第59話:新学期、進級試験の準備
冬が終わり、春が来た。
学院は、新学期を迎えていた。
ルーカスは、二年生に進級する予定だった。
しかし、そのためには進級試験に合格しなければならない。
「殿下、進級試験の日程が発表されました」
セラが、掲示板を見て報告した。
「いつですか」
「来月の中旬です。筆記試験と実技試験があります」
「筆記試験か……」
ルーカスの顔が、少し曇った。
筆記試験は、苦手だった。
* * *
「殿下、筆記試験の対策、しましょうか」
その夜、セラがルーカスの部屋を訪ねてきた。
「お願いします。筆記は、本当に苦手で……」
「分かっています。だから、一緒に勉強しましょう」
「ありがとう、セラ」
二人は、テーブルに教科書を広げた。
「まず、歴史から始めましょう」
「歴史……」
「はい。試験範囲は、王国の建国から、現在までの主要な出来事です」
「覚えることが、多いですね」
「はい。でも、ポイントを押さえれば、大丈夫です」
セラは、ルーカスに丁寧に教え始めた。
* * *
数日間、二人は一緒に勉強を続けた。
歴史、政治、経済、魔法理論。
様々な科目を、セラが教えてくれた。
「殿下、ここの問題、解いてみてください」
「えーと……」
「分かりますか」
「少し……待ってください」
ルーカスは、考えながら問題に取り組んだ。
前世では、戦闘に関する情報以外は、あまり処理していなかった。
学問のような知識は、新しい分野だった。
しかし、少しずつ理解できるようになってきた。
「正解です、殿下」
「本当ですか」
「はい。よく頑張りましたね」
「セラのおかげです」
ルーカスが、嬉しそうに微笑んだ。
セラも、微笑んだ。
* * *
勉強の合間に、実技の練習もしていた。
「殿下、実技試験の内容は何ですか」
「剣術と、模擬戦闘だそうです」
「それなら、殿下は問題ないですね」
「でも、力を抑えなければなりません」
「そうですね……」
セラが、少し考えた。
「私と、練習しましょう」
「練習……」
「はい。力を抑えながら戦う練習です」
「いいのですか」
「もちろんです。殿下のためなら」
ルーカスは、セラの申し出に感謝した。
二人は、訓練場で実技の練習を始めた。
* * *
「殿下、今の動き、良かったですよ」
「本当ですか」
「はい。力を抑えながら、的確な攻撃でした」
「でも、まだ強すぎませんか」
「少しだけ。もう少し力を抜いてもいいかもしれません」
「分かりました」
ルーカスは、力の調整に集中した。
普通の人間の力で戦う。
それは、簡単なようで難しかった。
無意識に、前世の力が出てしまうことがある。
「殿下、もう一度」
「はい」
二人は、何度も打ち合った。
ルーカスの動きが、少しずつ自然になっていった。
「殿下、上達しましたね」
「セラのおかげです」
「いいえ。殿下の努力の成果です」
「セラが教えてくれなければ、できませんでした」
「……」
セラの顔が、少し赤くなった。
* * *
進級試験まで、あと一週間。
ルーカスは、準備を続けていた。
ある日、エリアスが声をかけてきた。
「殿下、進級試験の準備は順調ですか」
「はい。順調です」
「それは良かった。実技試験が、楽しみですね」
「楽しみ……」
「はい。殿下の実力を、拝見できますから」
エリアスの目には、期待と警戒が混じっていた。
「普通に戦いますよ」
「そうですか。『普通に』、ですね」
「はい」
「楽しみにしています」
エリアスは、去っていった。
ルーカスは、その背中を見つめた。
彼は、実技試験で自分の力を見ようとしている。
気をつけなければならない。
* * *
試験前日の夜、セラがルーカスの部屋を訪ねてきた。
「殿下、準備は大丈夫ですか」
「はい。セラのおかげで、なんとかなりそうです」
「良かったです」
「セラも、試験があるでしょう。大丈夫ですか」
「はい。私は、問題ありません」
「流石ですね」
「殿下こそ、実技は心配していません。筆記だけ、気をつけてください」
「はい。頑張ります」
二人は、微笑み合った。
「殿下、明日の実技試験……」
「分かっています。力を抑えます」
「はい。エリアス監察官が、見ていると思います」
「分かっています」
「無理をしないでくださいね」
「しません」
ルーカスが、セラの手を取った。
「セラ、ありがとう」
「何がですか」
「いつも、支えてくれて」
「……当然のことです」
「でも、ありがとう」
セラの顔が、赤くなった。
「おやすみなさい、殿下」
「おやすみなさい、セラ」
セラは、部屋を出ていった。
* * *
進級試験の日が来た。
まずは、筆記試験だった。
ルーカスは、試験会場に入った。
机には、問題用紙が置かれていた。
セラの教えを思い出しながら、問題に取り組んだ。
歴史、政治、経済、魔法理論。
どの問題も、セラと一緒に勉強したものだった。
なんとか、答えを書いていった。
「終了です。ペンを置いてください」
試験官の声が響いた。
ルーカスは、ペンを置いた。
全ての問題に、一応は答えた。
結果は、分からないが、できることはやった。
* * *
午後は、実技試験だった。
訓練場に、受験者が集まっていた。
ルーカスは、周囲を見回した。
エリアスが、観客席に座っていた。
鋭い目で、こちらを見ている。
「気をつけないと……」
小さく呟いた。
「殿下」
セラが、声をかけた。
「頑張ってください。でも、無理はしないで」
「分かっています」
「私も、後で試験があります。一緒に頑張りましょう」
「はい」
二人は、拳を合わせた。
* * *
ルーカスの番が来た。
相手は、騎士科の生徒だった。
模擬戦闘の試験だ。
「始め!」
試験官の合図で、試合が始まった。
相手が、剣を振りかぶってきた。
ルーカスは、それを受け止めた。
力を抑えながら、戦う。
相手の攻撃を、防ぎ、避け、時には反撃する。
しかし、必要以上の力は使わない。
普通の人間として、戦う。
数分後、ルーカスは相手の剣を弾いた。
そして、相手の首元に、剣先を突きつけた。
「そこまで! 勝者、ルーカス殿下!」
試験官が、勝敗を告げた。
観客席から、拍手が起こった。
ルーカスは、相手に礼をした。
エリアスを、ちらりと見た。
彼は、何も言わずに見ていた。
その目には、何か複雑な色があった。
* * *
試験が終わった。
ルーカスとセラは、結果を待っていた。
「殿下、どうでしたか」
「実技は、問題なかったと思います。筆記は……分かりません」
「きっと大丈夫ですよ」
「だといいのですが」
数日後、結果が発表された。
ルーカスは、無事に進級を決めた。
筆記試験は、ギリギリだったが、合格ラインは超えていた。
実技試験は、高評価だった。
「殿下、おめでとうございます」
セラが、嬉しそうに言った。
「ありがとう、セラ。セラのおかげです」
「私も、進級できました」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
二人は、微笑み合った。
「これで、二年生ですね」
「はい。また一年、頑張りましょう」
「はい。一緒に」
二人は、手を握り合った。
新しい学年が、始まる。
新しい日々が、待っている。
困難は、まだ続くだろう。
でも、セラがいる。
それだけで、頑張れる。
ルーカスは、そう思いながら、未来を見据えた。




