第41話:実践演習Ⅴ
地面へと叩き落とされたオーガが咆哮を上げながら立ち上がろうとする中、ケントは静かに双剣を構えていた。
そして、ケントの脳裏には以前、凪から聞かされた言葉が鮮明に蘇った。
『「剣術にはちょっと変わった技が意外とたくさんあるの」
訓練の途中で凪はそんなことを言った。
「変わった技?」
「うん。例えばこの技は使用者によって技の特徴が大きく変わるの。だからこの技を使う時の技術はあるけど決まった名前はないんだよ」
「決まった名前がない技なんてあるの?」
ケントが不思議そうな顔をすると、凪は苦笑しながら肩を竦めた。
「普通はないよ。でもこの技は特殊で技の特徴とかがバラバラだから、使う人によって全く別の技になるんだ」
「それって、同じ技と言えるの?」
「そう思う人はたくさんいるよ。だけど、実際に使われたら別物になるの」
そう言いながら凪は木陰に腰を下ろし、空を見上げた。
「だけどね、一つだけ共通して言えることがあるの」
「共通してること?」
「うん。その技を受けた相手は、その技に何かの花を想起させられたらしい」
「花?」
ケントは思わず聞き返したのだった。
「そう、花だよ」
凪は小さく頷いた。
「桜だったり、菊だったり、そこも人によって変わるんだ」
「そうなんだ。ふしぎ〜」
「不思議でしょ?でもそこが剣術の面白い要素の一つでもあるんだから」
そう言って凪は楽しそうに笑ったのだった。』
ケントが凪との会話を思い出していた時、オーガはその巨大な身体を揺らしながらケントへ向かって駆け出した。大地は震え、周囲の木々の葉が激しく揺れ動いていたが、それでもケントは微動だにしなかった。
そして、次の瞬間ケントの姿がまた消えたのだった。
ただ一筋の風が吹き抜けたと思えば、次の瞬間には雷が空間を駆け抜けたように見えた。
それはまるで舞い散る花びらのように美しく、花吹雪と思えるほどの無数の斬撃が重なり合いオーガに襲った。
「――ッ!?」
隼人とフローラはその幻想的な光景に目を見開いていた。
するとケントの姿はオーガの背後へと現れていた。
ケントは背中を向けたまま静かに双剣を下ろした。
対するオーガはその巨大な身体を反転させながらケントへ拳を振り上げた。
だがその瞬間、
「――死桜乱舞・地獄咲」
ケントが静かにそう告げた直後、オーガの全身へ無数の傷が一斉に浮かび上がった。
肩や腕、胸、脚などの全身という全身へ刻まれた斬撃が同時に開き、大量の血が噴き出した。
「ゴ、ガァァァァァァッ!?」
オーガは苦悶の咆哮を上げ、体を大きく揺らしながらそのまま仰向けに倒れ込んだ。
ドォォォォォンッ!!
巨大な身体が地面へ激突し、周囲へ土煙が舞い上がった。
そして、オーガは再び動くことはなかった。
オーガが完全に動かなくなったのを確認できた瞬間、ケントの身体から一気に力が抜けてそのまま地面へと座り込んでしまった。
そんなケントの姿を見た隼人とフローラは慌てて駆け寄ってきたのだった。
「お、おいケント!? 大丈夫なのか!?」
「ケント! 怪我が悪化していませんか!?」
二人は心配そうな表情を浮かべながらケントの顔を覗き込んだ。
しかし、ケントはそんな二人へ苦笑いを浮かべると、小さく首を横に振った。
「大丈夫だよ」
そう言いながらも、その声には隠しきれない疲労が現れていた。
「でも、流石に疲れたかな……」
そう言ってケントは空を見上げながら大きく息を吐いた。
ロストバレットによる魔力消費と右腕への反動など、戦闘の疲労感が身体に残っていたのだった。
「まぁ、これで全員課題クリアだね」
ケントがそう言うと、隼人は安堵したように笑いながら頷いた。
「ああ、そうだな」
フローラも小さく微笑んだのだった。
「ええ。これで全員無事に課題達成ですわ」 三人は倒れたオーガを見ながら、訪れた静かな時間を噛み締めた。
しばらくその場で休憩した後、ケントはゆっくりと立ち上がった。
ケントは倒れているオーガへと歩み寄ると、オーガの素材を回収した。
「これでよしっと」
ケントはオーガの素材を収納しながら小さく呟いた。
隼人も回収した素材を確認すると、大きく頷く。
「これで課題も問題なさそうだな」
「ええ。後は帰るだけですわね」
フローラもそう言いながら周囲を見渡した。
先程まで激しい戦闘が行われていた場所には、折れた木々などが残っており、その戦いの激しさを物語っていたが、三人はその場に留まる理由はもうなかった。
そして、オーガの素材を回収した三人は拠点へと戻っていったのだった。
その日の夜、三人は拠点へ戻ると、焚き火を囲みながら課題達成を祝っていた。
パチパチと薪の弾ける音が静かな夜の森へ響き渡り、火の光が三人の顔を優しく照らしていた。
「いやー、それにしても本当に倒せたんだな」
隼人は焚き火へ薪を放り込みながらそう言った。
「正直、途中まではどうなることかと思いましたわ」
フローラも苦笑しながら頷いた。
特に最後の戦いは誰かが死んでいてもおかしくないと感じるほどのものだった。
だからこそ、こうして三人揃って無事に課題達成を祝えていることがケントたち三人は嬉しかったのだ。
しばらく談笑していた隼人だったが、ふと何かを思い出したようにケントへ視線を向けた。
「そういえばさ」
「ん?」
「お前、オーガに吹き飛ばされた後かなり血が出てただろ?」
その言葉にフローラも思い出したように反応た。
「そうですね、 わたくしも気になります」
二人の視線がケントへ集まった。
「武器も壊れてたし、右腕からも相当出血してただろ? あの状態からどうやって戦えたんだ?」
隼人が尋ねると、ケントは少し困ったように頭を掻いた。
「ああ、そのことか」
そしてケントはそのことについて説明し始めた。
「まず、傷に関してだけど実は回復魔術の魔法陣を重ねて使ったんだ」
「重ねて?」
隼人が眉をひそめる。フローラも興味深そうに身を乗り出した。
「うん。魔術は魔法陣を重ねることで効果を増幅させることが可能なんだ」
「そんなことができるんですか?」
「できるにはできるよ。ただし魔力の消費も増えるし、魔力操作を間違えて重ねた魔法陣が暴発したら逆に怪我するから万能とは言えないかな?」
ケントはそう言いながら自分の右腕へ視線を落とした。
「それにあの時は急いでいたから応急処置程度までしかしできてなかったんだ。」
「なるほどな……」
隼人は感心したように頷いた。
「でもよ、そんな方法があったなら最初から使えばよかったんじゃないのか?」
「いや、それは無理かな」
ケントは苦笑した。
「そもそもあの時の僕は残り魔力が半分を切っていたから安易に使っていたらオーガを倒すことはできなかったと思うよ。」
「なるほどなぁ……」
隼人とフローラは納得したように頷いたが、ふと別のことを思い出したようにケントにさらに聞いた。
「そういや、もう一つ気になってたことがあるんだけどさ」
「何?」
ケントが首を傾げると、隼人は刀を指差した。
「お前のその刀だよ」
「刀?」
「そうだよ。あの時、確かにオーガの突撃を受けた時に刀身が砕けただろ?」
隼人は戦闘中の光景を思い出しながら続けた。
「なのに急に光り出したと思ったら双剣になって、そのままオーガを倒した後にはまた刀に戻ってたじゃねぇか」
「しかも、壊れていたはずなのに綺麗に直っていましたね」
フローラも不思議そうな表情を浮かべていた。
二人に聞かれたケントは
「ああ」
と小さく頷いき、
「それはこの刀の特性だよ」
と答えた。
「特性?」
「うん。この武器は僕が成長すると、それに合わせて進化するんだ」
「進化する武器なのか!?」
隼人は驚いたように目を見開いた。
「そんな武器初めて聞きましたわ……」
フローラも感心したように呟いた。
そんな反応を見て、ケントは苦笑しながら頷いた。
「でも壊れてたよな?」
隼人はさらに疑問を口にした。
「双剣になるのは分かったけど、なんで元通りになったんだ?」
「ああ、それは簡単だよ。この刀は壊れても自動で修復がするんだ」
「自動で修復?」
「うん。壊れても時間を掛ければ勝手に直るんだよ。だからそれのおかげで元通りになったんだ」
「いやいやいや……」
隼人は呆れたように額を押さえていた。
「進化する上に自動修復とか、便利すぎるだろその武器」
「わたくしも同意見ですわ」
フローラも苦笑しながら頷いていた。
「まぁ、僕も流石にすごすぎる武器だと思るよ」
その後も三人は焚き火を囲みながら他愛のない話を続け、オーガ討伐の緊張から解放された穏やかな時間を過ごした。
やがて夜も更けていき、明日に備えるため三人はそれぞれの寝床へと向かった。
そして翌朝。
差し込む朝日によって目を覚ました三人は、朝食を済ませながら今後の予定について話し合っていた。
「オーガ討伐も終わったし、これで課題自体は達成したよね」
ケントがそう言うと、隼人は手に持っていた木のコップを置きながら頷いた。
「ああ。正直、もう十分な気もするけどな」「ですが、実践演習はまだ終わりませんよ」 フローラの言葉に隼人は苦笑していた。
課題は達成したとはいえ、残り21日という期間が終わるまでは森の中で生活を続けなければならない。
まだ時間は残されていた。
「それでなんだけど」
ケントは二人へ視線を向けた。
「残りの三週間は他のグループを手伝わない?」
「他のグループを?」
隼人が首を傾げている中、ケントは頷いた。
「うん。僕たちはもう課題を達成したし、時間にも余裕があるからね。それに、オーガの時みたいに危険にさらさらているグループがいるかもしれないじゃない?」
「確かにそうですわね」
フローラは納得したように頷いていた。
「なるほどな」
隼人は腕を組みながら少し考えた後、口元に笑みを浮かべた。
「困ってる奴らを助けるっていうのも悪くねぇな」
「では決まりですわね」
三人の意見はすぐに一致し、残り二週間を他のグループの手助けに使うことを決めたのだった。
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後、話がずれますがストックが結構減ってきたので現在焦っております。




