第40話:実践演習Ⅳ
「――フローラ!!」
「フローラさんっ!!」
大木が猛烈な勢いでフローラへと迫る中、隼人とケントの顔に、焦りの色が現れた。
二人は同時に、自身の技を繰り出した。「クソッ……! !」
(頼む‼︎使えてくれ……限界突破⦅オーバードライブ⦆)
隼人は刀を抜き放ち、一ヶ月に一回の切り札の発動させた。刀身からオーラが噴き出し、彼の身体能力が限界を超えて跳ね上がった。
それと同時に、ケントもまた、その手に握る武器へ力を込めてた。
(斬刀・雹・飛燕⦅ざんとう・ひょう・ひえん⦆)
隼人の超高速の一閃と、ケントが放った斬撃が、空中で完璧に交錯した。
二人の繰り出し斬撃は、大木がフローラに激突するより一瞬早く、その巨大な丸太を粉々に破壊したのだった。
木片が周囲に激しく飛び散る中、間一髪で助かったフローラが
「あ……」
と息を呑む。
しかし、大木を壊した直後、隼人はその場にガクッと膝をついてしまっていた。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ! クソ、なんだよこれ……、冗談抜きで動けねぇ……っ」
一ヶ月に一回の切り札を使った代償は凄まじかった。一分間は限界を超えた力を振るえるのだが、それと引き換えに隼人の体力は、文字通り相当な量が削り取られてしまっていたのだ。
刀を地面に突き立ててかろうじて身体を支えているものの、隼人は荒い息を繰り返すだけで、もう一歩も動けないほどの深い疲弊に襲われていた。
ケントは動けなくなった隼人の前に素早く回り込み、一人でオーガの相手を引き受けた。そして、背後のフローラに向けて叫んだ。
「フローラさん! 隼人君の体力を少しでも回復させて!」
「――分かりましたわ!」
フローラはすぐに隼人に向け、回復魔法を施した。
ケントは一人でオーガの猛攻を正面から受け止めて、隼人たちに攻撃が及ばないよう必死にオーガの相手をして時間を稼ぎ続けた。 ケントがオーガを食い止めている間に、多少なりとも動ける程度まで体力を回復してもらった隼人は、すぐに立ち上がりフローラと共に再びオーガの前に向かった。
しかし、いくら体力を回復してもらっても万全には程遠かった。隼人はフローラやケントに向けて声を張った。
「おい、俺は体力が少し回復しただけだ。まともに戦い続けるのは無理だ! だから、何か一発で仕留められるような使える技はないのか!?」
その問いかけに、オーガの猛攻を受け止めていたケントが答えた。
「あるにはあるけど……少しためが必要なんだ!」
それを聞いた隼人とフローラは、迷うことなくケントの前に出て、二人は武器を強く構え直した。
「だったら話は早い! 俺たちが時間を稼ぐから、お前はその技をやれ!」
「ええ、ここはわたくしたちに任せて、その大技の準備に集中してくださいまし!」
ケントは最大の一撃を放つべく、その場に立って刀を両手で掲げて力を溜め始めた。 そして、フローラは杖を構え、速射性の高い魔法と魔術を次々と連発してオーガたちの動きを牽制していた。その猛烈な弾幕に合わせるように、隼人はオーガの重い攻撃を刀で真っ向から受け止めては弾いていた。
ケントは深く息を吸い込み、一呼吸をした。次の瞬間、ケントは刀を勢いよく振り下ろした。
(斬華一閃・火雷⦅ざんかいっせん・火雷⦆) 次の瞬間、暴れていたオーガの巨体は、左右に綺麗に真っ二つへと分かれたのだった。 何が起きたのか分からず、オーガは慌てて自分の顔を押さえたが、裂けていく身体を止めることはできなかった。そのまま、凄まじい地鳴りを立てて地面へと倒れ込み、息絶えたのだった。
オーガが息絶えたのを見届け、隼人とフローラは大きなため息を吐きながら武器を収めた。
「やったな、ケント! これで本当にオーガを倒せ――」
隼人とフローラが、満面の笑顔でケントの方を振り返り、言葉をかけようとしたその時だった。二人は途中で言葉を詰まらせてしまい、驚愕のあまり目を見張った。
二人の目に映ったのは、ケントの右腕からボタボタと地面に滴り落ちる赤い血だった。「ケント……っ! あなた、その右腕は一体……っ!?」
フローラは顔を青ざめさせ、ケントへと駆け寄った。
先ほどから震えていた右腕に対し、さらに無理をさせすぎてしまい右腕から血が噴き出してしまっていたのだ。
「あはは……。ちょっと無理をさせすぎちゃったみたいだね」
ケントは苦笑いしながら、左手で傷口を軽く押さえていた。
ケントが右手を動かそうとすると、右腕は動いた。
「驚かせちゃってごめん。でも、ポーションでちゃんと止血できる程度の怪我だから、そんなに心配しないで大丈夫だよ」
そう言って笑うケントに、隼人は
「本当に心臓に悪いぜ……」
と安堵の溜め息を漏らし、フローラは大急ぎで荷物からポーションを取り出してケントに渡したのだった。
ケントは倒れたオーガの元へと歩み寄り、四体目のオーガの素材を手に入れた。
「よし、これで四体目。……あとは、もう一体のオーガを倒そう」
ケントがそう言って、腱を切られて地面に倒れているはずの、もう一体のオーガの場所へと目を向けた。
しかし、その場所にオーガの姿はなかった。
「――えっ? いない……!?」
ケントはゾクッと全身の肌が総毛立つような、強烈な嫌な予感がした。
咄嗟に顔を上げて上を見ると、そこには先ほどまで下にいたはずのオーガが、木の上まで飛び上がっていた。
ケントはオーガが太い大木の枝を足場にしてしゃがみ込み、下のケントたちを完全に狙っているのが見えた。
「おい、どこ行ったんだあいつ!? !」
「ええ、腱を切られてまともに動けないはずですのに……一体どこへ隠れましたの!?」
隼人とフローラは、まだオーガがどこにいるのか気づいていなかった。ケントは慌てて二人に居場所を伝えようと叫ぼうとしたが…
「二人とも‼︎う…」
二人が言葉を返そうとした、その瞬間、ケントが言い切るよりも早く木の上で狙いを定めていたオーガが、真上から突っ込んできた。 ケントは二人を押し除けて、オーガの真正面に立った。
血が滴り震える右腕に力を込め、真っ直ぐに武器を突き出した。
(突刀・塊⦅とっとう・かい⦆)
真正面から降下してくるオーガの巨体に向かって、ケントは防御をするために技を放ったのだった。
しかし、突進してくる相手に刺突で攻撃するのはあまりにも不利すぎた。その結果、
パキィン……!
高い金属音とともに、ケントが手にしていた刀の刀身が砕け散ってしまった。
そして、ケントは、オーガの突撃をその身に直接受け、そのまま激しく後方へと吹き飛ばされてしまったのだった。
「「ケント――ッ!?」」
押し除けられていたフローラと隼人は、衝撃から体勢を立て直し、吹き飛ばされたケントの方を見た。
しかし、土煙が舞うその場所には、ケントの姿を遮るようにして、着地した巨大なオーガが立ち塞がっていた。
「――っ、この野郎ッ!!」
それを見た隼人は、刀を握り締めオーガへと真っ直ぐに向かっていった。
「隼人、待ちなさい! 一人で行くなんて自殺行為です!!」
フローラもすぐに自分の杖を構え直し、隼人と共にオーガへと立ち向かったのだった。
吹き飛ばされたケントは地面に激しく倒れ伏し、激しい痛みに耐えながら顔を上げた。 ケントは手に持っている壊れた刀身の刀と、必死にオーガに立ち向かっている隼人たちの姿を、交互に見た。負傷のせいなのか、視線を移動させる速度はとてもゆっくりとしていた。
(二人を危険な目に合わせないために、あれほどオーガから遠ざけていたのに……。それなのに、二人は僕のためにオーガと戦っていて、僕はこんな場所で地を這っている……)「ふざけるな……っ!」
ケントの胸の奥から、煮えたぎるような激しい感情が湧き上がり、自身の限界を拒絶して叫んだ。
「僕は絶対に二人を……僕の友達を、助ける……っ!!」
そう強く心に決意しながら、ケントは全身の激痛を耐えて、フラフラと足元を狂わせながらも、ゆっくりと立ち上がった。
その瞬間、彼の壊れた刀が、眩いばかりの光を放ち始めたのだった。
溢れ出た光が、瞬く間にケントの身体と砕けた刃の残骸を包み込んでいく。
そして、光が静かに消え去った時、ケントの両手には全く新しい二本の剣…『双剣』が現れていた。
その双剣の形状は、どちらも突起のない滑らかな半身の木の葉型で中央に膨らんだ刀身を持ち、色は白色でところどころに稲妻を想起させる形の黄色が入っていた。刀身の根元には刀身側から真横に細く真っ直ぐ伸びる垂直な鍔があり、端には三角形の突起が付いているようだった。
ケントが双剣を手にすると、次の瞬間には彼の周囲に風と雷が同時に現れ、それは身体を優しく包み込むかのように静かに巡り始めっていた。そして、ケントはそれらを受け入れるかのように静かに目を閉じていた。
風と雷はまるでケントへ寄り添うように周りに存在していて、その姿は戦闘中とは思えないほど幻想的ですらあった。
そして、ケントの周囲を巡っていた風と雷は少しずつその姿を薄れさせていき、最後の風と最後の雷が同時に消え去ったその瞬間、ケントはゆっくりと閉じていた瞳を開いた。
突如その場の空気が変わった。
「――ッ」
隼人とフローラは同時に息を呑んだ。
隼人とフローラへ攻撃を仕掛けようとしていたオーガも本能的に動きを止めてしまったのだった。
「二人ともごめん」
ケントはそう言うと、二人に微笑んだ。
「後は、僕がやるから二人は休んでいて」
「お、おいケント――」
隼人が慌てて声を上げようとしが、ケントの姿がその場から消えたのだった。
「――ッ!?」
隼人とフローラの目が大きく見開かれた。
二人がケントの姿を見失った直後、その姿は既にオーガの目の前まで移動していた。
ケントは地面を蹴った勢いのまま、オーガを見下ろす位置まで空中に飛び上がると、そのまま身体を捻りながら右足へ全体重を乗せた。
「――ッ!!」
そして次の瞬間。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい轟音と共に、ケントの蹴りがオーガの顔面へと直撃した。
オーガの頭部は衝撃によって大きく歪み、その巨体は勢いよく地面へと叩き落とされた。
オーガの巨体が地面へ激突した衝撃によって大量の土煙が巻き上がった。
その光景を見た隼人とフローラは思わず言葉を失った。
先ほどまで満身創痍だったはずのケントが放った一撃とは、とても思えなかったからだ。
「な、なんだよ……今の……」
隼人は呆然と呟いた。
フローラもまた驚きのあまり言葉を発することができず、ただ土煙の向こう側を見つめることしかできなかった。
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ペースを戻そうとしていますが、どのぐらいで戻るのか未定です。ですが、最終話まで書くので失踪などの途中で辞めることは絶対にしません。




