第55話:王家からの呼び出し(兄たちとの対面)
報告会から数日後、ルーカスの元に使者が来た。
王宮からの使者だった。
「殿下、国王陛下がお呼びです」
「父上が……」
「明日、王宮に参内してください」
「分かりました」
ルーカスは、使者を見送った。
セラが、心配そうに声をかけた。
「殿下、大丈夫ですか」
「分かりません。何の用件か、分からないので」
「外交実習のことでしょうか」
「多分、そうだと思います」
ルーカスは、少し緊張していた。
王宮への呼び出し。
それは、良い知らせとは限らない。
* * *
翌日、ルーカスは王宮に向かった。
セラは、学院に残った。
王宮への参内は、一人で行かなければならない。
馬車が、王宮の門をくぐる。
見慣れた景色だった。
しかし、今日は少し違って見えた。
「殿下、こちらへ」
侍従が、案内してくれた。
向かったのは、謁見の間ではなかった。
プライベートな応接室だった。
「ここで、お待ちください」
「分かりました」
ルーカスは、応接室に入った。
そこには、すでに二人の人物がいた。
* * *
第一王子、アルベルト。
第二王子、ヴィクトル。
二人の兄が、ルーカスを待っていた。
「ルーカス、久しぶりだな」
アルベルトが、穏やかに言った。
彼は、王位継承者として育てられた、立派な青年だった。
金色の髪と、青い目。
威厳のある佇まいだった。
「兄上、お久しぶりです」
「元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
「外交実習、大変だったようだな」
ヴィクトルが、声をかけた。
彼は、軍人として育てられていた。
がっしりとした体格で、鋭い目つきだった。
「はい。色々なことがありました」
「テロリストとの戦闘も、聞いたぞ」
「……はい」
「見事だったらしいな」
「いえ、大したことはしていません」
ルーカスは、謙遜した。
二人の兄は、ルーカスを見つめていた。
その目には、何か探るような色があった。
* * *
「ルーカス、座りなさい」
アルベルトが、ソファを指さした。
ルーカスは、二人の向かいに座った。
「父上は、後から来られる。その前に、少し話をしたい」
「何の話でしょうか」
「お前のことだ」
「僕の……」
「外交実習で、お前が見せた力のことだ」
アルベルトの言葉に、ルーカスの体が強張った。
「報告書を、読んだ」
「……」
「お前は、普通の人間には不可能な力を見せた。皮膚が金属のように光り、人間離れした速さで動いた」
「……」
「それは、『禁忌』の特徴だ」
アルベルトの言葉は、静かだった。
しかし、重みがあった。
「ルーカス、お前は何者なのだ」
「……」
ルーカスは、答えに迷った。
どこまで話すべきか、分からなかった。
* * *
「兄上、僕は……」
「正直に話しなさい。ここには、我々三人しかいない」
「……」
ルーカスは、深く息を吸った。
そして、決断した。
「僕には、前世の記憶があります」
「前世……」
「はい。前世では、僕は人間ではありませんでした」
「人間ではない……」
「戦闘用のロボット……機械の兵士でした」
アルベルトとヴィクトルの顔が、驚きに染まった。
「機械の……兵士……」
「はい。戦うために作られた存在でした。感情も、意志もありませんでした」
「……」
「しかし、この世界に生まれ変わって、人間の体を得ました。感情を持ち、考えることができるようになりました」
「それで、お前は『禁忌』の力を持っているのか」
「はい。前世の能力が、この体に残っているようです」
ルーカスは、正直に話した。
これ以上、隠しても意味がないと思った。
* * *
二人の兄は、しばらく黙っていた。
その沈黙が、ルーカスには重く感じられた。
「……なるほど」
アルベルトが、最初に口を開いた。
「つまり、お前は前世の影響で、普通の人間とは違う能力を持っている」
「はい」
「しかし、お前自身は、人間として生きたいと思っている」
「はい。そうです」
「……」
アルベルトは、ルーカスをじっと見つめた。
その目には、複雑な感情があった。
「ヴィクトル、どう思う」
「……正直、驚いた。しかし、ルーカスが嘘を言っているとは思えない」
「私もだ」
二人は、顔を見合わせた。
「ルーカス、一つ聞きたい」
「何でしょうか」
「お前は、この国に害を与えるつもりがあるか」
「ありません。僕は、この国を、この世界を、愛しています」
「セラフィーナ・ヴェルディのことは」
「セラは、僕の大切な人です。彼女を守りたいと思っています」
「……」
アルベルトは、頷いた。
「ルーカス、私はお前を信じる」
「兄上……」
「お前の目は、嘘をついていない。お前は、本当に人間として生きたいのだな」
「はい」
「それならば、私はお前の味方だ」
アルベルトの言葉に、ルーカスの目に涙が浮かんだ。
* * *
「俺も、同感だ」
ヴィクトルが、言った。
「お前は、昔から変わった奴だった。しかし、悪い奴ではなかった」
「ヴィクトル兄上……」
「戦闘の報告を聞いた。お前は、皆を守るために力を使った。それは、正しいことだ」
「……」
「俺は、強さを認める。お前は、強い。そして、その強さを、正しいことに使っている」
「ありがとうございます……」
ルーカスは、頭を下げた。
二人の兄が、味方でいてくれる。
それは、予想外のことだった。
しかし、とても嬉しかった。
* * *
そのとき、ドアが開いた。
国王が、入ってきた。
「父上」
三人の王子が、立ち上がった。
「座りなさい」
国王は、穏やかな声で言った。
彼も、ソファに座った。
「ルーカス」
「はい、父上」
「外交実習の報告は、受けた。大変だったようだな」
「はい。色々なことがありました」
「お前が、皆を守ったと聞いている」
「……はい」
「その際に、不思議な力を見せたとも」
「……はい」
ルーカスは、緊張していた。
父王は、どう思っているのだろうか。
* * *
「ルーカス、私はお前のことを、ずっと見てきた」
「父上……」
「お前が生まれたとき、教会は『禁忌』の可能性があると言った。しかし、私はお前を排除しなかった」
「……」
「なぜだか、分かるか」
「分かりません……」
「お前の目だ」
「目……」
「お前の目には、悪意がなかった。生まれたばかりなのに、不思議な知性があった。しかし、それは悪いものではなかった」
国王の言葉に、ルーカスは驚いた。
「私は、お前を見守ってきた。お前が成長するにつれて、優しい心を持つ子に育っていくのを見てきた」
「父上……」
「お前は、普通の人間とは違うかもしれない。しかし、お前の心は、人間だ」
「……」
「だから、私はお前を信じている。お前が、この国に害を与えることはないと」
国王の目には、温かさがあった。
ルーカスの目から、涙がこぼれた。
「父上……ありがとうございます……」
「礼を言うのは、こちらだ。お前が、無事に帰ってきてくれて、嬉しい」
「父上……」
ルーカスは、涙を流しながら、頭を下げた。
* * *
「ルーカス、これからも気をつけなさい」
「はい」
「教会の目は、常にある。力を見せることは、できるだけ避けなさい」
「分かりました」
「しかし、人命が危険なときは、その限りではない。お前の判断で、行動しなさい」
「はい」
「私は、お前の味方だ。兄たちもだ」
国王が、アルベルトとヴィクトルを見た。
二人は、頷いた。
「家族として、お前を守る」
「父上……兄上たち……」
ルーカスは、言葉にならなかった。
家族が、味方でいてくれる。
それが、何より嬉しかった。
「これからも、人間として生きなさい。お前の夢を、叶えなさい」
「はい……必ず」
ルーカスは、力強く頷いた。
* * *
王宮を出て、学院に戻る馬車の中。
ルーカスは、今日のことを振り返っていた。
父王と、二人の兄。
家族が、味方でいてくれる。
それは、予想していなかったことだった。
ずっと、一人で抱え込んでいた。
誰にも言えない秘密を、背負っていた。
しかし、それは間違いだった。
話せば、分かってくれる人がいた。
「セラにも、話そう……」
小さく呟いた。
今日のことを、セラに伝えよう。
彼女も、喜んでくれるはずだ。
学院に到着すると、セラが待っていた。
「殿下、お帰りなさい」
「ただいま、セラ」
「どうでしたか」
「良い話でした。後で、詳しく話します」
「……はい」
セラは、ルーカスの表情を見て、安心したようだった。
彼の顔には、笑顔があった。
「セラ、ありがとう」
「何がですか」
「いつも、傍にいてくれて」
「……当然のことです」
セラの顔が、少し赤くなった。
二人は、一緒に寮に向かった。
夕暮れの空が、オレンジ色に染まっていた。
新しい日々が、始まろうとしていた。




