第48話:感知能力覚醒?古代遺物に反応
外交実習の十日目。
魔物との戦いから、一日が経った。
参加者たちは、貴賓館で休息を取っていた。
しかし、ルーカスは落ち着かなかった。
昨日から、何か不思議な感覚が続いていたのだ。
「殿下、どうしましたか」
セラが、心配そうに声をかけた。
朝食の席で、ルーカスがあまり食べていないことに気づいたのだ。
「いえ、少し……体調が変なだけです」
「体調……? 怪我が痛みますか」
「いいえ、怪我ではありません。何か……感覚が鋭くなっているような」
「感覚……」
セラは、眉をひそめた。
「感覚が鋭くなる」とは、どういうことだろうか。
* * *
朝食後、ルーカスは自分の部屋に戻った。
セラも、一緒に来た。
「殿下、詳しく教えてください。何が起きているのですか」
「よく分からないのですが……」
ルーカスは、自分の手を見つめた。
「昨日の戦いの後から、周りの気配がよく分かるようになりました」
「気配……」
「はい。人がどこにいるか、何をしているか。なんとなく、分かるのです」
「それは……」
「今も、隣の部屋に誰かがいることが分かります。給仕の方が、掃除をしています」
セラは、驚いた顔をした。
確認するように、廊下に出て、隣の部屋を覗いた。
本当に、給仕が掃除をしていた。
「本当ですね……」
「はい。どうして分かるのか、分からないのですが」
「前世の能力が、復活したのでしょうか」
「そうかもしれません。でも、前世では、こんなに鮮明ではありませんでした」
「鮮明……」
「はい。今は、もっと……細かく感じられます」
ルーカスは、困惑した表情を見せた。
この感覚は、前世にはなかったものだ。
何かが、変化している。
* * *
午前中、ルーカスは実験をしてみた。
目を閉じて、周囲を感じてみる。
貴賓館の中に、何人の人がいるか。
どこに、誰がいるか。
それが、なんとなく分かった。
「二十三人……いや、二十四人。今、一人入ってきました」
「確認してきます」
セラが、確認に行った。
戻ってきたとき、彼女の顔は驚きに満ちていた。
「正確でした。本当に、二十四人でした」
「やはり……」
「殿下、これは……」
「分かりません。でも、何かが起きています」
ルーカスは、深く考え込んだ。
この能力は、どこから来たのか。
昨日の戦いがきっかけなのか。
それとも、あの遺跡で見た光る石が関係しているのか。
* * *
午後、予想外の来客があった。
エルザリア王国の学者が、貴賓館を訪れたのだ。
「ルーカス殿下、お時間をいただけますか」
「何でしょうか」
「昨日の遺跡のことで、お話があります」
学者は、ルーカスとセラを、別室に案内した。
「実は、殿下に見ていただきたいものがあるのです」
「見せたいもの……」
「はい。遺跡から回収した遺物です」
学者が、小さな箱を取り出した。
その中に、何かが入っていた。
「これは、あの光る石の破片です」
「光る石……」
あの日、地下の部屋で見た、青白く光る石だ。
ルーカスは、その破片を見つめた。
瞬間、体に衝撃が走った。
「っ……!」
「殿下!」
セラが、慌てて支えた。
ルーカスは、頭を押さえていた。
――データ同期検知。外部信号源確認。
――情報取得中……
脳内に、文字が浮かんでいた。
前世のシステムに似た、何かが動いている。
「殿下、大丈夫ですか!」
「は、はい……大丈夫です」
ルーカスは、深呼吸をした。
衝撃は、すぐに収まった。
「何が起きたのですか」
「分かりません。この石を見たとき、何かを感じました」
「何かを……」
「はい。データが、流れ込んできたような」
「データ……」
学者は、興味深そうに聞いていた。
「殿下、もしよろしければ、この石に触れていただけますか」
「触れる……?」
「はい。殿下には、何か特別な反応があるようです。もしかしたら、古代の秘密を解き明かす手がかりになるかもしれません」
「……」
ルーカスは、少し迷った。
しかし、好奇心が勝った。
この石は、何なのか。
知りたかった。
「分かりました。試してみます」
「殿下……!」
セラが、心配そうに見ていた。
ルーカスは、彼女に微笑んだ。
「大丈夫です。何かあったら、すぐに止めます」
「……分かりました」
セラは、不安そうだったが、頷いた。
* * *
ルーカスは、石の破片に手を伸ばした。
指先が、石に触れた。
瞬間、意識が遠のいた。
――接続確立。情報転送開始。
脳内に、大量の情報が流れ込んできた。
映像、音声、データ。
古代の記憶が、再生されていく。
白い建物。
巨大な機械。
人々の声。
そして……。
金属の体を持つ存在たちが、見えた。
人間のような姿。
しかし、体の一部が、金属でできている。
彼らは、人間たちと一緒に働いていた。
「これは……」
ルーカスは、驚愕した。
古代のこの世界には、自分と同じような存在がいたのだ。
映像は、続いていった。
金属の存在たちは、「守護者」と呼ばれていた。
人間を守り、助ける存在。
高度な技術で作られた、人造の生命体。
しかし、ある日、災厄が起きた。
何かが、世界を襲った。
守護者たちは、人間を守るために戦った。
多くの守護者が、破壊された。
そして、残った守護者たちは、眠りについた。
いつか、再び必要とされる日まで。
* * *
「殿下! 殿下!」
セラの声が、聞こえた。
ルーカスは、はっと我に返った。
「大丈夫ですか!」
「は、はい……」
気づくと、床に倒れていた。
セラが、膝枕をしてくれていた。
「殿下、何が起きたのですか」
「……見えました」
「見えた……?」
「古代の記憶が、見えました」
ルーカスは、ゆっくりと起き上がった。
頭が、少し痛かった。
しかし、大きな問題はなさそうだった。
「学者さん、この石は何ですか」
「私たちは、『記憶石』と呼んでいます。古代の記録が、保存されている石です」
「記憶が……」
「はい。しかし、今まで誰も、その記憶を読み取ることができませんでした。殿下が、初めてです」
「……」
ルーカスは、石を見つめた。
この石には、古代の秘密が詰まっている。
そして、自分は、それを読み取ることができる。
「殿下、何を見たのですか」
セラが、静かに聞いた。
ルーカスは、少し迷った。
しかし、セラには隠さない方がいいだろう。
「古代に、僕と同じような存在がいました」
「同じような……」
「はい。金属の体を持つ存在。人間を守るために作られた、人造の生命体」
「……」
セラは、黙って聞いていた。
その目には、驚きがあった。
しかし、恐怖はなかった。
「彼らは、『守護者』と呼ばれていました」
「守護者……」
「はい。壁画に描かれていた存在です。彼らは、古代の人間たちと一緒に暮らしていました」
「一緒に……」
「しかし、ある日、災厄が起きて、ほとんどの守護者が破壊されました。残った者は、眠りについたようです」
「眠り……」
ルーカスは、深く息を吐いた。
「僕は、彼らと同じなのかもしれません」
「殿下……」
「前世では、戦闘用のロボットでした。でも、もしかしたら、そのルーツは、この世界にあるのかもしれません」
「……」
セラは、しばらく黙っていた。
そして、ルーカスの手を握った。
「殿下が何であっても、私にとっては関係ありません」
「セラ……」
「殿下は殿下です。それだけが、大切です」
ルーカスの目に、涙が浮かんだ。
セラの言葉が、胸に染みた。
* * *
学者は、ルーカスの体験を詳しく記録した。
古代の秘密を解き明かす、貴重な手がかりだった。
「殿下、ありがとうございました。非常に貴重な情報です」
「いいえ。僕も、知りたかったことです」
「この情報は、慎重に扱います。殿下のお名前は、伏せておきますので」
「ありがとうございます」
学者は、去っていった。
ルーカスとセラは、部屋に残っていた。
「殿下、大丈夫ですか」
「はい。少し疲れましたが、大丈夫です」
「無理をしないでください」
「分かっています」
ルーカスが、微笑んだ。
「セラ、一つ分かったことがあります」
「何ですか」
「僕の感知能力は、この石に触れたから強くなったのかもしれません」
「石に触れたから……」
「はい。あの遺跡で、光る石を見たとき、何かが起動したのかもしれません」
「起動……」
「はい。眠っていた機能が、目覚めたのかもしれません」
ルーカスは、自分の手を見つめた。
「怖いですか」
セラが、聞いた。
ルーカスは、首を横に振った。
「怖くはありません。むしろ、嬉しいです」
「嬉しい……?」
「はい。自分のルーツが、少し分かったからです」
「ルーツ……」
「僕は、この世界と無関係な存在だと思っていました。でも、もしかしたら、繋がりがあるのかもしれません」
「……」
セラは、ルーカスの言葉を噛み締めた。
彼は、ずっと自分の存在に疑問を持っていた。
自分が何者なのか、分からなかった。
でも、今、少しだけ答えが見えた。
「殿下、良かったですね」
「はい。セラのおかげです」
「私は、何もしていませんが……」
「いいえ。セラがいてくれるから、僕は前に進めます」
ルーカスが、セラの手を握った。
セラの顔が、赤くなった。
* * *
その夜、ルーカスは一人で考えていた。
古代の守護者たち。
人間を守るために作られた存在。
彼らは、どこに行ったのだろうか。
眠りについた、と言っていた。
どこで眠っているのだろうか。
「もしかしたら、まだどこかにいるのかもしれない」
小さく呟いた。
同じような存在が、この世界にいるかもしれない。
その可能性に、胸が高鳴った。
しかし、同時に不安もあった。
自分の存在が、古代の守護者と関係しているとしたら。
それは、何を意味するのだろうか。
教会は、自分を「禁忌」と呼んでいる。
もし、古代の守護者も「禁忌」だったとしたら。
彼らが滅びた理由は、何だったのだろうか。
「考えても、分からないことばかりだ……」
ルーカスは、ため息をついた。
しかし、一つだけ確かなことがある。
自分は、人間として生きたい。
古代の守護者が何であれ、自分は自分だ。
セラと一緒に、人間として生きていきたい。
その想いだけは、変わらない。
窓の外には、星空が広がっていた。
明日も、新しい一日が始まる。
謎は、少しずつ解けていくだろう。
焦らず、一歩ずつ進んでいこう。
ルーカスは、そう自分に言い聞かせながら、眠りについた。




