第4部「宮廷・派閥戦編」第61話:王宮への帰還、政治の渦
夏休みが始まった。
学院は、長期休暇に入った。
生徒たちは、それぞれの故郷に帰っていった。
ルーカスも、王宮に戻ることになった。
「殿下、お気をつけて」
学院の門前で、セラが見送った。
彼女は、故郷のヴェルディ領に帰る予定だった。
「セラも、気をつけて」
「はい。お互い、元気で」
「手紙、書きます」
「私も、書きます」
二人は、名残惜しそうに手を離した。
馬車が、それぞれの方向に走り出した。
* * *
王宮に到着した。
久しぶりの王宮は、相変わらず壮大だった。
「お帰りなさいませ、殿下」
侍従たちが、出迎えた。
「ただいま」
「陛下がお待ちです。お部屋で少し休まれた後、謁見の間にお越しください」
「分かりました」
ルーカスは、自分の部屋に向かった。
王宮の自室は、学院の部屋より広かった。
しかし、どこか冷たい感じがした。
セラがいないからだろうか。
「セラ……」
小さく呟いた。
彼女のことが、もう恋しかった。
* * *
休憩の後、ルーカスは謁見の間に向かった。
そこには、父王と二人の兄が待っていた。
「ルーカス、帰ってきたか」
「はい、父上」
「学院生活は、どうだった」
「色々なことがありましたが、充実していました」
「そうか」
父王は、穏やかに微笑んだ。
「ルーカス、今日は大切な話がある」
「大切な話……」
「お前も、そろそろ宮廷の政治について、学ぶ必要がある」
「宮廷の政治……」
「王族として、避けては通れない道だ」
父王の言葉は、真剣だった。
* * *
「我が国には、いくつかの派閥がある」
アルベルトが、説明を始めた。
「大きく分けて、王家派、貴族派、教会派の三つだ」
「王家派、貴族派、教会派……」
「王家派は、我々王族を支持する派閥。貴族派は、有力貴族たちを中心とした派閥。教会派は、教会の影響力拡大を目指す派閥だ」
「なるほど……」
「これらの派閥は、常に権力を争っている。お互いに牽制し合いながら、バランスを保っているのだ」
アルベルトの説明は、分かりやすかった。
「ルーカス、お前は第三王子だ。王位継承権は低いが、それでも派閥争いの渦中にいる」
「僕が……」
「特に、教会派は、お前を警戒している」
「『禁忌』だから、ですね」
「そうだ。彼らは、お前を排除しようとしている」
ヴィクトルが、厳しい表情で言った。
「これから、宮廷では様々なことが起きるだろう。お前は、常に注意しなければならない」
「分かりました」
ルーカスは、真剣に頷いた。
* * *
謁見の後、ルーカスは王宮の庭園を歩いていた。
宮廷の政治。
派閥争い。
それは、学院とは違う、複雑な世界だった。
「厄介だな……」
小さく呟いた。
学院では、味方が増えていた。
しかし、宮廷は違う。
敵が多い。
特に、教会派は、自分を敵視している。
「殿下」
声をかけられて、振り返った。
一人の女性が、立っていた。
見覚えのある顔だった。
王宮の女官だ。
「お久しぶりです、殿下」
「ああ、久しぶり」
「王宮に戻られたのですね」
「はい。夏休みの間だけですが」
「そうですか」
女官は、にこやかに微笑んだ。
しかし、その目には、何か探るような色があった。
「殿下、もしよろしければ、後で私の主人にお会いいただけませんか」
「主人……?」
「モンテス公爵です。殿下にお話があるそうです」
「モンテス公爵……」
その名前に、ルーカスは少し緊張した。
モンテス公爵は、貴族派の有力者だ。
何の用だろうか。
「分かりました。いつですか」
「明日の午後、公爵邸でお待ちしています」
「分かりました」
女官は、一礼して去っていった。
ルーカスは、その背中を見送った。
宮廷の政治が、動き始めている。
それを、感じた。
* * *
その夜、ルーカスはセラに手紙を書いた。
『セラへ
王宮に着きました。
久しぶりの王宮は、少し緊張します。
宮廷の政治について、色々と話を聞きました。
派閥争いが、複雑だそうです。
僕も、気をつけなければなりません。
明日、モンテス公爵という人に会います。
何の用か、分かりませんが、注意します。
セラのことが、恋しいです。
早く、会いたいです。
体に気をつけて。
ルーカスより』
手紙を書き終えて、封をした。
明日、使者に渡そう。
「セラ……」
彼女のことを、想った。
離れているのが、辛かった。
でも、すぐに会える。
夏休みが終われば、また一緒にいられる。
それを励みに、ルーカスは眠りについた。
* * *
翌日、ルーカスはモンテス公爵邸を訪れた。
立派な屋敷だった。
王宮に負けないほどの規模だった。
「殿下、お待ちしておりました」
執事が、出迎えた。
応接室に、案内された。
そこには、一人の老人が待っていた。
白髪で、鋭い目つき。
しかし、どこか温和な雰囲気もあった。
「初めまして、殿下。モンテス公爵です」
「初めまして、公爵」
「お座りください」
ルーカスは、ソファに座った。
公爵が、向かいに座った。
「突然のお招き、失礼いたしました」
「いいえ。何の用でしょうか」
「殿下に、お話があります」
「お話……」
「殿下の味方に、なりたいのです」
その言葉に、ルーカスは少し驚いた。
* * *
「味方……ですか」
「はい。私は、殿下を支持したいと思っています」
「なぜですか」
「殿下の噂は、聞いています。外交実習での活躍、学院での評判、そして……『禁忌』であること」
「……」
「私は、『禁忌』であるかどうかは、重要ではないと思っています」
「重要ではない……」
「はい。大切なのは、殿下がどのような人物かということです」
公爵の目は、真剣だった。
「殿下は、人を守る方だと聞いています。身分に関係なく、人を大切にする方だと」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
「私は、そのような方を支持したい。それが、私の考えです」
「……」
ルーカスは、公爵の言葉を噛み締めた。
本当に、味方になってくれるのだろうか。
それとも、何か裏があるのだろうか。
「公爵、一つ聞いてもいいですか」
「何でしょう」
「なぜ、今このタイミングで、僕に声をかけたのですか」
「良い質問です」
公爵が、少し微笑んだ。
「教会派が、動いています。殿下を排除するために、宮廷工作を始めています」
「教会派が……」
「はい。彼らは、殿下の評判が上がることを、快く思っていません」
「……」
「殿下には、味方が必要です。私は、その一人になりたいのです」
公爵の言葉には、真摯さがあった。
ルーカスは、少し考えた。
「分かりました。公爵のお申し出、ありがたく受けます」
「ありがとうございます、殿下」
「ただ、一つだけお願いがあります」
「何でしょう」
「僕は、人を騙すことが嫌いです。公爵も、正直に接してください」
「もちろんです。私は、嘘をつきません」
公爵が、力強く頷いた。
ルーカスは、公爵の手を握った。
新しい味方ができた。
宮廷での戦いが、始まろうとしていた。




