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冷えて尚固まる意地

『なーにが覚悟しておけよ? だ。覚悟が必要なのはお前の方だぞこの大馬鹿者が』


 厨房から出た所でレッドからの叱責を受ける。


「なんだよその言い草。お前だってアイツ助けたいんだろ?」

『あくまでお前優先だと言ったはずだぞ。本気であの子を助けるつもりならこのままだと十中八九お前は死ぬからな?』


 いつもと違って厳しい声音のレッドに、血が上っていた頭が冷えてくる。


「……そんなに難しいのか?」

『難しいっていうか、ほぼ不可能って言って良い』

「鉱竜の時よりも?」

『あっちの方がずっと気楽だ』


 鉱竜を倒すよりも厳しいというレッドの言葉に思わず「そんなバカな」と言ってしまう。


 鉱竜と違い、相手は能力的にはそれよりずっと劣るスケルトンだ。

 ここまで戦闘を避けていた理由にしていた数の脅威に関しても、ユウというお荷物から解放されているのと、この間のゴブリン達よりかは数が少ないので何とかなるのでは? と高を括っていた。


 だがレッドからは『状況が全然違う』と返ってきた。


『鉱竜の場合は殺せばそこで終わりだったし、最悪お前が生き延びる事さえできれば良かった。けど、今回お前がやろうとしてるのはあの子を死なせない。要は他人を守ろうって事だが、それだけで難易度は跳ね上がる』

「だから邪魔にならないように床下に隔離したんだけど?」


 ウィルとて何かを庇いながら戦う難しさは知っているつもりだった。

 何せ自身が義父に守られながら修羅場を超えてきた経験があったし、自分に人を庇いながら戦えるだけの力があるなんて思える程自惚れてもいない。


 だが、レッドはウィルの甘さを指摘する。


『たしかに多少は時間稼ぎにはなるだろうけど、アンデットは生物に対する感知能力は高いぞ? 先延ばしにしただけで見つかるのは時間の問題だ』


 だからユウを死なせない為にはウィルがスケルトン達の排除ないし、ユウの方に近づけさせないように引き付ける必要がある。


 ここで面倒なのがユウから、つまりこの建物から離れすぎてもダメという事。


 現状、スケルトンがどれほど居るのか分からない状況だ。仮に今この周囲にいるスケルトン達全てを引き付ける事ができてウィルが移動したとしても、その後に別の集団がこの建物に群がればウィルにはどうしようもない。


 よってユウをちゃんと生き延びさせるつもりなら、ウィルは自分の目が届く範囲にいなければならないのだ。


『ここで厄介なのが相手がスケルトンてとこなんだよな……』


 アンデットはゴブリンと違って生身の肉体を持たないが故に痛みで怯んだりする事はなく、材料となる死体ないし骨格を完全に破壊しないと魔力が満ちた場所ならいずれ復活する。


 繁殖で総数が増える事は無いが減る事も無い。

 その為、戦闘に長けた魔法使いが使える広域攻撃のように一網打尽にできる手段を持たないウィルが、逃亡という選択肢が潰れた状態で単独で群れと交戦するというのはあまりにも現実的じゃない。


『はっきり言って時間稼ぎするだけでも厳しい。よしんばできたとしてもウィルの体力的に考えてもそんなに長くは保たないし、おまけに時間を稼いでも事態が好転する見通しもないときたもんだ』

「でも、ここは魔力が無い場所みたいだし、復活はしないんじゃ……」

『あくまでここは、だろ? スケルトン達はこのエリアの外にも居たんだからそこから流れくるかもしれないし、そもそも魔法の大半が使えなかっただけであの子の固有能力のように魔力による作用が完全に消えているというわけでもないんだぞ?』


 スケルトン達が発生するメカニズムがどのようなものなのか分からない以上、希望的観測に基づいて動くのは危険だと言われる。


『お前がやろうとしてる事の無謀さが分かったか? それを踏まえた上でもう少しだけ考えるぞ。時間もまだ少しだけありそうだし』


 廊下から建物入口の扉を見ると、所々に穴が空いて月明りが差し込んでいた。


 その隙間から不気味な白い骨がちらほら見えているが、バリケードに支えられた扉はまだ持ちこたえていた。


 いつ破られてもおかしく無さそうだったが、しかし、確かに多少はまだ時間はありそうだ。


『しっかしどうしたもんか……ウィルだけならともかくあの子までとなると……』

「……止めないのか?」


 あれほど無謀だと言っていたはずのレッドだが、ユウを諦めて逃げろとは言わず、逆に助ける為の方策を考えているようだった。


『どうせ無駄だろ? オイラがどんなに止めたところでウィルが本気なら止めようがない。それに少し頭冷えたみたいだけど、それでもあの子助ける気なんだろ?』


 ユウを助ける。


 自分がやろうとしている事を客観的に言葉にされると、正直、とても気乗りしない。


 あんな奴の為に自分の身体を張るというのは馬鹿馬鹿しく感じるし、我ながらなにやってんだかとも思ってしまう。


『あのまま暴走されても困るからとりあえず反対して一拍置かせただけだ。勿論、ここで考え直してもいいぞ。今からでもあの子を見捨てても誰も責めないし、お前が罪悪感を覚える必要もないんだぞ?』

「……別に、最初からそんな事を気にしてるわけじゃない」


 ――それでも。


 それでもウィルは、先程平静とは程遠い状態で下した決断を、今からまた翻す気にはならなかなった。


「さっきも言ったけど、俺がこうしようと、こうしたいと思ったのは別にアイツに死んでほしくないからとかじゃない。あんな生き方、死に方をされるのは我慢できない。そう思ったから」


 思い出すだけで怒りでギリギリと音が出る程拳に力が入る。


 ユウの死生観は、ウィルとは相容れないものだ。


 足掻きながらも必死で生きてきたウィルが持つなけなしの誇りや覚悟。そういう類のものを鼻で笑われたような気がしたのだ。


 ユウの事だからどうせ発言に悪意も何も無いのだろうが、そんな事は関係ない。


 ただ単純に、このまま見過ごす事は容認できない。それだけの話なのだ。


「自分でも馬鹿だなって思うけど……」

『いや、そんだけ強い意思があるならやる理由としては十分だ』


 レッドは、馬鹿でもなんでもやりたいと思ったならやれば良いと言ってくれる。


『人間、偶には感情に任せて馬鹿やるのも悪くない。その辺はあの子をもう少しだけ見習っても良いと思うぞ』

「見習うって……アレを?」

『ああ。……まあ、あの子もやりすぎだと思うから少しだけ、な?』


 ユウは我が侭に振る舞い勝ちで、ウィルの場合我が侭が少な過ぎる。

 ユウと足して二で割ればちょうど良いと思うぞと言われたが、それはなんというか、とても不本意な気分になる。


「なんか納得できないな……」

『んな事よりこの後どうするかだ。早く考えまとめねえといい加減あいつ等なだれ込んで来るぞ』


 とは言われても、現状ウィルの手札は乏しい。


 持っていて使えそうなのはやたら重い金棒一振りと、使いさしの魔晶石と鉱竜の血液。


 できる事は鬼術が少しと、まだド素人から毛の生えた程度の魔法陣。


 重くて小回りの利きにくい金棒が対集団戦にて使いにくいのはこの間のゴブリンとの乱戦で身を以って知ったし、この場所では無意味であろう魔法陣は使うにしても書き上げるだけの時間も技量もウィルには無い。


 期待できそうなのは鬼術くらいだが。


「……あ」

『どうした?』

「い、いや……今思ったんだけど、アイツの変身魔法を柏手で解除すれば良かったんじゃないかと思って……」


 ユウを元の身体に戻せば今抱えている大半の問題が解消できたのではと、ウィルはもしかしたら大チョンボをやらかしてしまったのではないかと青くなる。


『いや、多分、それはあんまり意味がなかったと思うぞ』

「なんで?」

『あの子、ここじゃマナの掌握ができないみたいだって言っていただろ? 一応柏手もマナを媒介にしているから、成功するかどうかかなり怪しいんよね』


 多分無理だろうなって思っていたので、レッドは鬼術を使う事は提案しなかったらしい。

 加えて、ユウ自身があまりそれを望んでいなかった節があるとレッドは言う。


『あの子ウィルと違って柏手の事は忘れていなかったみたいだけど、あえて言わずにいたっぽいからな』

「は? 自分が助かるどうかの瀬戸際かもしれないのに?」

『理解できないのはオイラも同じだが、解除できないって言ってた時、あの子の目線がウィルの掌に向いていたからな』


 何故なのかは分からないが、あえてユウは柏手の行使を提案してこなかったのだろうとレッドが断言する。


「……本当に死にたがっているのかアイツ?」

『そんな風には見えなかったが……』


 兎角、魔法だけなく鬼術も使えないとなるといよいよ手詰まり感が迫ってくる。


「……普通はスケルトンを、アンデットを倒す方法ってどうするんだ?」

『オイラの時代は浄化魔法で跡形も無く消し飛ばしたりするのが一般的だったな。あとはアンデットとしての依り代である遺体や骨を使いものにならないレベルになるまで破壊する』


 次点で封印魔法を用いてその動きを無理矢理止めたり、それも無理なら四肢を飛ばして行動不能にする。


 後半の方法になればなるほど時間放置による復活の危険があり、単純な武力で殲滅可能なゴブリンよりもアンデットが危険視される所以はそこにあるのだという。


「一体ずつチマチマやるか……?」

『現状やれそうな事だとそれくらいだが、何度も言ってるけどそれだと多分ウィルの体力が保たねえんだよな……』


 しかし、他に思いつく事が無かったのか、仕方なさそうにレッドはウィルに他の部屋からまたバリケードになりそうなものを集めるように指示してくる。


「今からバリケードを強化してもそれこそ時間稼ぎにもならないと思うけど?」

『強化じゃない。新しく作るんよ』


 レッドは廊下の入り口部分、大部屋に面している所に障害物になるものを並べるように言う。


『ガチガチに固めるんじゃなくて、スケルトン達が頑張れば乗り越える事が可能なくらいでいい』

「……あっ。そういうことか」


 そこまで言われてレッドの考えを把握したウィルは、急いで残っていた棚や椅子を掻き集め始める。


 が、多少はあったものの、既にこの建物の入り口にほとんど使っていたので全然足りない。


 仕方なく大部屋の床を金棒で叩き割り、そこから床板を剥がしてバリケードに追加してみるが、文字通り足しにもならない。


 そうこうしている内に、とうとう入り口の扉に致命的な亀裂が走った。


『げっ。ウィル!』

「分かってるっ!」


 次々なだれ込んで来るスケルトンを尻目に、ウィルはバリケードもどきを飛び越えて廊下に駆け込む。


(一か八か!)


 咄嗟にバリケードの真上の天井に金棒を投げつける。


 建物の老朽化が進んでいたお蔭と言えばいいのか、金棒はただ天井に穴を空けるに留まらず、バラバラと大量の木材が落ちてきてバリケードに重なる。


 見た感じ、なんとか障害となりえそうな小山ができあがった。


「よし!」

『いや、よしじゃねえよ!? あっさり武器手放してんじゃねえ!』


 代わりに無手となった事をレッドに怒られる。


 投げた金棒は天井の破片と一緒に落ちてきて小山に突き刺さっている。


 回収しようとした矢先、スケルトンの一体がバリケードを乗り越えて飛び掛かってくる。


(うわっ)


 そのスケルトンは夕方の奴と同じように剣を一振り装備していて、小山の上からウィル目掛けて剣を振りかざして襲ってくる。


 狭い廊下で大きく回避できないので、僅かに体を逸らして避ける。切っ先がウィルの身体を掠めて、ヒヤリとする。


 スケルトンが振り切った隙に、すぐにその手首を掴み無造作に捻り上げると、コキンと音を立てて手首の関節が捻じり取れた。


 そのまま錆びついた剣を奪うと、力任せに足払いをして、倒れこんだところに胴体を思いっきり踏み砕いてやると、動かなくなる。


 剣は、脚を薙いだ際に刃が毀れたようだったのでその場に打ち捨て、急いで金棒を回収する。


「……焦ったぁ」

『お前って普段やたら考え込む癖に、こういう咄嗟の行動に関してはホント後先考えねえよな……』


 何はともあれ、ひとまず形は整った。


 狭い廊下に陣取り、その入り口を狭めて侵入してくるスケルトンの数と速度を制限する。

 周りを囲まれて袋叩きに遭うという可能性を排除し、警戒を正面のみに絞り込む事に成功する。


 これならばスケルトンに遅れを取る事は、少なくともしばらくの間は無いだろう。


『とりあえずこっちでなんとかできないか考えてみるから、ウィルはできるだけ時間を稼いでくれ』

「ごめん。頼む」


 バリケードを乗り越えてくるスケルトン達を見据えて、ウィルは鬼の金棒を構える。


「……やっぱり馬鹿な事してるよなぁ」


 そんな風に自嘲しつつも、ウィルは覚悟を固めてスケルトン達を迎え撃った。


 

やっぱり投げちゃう自分の得物に優しくないウィル。


レッドはこの後の活路が本当に見つからないので、ひとまず時間稼ぎを指示。


比較的大きいとはいえ、一つの建物にどんどんなだれ込んでくるスケルトン達


希望が見当たらない

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