第56話:圧倒的な大きさ
隼人の言葉を聞いたケントは、しばらく黙り込んでいた。
四匹の小さな獣たちは、不安そうにケントの返事を待っていた。
やがて、ケントは小さく息を吐いた。
「……隼人くんがそう言うなら、分かった」
「お、決まりだな!」
「ただし」
隼人に指を刺した後、ケントは四匹へ向き直った。
「今日はもう遅い。俺たちも寝ないといけないし、勝手に決めるわけにもいかないから」
「明日、フローラさんたちにも説明するから今日はもう寝な」
そう言うと、ケントは自身が寝ていたベッドの上を指差した。
「寒いだろうし、そこで寝ていいから」
「ほんと!?」
「ありがとう!」
「嬉しい!」
「ありがとうございます!」
そう言って四匹は嬉しそうに鳴きながら、ベッドの隅で寄り添うように丸くなったのだった。
「……なんか猫みてぇだな」
隼人は苦笑しながら再び布団に潜った。
「おやすみ」
ケントもそう呟くと、再び眠りについたのだった。
そして翌朝。
「え?」
「……人の言葉を話す獣の子供たち?」
朝食を終えた後、ケントと隼人はフローラを部屋へ呼び、昨夜の出来事を説明していた。
その近くで四匹の小さな獣たちも、緊張した様子でフローラを見上げていた。
「なるほど……」
フローラは四匹を見つめると、優しく微笑み、
「事情は分かりました。私はこの子達の親を助けることに賛成です」
その言葉を聞いた瞬間、四匹の顔はぱっと明るくなった。
「本当ですか!?」
「ありがとうございます!」
「それに」
フローラはケントをからかう様に見て、
「困っている子供を放っておけるほど、私たちは冷たくありませんもの」
と言った。
「……うん」
そんな話し合いをしているところへ、部屋の扉が開いてリリィが入ってきたのだった。
「おはよー……って、何してるの?」
「ちょうどいいですね」
「え?」
フローラはリリィにケントから聞いた昨夜の出来事を説明していった。
「へぇー!」
話を聞き終えたリリィは、四匹を見て目を輝かせた。
「君たちめっちゃ可愛いね!……え、待って、ごめん。今理解したんだけどこの子達人のこばを話すの!?しかも親が病気!?うわぁ……大変じゃん!」
するとケントが静かに口を開き、
「リリィさん」
「ん?」
「この話を聞いた以上、あなたも強制参加です」
「え?…いやいやいや! なんで!?」
「勝手に入ってきて秘密を聞いたからです」「うっ、でもそれはフローラちゃんが話してけれたから」
「そもそも、フローラさんについてこなければここにはいなかったはずですよ?」
「うっ」
「つまり、リリィさんはもう俺たちの共犯です」
「共犯って何よ!?」
「ははは! 残念ですねリリィさん!」
「隼人君!笑い事じゃないんだけど!?」
フローラも口元を隠しながらくすりと笑っていた。
「ふふっ、諦めてください」
四匹も嬉しそうに鳴く。
「よろしく!」
「よろしくお願いします!」
「「お願いします!」」
こうして、リリィも半ば強制的に巻き込まれる形で、四匹の獣の子供たちの願いを叶えるため、一行は動き出すことになったのだった。
四匹の獣の子供たちを交えて朝の話し合いを終えると、ケントは早速本題に入った。「それで、親がいる場所は?」
すると、四匹は申し訳なさそうに顔を見合わせて、耳や羽を垂らしながら、
「えっと……」
「それが……」
「よく分からないの……」
「急いでここまで来たから……」
と言った。
「……分からない?」
「うん……」
「お母さんが危ないって分かって、すぐに飛び出したから……」
「道なんて覚えてないの……」
「ごめんなさい……」
「いやいや、謝らなくていいって」
「だけど、それじゃ探しようがねぇなぁ……」
しかし、ケントは少し考え込んだ後、4匹に別の質問をした。
「じゃあ、どこからここまで来たかは?来た道とか、目印とか何か覚えてない?」
すると、一匹の鳥が思い出したように羽をばたつかせた。
「あっ!ぼくたちね、橋の下から出てきたの!」
「そうそう!」
「そこから外に出たら、急に街だった!」
「だから、よく分からないの!」
四匹の説明を聞いたリリィが、ピクリと反応した。
「橋の下?」
「うん!」
「大きな橋!」
「暗かった!」
「水の音も聞こえてた!」
それを聞いたリリィは顎に手を当て少し考えていた。
「……もしかして、フリック橋のこと?」
「フリック橋?」
聞き慣れない場所にフローラが首を傾げた。
「うん。この街の少し外れにある大きな橋で、昔からある橋なんだけど、下に入れる場所もあったはず」
「そこかも!」
「そう!大きかった!」
「お水もあった!」
場所を聞いた四匹は一斉に頷いたのだった。
「よし、行ってみるか。手掛かりはそれしかねぇしな」
「うん。まずは確認をしないと。」
そして四人と四匹は宿を出て、ハラリア国の街を抜け、リリィの案内でフリック橋へと向かった。
「ここだよ」
リリィが指差したところに4匹は同時に声を上げたのだった。
「「「「ここ!」」」」
「ぼくたち!」
「ここから出てきた!」
「間違いないよ!」
「絶対ここ!」
そう言って、橋の下へ続く薄暗い場所を指差していたが、その先はただの橋の下には見えなかった。
まるで奥へ続く洞窟のような、人工的な通路のようなものが、暗闇の中へと伸びていたのだった……。
ケントたちは四匹の案内で橋の下の奥へと進んでいった。
最初はただのレンガ造りの通路だったが、奥へ進むにつれてその様子は徐々に変わっていった。
「……なんだこれ。いつの間にか壁や床がレンガじゃなくなってる」
隼人の言う通り、壁と床はいつの間にか白く滑らかな石材へと変わっていて、綺麗に整備されていて、明らかに自然にできた洞窟ではなかった。
「明らかに人工物……ですわね」
フローラも警戒したように周囲を見渡していた。
「橋の下に、こんな場所が……?」
リリィも驚きを隠せていなかったが、四匹はそんなことなど気にする様子もなく、先頭を駆けていった。
「もうすぐ!」
「こっちだよ!」
「光が見えてきた!」
「お父さん!」
そして、暗い通路の先にぼんやりとした光が見え始めた。
「本当だ」
ケントが目を細めた、次の瞬間――
「お母さん!」
「お父さん!」
「もうすぐだから待ってて!」
「今行くよ!」
四匹は嬉しそうに一斉に飛び出そうとしたが、
「おっと」
「危ねぇ」
ケントと隼人がほぼ同時に動いて、
ガシッ!
「「え?」」
子虎の二匹はケントに、鳥の二匹は隼人に首根っこを掴まれ、その場で宙ぶらりんになった。
「にゃっ!?」
「ふぇっ!?」
「ぴっ!?」
「なんで!?」
「静かに」
ケントの声は低かった。
「……」
四匹を抱えたまま、ケントは小さくため息を吐いた。
「……あんな風に飛び出して、何かあったらどうするの」
「ご、ごめんなさい……」
「お母さんたちを救えると思って……」
「嬉しくて……」
「早く会いたくて……」
四匹はしょんぼりと耳や羽を下げたが、それを見たケントは優しく頭を撫でながら言った。
「怒ってるわけじゃない。でも、気をつけてほしい。もし何かあったら、会えるものも会えなくなるから」
「……うん」
「ごめんなさい」
四匹が頷くのを確認すると、ケントは隼人たちへ視線を送る。
「行こう」
そして一行は、物陰に身を隠しながらゆっくりと顔を覗かせて、その先に広がっていた光景に、全員が息を呑んだ。
「……なんだ、これ」
そこは巨大な円柱状の空間で壁はどこまでも滑らかで、白く磨かれた石材でできてた。
対岸までを直線で結ぶなら、優に五百メートルはあって、その壁は遥か下方まで続いていた。
「地下……なのですわよね……?」
フローラは信じられないものを見るように呟いた。
「こんなの、王都の城より大きいんじゃ……」
リリィも青ざめた顔で周囲を見渡した。
そして、その巨大な円柱の底に何かがいた。それは遥か遠くにあるはずなのに、誰の目にもその存在の大きさがはっきりと分かるものがいた。
「……え」
その獣の全身は輝くような真っ白の硬い鱗に覆われており、地下空間の光を反射して神々しい輝きを放っていた。
頭部からは王冠を思わせるように、何本もの長く鋭い角が後方へと伸びていて、背中には天使の翼を連想させるほど大きな翼があり、その巨体を支える四本の足には、鋭い爪を持つ頑丈な手足が備わっていた。
だが、最も印象的だったのは顔だった。
顔立ちは狼に似ていたが、獲物を狩る獣のような鋭さや凶暴さはなく、その瞳も表情も穏やかで優しい顔だった。
その神々しくも優しい姿に、ケントたち四人は思わず息を呑んだ。
「……綺麗……」
「なんだよ、あれ……」
フローラは呆然と言葉を呟くだけで、隼人も目を見開いていた。
「何あれ?神話の生き物って存在してたの……?」
リリィは震える声を漏らし、ケントもまた、初めて見る存在に言葉を失っていた。
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