第52話:ギルドに帰還
ゴブリンキングの討伐を終えたケントたちは、周囲の警戒を続けながら後処理に取りかかっていた。
「まずは討伐証明だね」
「そうだな」
「急ぎましょう」
三人は倒したゴブリンやゴブリンキングから討伐証明となる耳と魔石を回収していったが、その最中洞窟のさらに奥から慌ただしい足音が響いていた。
「ギギッ!」
「ギャッ!」
「……逃げる気か」
どうやら生き残っていたゴブリンたちは、外へ脱出しようとしているようだったが、ケントはすぐに洞窟の入り口へ向かい、壁に手をついた。
「錬金術――土壁。」
岩壁がせり上がり、洞窟の出口を塞ぎ、逃げ遅れた入り口付近のゴブリンたちは、隼人とフローラによって討伐された。
「これで外には出られませんね」
「でも、中にはまだいるんだろ?」
「……うん。ゴブリンは繁殖力が異常だから一匹でも逃がせば、また被害が出る可能性があるから」
「巣ごと処理する必要がありますのね」
「そういうこと」
三人は洞窟の外へ出た。
(火系統中級攻撃魔術・トルネードフレイム)
放たれた炎は渦のように回転しながら洞窟の奥へと吸い込まれていった。
しばらくして、洞窟内から慌ただしい物音が響き、その音も少しずつ静まっていった。
最後にケントは再び入り口を封じたのだった。
「これで終わり」
「冒険者って、大変なんだな……。特に後始末が本当に疲れた」
「でも、やらなければいけないことですから」
三人は討伐証明の入った袋を持ち直し、ギルドへ戻るために歩き出したのだった。
ギルドに戻った後、討伐章目を受付に提出したケントたちだったが、ゴブリンキングの耳と魔石を見た瞬間、受付の人は目を見開いた。
「……え?」
信じられないものを見るように、耳と魔石を何度も確認していた。
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
慌てて奥へ引っ込んだかと思えば、数分後には息を整えながら戻ってきた。
「申し訳ありませんでした!今回の依頼は本来、皆さんの受けられる依頼ではありませんでした。こちらの確認不足によって危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ございません」
「まあ、無事だったしな」
「依頼も達成しましたし」
「だから、気にしないでください」
「……そう言っていただけると助かります」 三人のそれぞれの言葉を聞いて受付の人は安堵した顔になった。
「今回の件は必ず上へ報告させていただきます」
「上って、ギルド長ってやつにか」
「はい」
そう言いながら受付の人は三人に冷たい飲み物を差し出した。
「どうぞ。お疲れでしょうから」
「ありがとうございます」
フローラが礼を言い、三人は席へ腰掛けた。
「ギルドは各国に存在しています。そして、それぞれのギルドをまとめる責任者を『支部長』と呼び、その全ての支部を統括する存在が『ギルド長』です」
「へぇ……」
「支部長はあまり話題になることはありませんが……」
受付の人は少し懐かしそうな顔をしながら話を続けていた。
「二年前、アステリア王国で最年少、しかも女性の方が支部長になったことは、かなり話題になりました」
「へぇ~」
隼人は感心したように声を上げるだけだったが、フローラは興味深そうに身を乗り出していた。
「その方のお名前は?」
ケントも飲み物を手に取りながら耳を傾けいたが次の瞬間、
「エミルさんです」
「――ぶっ!?」
その名前を聞いた瞬間、ケントはむせて、飲みかけていた飲み物をこぼしてしまった。
「ごほっ! ごほっ!」
「ケント!?」
「大丈夫ですの!?」
「だ、大丈夫……。すみませんこぼしてしまって」
「いいえ、気にしないでください。それよりも大丈夫ですか?」
「はい大丈夫です」
そう言いながらも、ケントの顔には隠しきれない驚きが浮かんでいた。
(エミルさんが……支部長!?)
「話を続けますとエミルさんが支部長についた後、特別に補佐というのが作られてそれにアンナさんという先輩冒険者の方がついているそうですよ」
「……。アンナさんまで……?」
「知ってる人なのか?」
「う、うん……。昔、ちょっとお世話になった人たちなんだ」
「ちょっと、で済む顔じゃありませんでしたよ?」
「そうそう。今のお前、ゴブリンキング見た時より驚いてたぞ」
「いや……だって」
ケントは困ったように頬を少し掻いていた。
「知り合いが偉くなってるなんて、普通思わないでしょ。しかも、2年も経っていたなら俺は知っててもおかしくないのに」
「確かにな」
「それはそうですわね」
しばらくすると、受付の人とは別に一人の男性職員が三人のもとへやって来た。
「失礼します」
落ち着いた声と共に、男性は三人に深く頭を下げた。
「今回、ゴブリンの調査依頼を受理した担当者です。この度は、ギルドの確認不足により皆様を危険な状況へ巻き込んでしまい、誠に申し訳ございませんでした」
そういうと、男性は再び頭を下げたのだった。
「本来であれば、あの依頼は皆様が受けるべき内容ではありませんでした」
「いや、まあ……」
隼人は困ったように頬を掻いた。
「俺たちは自分たちの意思で受けようとしたし、結果的に何とかなったからな」
「ですが、それとこれとは別です」
男性は真剣な表情のまま、小袋を三つ机の上へ置いた瞬間、
ジャラリ
金属製の重たい音がきこえた。
「今回の依頼に対する正式な報酬と、ギルド側の不手際による補償を合わせた金額になります。金額は――」
男性は三人にゆっくりと告げた。
「金貨八枚、大金貨四枚です」
「「「…………え?」」」
金額を聞いた瞬間、三人の声は綺麗に重なったのだ。
「き、金貨八枚……?」
「大金貨四枚って……」
フローラは思わず目を瞬かせていて、隼人は信じられないものを見るように袋と職員の顔を交互に見ていた。
「いや、ちょっと待て。これ、俺たち聞き間違えてねぇよな?」
「たぶん聞き間違えてないと思う……」
ケントも珍しく戸惑っていた。
「本来、あの洞窟にはゴブリンキングがいる可能性があったので入り口の調査依頼であったとしてもDランク以上の冒険者が受注できるものでしたが、私たちのミスで受理されてしまいました」
男性は三度、三人に頭を下げたのだった。
「しかし、あなた方はゴブリンキングを見事に倒しました。さらに巣の殲滅によって、今後発生し得た被害も未然に防いでいただきました。加えて、今回はこちらの確認不足もありましたので、この金額とさせていただきました」
三人はいまだに信じられない様子で顔を見合わせていた。
「……受け取ってもいいんですか?」
「もちろんです。これは皆様が命懸けで成し遂げた正当な報酬ですので」
男性がそう言って微笑んでから、しばらく沈黙の時間が流れた後、
「……じゃあ、ありがたく受け取ります」
そう言ってケントが代表して答えた。
「ありがとうございます」
男性は安堵したように頭を下げた。
「改めまして、この度は申し訳ありませんでした。そして、本当にありがとうございました」
袋の重みを感じながら、隼人はぽつりと呟いた。
「……しばらく食費に困ることはなさそうだな」
「その発想なんですのね……」
「でも、少し安心したかな」
そう言いながら、ケントは小さく笑った。
話がひと段落したところで、先ほどの男性職員が再び口を開いた。
「……実は、今回の件についてもう一つ提案があります」
「提案?」
「はい。本来であればあり得ないことなのですが……」
男性は一度言葉を区切り三人を見渡した。
「今回の功績を特例として、一名のみ昇格試験を受ける権利を与えたいと考えております」
「昇格試験?つまり、ランクを上げられるってことか?」
「はい。本来は依頼達成回数やレベルなど、段階を踏んで昇格していただきます。しかし、特別な功績を挙げた冒険者には例外措置が取られることがあります」
「へぇ……」
フローラは感心したように呟いていた。
「ですが、受けられるのはお一人だけです」
そう言われた瞬間隼人とフローラはほぼ同時に、
「ケント」
「ケントですわね」
「え?」
2人の言葉にケントは目を丸くしたのだった。
「ちょ、ちょっと待って。なんで!?」
「逆になんでだよ」
「お前、ステータスだけ見たらどう考えても俺たちと次元違うだろ」
「そうですわ。実戦経験の不足はありますけれど、それを考慮してもパラメータはAランク冒険者相当です」
そういうフローラと隼人の目は真剣だった。
「今回のゴブリンキング戦でも、わたくしたちが生き残れたのはケントさんの判断があったからです」
「いや、でも……」
ケントは困ったように視線を逸らした。
「俺、まだ経験浅いし」
「だから試験なんだろ?実力が足りなかったら落ちる。逆に受かるなら、それが今のお前の実力ってことだ」
「わたくしも同意見です」
そう言うとフローラは微笑んだ。
「受ける価値はあると思います」
二人の真っ直ぐな視線を受けて、ケントはしばらく黙り込んだが、やがて
「……分かった」
と小さく息を吐きながら頷いたのだった。「せっかくの機会だし、受けてみる」
「よし!」
「決まりですわね」
二人は嬉しそうに笑い、それを見た職員も安堵したように頷いた。
「では、準備を進めさせていただきます。特例昇格試験――受験者はケント様ということでよろしいですね?」
「はい。お願いします」
男性はどこかに行って戻ってくると資料を机の上に置いた。
「特例昇格試験の内容ですが、現在発生している問題を利用したものになります」
「問題?」
「はい。西の森にある渓谷。その周辺に、本来では考えられない数のワイバーンが出現しています」
「ワイバーン?確か、飛竜の一種だったか?」
「ええ」
フローラが隼人の質問に頷いたのだった。
「成体一体でもBランク冒険者相当の危険度を持つ魔物です」
「その通りです」
男性はケントにさらに説明を続けた。
「原因は不明ですが、西の渓谷に大量発生したワイバーンの影響で、その手前の森にも複数の個体が棲みついてしまいました。一体だけならBランク相当。しかし群れとなればAランク冒険者でも油断できません」
その話を聞いていた隼人は思わず顔を引きつらせた。
「いや、それ昇格試験ってレベルか?」
「だからこその特例です」
職員は真剣な表情で答えた。
「試験内容はシンプルです。ワイバーンの群れの中から、一体以上を討伐し、討伐証明となる素材を持ち帰ることです。ただし、試験官による戦闘への介入はありませんので全て自己判断となります」
男性がそこまで説明するとギルド内には静寂が流れた。
「……」
ケントは資料へ視線を落として考えていた。
「辞退することも可能です。命を懸ける必要はありません。」
「……」
しばらく考えた後、ケントは顔を上げて一言言った。
「受けます。」
「ケント!」
「大丈夫なのかよ?!」
隼人とフローラが同時に声を上げる。
「確かに危険だと思う。」
「でも、今の俺たちは少しでも力をつけておかないといけない。なら、この機会は逃したくない。」
そう言ってケントはまっすぐ職員を見た。
「だから、この試験を受けます。」
その瞳には迷いはなかったのだった。
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