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第五話:初めての温もり、溶ける心

 シオン姉さんに促され、ケントは雅ねぇに手を引かれるまま部屋を出た。廊下へ出た瞬間、ケントは思わず足を止めて、天井を見上げた。

「……あれ、なに?」

 そこには、火が灯っているわけでもないのに、太陽のように明るく優しい光を放つ球体が浮いていた。それに気づいた雅が、待ってましたと言わんばかりに得意げな顔をする。

「ふふん、気になる? これは私が作った『無尽灯むじんとう』っていうの。錬金術で空気中にある魔力を使って光らせることを安定させてあるんだから!」

「これ、雅ねぇが作ったの……?」

「そうだよ! 私は錬金術が得意なんだ。この家にある便利なものは、だいたい私が作った特注品なんだから!」

 雅は「もっと褒めていいぞー」と言わんばかりに胸を張る。自分が見たこともないものを作ったのが、三番目のお姉ちゃんだと知り、ケントは目を丸くした。

「すごい……。じゃあ、他のお姉ちゃんたちも、何か作ってるの?」

 ケントの素朴な疑問に、凪が少し照れくさそうに口を開いた。

「私は雅のように物は作れないけれど……剣や武術を少したしなんでいるわ。何かあったら、私が盾になってあげる」

「……ノノは、悪い虫が寄ってこないように、お掃除する」

 いつの間にかケントの隣を歩いていたノノが、ボソリと呟く。

「ふふ、みんな自分の得意なことを、ケントに知って欲しいのね」

先頭を歩くシオンが楽しげに振り返る。

 前の世界ではゴミのように扱われ、誰にも必要とされなかった。そんなケントにとって、目の前の四人が自分一人のために力を尽くしてくれる事実は、あまりに過剰で、けれど痛いほどに温かい愛情だった。

「さあ、着いたわよ。今日のご飯は、私たち四人で作った、父さんの料理なんだから」

 シオンが大きな扉を開けると、そこには宝石で飾られたシャンデリアが輝く、豪華なダイニングが広がっていた。そして、テーブルに並べられた料理は普通のものだったが、どれも見ただけで食欲をそそられるほど美味しそうだった。

 こんがりと焼けた肉、彩り豊かな野菜の煮込み、そしてふっくらとした焼きたてのパン。けれど、立ち上る湯気は驚くほど優しく、ケントの食欲を心の底から揺り動かした。

「さあ、召し上がれ。口に合うといいのだけれど」

 シオン姉さんに促され、ケントは震える手でフォークを握った。

 肉を一口、口に運ぶ。その瞬間、ケントは目を見開いた。

「……っ!」

 柔らかい肉から溢れ出す旨味。野菜の甘み。それは複雑な理屈を抜きにして、ただ、ひたすらに美味しかった。前の世界での、冷え切ったコンビニ弁当や、味がしなくなるまで噛んだパンとは何もかもが違った。

「おいしい……。こんなの、食べたことないよ……」

 無我夢中で食べ進めるケントを、四人のお姉さんたちは愛おしそうに見守っている。

 少しお腹が落ち着いたところで、ケントはずっと気になっていたことを口にした。

「……あの、お父さんとお母さんは、どうしたの?」

その問いに、姉たちの表情がふっと和らいだ。

「お父さんはね、すごく料理が上手だったのよ。今食べているのも、お父さんのレシピをみんなで頑張って再現したものなの」

 シオンが懐かしそうに微笑む。

「……お父さんの味はね、私たちの『宝物』なのよ」

「お母さんは……?」

 ケントが問いかけると、次女の凪が少し誇らしげに目を細めた。

「母さんはね、とっても凛としていて、かっこいい人だったわ。私たちにとって、ずっと目標にしている憧れの存在なのよ。……もちろん、あなたにとっても自慢のお母さんだったわ」

 強さのことは何も言わなかったけれど、お姉さんたちが語るご両親の話は、どれも温かくて眩しいものばかりだった。

「……二人は、もういないの?」

 ケントが不安そうに尋ねると、シオンが優しくその手を包み込んだ。

「ええ。でも悲しまないで。二人が守りたかったこの家と、私たちがいるわ。……そして、何よりあなたが帰ってきた。お父さんもお母さんも、きっと空の上で喜んでいるわよ」

 ケントは、温かいシチューをもう一口、ゆっくりと飲み込んだ。

 お腹と一緒に、凍りついていた心が、ゆっくりと、確実に溶けていくのを感じていた。


第5話をお読みいただき感謝です!

「最強」なはずのお姉ちゃんたちが、弟の寝顔一つで争奪戦を始める……そんな雪月家の日常をお届けしました。

クールなフリして声が上ずる凪姉さんに、我慢できずハグしちゃう雅ねぇ、そして無言で距離を詰めるノノ。そしてそれをまとめるシオン。

皆さんはどのお姉ちゃんの「可愛がり方」がお好みでしょうか?

次回は、異世界で迎える初めての朝。

どんな賑やかな一日が始まるのか、お楽しみに!

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