第60話:第3部完結「二人の絆、深まる」
二年生になって、最初の休日。
ルーカスとセラは、学院の庭園を散歩していた。
春の陽気が、心地よかった。
「殿下、良い天気ですね」
「はい。とても気持ちいいです」
「二年生になりましたね」
「はい。早いものです」
二人は、並んで歩いていた。
手は、自然と繋がれていた。
* * *
庭園のベンチに座り、二人は話をしていた。
「殿下、この一年、色々なことがありましたね」
「はい。本当に色々なことが」
「外交実習、遺跡探索、テロリストとの戦い……」
「エリアス監察官の監視も、ですね」
「はい」
セラが、少し暗い顔をした。
「でも、乗り越えてきました」
「はい。殿下のおかげです」
「いいえ。セラのおかげです」
「殿下……」
「セラがいなければ、僕は今ここにいないかもしれません」
「そんなことは……」
「本当です。セラが支えてくれたから、頑張れました」
ルーカスの言葉は、真剣だった。
セラの目に、涙が浮かんだ。
* * *
「殿下、私、決めたことがあります」
「何ですか」
「私は、殿下の騎士になります」
「騎士……」
「はい。正式に、殿下に仕える騎士に」
「セラ……」
「学院を卒業したら、殿下の専属騎士として、ずっと傍にいます」
セラの目には、強い決意があった。
ルーカスは、その目を見つめた。
「嬉しいです」
「殿下……」
「セラが、傍にいてくれることが、何より嬉しいです」
「私も、殿下の傍にいられることが、幸せです」
二人は、お互いを見つめ合った。
* * *
「セラ、一つ聞いてもいいですか」
「何ですか」
「僕が『禁忌』であることを、後悔していませんか」
「後悔……?」
「僕と一緒にいることで、危険なことに巻き込まれています。それを、後悔していませんか」
「……」
セラは、少し考えた。
そして、微笑んだ。
「後悔していません」
「本当ですか」
「はい。殿下と出会えたことが、私の人生で一番の幸運です」
「セラ……」
「殿下が『禁忌』でも、関係ありません。殿下は殿下です。私が愛した人です」
愛した。
その言葉に、ルーカスの心臓が跳ねた。
「愛した……」
「はい」
「セラは、僕を愛しているのですか」
「はい。愛しています」
セラの言葉は、まっすぐだった。
ルーカスの目に、涙が浮かんだ。
「僕も、セラを愛しています」
「殿下……」
「愛という感情が何なのか、最初は分かりませんでした。でも、今は分かります」
「……」
「セラのことを考えると、胸が温かくなります。セラの笑顔を見ると、幸せになります。セラが傷つくと、自分のことより辛いです」
「殿下……」
「これが、愛なのだと思います」
ルーカスの言葉に、セラの目から涙がこぼれた。
「殿下、私も同じです。殿下のことを考えると、胸が苦しくなります。殿下が笑うと、私も嬉しくなります。殿下が傷つくと、何よりも辛いです」
「セラ……」
「私たち、同じ気持ちですね」
「はい。同じです」
二人は、お互いの手を強く握った。
* * *
夕暮れが近づいていた。
空が、オレンジ色に染まり始めていた。
「殿下、そろそろ戻りましょうか」
「少しだけ、このままでいたいです」
「……はい」
二人は、ベンチに座ったまま、夕日を見つめていた。
「セラ」
「はい」
「僕は、人間として生きたいと思っています」
「知っています」
「その夢を、叶えたいと思っています」
「はい」
「でも、最近、もう一つの夢ができました」
「もう一つの夢……」
「セラと一緒に、幸せになりたいです」
セラの心臓が、大きく跳ねた。
「殿下……」
「セラと一緒に、笑って、泣いて、喜んで、悲しんで。そうやって、生きていきたいです」
「……」
「僕の夢に、付き合ってくれますか」
ルーカスが、セラを見つめた。
その目には、真剣な光があった。
「もちろんです」
セラが、微笑んだ。
「私も、殿下と一緒に生きていきたいです。殿下の夢を、一緒に叶えたいです」
「ありがとう、セラ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
二人は、手を握り合った。
夕日が、二人を照らしていた。
* * *
その夜、ルーカスは自分の部屋で考えていた。
この一年で、多くのことがあった。
外交実習、遺跡探索、テロリストとの戦い。
教会の監視、進級試験。
そして、セラとの絆が、深まった。
最初は、監視役だった。
それが、友人になり、恋人になった。
今は、かけがえのない存在だ。
「セラ……」
彼女の名前を呟くと、胸が温かくなった。
これが、愛なのだろう。
前世には、こんな感情はなかった。
ただ、戦い、壊し、任務を遂行するだけだった。
しかし、今は違う。
愛する人がいる。
愛してくれる人がいる。
「人間として生きている……」
その実感が、胸に広がった。
まだ、困難は続くだろう。
教会の監視は、厳しくなる一方だ。
エリアスは、虎視眈々と機会を狙っている。
しかし、諦めない。
セラがいる。
味方がいる。
家族がいる。
その支えがあれば、どんな困難でも乗り越えられる。
* * *
翌朝、ルーカスは早起きした。
窓を開けると、新鮮な空気が入ってきた。
鳥の声が、聞こえていた。
「新しい一日だ……」
小さく呟いた。
ドアがノックされた。
「殿下、朝食の時間ですよ」
セラの声だった。
「今行きます」
ルーカスは、ドアを開けた。
セラが、笑顔で立っていた。
「おはようございます、殿下」
「おはよう、セラ」
「良い朝ですね」
「はい。とても良い朝です」
二人は、一緒に食堂に向かった。
「殿下、今日は何をしますか」
「特に予定はありません。セラは」
「私も、ありません」
「では、一緒に過ごしましょう」
「はい」
二人は、微笑み合った。
* * *
食堂で朝食を取りながら、二人は話をしていた。
「殿下、二年生になって、授業が難しくなりそうですね」
「はい。でも、セラがいれば大丈夫です」
「私がいれば……?」
「セラに教えてもらえますから」
「殿下、私をあてにしすぎですよ」
「でも、セラの教え方、分かりやすいです」
「……ありがとうございます」
セラの顔が、少し赤くなった。
「殿下は、本当に変わりませんね」
「変わらない……?」
「はい。まっすぐで、素直で、優しいところが」
「セラに言われると、嬉しいです」
「殿下……」
二人は、見つめ合った。
周囲の視線など、気にならなかった。
* * *
午後、二人は再び庭園を散歩していた。
「殿下、これからも、色々なことがあるでしょうね」
「はい。きっと」
「でも、一緒に乗り越えましょう」
「もちろんです」
「約束ですよ」
「約束します」
二人は、小指を絡めた。
指切りの約束。
「セラ」
「はい」
「僕は、セラと出会えて、本当に良かったです」
「私も、殿下と出会えて、良かったです」
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人は、微笑み合った。
春の風が、二人の髪を揺らした。
花の香りが、漂っていた。
穏やかな時間が、流れていた。
* * *
夕暮れ時、二人は学院の塔の上にいた。
そこからは、学院全体と、遠くの街並みが見えた。
「きれいですね」
「はい」
「殿下、私、幸せです」
「僕も、幸せです」
「これからも、ずっと一緒にいましょうね」
「はい。ずっと一緒です」
二人は、手を繋いだまま、夕日を見つめていた。
困難は、まだ続くだろう。
教会との対立、力の秘密、将来の不安。
様々な問題が、待ち受けている。
しかし、二人の絆は、深まった。
どんな困難があっても、一緒に乗り越えられる。
その確信が、二人の中にあった。
「殿下」
「はい」
「大好きです」
「僕も、セラが大好きです」
二人は、お互いを見つめ合った。
そして、そっと、唇を近づけた。
優しいキスが、二人を結んだ。
夕日が、二人を照らしていた。
新しい物語が、これから始まる。
* * *
――第3部「遠征・外交実習編」完
次回、第4部「宮廷・派閥戦編」へ続く。




