第37話:実践演習初日
剛吉はニヤリと満足げな笑みを浮かべたのだった。
「ふん、なるほどな。ケントの連れだってから、どんなもんかと思ったが……十分だ。合格だよ」
剛吉は満足げに深く頷くと、ドカッと大きな身体を起こして立ち上がり、店のさらに奥にある部屋へと向かった。
しばらくして剛吉が両手に二つの獲物を抱えて戻ってくる。
「おい、坊主。お前にはこいつだ」
剛吉がまず隼人に手渡したのは、一本の『刀』だった。
それは、鞘から抜かなくても分かるほどの見事な業物だった。
「うおっ……! これ、触れただけでいい武器だってわかる!?」
隼人は刀の刀身に目を輝かせた。
「ガハハ、それだけじゃねぇぞ。その刀はな、自分の限界を超えた力を一分間だけ振るうことができるっていう、ここぞって時の切り札だ。ただし、使えるのはお前だと一ヶ月に一回程度だな。だから、使いどころは見極めな」
「自分の限界を超える……! ありがとなおっちゃん!」
隼人は早くも拳を握りしめて興奮していた。
「そして、そっちのお嬢ちゃん。お前にはこれだ」
次に剛吉がフローラに差し出したのは、一般的な魔法使いが持つものとは明らかに異なる、先端が鋭利に尖った『槍に近い形状の杖』だった。
「これは……! 杖でありながら、まるで繊細な槍のようですわね」
フローラが目を見張ると、剛吉がニヤリと笑って説明を付け加える。
「おう。そいつはな、お前の魔力をとにかくよく通して、魔法の威力を跳ね上げる仕様にしてある。それだけじゃねぇ、先端の刃は接近戦になっても、槍としてちゃんと使えるように打ってある。お前のその魔力なら、前衛も後衛も思いのままだぜ」
「凄いですわ……。これで、わたくしの魔力が尽きかけた時でも戦い抜けますのね……っ!」
フローラはその杖をそっと指先でなぞりながら声を震わせていた。
「ガハハ! 気に入ってもらえたようで何よりだ。」
ケントが言った言葉に一ミリの嘘もなかったことを、隼人とフローラは心から実感するのだった。
最高の武器を手に入れて店を後にした2人は、次の準備として必要な消耗品を買い出しに商店へと向かった。
「いやぁ、武器が手に入って大満足だけどよ。実戦となれば、怪我をした時の備えも必須だよな?」
隼人が懐の財布を確認しながら言う。
「ええ、そうですわね。当日にどのような課題が出されるか分からない以上、万全の準備をしておくべきですね」
フローラも頷き、三人は店内に並ぶ様々な種類の薬瓶を見比べ始めた。
あれこれと悩んだ末、隼人は、傷を癒やすための『ポーション』をいくつか購入した。
一方、フローラは、同じく『ポーション』を選んだだけでなく、魔力を回復させるための『マナポーション』をポーションより多く手に取った。
「フローラさん、マナポーションを多く買っているけどそれでいいの?」
ケントがカゴの中を見ながら尋ねると、フローラは新しい杖を見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。剛吉様にいただいたこの杖は魔力をよく通して威力を跳ね上げてくださいます。その分、いつも以上に魔法や魔術を放てますが、いつもよりも魔力の管理に意識が薄れて魔力が枯渇するかもしれません。……ですが、持てる量にも限界がありますから、買ってもせいぜい八本くらいが限度ですわね。」
そして、隼人は
「確かにそうだな。あまり荷物が重くなっても演習中に動きづらくなっちまうな。俺もポーションはこのぐらいにしよう。」
そう言って自分の荷物を見つめながら、頷いたのだった。
「うん、持ち運べる限界を考えたら、そのくらいがいい量なのかもね。これだけあれば多分フローラさんなら十分戦い抜けるよ」
ケントが優しく微笑むと、フローラも
「そうですわね。今回の実践演習では、最善を尽くつもりです」
と、深く頷いたのだった。
買い出しを終えた三人は、さっそく学園の訓練所へと足を運び、二ヶ月後の実践演習に向けて話をしていた。
「ではまずは、二ヶ月後の実践演習に向けて、わたくしたちの基本となるフォーメーションを決めておくべきですね」
訓練所に到着すると、フローラが二人にそう提案した。
すると、隼人が不思議そうに首を傾げた
「え? フォーメーション? んなのいるのか? 俺としては全員で一斉に突撃すりゃあ、どんな敵でもすぐに片付くと思うんだけどよ?」
その言葉を聞いた瞬間、フローラはすかさず呆れたようにため息を吐き、冷ややかな視線を向けた。
「隼人、そのような考えなしの発言はやめてください。当日どのような課題が出されるか分からない以上、無策で挑むなど愚策でしかありません」
「わりぃ悪りぃ…適当なこと言って悪かったけど、そんな怒んなって」
フローラにピシャリと言い当てられ、隼人は苦笑いをしながら頭を掻いた。
そんな二人のやり取りに微笑しながら、ケントが訓練所の床に図を描いた。
「あはは。じゃあ、こんな陣形はどうかな?」
ケントが提示したのは、二つの基本フォーメーションだった。
一つ目は、近接戦の隼人が前衛に立ち、近接・遠距離のどちらにも対応できるフローラが中間、 ケントはサポートができるが後方に位置する形だ。
そして二つ目は、ケントと隼人の位置をそっくりそのまま逆にした、ケントが前衛で隼人が後方を担当する形である。
ケントの提案した図面を覗き込み、フローラはすぐに納得したように美しい目を輝かせた。
「なるほど……! これなら隼人とケントのどちらが前に出ても、私が真ん中で臨機応変に対応どきますわね。」
「おう、これなら納得だぜ! どっちの形になっても、フローラの中間がばっちり機能するから隙がねぇな!」
隼人もニカッと笑い、ケントの提案した陣形に賛成していた。
「ふふ、決まりですわね。早速、使えるように特訓いたしましょう」
フローラも満足そうに二人に深く頷いたのだった。
――こうして基本のフォーメーションを定めた三人は、実戦演習に向けて、特訓を重ねていった。
それはケントたちに限った話ではなかった。
学園の一年生たちは皆、授業以外でも各々、二ヶ月後に控えた実践演習に向けて、自らの課題と向き合いながら着実に準備を進めていたのであった。
ある者は武器を磨き、ある者は魔法の精度を高め、またある者は仲間との連携を深めるていた。そして、時間は瞬く間に流れていき―ーついに実践演習の当日が来たのだった。
ケントたち新入生一同は、学園の敷地を離れ、学園が保有するとある広大な森の入り口へと集められていた。
木々が鬱蒼と生い茂る森を前に、生徒たちが緊張した面持ちでいる中、教壇の代わりに設置された簡易的な壇上からシオンが全員を見渡して口を開いた。
「皆さん、よく聞いてください。あなたたちはこれからこの森に入って、三十日間――つまり約一ヶ月間は、この森の中で生活して課題をクリアしてもらいます」
シオンの口から告げられた条件に、生徒たちの間にどよめきが走る。シオンはさらに言葉を続けた。
「途中でリタイアを申し出た者、あるいは、危険だと判断された生徒は、強制的にこの入り口へと連れ出します。……そして、それ以外の生徒は、三十日が経つまで絶対に森の外には出られませんことよ」
その言葉に、一人の生徒が焦ったように手を挙げて声を張り上げた。
「あの、先生! 三十日も家を空けるなんて、親に何も伝えてないんですけど! 一体どうしたらいいんですか!?」
その疑問に対し、シオンは安心させるように答えた。
「そこは心配いりません。私がはった時間魔術によって、この森の中の時間は、森の外よりも格段に早くなるように設定されていますの。……具体的に言うと、森の外での『一時間』が、森の中では『十日間』に相当しますわ」
生徒たちは一瞬言葉を失った。
「つまり、森の外で『三時間』が経過する間に、森の中では三十日分の時間が流れるということです。ですから、ご家族に心配をかけるようなことはありません。そこは安心して、演習に集中してください」
シオンはさらに説明を続けた。
「演習の課題についてですが、皆さんは演習開始と同時に、事前に知らせてくれたグループごとにランダムに森の中へと転移させます。その転移する瞬間に、課題の書かれた紙を一人一枚渡しますので、森に着いた後に各自で内容を確認してください」
シオンは辺りを見渡しながら次の瞬間言葉を発した。
「それでは、実践演習を開始します」
シオンのその声を合図に、ケントたちの足元に魔法陣が現れた。
次の瞬間、生徒たちは森の中へと飛ばされ入口から消えたのだった。
ケントが気がついた時、辺り一面は鬱蒼とした木々に囲まれた森の中だった。
すぐ近くを見渡すと、そこには同じように飛ばされてきた隼人とフローラの姿があった。
三人は無事に合流できたことにホッと胸をなでおろした。すると、フローラが二人に声をかけた。
「まずは、各自の課題を確認いたしましょう」
その言葉に従い、三人は転移の瞬間に手渡されていた、課題が書かれた紙を開いた。
「わたくしの課題は、ゴブリンメイジの耳と杖を十五個、それからメタルスライムの核を五個ですわ」
フローラが自分の課題をそう告げた後、他の二人の課題を尋ねた。
「お二人の課題は、どのような内容になっておりますの?」
問いかけられた隼人が、自分の紙を二人に向けながら言った。
「俺のは、メタルスライムの核が十二個と、ゴーストの灰が八個分だ」
最後に、ケントが自分の紙に書かれた内容を二人に伝えた。
「僕の課題はね、オーガの素材五体分みたいだよ」
ケントの課題の内容を聞いた瞬間、隼人とフローラは驚いていた。
オーガは、Bランクの冒険者が一人で挑んでようやく倒せるような魔物である。
「おい、冗談だろ……っ!? なんだよこれ! オーガ五体って、いくらケントでも死ぬぞ!?」
隼人は声を荒らげていた。
「そうですわ! Bランクの魔物を五体だなんて、あまりにも理不尽ですわ……っ! これではケント君が危険すぎます!」
フローラも激しい怒りを露わにした。「まぁまぁ、二人とも落ち着いてよ」
ケントは苦笑いをしながら両手を前に出して、二人をなだめた。
「時間は三十日もあるんだから。まずは僕以外の、二人の課題を先にクリアしようよ。その方が確実に安全に進められると思うんだ」
ケントがそう提案すると、隼人とフローラはまだ納得がいかない様子で顔を見合わせながらも、少しだけ怒りを収めたのだった。
それからしばらくの間、三人は周囲を警戒しながら森の奥へと進んでいった。
すると、前方の茂みの奥にゴブリンの群れを発見した。
群れの数は全部で八体。
三人は目配せをして基本フォーメーションを組むと、一斉にゴブリンの群れに攻撃を仕掛けた。
激しい戦闘の中で、三人は見事な連携を見せ、そのうちのゴブリンメイジ二体を撃破したのだった。
残りのゴブリンたちを片付け、周囲の安全を確保した頃には、森の中に夜の気配が近づいていた。
「そろそろ野宿の準備をしたほうがいいな」 隼人が周囲を見渡しながら言うと、ケントとフローラも同意した。
三人は手分けをして火を熾し、今夜の拠点の設営に取りかかるなど、野宿の準備をしたのであった。
拠点となる火を囲みながら、三人は明日の行動について話し合いを始めた。
「明日は、僕たちが今日来た方向を背にした時の『右方向』に行こう」
ケントがそう言って森の奥を指差すと、隼人が不思議そうに尋ねた。
「右か? んなの、迷わずに進めるか?」
「大丈夫だよ。僕、後方を歩きながら、目印として木を折ったり傷つけたりしていたから、来た方向はちゃんと分かるんだ」
ケントがそう明かすと、フローラは感心したように頷いた。
「さすがケント、抜かりがありませんわね。では、明日は右方向の探索を進めましょう」 方針が決まったところで、三人は体力を回復させるため、お互いに寝ることにした。
フローラは周囲から草をたくさん集め、それを綺麗に床へ敷き詰めたものをベッド代わりにして横になっていた。
隼人はひらりと跳び上がると、見晴らしの良い木の上を今夜の寝床に決めた。
そしてケントは、自身の武器をしっかりと両手で持った状態のまま、利き足を立てて座り、そのまま眠りについたのだった。
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最後に、リアル面で今忙しいのでもしかしたらこの作品が投稿された次の日から投稿ができているのか分かりません。ですが、失踪するつもりはないのでご了承ください。




