第54話:帰国、学院への報告会
帰国から三日が経った。
今日は、外交実習の報告会が行われる日だった。
参加者全員が、講堂に集まっていた。
学院長や教授たち、そして他の生徒たちも、聴衆として参加していた。
「では、外交実習報告会を始めます」
学院長が、開会を宣言した。
参加者たちが、順番に発表を行うことになっていた。
* * *
最初に発表したのは、レオナルドだった。
彼も、外交実習に参加していたのだ。
「エルザリア王国での経験は、非常に有意義でした。異なる文化を学び、多くの刺激を受けました」
レオナルドの発表は、簡潔で分かりやすかった。
聴衆から、拍手が起こった。
次々と、参加者たちが発表を行っていく。
誰もが、エルザリア王国での体験を語っていた。
文化の違い、食事の違い、礼儀作法の違い。
学んだことが、たくさんあった。
* * *
ルーカスの番が来た。
壇上に立つ。
聴衆の視線が、一斉に集まった。
「エルザリア王国での外交実習に参加した、ルーカスです」
静かな声で、話し始めた。
「私は、この実習で多くのことを学びました。エルザリア王国の文化、歴史、人々の暮らし。どれも、新鮮で興味深いものでした」
聴衆は、静かに聞いていた。
「特に印象に残っているのは、古代遺跡の探索です。千年以上前の文明の跡を見て、歴史の重みを感じました」
古代遺跡での経験を、簡潔に語った。
ただし、光る石や壁画のことは、省略した。
「また、エルザリア王国の人々との交流も、貴重な経験でした。クラウス殿という友人ができたことは、大きな収穫です」
聴衆の中から、感嘆の声が上がった。
他国の貴族と友人になるのは、簡単なことではない。
「最後に、この実習で学んだことを、これからの学院生活に活かしていきたいと思います。ありがとうございました」
ルーカスは、お辞儀をした。
拍手が、講堂に響いた。
* * *
報告会が終わった後、学院長がルーカスを呼び止めた。
「殿下、少しお時間をいただけますか」
「はい。何でしょうか」
「私の部屋で、お話したいことがあります」
「分かりました」
ルーカスは、学院長室に向かった。
セラも、一緒に来た。
* * *
学院長室に入ると、学院長が待っていた。
その表情は、いつもより真剣だった。
「殿下、報告書を読みました」
「報告書……」
「引率の教官が提出した、実習の報告書です」
「……」
ルーカスは、緊張した。
報告書には、何が書かれているのだろうか。
「テロリストとの戦闘のことが、詳しく書かれていました」
「はい……」
「殿下が、驚くべき力を見せたことも」
「……」
ルーカスは、黙っていた。
セラが、彼の隣で立っていた。
「殿下、率直に聞きます。あのとき、何が起きたのですか」
「……」
ルーカスは、少し考えた。
そして、正直に答えることにした。
「力を、抑えられませんでした」
「抑えられなかった……」
「皆が危険だったので、力を使うしかありませんでした」
「……」
学院長は、黙って聞いていた。
「その結果、体が変化しました。皮膚が金属のようになり、目が光りました」
「それは……『禁忌』の症状ですね」
「はい」
ルーカスは、はっきりと認めた。
隠しても、意味がないと思った。
* * *
学院長は、しばらく黙っていた。
そして、深くため息をついた。
「殿下、私はあなたの味方です」
「え……」
「報告書は、私が保管しています。教会には、まだ提出していません」
「学院長……」
「しかし、参加者の中に、教会と繋がりのある者がいるかもしれません。噂が広まる可能性は、あります」
「……」
「殿下、これからは、より慎重に行動してください」
「はい」
「力を見せることは、できるだけ避けてください。しかし、人命が危険なときは、その限りではありません」
「……ありがとうございます」
ルーカスは、深くお辞儀をした。
「学院長、一つお聞きしてもいいですか」
「何でしょう」
「なぜ、私の味方をしてくださるのですか」
学院長は、少し微笑んだ。
「殿下は、良い人です。『禁忌』であることは、関係ありません。人を守ろうとする心があれば、それで十分です」
「……」
「私は、殿下が人間として生きることを、応援しています」
学院長の言葉に、ルーカスの目に涙が浮かんだ。
「ありがとうございます……」
「礼には及びません。これからも、頑張ってください」
「はい」
ルーカスとセラは、学院長室を出た。
* * *
廊下を歩きながら、二人は話していた。
「学院長が、味方でいてくれて、良かったですね」
「はい。本当に、ありがたいです」
「でも、油断はできませんね」
「そうですね。噂が広まる可能性は、あります」
「殿下、私は……」
「分かっています。セラが傍にいてくれれば、大丈夫です」
ルーカスが、微笑んだ。
セラも、微笑んだ。
「これからも、一緒に頑張りましょう」
「はい」
二人は、手を握り合った。
* * *
その日の夕方、ルーカスは一人で考えていた。
学院長が味方でいてくれる。
それは、大きな支えだ。
しかし、教会の目は、逃れられない。
いつか、また監査が行われるかもしれない。
「その時は、どうする……」
小さく呟いた。
力を見せないようにする。
それが、一番大切だ。
しかし、人命が危険なときは、使わざるを得ない。
そのジレンマを、どう解決すればいいのか。
「難しい……」
ため息をついた。
コンコン。
ドアがノックされた。
「はい」
ドアを開けると、セラが立っていた。
「殿下、夕食の時間ですよ」
「ああ、そうでしたね」
「また、考え込んでいたのですか」
「少しだけ」
「一人で考えすぎないでくださいね。私に、相談してください」
「……ありがとう、セラ」
ルーカスが、微笑んだ。
「では、食堂に行きましょう」
「はい」
二人は、一緒に食堂に向かった。
* * *
食堂では、他の参加者たちも食事をしていた。
ルーカスとセラが入ると、何人かが声をかけてきた。
「殿下、報告会、お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「殿下の発表、良かったですよ」
「そうですか。嬉しいです」
参加者たちは、普通に接してくれた。
ルーカスの「変化」を見たはずなのに、恐れている様子はなかった。
「殿下」
レオナルドが、声をかけてきた。
「レオナルド」
「エルザリア王国でのこと、大変だったな」
「はい。少し」
「でも、お前は皆を守った。それが、大切だ」
「……」
「俺たちは、お前の味方だぞ」
レオナルドが、肩を叩いた。
その言葉が、胸に染みた。
「ありがとう、レオナルド」
「礼はいらん。友人だろ」
「……そうだな」
二人は、笑い合った。
* * *
夕食を終えて、ルーカスは部屋に戻った。
今日のことを、振り返っていた。
報告会は、無事に終わった。
学院長は、味方でいてくれる。
参加者たちも、普通に接してくれる。
まだ、大丈夫だ。
すぐに問題が起きるわけではなさそうだ。
しかし、油断はできない。
教会の目は、常にある。
噂が広まれば、また監査が行われるかもしれない。
「気をつけないと……」
小さく呟いた。
でも、一人ではない。
セラがいる。
学院長がいる。
レオナルドがいる。
味方が、増えている。
それが、何より心強かった。
「人間として生きる……」
その夢を、諦めない。
これからも、一歩ずつ進んでいく。
ルーカスは、そう決意しながら、眠りについた。




