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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第3章:国外逃亡編

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第59話:契約と名付け

 騎士団長は歯を食いしばった。

 目の前の斬撃を受ければ死ぬという、事実を認めることは、己の誇りを砕くことと同じだった。

「……撤退だ」

「だ、団長!?」

 その言葉に男が目を見開いた。

「逃げるぞ」

 その声は、怒りと屈辱で震えていたのだった。

 そうして二人はその場から姿を消した。

 それを見たケントも宿へ戻り、隼人たちと合流すると、そのまま床へ倒れ込んだ。

「ケント!?」

「大丈夫ですの!?」

 フローラが慌てて駆け寄ったが、隼人は安堵したように息を吐いた。

「寝てるだけだな……疲れたんだろ」

 フローラは胸を撫で下ろし、四匹の子供たちも不安そうに寄り添った。

 そして、誰も知らない場所で

 ドゴォン!!

 騎士団長は、石壁を殴りつけていた。

「ふざけるな……!ふざけるなぁぁぁ!!」

 騎士団長は血が流れるほど拳を強く握り締めていた。

「あのガキは……!あの忌々しい断罪の剣聖と同じだとでもいうのか!?そんなはずがあるか!!」

 その怒声に、近くにいた男が恐る恐る口を開く。

「だ、団長。落ち着いて――」

「黙れ!貴様もアステリア王国宮廷魔導師筆頭なら、あの場を何とかしてみせろ!だからいつまで経っても悠久の魔帝を越えられないんだ!」

 その言葉に、男の顔が怒りで歪む。

「何ですと?世間が認めないだけで私はすでに悠久の魔帝を越えている!ただ愚民共が理解できずに私を認めない世間の方が愚かなのですよ!」

 互いに睨み合う二人だが、その胸の奥にある感情は同じだった。

 断罪の剣聖や悠久の魔帝といった、自分たちの上にいる存在。

 その二人を思い出させた、雪月ケント。

「あの小僧……」

「必ず……」

「必ず潰してやる……!」

 二人は、自らのコンプレックスを刺激した少年へ、剥き出しの敵意を向けていたのだった。

 しばらく眠っていたケントは、ゆっくりと目を開いた。

「……」

 最初に思い出したのは、あの地下空間での出来事であり、ハッとしたように起き上がった。

「リリィさんは!?」

 隼人とフローラ、そして四匹の子供たちの表情が曇り長い沈黙の後、隼人が静かに答えた。

「……宿に転移した時には、もう完全に息をしてなかった」

「……そう」

 ケントは俯いたかと思うと、静かにベッドから立ち上がると、横たえられていたリリィの元へ歩いていった。

「……」

 ケントは何も言わず、そっとリリィを横抱きにして抱え込んだ。

「ケント?」

 フローラが不安そうに声をかけるとケントは、静かな声で言った。

「……自分たちが無理に巻き込んだせいで、こうなったんだからせめて、弔わないと」

「ああ」

「もちろんですわ」

 隼人は頷き、フローラと四匹の子供たちは目に涙を浮かべながら言った。

「ぼくたちも……」

「お別れしたい」

「お姉ちゃん……僕たちのために怒っていた」

「とても優しかったから……」

 誰一人、反対する者はいなかった。

 一行は転移魔法で城壁の外へ出て、人の来ない場所を探し、静かな丘の上へ辿り着いた。

 夕日が空を赤く染める中、二つの墓が作られていた。

 一つにはリリィ、もう一つには偉大で聖なる獣と刻まれていた。

「名前を知らなかったから……」

 ケントが墓石を見つめながら呟く。

「でも、あの人は間違いなく偉大だったから、これでいいと思う」

 誰も異論は言わず、フローラは花を供えて隼人は静かに手を合わせたのだった。

 四匹の子供たちは、墓石に寄り添いながら涙を流していた。

「お父さん……」

「お姉ちゃん……」

「ありがとう……」

「……ありがとう」

 そしてケントも、しばらく黙ったまま墓の前に立ち続けた。

 夕陽に照らされる二つの墓の前で、五人と四匹は静かに祈りを捧げるのだった。

 リリィと神獣の墓を後にした五人と四匹は、ケントの目的地へ向けて歩き始めていたが、誰一人として口を開かなかった。

 重苦しい空気だけが流れ続けていたが、そんな沈黙を破ったのは、隼人だった。

「なあ、ケント。この四匹、契約しないのか?」

「契約?契約って何?」

「知らねえのか?」

 隼人は少し驚いた顔をする。

「契約にも色々あるんだよ。まず、奴隷契約」

 その言葉に、四匹は少し身を縮めた。

「相手を奴隷として縛る最低最悪の契約だ。俺は嫌いだな。次に主従契約、これは魔物や召喚獣なんかと結ぶことが多い。主人と従者って関係になる」

 ケントは静かに頷く。

「そして最後が――魂縁契約」

 隼人の声が少し柔らかくなった。

「それは養子にして家族として扱う契約で、上下関係はなくて親子や兄弟みたいに、お互いを大切な存在として認識する」

「そういう契約なんだ」

 それを聞いたケントは、迷うことなく答えたのだった。

「じゃあ、それにする」

「え?そんな簡単に決めていいのか?」

「うん」

 ケントは四匹を見る。

「だって、もう一人にするつもりないし、家族になるんだったら、それが一番でしょ?」

 ケントの言葉に四匹は歩みを止めた。

「……家族?」

「ぼくたちが?」

「本当に?」

「迷惑じゃないの?」

 ケントは微笑みながら首を横に振った。「何回も言うけど、迷惑とか考えなくていいし、嫌じゃないなら一緒に来て」

 その言葉に、四匹は再び涙を浮かべるのだった。

「うん!」

「行く!」

「家族になる!」

「ずっと一緒!」

 しばらく歩いた後、ケントは立ち止まった。

「それじゃあ、早速契約しよう」

 四匹は緊張したように頷いた。

「うん!」

「お願いします!」

「家族になりたい!」

「よろしく!」

 ケントは静かに目を閉じると、ケントと四匹の足元に淡い光を放つ魔法陣が展開される。

 優しい光が周囲を包み込み、ケントはゆっくりと口を開く。

「我は汝らと繋がることを望む。我が名は雪月ケント。我が名において、汝らにこれを望む」

 すると四匹も真剣な顔で答えた。

「了承します!」

「受け入れます!」

「よろしくお願いします!」

「これから家族です!」

 次の瞬間、魔法陣が強く輝き、契約は無事に成立したのだった。

「そういえば、名前がないと不便だよね」

 すると虎の子供の一匹が首を傾げる。

「名前?」

「うん」

 ケントは三色の毛並みを持つ虎を見て、小さく笑った。

「君は三毛猫みたいに三色あるから……ミケ」

「ミケ!」

 三色の虎は嬉しそうに尻尾を振った。

「ミケ! 気に入った!」

 そして、もう一匹の虎を見るとその虎は綺麗な琥珀色の瞳を持っていた。

「君は……琥珀色の目だからそのまま《琥珀》かな」

「琥珀!わぁ!」

 虎の子は嬉しそうに飛び跳ねていた。

 続いて鳥の一匹を見た瞬間、

「くしゅん!」

 ドォン!!

 小さな爆発が起きた。

「うわっ!?」

「危なっ!」

 隼人とフローラが慌てて身を引いて、ケントは目を丸くした。

「……爆発?」

「うん。僕、くしゃみすると出ちゃうんだ」 それを聞いたケントは少し考え込む。

「爆発……そういえば元いた世界にニトログリセリンっていう――」

「ニトログリセリン?」

 隼人が聞きなれない言葉に首を傾げた。

「何だそれ?」

「えっと……よく分からないけど危ないものだった気がする」

 しばらく悩んだ後。

「じゃあ、ヒトロ」

「ヒトロ?」

「うん!」

「ヒトロ!」

 鳥は満足そうに羽を広げていた。

 最後の一匹の綺麗な翠玉色の瞳を持つ鳥を見て、ケントは再び考え込む。

「翠玉……翠……」

「……スリナ?」

「スリナ!」

 鳥は喜んでいたが、

「いやいやいや!どっから出てきたんだよ、その名前!」

 フローラも苦笑いを浮かべていた。

「ミケさんと琥珀さんは分かりますけど……」

「スリナさんは結構無理やりではありません?」

「え?そうかな?」

「結構いいと思うけど」

「いや絶対適当だろ!」

 隼人のツッコミに、思わずフローラも吹き出したのだった。

 その日の夜、一行は街道から少し離れた場所にテントを張り、休むことにした。

 隼人とフローラ、そしてミケたち四匹も、すでに寝息を立てていたが、

「……」

 ケントだけは眠らずに、焚き火の前に座り、静かに周囲を見渡していた。

 国を出てから、ずっと感じていた誰かの視線。

 どこから見られているのかは分からないが、確かに感じていたのだった。

「気のせい……じゃない」

 しかし、その夜は何も起こらず、結局ケントはほとんど眠れないまま朝を迎えた。

「おはようございます!」

 朝になり、フローラは元気よく挨拶して隼人はまだ眠そうに目を擦り、ミケたちも次々と目を覚ました。

「ふぁ~……」

「おはよー」

「ねむい……」

「お腹すいた」

 その言葉に、フローラはふと思い出したようにミケたちに尋ねるのだった。

「そういえば、ミケちゃんたちは何を食べるのが好きなんですか?」

 するとミケが尻尾を揺らしながら答えた。

「魔力!」

「魔力が好き!」

 ミケの返事に琥珀も頷いた。

「お肉も食べられるけど、一番好きなのは魔力だよ!」

 ヒトロは翼をパタパタさせる。

「甘い魔力!」

 スリナも嬉しそうに言った。

「優しい魔力!」

「魔力……?」

 フローラは驚いたように目を瞬かせる。「そんなものを食べるんですの?」

「あの大きな獣の子供だからかな?なら、」 するとケントは右手を差し出したあと、淡い光と共に、柔らかな魔力が溢れ出した。「わぁ!」

「ご飯だ!」

「やったー!」

「いただきます!」

 四匹は嬉しそうにケントの周りに集まり、夢中になって魔力を食べ始め、その姿はまるで子猫や雛鳥のようだった。

「かわいい……」

 フローラは思わず頬を緩めて、隼人も苦笑したのだった。

「なんかペットみたいだな」

「ペットじゃなくて、家族だよ」

 ケントの言葉に、四匹は顔を上げる。

「うん!」

「家族!」

「ケント!」

「大好き!」

 四匹が一斉に飛びつき、ケントは少し困ったように笑った。

 そんな穏やかな光景を見ながら、フローラは微笑んだのだった。

どうでしたか?もしよければ評価とブックマークをしてくれると執筆の励みになります。

また、気になる点やわからないところなどの質問やこうした方がいいなどのアドバイスがあれば感想などで伝えて欲しいです。

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