第64話:第二王子ヴィクトルとの訓練
父王との会話から数日後。
ヴィクトルが、ルーカスを訓練場に呼び出した。
「ルーカス、俺と訓練しろ」
「訓練……ですか」
「ああ。お前の剣の腕を、見てやる」
ヴィクトルの目は、真剣だった。
ルーカスは、少し緊張しながら頷いた。
* * *
王宮の訓練場は、広かった。
学院の訓練場より、ずっと立派だった。
周囲には、近衛兵たちが見学していた。
「兄上、本当にいいのですか」
「何がだ」
「僕と訓練して、大丈夫ですか」
「馬鹿にするな。俺は、この国最強の剣士だ」
ヴィクトルが、木剣を構えた。
その姿には、自信がみなぎっていた。
「では、始めるぞ」
「はい」
ルーカスも、木剣を構えた。
* * *
ヴィクトルが、先に動いた。
速い。
学院の生徒とは、比較にならない速度だった。
ルーカスは、その攻撃を受け止めた。
力を抑えながら、戦う。
「ほう、受けられるか」
ヴィクトルが、にやりと笑った。
攻撃が、さらに激しくなった。
連続で剣を振るう。
上段、中段、下段。
様々な角度から、攻撃が飛んでくる。
ルーカスは、すべてを防いでいた。
しかし、反撃はしない。
力を見せすぎないように、気をつけていた。
「どうした、反撃しないのか」
「力を抑えています」
「抑えている……?」
「はい。本気を出すと、兄上を傷つけてしまうかもしれません」
「……」
ヴィクトルの目が、鋭くなった。
「面白い。では、本気でかかってこい」
「でも……」
「俺は、この国最強の剣士だ。お前の本気くらい、受け止めてみせる」
「……分かりました」
ルーカスは、少し力を解放した。
* * *
動きが、変わった。
ルーカスの剣が、ヴィクトルに向かって振り下ろされた。
速い。
ヴィクトルも、驚いた顔をした。
しかし、彼は伊達に最強を名乗っていない。
ギリギリで、剣を受け止めた。
「くっ……!」
衝撃が、ヴィクトルの腕に伝わった。
重い。
普通の人間の力ではない。
「これが、お前の本気か……」
「まだ、本気ではありません」
「何……?」
「これでも、かなり抑えています」
「……」
ヴィクトルの顔に、驚きが浮かんだ。
しかし、すぐに笑顔に変わった。
「面白い。もっとだ」
「本当にいいのですか」
「ああ。俺を本気にさせてみろ」
ヴィクトルが、構え直した。
その目には、闘志が燃えていた。
* * *
二人の剣が、激しくぶつかり合った。
ルーカスは、少しずつ力を上げていった。
ヴィクトルも、全力で応戦した。
周囲の近衛兵たちが、驚きの声を上げていた。
これほどの剣戟を、見たことがなかったのだろう。
「殿下たち、すごい……」
「第二王子殿下と、互角に戦っている……」
「第三王子殿下、あれほど強かったのか……」
囁き声が、あちこちから聞こえた。
数分後、ルーカスはヴィクトルの剣を弾いた。
そして、彼の首元に、剣先を突きつけた。
「……参った」
ヴィクトルが、剣を下ろした。
その顔には、悔しさと、嬉しさが混じっていた。
「お前、本当に強いな」
「すみません……」
「謝るな。負けたのは俺だ」
ヴィクトルが、ルーカスの肩を叩いた。
「いい勝負だった。また、やろう」
「はい」
二人は、笑顔で握手を交わした。
* * *
訓練の後、二人は訓練場の端で休んでいた。
水を飲みながら、話をしていた。
「ルーカス、お前の力は本物だな」
「力を使いすぎてしまいました。すみません」
「謝るな。俺が望んだことだ」
「……」
「俺は、強い者を尊敬する。お前は、間違いなく強い」
ヴィクトルの言葉には、真摯さがあった。
「お前の力は、『禁忌』と呼ばれている。しかし、俺はそう思わない」
「兄上……」
「力は、使い方次第だ。お前は、その力を正しく使っている。それが、大切なのだ」
「……ありがとうございます」
「礼はいらん」
ヴィクトルが、立ち上がった。
「ルーカス、俺はお前を認める。お前は、俺の弟にふさわしい男だ」
「兄上……」
「何かあったら、俺を呼べ。力になってやる」
「はい」
ルーカスは、深く頭を下げた。
* * *
その夜、ルーカスはセラに手紙を書いた。
『セラへ
今日は、ヴィクトル兄上と訓練をしました。
久しぶりに、本気に近い力を使いました。
兄上は、僕の力を認めてくれました。
「禁忌」ではなく、正しく使われている力だと。
嬉しかったです。
家族に認められることが、こんなに嬉しいとは思いませんでした。
セラにも、早く会いたいです。
あと少しで、夏休みが終わります。
待ち遠しいです。
ルーカスより』
手紙を書き終えて、ルーカスは窓の外を見た。
月が、輝いていた。
今日の訓練で、ヴィクトルに認められた。
アルベルトにも、父王にも。
家族が、味方でいてくれる。
それが、何より嬉しかった。
「セラにも、会いたいな……」
小さく呟いた。
彼女のことを、想った。
もうすぐ、学院に戻れる。
セラと、また一緒にいられる。
その日を楽しみに、眠りについた。
* * *
翌日、思わぬ来客があった。
「殿下、お客様です」
「誰ですか」
「エリアス・ブレンナー監察官です」
「……」
ルーカスの表情が、少し硬くなった。
エリアスが、王宮に来ている。
何の用だろうか。
「お通ししてください」
「はい」
しばらくして、エリアスが入ってきた。
「殿下、お久しぶりです」
「エリアス監察官、何の用ですか」
「殿下のご様子を、確認しに来ました」
「様子……」
「はい。殿下が、王宮で何をされているか、報告する必要がありますので」
エリアスの目には、相変わらず冷たい光があった。
「昨日、ヴィクトル殿下と訓練をされたそうですね」
「はい」
「殿下の剣の腕は、すごいと聞いています」
「……」
「『禁忌』の力を、使われたのですか」
「普通に剣を振っただけです」
「そうですか」
エリアスは、にやりと笑った。
「殿下、私はずっと見ていますよ。お忘れなく」
「分かっています」
「では、失礼します」
エリアスは、一礼して去っていった。
ルーカスは、その背中を見送った。
教会の監視は、まだ続いている。
油断はできない。
しかし、怖くはなかった。
家族が、味方でいてくれる。
セラも、味方だ。
それだけで、十分だった。




