第37話:セラとの文通イベント(手紙のやり取り)
冬休みが始まった。
ルーカスは、王宮で過ごしていた。
監察官の監視は、厳しかった。
どこに行くにも、彼らがついてきた。
しかし、それよりも辛いことがあった。
セラがいないことだ。
「セラさんに、会いたいな……」
部屋で一人、呟いた。
窓の外は、雪が降っていた。
白い世界が、広がっていた。
そのとき、ドアがノックされた。
「ルーカス殿下、お手紙が届いております」
「手紙……?」
侍女が、封筒を差し出した。
ルーカスは、それを受け取った。
封筒を見ると、差出人の名前が書いてあった。
「セラフィーナ・ヴェルディ」
セラからだった。
* * *
ルーカスは、急いで封筒を開けた。
中から、丁寧に折りたたまれた手紙が出てきた。
『ルーカス殿下へ
お元気ですか。私は、無事に故郷に着きました。
家族も、元気です。弟のトーマスは、相変わらず本ばかり読んでいます。
父と母は、私の話を聞いて、とても喜んでいました。特に、殿下のことを話すと、興味深そうに聞いてくれました。
故郷は、雪が積もっています。学院の周りよりも、ずっと寒いです。でも、家族がいるので、温かいです。
殿下は、王宮でお元気ですか。監察官の方々は、いかがですか。無理をしていないか、心配しています。
もし良ければ、お返事をいただけると嬉しいです。
殿下の無事を、お祈りしています。
セラフィーナ・ヴェルディ』
手紙を読み終えて、ルーカスは胸が温かくなった。
セラが、元気でいること。
家族と一緒に過ごしていること。
それが、とても嬉しかった。
「返事を書こう」
ルーカスは、机に向かった。
ペンと紙を取り出す。
何を書けばいいだろうか。
少し考えてから、書き始めた。
* * *
『セラへ
手紙をありがとうございます。とても嬉しかったです。
僕は、王宮で過ごしています。監察官の方々は、相変わらず厳しいですが、何とかやっています。
王宮では、母上が優しくしてくれます。兄上も、以前より話しかけてくれるようになりました。少しずつですが、家族との関係が良くなっている気がします。
セラの家族の話を聞いて、羨ましくなりました。弟さんが本好きだというのは、素敵ですね。将来、学者になれるといいですね。
冬休みは、セラに会えなくて寂しいです。でも、手紙で話せるのは、嬉しいです。
セラも、無理をしないでください。家族との時間を、大切にしてください。
また、手紙を書きます。
ルーカス』
書き終えて、読み返した。
少し恥ずかしい気がした。
しかし、これが正直な気持ちだった。
「送ろう」
手紙を封筒に入れ、侍女に渡した。
セラのところに届くまで、数日かかるだろう。
その間、また手紙が届くことを楽しみにしていよう。
* * *
数日後、また手紙が届いた。
『ルーカス殿下へ
お返事、ありがとうございます。
殿下の手紙を読んで、とても嬉しくなりました。殿下が元気そうで、安心しました。
王宮でのお話、興味深く読みました。お母様やお兄様との関係が良くなっているとのこと、良かったです。家族は、大切ですから。
ところで、殿下の手紙を読んで、気づいたことがあります。
殿下の文章が、以前より感情豊かになっている気がします。
「嬉しかった」「寂しい」という言葉が、自然に使われていました。以前の殿下なら、もっと淡々とした文章を書いていたと思います。
殿下は、どんどん「人間らしく」なっていますね。それが、私はとても嬉しいです。
こちらは、相変わらず雪が降っています。昨日は、弟と一緒に雪だるまを作りました。トーマスは、体が弱いので、あまり外で遊べないのですが、雪だるまなら大丈夫でした。
殿下も、王宮で雪遊びをしてみてはいかがですか。きっと、楽しいと思います。
また、お手紙をお待ちしています。
セラフィーナ・ヴェルディ』
手紙を読み終えて、ルーカスは考え込んだ。
セラが言っていることは、本当だった。
自分の文章が、感情豊かになっている。
「嬉しい」「寂しい」という言葉を、自然に使っている。
「人間らしく……」
小さく呟いた。
それは、自分の夢だった。
人間として生きること。
感情を持ち、人と関わること。
セラが、それを認めてくれた。
とても、嬉しかった。
* * *
ルーカスは、すぐに返事を書いた。
『セラへ
手紙をありがとうございます。
僕の文章が変わっている、という指摘、嬉しかったです。自分では気づいていませんでしたが、言われてみれば、そうかもしれません。
以前の僕は、感情を言葉にすることが苦手でした。「嬉しい」とか「悲しい」とか、どう表現すればいいか分からなかったのです。
でも、セラと過ごすうちに、少しずつ変わってきました。セラが、感情の表現方法を教えてくれたからです。
だから、今の僕があるのは、セラのおかげです。ありがとうございます。
雪だるまの話、楽しそうですね。弟さんと一緒に作ったというのは、素敵な思い出になりますね。
僕も、雪遊びをしてみようかと思いました。でも、監察官の方々が見ているので、少し恥ずかしいです。
それでも、やってみます。セラの言う通り、きっと楽しいと思うので。
また、報告しますね。
ルーカス』
手紙を送った後、ルーカスは庭に出た。
雪が、ふわふわと降っていた。
監察官たちが、遠くから見ている。
しかし、気にしないことにした。
雪を集めて、丸める。
大きな雪の玉を作る。
その上に、少し小さな雪の玉を乗せる。
雪だるまの形になった。
「……できた」
小さく呟いた。
不格好だったが、初めて作った雪だるまだった。
嬉しかった。
監察官たちが、こちらを不審そうに見ていた。
しかし、ルーカスは気にしなかった。
セラに報告することが、楽しみだった。
* * *
手紙のやり取りは、冬休みの間ずっと続いた。
ルーカスとセラは、様々なことを書き合った。
日々の出来事。
家族のこと。
学院の友人のこと。
将来の夢のこと。
手紙を書くたびに、ルーカスは自分の感情と向き合った。
何が嬉しいのか。
何が悲しいのか。
何が楽しいのか。
それを言葉にすることで、自分の感情がはっきりしていった。
セラの言う通り、自分は「人間らしく」なっていた。
ある日の手紙に、ルーカスはこう書いた。
『セラへ
手紙を書くのが、楽しみになりました。
以前は、文章を書くのが苦手でした。何を書けばいいか分からなかったからです。
でも、セラへの手紙は違います。書きたいことが、たくさんあります。セラに伝えたいことが、たくさんあります。
これが、「人と繋がる」ということなのかもしれません。
前世では、誰とも繋がることができませんでした。心がなかったからです。
でも、今は違います。セラと繋がっている。手紙を通じて、心が繋がっている。
それが、とても幸せです。
冬休みが終わるまで、あと少しです。また、セラに会えることを楽しみにしています。
ルーカス』
この手紙を読んだセラは、涙を流したという。
後で聞いた話だ。
嬉しくて、泣いてしまったのだという。
* * *
冬休みの最後の日。
セラから、最後の手紙が届いた。
『ルーカス殿下へ
明日、学院に戻ります。
殿下とまた会えることが、とても楽しみです。
冬休みの間、殿下との手紙のやり取りが、とても楽しかったです。殿下の手紙を読むたびに、温かい気持ちになりました。
殿下は、本当に変わりました。感情豊かになりました。人間らしくなりました。
それは、殿下の努力の結果です。殿下が、人間として生きようと頑張ってきた結果です。
私は、そんな殿下を誇りに思います。
明日、また会えることを楽しみにしています。
では、学院で。
セラフィーナ・ヴェルディ』
手紙を読み終えて、ルーカスは微笑んだ。
明日、セラに会える。
それが、とても嬉しかった。
「セラ、ありがとう」
小さく呟いた。
手紙の束を、大切に仕舞った。
これは、宝物だ。
セラとの絆の証だ。
明日から、新学期が始まる。
また、セラと一緒に過ごせる。
それが、何より嬉しかった。
ルーカスは、窓の外を見た。
雪が止んでいた。
空には、星が輝いていた。
「明日、会えるね」
セラの顔を思い浮かべながら、眠りについた。
幸せな気持ちで、眠りについた。




