第39話:実践演習Ⅲ
――二人が必死になって探しているケントは、森の別の場所にいた。
目の前に立ち塞がる巨体のオーガに対し、ケントは鋭い踏み込みから自身の武器を一閃させた。鋭い風切り音と共に放たれた一撃は、オーガの分厚い肉体を真横に深く切り裂いたのだった。
ドサリ、と凄まじい地響きを立てて、オーガの肉体が地面へと倒れ伏した。
「ふぅ〜。これで二体目だな」
ケントは額の汗を軽く拭いながら、小さく息を吐いた。
しかし、討伐したオーガの素材を回収しようとした、まさにその時のことだった。
「――っ!? いや、嫌ぁぁぁぁっ!!」
静かな森の奥から、引き裂くような誰かの鋭い悲鳴が響き渡った。
「今の声は……っ!」
ケントは地を蹴り、悲鳴の聞こえた場所へと一目散に走って向かったのだった。
ケントが悲鳴の聞こえた場所に到着すると、そこには他クラスのグループが、地面にへたり込んでいた。
彼らの目の前には、凶暴な眼光を放つ巨大なオーガが立ち塞がっていた。オーガは太い腕を頭上へと大きく振り上げ、今にも眼下のグループへ向けて容赦なく振り下ろそうとしていた。
「――!」
ケントはその間へと走り込み、凄まじい速度で跳躍した。
オーガの腕が振り下ろされるより一瞬早く、ケントの武器が閃光のように奔った。頭上へと掲げられていたオーガの図太い腕が、根元から綺麗に空中へと切り落とされた。
ドサリ、と激しい音を立てて肉塊が地面に落ち、オーガは突然の激痛に咆哮を上げる。 ケントが着地と同時に素早く身を翻し、背後にいる他クラスのグループへと視線を向けると、戦場は凄惨な状況になっていた。
メンバーのうちの一人が全身血だらけになってぐったりと倒れており、その傍らで別のグループの人間が、必死な表情で治癒の回復魔法をかけ続けていた。
「大丈夫!? すぐに回復するから!」
オーガを正面から見据えながら、ケントは武器を構え直した。そして、目の前の敵をしっかりと相手にしながら、同時に血だらけで倒れている新入生へと向けて片手をかざした。
(光系統中級回復魔術・キュアライト)
柔らかな光の波が血だらけの生徒の全身を優しく包み込んだ。その生徒の酷い傷口はみるみるうちに塞がっていき、必死に処置を続けていたグループの仲間たちから驚きと安堵の声が漏れた。
味方の安全を確保しながらも、ケントの鋭い視線は、腕を切り落とされて怒り狂う目の前のオーガの動きを一瞬たりとも逃さずに捉え続けていたのだった。
ケントは手にした刀でオーガの攻撃をいなしながら反撃を加えていたが、背後にいる人たちのこともあったため、ここは手早く済まそうとした。
そこでケントは、姉から「打つな」と言われていた複合魔法を使った。
火、水、風、土、雷、氷、闇、光、影、聖という、基本の十属性を一つにまとめ始めた。(消滅系統初級複合魔法・ロストバレット)
放たれた弾丸がオーガへと着弾した瞬間、爆発も衝撃音もなく、その胸の部分だけが綺麗に消え去った。
大きな風穴が開いた巨体は、そのままどさりとその場に倒れ込み、静かに息絶えるのだった。
ケントは、他グループの倒れていた子へと視線を向けた。
「……うん、命の危険はもうなくなったね」
傷口が完全に塞がり、呼吸が安定したのを確認してホッと一安心すると、ケントは残された他のメンバーたちを見つめて言葉を続けた。
「ここは危ないから、魔物が出ない出口に向かって」
そう言って、昨日自分たちが見つけた出口の方角を指差した。
「あ、ありがとう……っ!」
助けられたグループの生徒たちは、ケントへ感謝をしながら、教えられた方角へと大急ぎで進んでいった。
彼らの姿が見えなくなるのを見届けた後、ケントは先ほど魔法を放った自身の右腕へと視線を落とした。
その腕は小さく、けれど確かにプルプルと震えていた。
さらに自身のステータスを開いて魔力量を確認すると、残り半分にまで一気に減ってしまっていた。
ケントは苦笑いしながら、震える右腕を左手で押さえた。
「やっぱり僕には早かったな。反動と魔力消費量がバカみたいに大きい……」
ケントは倒れたオーガの元へと歩み寄り、その素材を回収した。
「よし、これで三体目……」
そう呟いた、まさにその瞬間のことだった。
――グオオオオオオッ!!!
背後の大木を激しくなぎ倒しながら、森全体を激しく震わせる地鳴りのような咆哮と共に、巨大なオーガが二体同時に姿を現した。「――っ! しまった!」
ケントは即座に地を蹴ってその場から大きく後ろへと退いた。
しかし、すぐさま武器を構え直したものの、今のケントの戦況は誰の目から見ても最悪だった。
ここに来る前からの連戦による身体の疲弊。そして、十属性複合魔法を放ったことによる右腕の震えと、半分にまで減ってしまった魔力量では、善戦するのは難しい状態だった。
じりじりと距離を詰めてくる二体のオーガを前に、ケントは冷や汗を流していた。
二体のオーガが今にもケントへ襲いかかろうとした、まさにその時だった。
「フローラ! 頼む!」
森の奥から、聞き馴染みのある叫び声が響き渡った。
直後、オーガ二体の目の前で、視界を完全に遮るほどの閃光が弾け飛んだ。
「光系統攻撃初級魔術・フラッシュ!」
不意を突かれた二体のオーガは、突然の激しい光に
「グガアアアッ!?」
と悲鳴を上げながら、両手で顔を覆って激しく怯んでいた。
「――っ!? 」
ケントが目を見開いた瞬間、目の前に滑り込んできた誰かに、力強く手を掴まれた。
そのまま強い力で引っ張られ、ケントはオーガから一気に遠くへと引き離されたのだった。
オーガから離れたケントたちは大木の根元にぽっかりと開いた大きな空洞へと滑り込み、身を潜めた。
息を切らせるケントに向かって、隼人は大声を上げた。
「おい、ケント……っ! なんで俺たちを置いて一人で行っちまったんだよ!!」
木の穴の中に、隼人の怒鳴り声が響き渡った。
「……隼人君、フローラさん」
ケントは二人の顔を真っ直ぐに見つめ、本音を打ち明けた。
「オーガは、本当に危険なんだ。学生のレベルを、大きく超えている魔物なんだ。……だから、いくら僕たちの連携が良くても、二人が死ぬ可能性があった。それだけは絶対に嫌だったから、なるべく二人をオーガから遠ざけておきたかったんだ」
「じゃあ、ケントはどうなるんだよ!!」
ケントの言葉が終わるより早く、隼人がさらに激しい怒声を重ねた。
フローラもまた、ケントを真っ直ぐに睨みつけ、激しい怒りを露わにしていた。
「人の心配をするなら、自分の心配もしてください! 何のためのグループだと思っているのですか!」
「いや、グループなんて関係ねぇ! 俺たちはな、ケントが別のグループだったとしても絶対に助けに行く!」
二人のあまりにも迷いのない、言葉にケントは戸惑った。
「……そんな、僕なんかに、そこまでしてもらうようなことはないはずだよ……」
「そんなわけあるか!!」
隼人がケントの言葉を更に一蹴した。
「俺たちはケントの『友達』だろ! 友達が危険に晒されてんのに、放っておけるわけねぇ! 守るのなんて当たり前だ!」
「そうです。あなたにどんな事情があろうとも、私たちがあなたを大切に想う気持ちを、無視しないでください!」
二人の言葉は、ケントの胸の奥へと深く響いたのだった
ケントはゆっくりと視線を落とし、ゆっくりと深呼吸をした。
そして、顔を上げた。その顔には、先ほどまでの迷いや躊躇は一切消え失せていた。
「……うん。分かったよ。ありがとう、隼人君、フローラさん」
ケントは二人の顔を順番に見つめ、力強く頷いた。
「僕たち三人で、あの二体のオーガを倒そう」
二人と共に、外で暴れる二体のオーガを倒すことを、ケントは心に決めたのだった。
「よし、外に出る前に、まずは作戦を考えないと」
ケントは現状を分析しながら口を開いた。「今の僕の魔力量と腕の状態だと、オーガが一体だけなら、魔力を節約せずに全て使い切ればなんとか倒せる。……だけど、二体同時となると、今の僕だと厳しいんだ」
ケントの言葉を聞き、フローラは
「それなら、わたくしに良い提案がありますわ」
と、作戦を話した。
「作戦としては、まずはオーガの背後を取ります。そして、隼人とケントがそれぞれのオーガの足や腕の腱を切り裂いて、まずは機動力を奪うのです。私はどちらかのオーガに対処できない時があっても大丈夫なように、魔法の準備をしておく……というのはいかがですか?」
フローラの提案に、隼人は笑みを浮かべた。
「なるほどな! 腱を切っちまえば、いくらタフなオーガでもまともに動けねぇ。それなら二体同時でも、倒せる!」
「うん、いい作戦だと思う。それなら、今の僕たちで行けるはず」
ケントも頷き、三人はフローラの提案した作戦を決行しのだった。
木の穴から出た三人は、二体のオーガの近くの木の上へと移動していた。目の前ではでは、オーガたちが、周囲を警戒しながらうろついていた。
「――行くぞ、ケント!」
「うん!」
隼人の合図と同時に、木の上に隠れていた二人は息を合わせて同時に飛び降りた。
無防備なオーガ二体の背後へと真っ直ぐに飛び込み、手足の腱を狙った。
ズシャッ! と重い肉切音が響き渡り、狙い通り、オーガ二体は凄まじい地鳴りを立ててその場に激しく倒れ込んだのだった。
「よっしゃ! 作戦成功だぜ!」
「ふぅ、よかった……」
奇襲が決まり、隼人とケントは一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。
――しかし、その安堵は次の瞬間には、裏切られるのだった。
「グオオオオオオッ!!」
突如として、ケントが斬りつけたはずのオーガが、凄まじい咆哮を上げながらその巨体を跳ね起き上がらせたのだ。
「――っ!? なんで起き上がれるんだよ!?」
隼人が驚愕の声を上げた。ケントは自身の右腕を見てすぐに理由を悟った。負傷と右腕の震えのせいで、刃に十分な力が伝わっておらず、切断できたのは表面の皮膚だけであり、腱までは全く届いていなかったのだ。
激昂したオーガは、近くに生えていた巨大な大木を強引に引き抜くと、それを棍棒のようにして周囲へ振り回した。
「大変、ケント……っ!」
待機していたフローラは、二人を助けようと、咄嗟に杖を構えて魔法を放とうとした。 しかし、その瞬間に暴れるオーガはピタリとフローラを捉えのだった。
「グガアアアッ!」
オーガはフローラを見つけたかと思うと、抱えていた大木を彼女のいる場所へと目がけて全力で投げつけたのだった。
凄まじい風切り音を立てて、巨大な丸太がフローラの元へと真っ直ぐに迫っていった。
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前回や前々回にも言いましたが、最近忙しいので投稿が遅くなる可能性があります。これを書いている今もストックがだんだんとなくなっているから結構ピンチに近いかもしれません。それで、失踪などの途中で辞めることは絶対にしないので温かい目で見守ってくれたら幸いです。




