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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
一章:始まりの物語

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第五話:初めての温もり、溶ける心

 シオンに促され、ケントは雅に手を引かれるまま部屋を出た。廊下へ出た瞬間、ケントは思わず足を止めて、天井を見上げた。

「……あれ、なに?」

 そこには、火が灯っているわけでもないのに、太陽のように明るく優しい光を放つ球体が浮いていた。光は蛍のそれよりずっと安定していて、廊下の隅々まで柔らかく照らしている。それに気づいた雅が、待ってましたと言わんばかりに得意げな顔をする。

「ふふん、気になる? これは私が作った『無尽灯むじんとう』っていうの。錬金術で空気中にある魔力を使って光らせることを安定させてあるんだから!」

「これ、雅ねぇが作ったの……?」

「そうだよ! 私は錬金術が得意なんだ。この家にある便利なものは、だいたい私が作った特注品なんだから!」

 雅は「もっと褒めていいぞー」と言わんばかりに胸を張る。手を引かれながら、ケントは再び無尽灯を見上げた。あんなものを作れる人が、自分の姉だというその事実が、まだどこか夢のように感じられた。

「すごい……。じゃあ、他のお姉ちゃんたちも、何か作ってるの?」

 ケントの素朴な疑問に、凪が少し照れくさそうに口を開いた。

「私は雅のように物は作れないけれど……剣や武術を少したしなんでいるわ。何かあったら、私が盾になってあげる」

「……ノノは、悪い虫が寄ってこないように、お掃除する」

 いつの間にかケントの隣を歩いていたノノが、ボソリと呟く。やはり、近づいてきた気配すら、今回も感じなかった。

「ふふ、みんな自分の得意なことを、ケントに知って欲しいのね」

 先頭を歩くシオンが楽しげに振り返る。

 前の世界ではゴミのように扱われ、誰にも必要とされなかった。そんなケントにとって、目の前の四人が自分一人のために力を尽くしてくれる事実は、あまりに過剰で、けれど、それは胸が苦しくなるほど大きな愛情だった。胸の奥が、ぎゅうっと締め付けられ、泣きたいわけじゃないのに、目の端が熱くなった。

「さあ、着いたわよ。今日のご飯は、私たち四人で作った、父さんのレシピの料理なんだから」

 シオンが扉を開けると、高い天井から吊るされたシャンデリアが部屋全体を照らし、磨き上げられた長机には料理が並んでいた。

 こんがりと焼けた肉、彩り豊かな野菜の煮込み、ふっくらとした焼きたてのパン。湯気が立ち上り、バターとハーブの香りが鼻をくすぐる。目の前に並ぶ料理は、まるで絵本の中のごちそうのようで、ケントは思わず息を呑んだ。すると、お腹がくぅ、と小さく鳴った。

「さあ、召し上がれ。口に合うといいのだけれど」

 シオンに促され、ケントは震える手でフォークを握った。

 肉を一口、口に運ぶ。その瞬間、ケントは目を見開いた。

「……っ!」

 柔らかい肉から溢れ出す旨味。野菜の甘み。それは複雑な理屈を抜きにして、ただ、ひたすらに美味しかった。前の世界での、冷え切ったコンビニ弁当や、味がしなくなるまで噛んだパンとは何もかもが違い、目の奥が、じわりと熱くなった。

「おいしい……。こんなの、食べたことないよ……」

 無我夢中で食べ進めるケントを、四人の姉たちは愛おしそうに見守っている。誰も急かさず、文句を言わなかった。ただ、静かに微笑みながら、ケントが食べる姿を見ていた。

 少しお腹が落ち着いたところで、ケントはずっと気になっていたことを口にした。

「……あの、お父さんとお母さんは、どうしたの?」

 その問いに、姉たちの表情がふっと和らぎ、懐かしさと、少しの寂しさが、その目の奥に宿った。

「お父さんはね、すごく料理が上手だったのよ。今食べているのも、お父さんのレシピをみんなで頑張って再現したものなの」

シオンは、どこか懐かしそうに微笑んだ。

「……この味はね、私たちの『宝物』なのよ」

「お母さんは……?」

 ケントが問いかけると、次女の凪が少し誇らしげに目を細めた。

「母さんはね、とっても凛としていて、かっこいい人だったわ。私たちにとって、ずっと目標にしている憧れの存在なのよ。……もちろん、あなたにとっても自慢のお母さんだったわ」

 その先のことは誰も語らなかった。けれど、姉たちが話す両親の思い出は、どれも眩しく、幸せに満ちたものだった。

 ケントは黙ってその言葉を聞きながら、フォークを持つ手をそっとテーブルの上に置いた。

「……二人は、もういないの?」

 ケントが不安そうに尋ねると、シオンが優しくその手を包み込んだ。大きくて、安心する手だった。

「ええ。でも悲しまないで。二人が守りたかったこの家と、私たちがいるわ。……そして、何よりあなたが帰ってきた。二人とも、きっと空の上で喜んでいるわよ」

 ケントは、香り豊かなシチューをもう一口、ゆっくりと飲み込んだ。

 お腹と一緒に、凍りついていた心が、ゆっくりと、確実に溶けていくのを感じていた。

第5話をお読みいただき感謝です!

「最強」なはずのお姉ちゃんたちが、弟の寝顔一つで争奪戦を始める……そんな雪月家の日常をお届けしました。

クールなフリして声が上ずる凪姉さんに、我慢できずハグしちゃう雅ねぇ、そして無言で距離を詰めるノノ。そしてそれをまとめるシオン。

皆さんはどのお姉ちゃんの「可愛がり方」がお好みでしょうか?

次回は、異世界で迎える初めての朝。

どんな賑やかな一日が始まるのか、お楽しみに!

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