実として迫ってきていた。
* * *
その日の夕方、ルーカスは庭園を歩いていた。
頭を整理するために、一人の時間が欲しかった。
もちろん、護衛は離れたところについている。
一人ではない。
しかし、気持ちは重かった。
「殿下」
声をかけられて、振り返った。
見知らぬ男が、立っていた。
「どなたですか」
「失礼しました。私は、ブレンナー伯爵家の者です」
「ブレンナー伯爵家……」
エリアスの実家だ。
「殿下に、お伝えしたいことがあります」
「何でしょうか」
「我が主が、殿下にお会いしたいと申しております」
「ブレンナー伯爵が……」
「はい。明日の夜、伯爵邸でお待ちしています」
「……」
ルーカスは、少し考えた。
教会派の中心人物が、自分に会いたいと言っている。
罠かもしれない。
しかし、何を考えているのか、知りたい気持ちもあった。
「分かりました。行きます」
「ありがとうございます。では、明日」
男は、一礼して去っていった。
* * *
夜、ルーカスはアルベルトに報告した。
「ブレンナー伯爵が、会いたいと……」
「罠かもしれませんね」
「可能性は高い。しかし、断っても、彼らの計画は止まらない」
「どうすればいいでしょうか」
「行くべきだ。しかし、一人では行くな」
「はい」
「ヴィクトルと、数名の近衛兵をつけよう。何かあったら、すぐに対処できるようにする」
「分かりました」
アルベルトが、厳しい表情で頷いた。
「ルーカス、気をつけろ。彼らは、何を考えているか分からない」
「はい」
「しかし、怖がる必要はない。お前には、味方がいる」
「兄上……」
「俺たちが、お前を守る」
アルベルトの言葉に、ルーカスは少し安心した。
* * *
翌日の夜、ルーカスはブレンナー伯爵邸を訪れた。
ヴィクトルと、近衛兵たちが同行していた。
「殿下、お待ちしておりました」
執事が、出迎えた。
応接室に、案内された。
そこには、一人の老人が待っていた。
白髪で、厳格な顔つき。
しかし、どこか冷酷さも感じられた。
「お会いできて光栄です、殿下」
「ブレンナー伯爵ですね」
「はい。私が、ブレンナー伯爵です」
伯爵が、にこりと笑った。
しかし、その笑顔には、何か不気味なものがあった。
* * *
「殿下、単刀直入に申しましょう」
「お願いします」
「殿下には、選択肢があります」
「選択肢……」
「教会に従うか、排除されるか」
「……」
ルーカスは、黙って聞いていた。
「殿下は、『禁忌』です。教会は、『禁忌』を認めていません」
「知っています」
「しかし、殿下が教会に従うなら、話は別です」
「従う……とは」
「教会の指示に従い、教会の利益のために働く。それができるなら、殿下の命は保証します」
「……」
ルーカスは、伯爵をじっと見つめた。
「つまり、教会の道具になれ、ということですか」
「道具とは、言いません。協力者、と言いましょう」
「同じことです」
「殿下……」
「僕は、誰かの道具になるつもりはありません」
ルーカスの声は、静かだが、強かった。
「前世では、道具として生きていました。戦うための機械として。しかし、今は違います」
「……」
「僕は、人間として生きたいのです。自分の意志で、自分の道を選びたいのです」
「それは、教会に逆らうということですか」
「逆らうつもりはありません。しかし、従うつもりもありません」
ルーカスの目は、真剣だった。
伯爵の顔が、少し歪んだ。
* * *
「殿下、それは危険な選択です」
「分かっています」
「教会を敵に回せば、殿下の命は……」
「僕の命を脅しても、無駄です」
「……」
「僕には、味方がいます。家族がいます。大切な人がいます。彼らが、僕を守ってくれます」
「甘い考えですな」
「甘くはありません。信じているだけです」
ルーカスが、立ち上がった。
「伯爵、話は終わりです」
「殿下……」
「僕は、教会の道具にはなりません。それだけは、はっきり言っておきます」
「後悔しますよ」
「後悔はしません。自分の道を選んだのですから」
ルーカスは、一礼して部屋を出た。
* * *
馬車の中、ヴィクトルが声をかけた。
「ルーカス、良く言った」
「兄上……」
「お前の言葉、立派だった」
「でも、これで教会と対立することに……」
「構わん。奴らが何をしようと、俺たちがお前を守る」
「兄上……」
「お前は、正しいことを言った。それでいいのだ」
ヴィクトルが、ルーカスの肩を叩いた。
ルーカスは、少し安心した。
教会との対立は、避けられない。
しかし、一人ではない。
味方がいる。
それを胸に、王宮に戻った。




