第34話:レオナルドとの友情イベント(ライバルから友へ)
ある日の昼休み。
ルーカスとセラは、食堂で昼食を取っていた。
いつもの席で、いつものように食事をしていた。
「殿下」
声をかけられて、顔を上げた。
そこに立っていたのは、レオナルド・フォン・アルブレヒトだった。
金髪を後ろに撫でつけ、鋭い目つきをしている。
実技祭の準決勝で戦った相手だ。
「レオナルドさん」
「久しぶりだな」
「はい。お元気でしたか」
「ああ。足の怪我も、完治した」
「それは、良かったです」
ルーカスが、微笑んだ。
レオナルドは、少し照れくさそうな顔をした。
「殿下、一つ頼みがある」
「何ですか」
「再戦してくれ」
「再戦……」
「ああ。実技祭のとき、俺は負けた。その雪辱を晴らしたい」
レオナルドが、真剣な目で言った。
その目には、闘志が燃えていた。
「……」
ルーカスは、少し考えた。
再戦。
それは、また全力で戦うことを意味する。
監察官の目がある今、それは危険かもしれない。
しかし、別の考えも浮かんだ。
「レオナルドさん、一つ提案があります」
「何だ」
「再戦の前に、お茶でもしませんか」
「……は?」
レオナルドが、目を丸くした。
予想外の答えだったようだ。
「お茶、ですか」
「はい。僕は、レオナルドさんのことを、もっと知りたいのです」
「知りたい……」
「実技祭では、戦うことしかできませんでした。でも、戦う以外にも、人と関わる方法はあると思います」
「……」
「だから、まずはお茶を飲みながら、話しませんか」
ルーカスが、にこりと笑った。
レオナルドは、困惑した表情を浮かべていた。
「殿下……それは……」
「ダメですか」
「いや、ダメではないが……」
「では、お茶会をしましょう。放課後、中庭で」
「……分かった」
レオナルドが、渋々頷いた。
セラは、その様子を見て、小さく笑っていた。
* * *
放課後、中庭のベンチ。
ルーカス、セラ、レオナルドの三人が座っていた。
テーブルの上には、紅茶とお菓子が並んでいた。
「では、いただきます」
ルーカスが、紅茶を飲んだ。
レオナルドは、まだ戸惑った様子だった。
「殿下、本当にお茶会でいいのか」
「いいのです」
「俺は、戦いに来たんだが……」
「戦いは、後でもできます。今は、お茶を楽しみましょう」
「……」
レオナルドは、ため息をついた。
しかし、仕方なく紅茶を手に取った。
一口飲む。
少し、表情が和らいだ。
「……美味いな」
「良かったです」
「殿下は、いつもこんなことをしているのか」
「お茶を飲むことですか」
「いや、戦いを申し込まれて、お茶会で返すこと」
「レオナルドさんが初めてです」
「……そうか」
レオナルドが、苦笑した。
セラも、くすくすと笑っていた。
「レオナルドさん、なぜ剣術を始めたのですか」
「なぜ……」
「はい。興味があります」
「……父の影響だ」
「お父様が、剣術をされていたのですか」
「ああ。父は、騎士団の副団長だった。幼い頃から、父の稽古を見て育った」
「素敵なお父様ですね」
「ああ。厳しいが、良い父だ」
レオナルドの表情が、少し柔らかくなった。
父親のことを話すとき、彼の目には尊敬の色が浮かんでいた。
「殿下は、どうして強いんだ」
「強い……ですか」
「ああ。あの実技祭の試合、俺は負けた。完敗だった」
「そんなことは……」
「俺は、幼い頃からずっと剣術を学んできた。才能があると言われてきた。でも、殿下には敵わなかった」
「……」
「なぜだ。殿下は、どうやってあの強さを手に入れた」
レオナルドが、真剣な目で問いかけた。
ルーカスは、少し考えた。
どう答えるべきか。
「僕は……努力したわけではありません」
「努力していない……?」
「はい。この力は、生まれつきです。いや、もっと正確に言えば……別の場所で身につけたものです」
「別の場所……」
「詳しくは、言えません。でも、レオナルドさんの努力を否定するつもりはありません」
「……」
「レオナルドさんは、努力で強くなりました。それは、僕にはできないことです」
ルーカスが、まっすぐにレオナルドを見た。
レオナルドは、その言葉に少し驚いた様子だった。
「殿下……」
「僕は、レオナルドさんを尊敬しています」
「尊敬……」
「はい。努力を続けられる人は、すごいと思います」
「……」
「僕には、そういう強さがありません」
ルーカスの言葉は、謙遜ではなかった。
本心からの言葉だった。
レオナルドは、それを感じ取ったようだった。
「殿下は、不思議な人だな」
「そうですか」
「ああ。戦いを申し込まれて、お茶会で返す。自分が強いのに、相手を尊敬する」
「普通ではないですか」
「普通ではない。だが、悪くない」
レオナルドが、にやりと笑った。
その笑顔には、敵意がなかった。
むしろ、親しみが感じられた。
* * *
お茶会は、思ったより長く続いた。
三人は、様々なことを話した。
学院のこと、家族のこと、将来の夢のこと。
「レオナルドさんの夢は、何ですか」
「父のような騎士になることだ」
「素敵な夢ですね」
「殿下は、どうなんだ」
「僕の夢は……人間として生きることです」
「人間として……?」
「はい。普通に笑って、普通に泣いて、普通に人と関わって。そういう生き方をしたいのです」
「……変わった夢だな」
「そうですか」
「ああ。でも、殿下らしいと思う」
レオナルドが、笑った。
ルーカスも、笑った。
「セラさんの夢は、何ですか」
レオナルドが、セラに尋ねた。
セラは、少し考えてから答えた。
「騎士になることです」
「それは、俺と同じだな」
「はい。でも、理由は少し違うかもしれません」
「理由……」
「私は、大切な人を守るために、騎士になりたいのです」
セラが、ちらりとルーカスを見た。
レオナルドは、その視線に気づいた。
そして、にやりと笑った。
「なるほど。そういうことか」
「な、何がですか」
「いや、何でもない」
レオナルドが、意味深な笑みを浮かべた。
セラの顔が、赤くなった。
ルーカスは、その会話の意味が分からなかったが、悪いことではなさそうだった。
* * *
日が暮れてきた。
お茶会も、そろそろ終わりだ。
「レオナルドさん、今日は楽しかったです」
「……ああ。俺も、思ったより楽しかった」
「また、お茶会をしましょう」
「……ああ」
「その後で、再戦しましょう」
「その後で……か」
レオナルドが、苦笑した。
結局、再戦は後回しにされてしまった。
「殿下、一つ聞いていいか」
「何ですか」
「俺のことを、どう思っている」
「どう思っている……」
「友人か、ライバルか、それとも……」
「友人です」
「……は?」
レオナルドが、目を丸くした。
即答だったからだ。
「友人です。今日から」
「今日から……」
「はい。お茶を一緒に飲んだら、友人です。そういうものだと思います」
「……」
レオナルドは、しばらく黙っていた。
そして、ぷっと吹き出した。
「殿下は、本当に変わった人だな」
「そうですか」
「ああ。でも、嫌いじゃない」
「良かったです」
「じゃあ、俺も言おう。殿下のことは、友人だと思っている」
「ありがとうございます」
ルーカスが、嬉しそうに微笑んだ。
レオナルドも、少し照れくさそうに笑った。
「レオナルド」
「何だ」
「敬語は、もういいですか」
「……好きにしろ」
「では、レオナルドと呼びます」
「ああ。俺も、ルーカスと呼ぶ」
「はい」
二人は、握手を交わした。
ライバルから、友人へ。
新しい関係が、始まった。
* * *
「セラさんも、レオナルドと仲良くしてください」
「は、はい……」
「三人で、また茶会をしましょう」
「……分かりました」
セラが、少し戸惑いながら頷いた。
レオナルドは、にやにやと笑っていた。
「ルーカス、お前は天然だな」
「天然……?」
「何でもない。忘れろ」
「はい」
ルーカスは、首を傾げた。
天然という言葉の意味が、よく分からなかった。
しかし、悪い意味ではなさそうだった。
「では、また明日」
「ああ。また明日」
レオナルドが、去っていった。
ルーカスとセラは、その背中を見送った。
「レオナルドは、いい人ですね」
「はい。思ったより、話しやすい方でした」
「友人ができて、嬉しいです」
「……殿下、すぐに友人と言うのは、どうかと」
「ダメですか」
「ダメではないですが……もう少し、時間をかけた方が」
「でも、レオナルドも友人だと言ってくれました」
「……そうですね」
セラが、ため息をついた。
しかし、その表情は、優しかった。
「殿下は、本当にまっすぐですね」
「そうですか」
「はい。人を疑わない。すぐに信じる。それは、良いことでもあり、危ないことでもあります」
「危ない……」
「でも、私は、そんな殿下が好きです」
「……」
セラの言葉に、ルーカスの心臓が少し速く鳴った。
「好き」という言葉が、胸に響いた。
「ありがとうございます、セラ」
「いいえ」
「僕も、セラが好きです」
「……っ!」
セラの顔が、真っ赤になった。
ルーカスは、その反応の意味が分からなかったが、悪いことではない気がした。
「帰りましょうか」
「は、はい……」
二人は、寮に向かって歩き始めた。
夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。
新しい友人ができた。
それは、ルーカスにとって、大きな喜びだった。
人間として生きる夢が、また一歩、近づいた気がした。




