第50話:ゴブリンの調査依頼
依頼を受注した三人は、そのまま街の外へ行って、そのまま目的地の森へと向かった。
「薬草の見本は見せてもらったし、間違えないようにしないとな」
「スライムもそこまで強くはないと聞きましたわ」
「ゴブリンとホーンラビットなら、そんなに時間はかからないと思う」
三人は森の入口へ到着すると、それぞれの依頼内容を確認した。
「じゃあ、終わったら入口で集合ってことでいいか?」
「ええ」
「うん。気を付けて」
それぞれ別方向へと歩き出してから数時間後、三人は森の入口へと戻ってきた。
「お、二人とも終わったか」
「ええ。薬草もちゃんと採取できました。そちらは?」
「こっちも問題なかったぞ」
「こっちも終わったよ」
「それじゃあ、ギルドに戻ろうか」
三人は街へ戻り、冒険者ギルドの受付へ向かった。
依頼達成の報告を済ませ、受付嬢が素材や証明品を確認しだした。
「確認いたしました。依頼達成です」
そう言って受付嬢は報酬を手渡したのだった。全員の依頼報酬を合計すると大銀貨四十枚程度だった。
「おぉ!」
隼人は目を輝かせた。
「大銀貨40枚か! 初めての依頼にしては結構すごくね?」
「確かにいいですね」
だが、隣にいたフローラは難しい顔をしていた。
「……いえ、あまり余裕はありませんわ」
「え?何でだ?」
「三人分の朝昼晩の食事代に宿代。それに今後の馬車代や日用品代、急な出費も考えれば、実際に残るのは大銀貨十枚ちょっと程度ですわ」
「……あ」
「今はまだ最初の国だからいいですけれど、今後も国を跨ぐことを考えると、もっと稼ぐ必要があります。特に今は自分たちで生きていかなければなりませんから」
「なるほどな……」
「確かに、そう考えるとあんまり余裕ねぇな」
「だから、もう少し効率よく稼げる依頼を受けた方がいいかもしれませんわ」
話を聞いていた、ケントは依頼掲示板へ視線を向けた。
「だったら……この依頼はどう?」
「どれどれ?」
隼人とフローラは覗き込み、その内容へ目を通した。
『ゴブリンが住み着いている洞窟の入口付近の調査
内容:洞窟周辺の状況確認及び、内部へ続く入口付近の安全確認
報酬:最低大銀貨三十枚』
「最低……大銀貨三十枚?」
「最低ってことは、状況次第ではさらに増えるってことか?」
「多分ね」
ケントは依頼書を見つめながら答えた。
「調査依頼だから、もし想定以上の危険があれば追加報酬もあると思う」
「でも、その分危険ってことですわよね」「ゴブリンの洞窟、か。正直、ちょっとワクワクするな」
「隼人……」
フローラは隼人に呆れたようにため息を吐いた。
「とはいえ、この報酬は魅力的ですわ」
「まだ昼前だし、時間的にも余裕はあると思う。どうする?」
「行こうぜ」
「……そうですわね。いくら危険が伴ったとしてもこの依頼とても魅力的です。受けましょう」
「決まりだね」
ケントは依頼書を手に受付へ向かった。
依頼を受理した三人は、受付嬢から洞窟までの道を記した地図を受け取った。
「気を付けてください。この依頼はあくまで調査依頼です。無理だと判断した場合は、すぐに引き返してください」
「分かりました」
「おう」
「ありがとうございます」
三人はそれぞれ返事をすると、再び街を出て森へと続く道を進み、歩いていった。
「最低報酬が大銀貨三十枚って、やっぱり高いよな」
隼人が歩きながら呟いた。
「それだけ危険性も考慮されているのでしょう。ゴブリンの巣なら、数が多い可能性もありますし」
「だからこそ調査なんだと思う。討伐依頼じゃなくて、入口付近の確認だけだからね」「まぁ、危なそうなら帰ればいいか」
「ええ」
そんな会話をしながら歩くことしばらくして、三人は目的地へと辿り着いた。
木々に囲まれた岩場の一角に、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。
「……あれか」
洞窟の入口は人が数人並んで通れるほどの広さがあり、その周囲には簡易的な見張り台のような木材の残骸も見えた。
「ゴブリンの住処にしては、少し大きい気がしますわね」
「そうだね」
ケントは洞窟の入口付近に目を向けると、すぐ近くには三匹のゴブリンがいた。
「あそこ」
「ん?」
「ゴブリンだ」
粗末な棍棒を持ち、周囲を警戒するように歩き回っていた。
「三匹だけか、思ったより少ないな」
「ですが……」
フローラは依頼書の内容を思い返していた。
「入口の調査、とだけ書かれていましたわよね」
「うん」
「ということは、入口だけ確認して終わりではなく、中の様子もある程度は見た方がいいんじゃないか?」
「私もそう思います。入口の外だけ見て『異常なし』と報告して、実際には中に大量のゴブリンがいたら大問題ですから」
「確かにな、だったら、まずはあいつらを片付けるか」
「できるだけ静かにいこう」
「ええ」
三人は互いに視線を交わしていつでも突撃できるように準備をした。
「じゃあ、入り口のゴブリンを倒して、中を確認しよう」
「おう」
「分かりましたわ」
次の瞬間には、隼人が地面を蹴って鋭い踏み込みと共に剣が抜かれて、見張りをしていた一匹目のゴブリンの首元を斬り裂いた。
「ギッ――!?」
声を上げる間もなく、ゴブリンは地面へ倒れて、ほぼ同時にフローラが魔術を発動した。
「水系統初級攻撃魔術・アクアショット」
水の塊が放たれ、二匹目のゴブリンの額へ直撃した。
「ギャッ!」
ゴブリンはそのまま後方へ吹き飛び、首が異様に曲がり動かなくなった。
そしてケントは最後のゴブリンに向かって刀で切りつけた。抜き放たれた刀が銀色の軌跡を描き、放たれた斬撃がゴブリンの胴を切り裂いた。
「ギィッ……」
「終わったな」
「入口は制圧できましたわ」
「じゃあ、中も確認しよう」
三人は警戒を強めながら洞窟の中へ足を踏み入れた。
洞窟内は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていて、ところどころに粗雑な松明が設置されていた。
「……思ったより奥が深そうだな」
三人が歩みを進めると、入口からそれほど離れていない場所で数匹のゴブリンがこちらへ気付いた。
「ギギッ!」
「またゴブリンか!」
隼人は飛び出して、剣を振るい斬り伏せて、フローラも魔術を放った。
「雷系統初級攻撃魔術・ショックインパクト!」
雷の球体がゴブリンの胸を撃ち抜いて、次の瞬間には青白い電流がゴブリンの全身を駆け巡り、黒煙を上げながら倒れ込んだ。
ケントも刀を振るい、迫ってきたゴブリンを次々と倒していった。
「これなら――」
ケントがそう呟きかけた、その時だった。 最後に残った一匹のゴブリンが、腰へ下げていた何かを慌てて取り出した。
「……あれは!」
それは、小さな笛だった。
ゴブリンは不気味に歪んだ笑顔で、それを口元へ当てた。
「まずい!」
「止めろ!」
だが、一歩遅かった。
ピーーーーーッ!!
耳をつんざくような甲高い音が洞窟内へ響き渡った。
その音は洞窟の奥へ、奥へと反響しながら伝わっていき、静まり返っていた洞窟のさらに奥から、
『ギャ……』
『ギギ……』
『ギィィィ……』
と言った無数の声が聞こえ始めて、洞窟の暗闇の先から、複数の足音が響いて来ていたのだった。
隼人は剣を握り直し、乾いた笑みを浮かべた。
「おいおい……これヤバいんじゃね?」
フローラも無意識に杖を握る手に力を込めていた。
「どうやら、想定したよりも規模が大きかったようですわね……!」
ケントは暗闇の奥を見た後、
(叢雲・白刀・双剣形態!)
刀に光が走り、二本の双剣へと姿を変えたのだった。
「……二人とも、これは調査依頼だけど」
「うん」
「場合によっては、逃げることができないかもしれないから覚悟して」
洞窟の奥から響く足音は、次第にその数を増していき、次の瞬間には暗闇の中から、赤く濁った無数の瞳が見えて来たのだった。 洞窟の奥から次々とゴブリンが押し寄せて来た。
「ギャァァァッ!!」
「ギギッ!」
「数が多いな!ケント! 前を抑えるぞ!」「分かった!」
ケントも隼人に合わせて地面を蹴って動いた。
二人は左右へ散開すると、そのままゴブリンの群れへと飛び込んだ。
「はぁっ!」
隼人の剣が閃き、一匹、また一匹とゴブリンを斬り伏せていった。
(乱舞・斬・雹)
ケントも双剣を振るい、迫るゴブリンたちを切り裂いた。
しかし、倒しても倒しても奥から新たなゴブリンが現れていたのだった。
「数が減ってる気がしねぇぞ!」
「フローラさん!」
ケントが声を上げた。
「準備は!?」
「もう少しですわ!」
後方ではフローラが杖を構え、静かに準備を続けていた。
足元には幾重もの複雑な魔法陣が次々と展開され、冷気が周囲へと広がっていった。
「二人とも!危ないと思ったら、すぐに離れてくださいませ!」
「了解!」
「…!隼人くん!」
「ああ!」
二人は同時に後方へ飛び退いた次の瞬間、
「氷系統中級攻撃魔術・アイスランス」
フローラの背後に十数本もの氷槍が生み出されて、雨のようにゴブリンの群れへと降り注いだ。
「ギャァァァァッ!?」
「ギギィィィッ!!」
鋭い氷が次々とゴブリンの身体を貫き、そのまま地面へ留めた。
地面へ突き刺さった氷槍から冷気が溢れ出し、凍りついた地面が盛り上がるように氷の壁を形成していった。
「……ひとまず、一掃できましたわ」
「助かった!」
隼人は剣を肩に担いで一息ついたのだった。
「やっぱ後衛がいると違うな!」
「……いや、まだ終わってないみたい」
その発言と共に洞窟の奥から、再び不気味な気配が近付いてきていたのだった。
ドゴォンッ!!
フローラが生み出した氷の壁が内側から激しく揺れ始めていた。
「……っ!?」
次の瞬間。
バキィィィンッ!!
分厚い氷の壁が粉々に砕け散り、氷片が洞窟内へと飛び散った。
「なっ……!」
壊れた氷の壁の向こう側、そこに立っていたのは、一体の巨大なゴブリンだった。
通常のゴブリンよりも二回り、三回りは大きく、その体格はオークにも匹敵するほどの大きさだった。
粗末ではあるものの手には大剣を握っていた。
「ギ……」
低く唸るその姿を見た瞬間に、ケントとフローラは同時に叫んだのだった。
「「ゴブリンキング……!」」
「はぁ!? ゴブリンキング!?」
隼人は二人の言葉に思わず声を上げた。
「おいおい、ゴブリンってあんなのもいるのかよ!」
「いますわ……ですが、本来なら新人向けの調査依頼に出てくるような魔物ではありません!」
ゴブリンキングはゴブリンの上位種であり、その危険度は、ただのゴブリンの群れとは比較にならなかった。
そして、この依頼は既に"入口調査"の範疇を大きく超えてしまっていた。
どうでしたか?もしよければ評価などをしてくれると執筆の励みになります。また、気になる点やわからないところなどこの作品に関することがあればどんどん送って欲しいです。




