第61話:エルフの国での特訓
エルフの国にようやくついた日の翌朝、ケントの祖父と祖母はケントたちを呼び出した。
「お主の血の問題を解決するのに、うってつけの人物がおる」
祖父が真面目な顔でそう言った。
「その人は、おそらく世界の誰よりも厳しくお主を見るじゃろう」
「?」
ケントが首を傾げた、その時だった。
バンッ!!
勢いよく扉が開かれた。
「あのあんぽんたんの子供が来たって本当かい!?」
ズカズカと入ってきた一人の女性エルフを見て、祖父は呆れたようにため息を吐いたのだった。
「相変わらず騒がしいのう。紹介しよう。名前をライリス・オルフィーナと言う。そしてケント、お前の父親――ハルウィース・ルクシオの許嫁だった者じゃ」
「許嫁……?」
ケントが目を丸くして、ライリスはケントを頭から足先までじろじろと見ていた。
「ふーん、これがあのあんぽんたんの子供かい……期待外れだねぇ」
「え?」
「もっとこう、親に似てまともな子かと思ってたけど小さいし、細いし、生意気な顔してるし教わる気あるのか?」
「は、はい……」
「返事が小さい!」
「はい!」
「…まぁいいよ」
「なんか怖え人だな……」
「別に怖くないよ。当たり前のこと言ってるだけさ」
ライリスはそう言いながら、ケントの目をじっと見つめていた。
「……」
「?」
「……チッ」
するとライリスはおもむろに舌打ちして顔を逸らしたのだった。
「嫌になるくらい似てるね」
そして祖父に向き直ったのだった。
「陛下、この子の血の問題だったね?」
「ああ、うってつけなのはお主しかおらん」 ライリスは腕を組む。
「はぁ……面倒な仕事押し付けてくれるね」
そしてケントを指差した。
「いいかい、坊や。私は甘やかさないよ。泣こうが喚こうが知らない、それでもついてくる気はあるかい?」
「お願いします」
するとライリスは鼻で笑った直後、誰にも聞こえないほど小さく言葉を言った。
「即答かい……やっぱり、そういうところまで似てるんだねぇ」
早速、ケントの血と力の制御を鍛えるための修行が始まった。
訓練場へと向かったケントの前で、ライリスは腕を組んでいた。
「さて、まずは聞こうか、お前が今まで使えた中で、一番威力の高い技はなんだい?」
ケントは少し考えた後、答えた。
「……斬華一閃・次元火雷斬りって言う剣技の技です」
「ほう?」
ライリスの目が鋭くなった。
「なら、早速見せてみな」
しかし、ケントは困ったように首を振った。
「できません」
「は?」
ライリスは信じられないことを聞いたように眉がぴくりと動いたのだった。
「どういうことだ?」
「あの時は……力任せに振っただけなんです。怒りで頭がいっぱいで……気づいたら出ていて、今はどうやって出したのか、自分でもわからないんです」
するとライリスは額に手を当て、大きくため息をついた。
「バカかい、お前は」
「え?」
「力任せに振って成功したとしても、本来の威力のせいぜい半分程度だ。そんなもの、成功したとは言わないんだよ。むしろ失敗だ!技っていうのはね、自分で理解して初めて技になるんだ。偶然出ただけのものを自慢するんじゃないよ」
ケントは思わず俯くのだった。
「すみません……」
「謝る暇があるなら頭を使いな。だが、お前の最強の技がそれってことはわかったなら次だ、その技はどうやって繰り出す?発動の感覚でもいい、それから範囲と威力を全部話しな」
ケントは少し考え込む。
「突然頭の中に技の出し方と名前が浮かんだのであまりはっきりとは分からないのですが、あの時は刀を鞘に収めて腰を低くして……抜刀して放ちました。それで、射程範囲についてですが、……おそらく限界はありません。」
ライリスの眉がぴくりと動いた。
「なんだと?」
「それに一度しか使ってないから威力についても、自分ではよくわからないんです。ただ、あの時の自分はそれでとある男を殺すことしか考えていませんでした」
しばしの沈黙後、やがてライリスは大きくため息を吐いたのだった。
「……なるほどねぇつまり、お前はとんでもない技を使っておきながら、その威力とかも理解してないってことかい」
「はい……」
「やれやれ。本当に、あのあんぽんたんに似てるねぇ」
そう呟くと、ライリスはニヤリと笑った。
「いいさ。だったら、そのわけのわからない技を、出来るようにさせてやる」
「安心しな、死ぬほど鍛えてやるだけだから覚悟しな、ケント」
その笑顔を見た瞬間、ケントは何故か背筋に寒気が走るのを感じたのだった。
そして数日間、ライリスはケントの剣を見続けていた。
型、足運び、魔力の流れなどを一通り見終えた後、ライリスは腕を組んだまま言った。
「ふむ……技術的な問題はないね」
「え?」
ケントは目を丸くするのだった。
「でも、自分は……」
「お前の言う技ができないんだろう?」
ライリスはため息を吐いた。
「そんなことは見ればわかるさ。だが、だからといって全部が駄目なわけじゃない。剣も魔力の扱いも悪くないが、問題はそこじゃない」
ライリスはケントを真っ直ぐ見据えていた。
「問題は、お前自身だ」
「自分……?」
「ああ、何に囚われていて、何を抱えているのかも知らないし知るつもりもない。だがそんな状態のままじゃ、技はもちろん精霊術の習得も一生できないよ」
「え……?」
「精霊ってのは賢いんだ。力や血筋だけで契約してくれるほど甘くない。心を見られるから、どれだけ剣が強く、どれだけ才能があろうと、心が縛られたままじゃ、精霊は応えてくれない」
そう言ってライリスは指を立てて、ケント見ながらさらに続けるのだった。
「エルフにとって精霊は友であり、家族だから精霊と契約できないエルフは、完璧とは言えない。だからまず、お前がやるべきことは剣の修行ではなく自分の心と向き合うことさ」 ライリスは少し呆れたように笑った。「まったく、あのあんぽんたんの息子だっていうのに、似てるところと似てないところがあるねぇ。もっと肩の力を抜きな!そんな顔してたら、精霊どころか友達も寄りつかないよ」
そう言うライリスに、ケントは何も言い返せず、ただ俯くことしかできなかった。
その日の夕方、訓練を終えたケントの姿を見送りながら、隼人とフローラは顔を見合わせた。
「……行くか」
「はい」
二人はライリスの元へ向かって、ライリスは二人を見るなり口を開いた。
「なんだい、こっちに来るってことは、ケントのことかい?」
隼人が何か言おうとした瞬間、ライリスは先に口を開いたのだった。
「言っとくけどね、やめろと言われても止めさせないよ」
「いや、違う違う。そういう話じゃねぇんだ」
「ん?」
ライリスが首を傾げると、フローラが前に出た。
「私たちも特訓してください」
数秒の間、ライリスは黙ったまま二人を見つめていたが、
「あっそ。なら、さっさと準備しな」
「え?」
「聞こえなかったのかい?特訓するんだろう?」
二人は顔を見合わせた後、
「よろしく頼む!」
「お願いします!」
と頭を下げたのだった。
ライリスによる訓練が始まって数日、ケントは一人で剣を振っていた。
汗を流しながら何度も型を繰り返していると、突然周囲に強大な魔力が現れた。「っ!?」
ケントが振り返るとそこには五人の女性が立っていて、全員が人間離れした美しさを持ちながら、それぞれ異なる雰囲気を纏っていた。
隼人とフローラも異変に気付き、訓練を止めて駆け寄ってきた。
「な、なんだ?」
「すごい魔力ですわ……!」
するとライリスが平然と言った。
「ああ、あんたら来たのかい」
「知っているんですか?」
ケントが尋ねるとライリスは頷いた。、「当然さ、この人たちは五大精獣神と言って精霊の頂点に位置する存在だよ」
「五大精獣神……?」
「それとお前の父親、ハルウィースが契約していた精霊たちでもある」
「え?」
ケントは目を見開き、五人の女性たちはそれぞれケントを見つめていた。
最初に前へ出たのは炎の姿と雰囲気を持つ女性だった。
「へぇー!本当にハルウィース様の子供なんだ!」
楽しそうな声であり、その隣では水のような姿と雰囲気を持つ女性も微笑んだ。
「初めまして。ずっと会ってみたかったわ」
さらに雷のスカだと雰囲気を纏った女性も笑っていた。
「思ったより可愛いじゃない!もっと近寄って見てもいい?」
三人とも親しげだった一方で、風の姿と雰囲気があった女性は水の女性の後ろへ隠れていた。
「えっと……は、初めまして……」
小さな声で挨拶して、隠れるように再び後ろへ下がったのだった。
最後の一人である、土を連想させる姿を持つ女性だけは腕を組み、無言でケントを見ていた。
「……」
「えっと」
ケントが困ったように声をかけたが、返事はなく土の女性は短く鼻を鳴らしたのだった。
「ふん」
それだけだったので、火の女性が呆れたように言った。
「もう、相変わらずね。少しは愛想よくしなさいよ」
「別に」
土の女性は興味なさそうに答える。
「まだ認めたわけじゃない」
その言葉に場が静まえり、ライリスは呆れながら、
「やれやれ、賑やかになりそうだねぇ」
と言いながら、ケントの反応を眺めていたのだった。
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