第38話:新学期開始、再会と新たな試練の予告
新学期が始まった。
学院には、休暇を終えた生徒たちが戻ってきていた。
活気のある声が、あちこちから聞こえていた。
ルーカスは、学院の門をくぐった。
監察官たちが、相変わらず後ろについてきていた。
しかし、今日は気にならなかった。
セラに会えるからだ。
「殿下!」
声が聞こえた。
振り返ると、セラが走ってきていた。
冬の間に、少しだけ髪が伸びていた。
頬が、少し赤く染まっていた。
「セラ」
「お久しぶりです!」
「久しぶりですね」
二人は、向かい合った。
しばらく、お互いを見つめていた。
言葉が、出てこなかった。
「……元気でしたか」
「はい。殿下は」
「僕も、元気でした」
「良かったです」
セラが、にこりと笑った。
ルーカスも、笑った。
「手紙、ありがとうございました」
「こちらこそ」
「殿下の手紙、全部読み返しました」
「僕も、セラの手紙を全部持っています」
「本当ですか」
「はい。大切な宝物です」
セラの顔が、さらに赤くなった。
ルーカスは、その反応が可愛いと思った。
「セラ」
「はい」
「また、一緒に過ごせて嬉しいです」
「……私も、です」
二人は、お互いの手を握り合った。
冷たい冬の空気の中で、手だけが温かかった。
* * *
教室に入ると、クラスメイトたちが集まっていた。
皆、冬休みの話で盛り上がっていた。
「ルーカス殿下、お帰りなさい」
レオナルドが、声をかけてきた。
友人として、自然に接してくれる。
それが、嬉しかった。
「レオナルド、久しぶり」
「ああ。元気だったか」
「うん。レオナルドは」
「俺も、元気だ。冬休みは、ずっと稽古をしていた」
「稽古……」
「ああ。お前に勝つためにな」
レオナルドが、にやりと笑った。
まだ、再戦を諦めていないようだ。
「また、お茶会をしようか」
「……お前、本当に変わったな」
「そう?」
「ああ。前は、もっと堅かった。今は、普通に話せる」
「そうかもしれない。セラのおかげだと思う」
「ヴェルディか……」
レオナルドが、セラの方を見た。
セラは、他の生徒と話していた。
「いい相手を見つけたな」
「相手……?」
「何でもない。気にするな」
レオナルドが、肩をすくめた。
ルーカスは、首を傾げた。
意味が、分からなかった。
* * *
始業式が行われた。
学院長が、壇上に立って話をした。
「新学期の始まりです。皆さん、冬休みは充実していましたか」
生徒たちから、声が上がった。
学院長は、にこやかに微笑んでいた。
「さて、今学期もいくつかの行事があります。まず、来月には外交実習があります」
「外交実習……」
ルーカスは、その言葉に耳を傾けた。
外交実習。
それは、隣国への訪問を伴う実習だ。
貴族の子弟として、外交マナーを学ぶためのものだ。
「今年の外交実習は、特別なものになります。詳細は、後日お伝えします」
学院長が、そう言って話を終えた。
生徒たちは、ざわついていた。
「特別」とは、何を意味するのだろうか。
* * *
始業式後、ルーカスは学院長室に呼び出された。
セラも一緒だった。
何か、重要な話があるようだった。
「殿下、お座りください」
「はい」
ルーカスとセラは、椅子に座った。
学院長の表情は、険しかった。
「実は、教会から通達が来ています」
「通達……」
「『特別監査』についてです」
「特別監査……?」
ルーカスは、その言葉に眉をひそめた。
定期検査とは、別のものだろうか。
「特別監査とは、通常の検査よりも厳しい調査を行うものです」
「厳しい調査……」
「はい。殿下の『能力』について、より詳細に調べるとのことです」
「……」
「具体的には、実戦形式の試験が行われます」
「実戦形式……」
「殿下の戦闘能力を、実際に測定するのです」
学院長の言葉に、ルーカスは胸が重くなった。
実戦形式の試験。
それは、力を隠すのが難しい。
全力で戦わなければ、不自然になる。
しかし、全力で戦えば、「異常」が露呈する。
「いつ行われますか」
「来月です。外交実習の前に」
「外交実習の前……」
「はい。教会は、外交実習に参加させるかどうか、その結果で判断するそうです」
「参加させるかどうか……」
「殿下が『危険』と判断されれば、外交実習への参加は認められません」
「……」
ルーカスは、唇を噛んだ。
教会は、また自分を追い詰めようとしている。
実戦形式の試験で、「異常」を暴こうとしている。
「殿下、申し訳ありません」
学院長が、頭を下げた。
「私は、この通達に反対しました。しかし、教会の決定を覆すことはできませんでした」
「いいえ。学院長のせいではありません」
「でも……」
「学院長は、いつも僕の味方でいてくれました。それだけで、十分です」
ルーカスが、微笑んだ。
学院長は、少し目を潤ませた。
「殿下……」
「特別監査、乗り越えてみせます」
「はい。応援しています」
「ありがとうございます」
ルーカスは、立ち上がった。
セラも、一緒に立ち上がった。
「学院長、これからも、よろしくお願いします」
「はい。殿下の無事を、お祈りしています」
二人は、学院長室を後にした。
* * *
「殿下……」
廊下を歩きながら、セラが声をかけた。
その表情は、心配そうだった。
「大丈夫です」
「でも、特別監査は……」
「乗り越えられます」
「本当に?」
「はい。セラがいてくれますから」
ルーカスが、微笑んだ。
セラは、少し驚いた顔をした。
そして、涙を浮かべた。
「殿下は、本当に強くなりましたね」
「そうですか」
「はい。以前なら、不安を隠そうとしていたと思います。でも、今は違います」
「……」
「不安を認めた上で、乗り越えようとしています。それは、本当の強さです」
「セラのおかげです」
「私は、何もしていません」
「いいえ。セラがいるから、僕は強くなれました」
ルーカスが、セラの手を取った。
セラの顔が、赤くなった。
「特別監査、一緒に乗り越えましょう」
「……はい」
「二人なら、大丈夫です」
「はい。二人なら」
二人は、お互いを見つめた。
不安はあった。
しかし、それ以上に、信頼があった。
* * *
その夜、ルーカスは部屋で考えていた。
特別監査のことを。
実戦形式の試験。
それは、力を隠すのが難しい。
しかし、やるしかない。
乗り越えなければならない。
「どうすれば……」
考えを巡らせる。
力を抑えながら、戦う方法。
実技祭のときのように。
しかし、実技祭とは違う。
今度は、教会の監察官が直接見ている。
少しでも異常が見つかれば、「禁忌」として認定されるかもしれない。
「セラ……」
小さく呟いた。
彼女の顔を思い浮かべる。
彼女のために、頑張りたい。
彼女を悲しませたくない。
「乗り越えてみせる」
決意を新たにした。
どんな困難も、乗り越えてみせる。
人間として生きるために。
大切な人のために。
窓の外を見た。
冬の星空が、輝いていた。
明日から、また戦いが始まる。
しかし、一人ではない。
セラがいる。
友人がいる。
味方がいる。
それを胸に、ルーカスは眠りについた。
新学期が始まった。
そして、新たな試練も始まろうとしていた。




