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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第34話:雅との和解

 ケントは扉を勢いよく開け放つと、雅を探し出すために廊下へと一目散に走り出したのだった。

 学園中を必死に探し回り、夜の静寂が訪れる頃――ケントはようやく、高い塔の屋根の上に一人で佇む雅の姿を見つけた。

 月明かりに照らされた姉の後ろ姿は、昼間の明るい雰囲気とはまるで違い、小さく、ひどく寂しげに震えているように見えた。

「――雅ねぇ!」

 ケントが下から大きな声をかけて見上げると、雅はびくっと肩を揺らし、涙で濡れた顔を少しだけ振り返らせた。

「……ケント? なんで……。来ないで! 今はケントの顔なんて見たくない!」

「待ってよ、雅ねぇ!」

 ケントは姉の拒絶の言葉にも構わず、塔の壁を伝って屋根の上へと登ろうと足をかけた。

 しかし、夜露に濡れた瓦の表面は、想像以上に滑りやすくなっていた。

「あ――っ!?」

 屋根に足を乗せた瞬間、ケントは大きく体勢を崩してしまった。

 踏ん張りが効かず、そのまま真っ逆さまに地面へと真っ直ぐに落ちかける。

「ケント――っ!?」

 それを見た雅は、先ほどまでの拒絶など完全に忘れ去り、悲鳴のような声を上げた。

 雅は屋根の縁まで身を乗り出すと、落ちかけていたケントの腕をがむしゃらに掴み、全力で自分の方へと強く引っ張り上げたのだった。

「バカ! ケントのバカ! 何考えてるのよ! 自分の安全を先に確かめてから行動にしなさい!!」

 ケントは痛む身体を起こし、少し困ったように眉を下げて言い返した。

「……そんなこと言ったって、そもそも雅ねぇがこんな危ないところに登らなかったら、僕だって登らなかったよ」

 ケントの反論に、雅は言葉を詰まらせて動きを止めた。

 そこから、二人の間にしんと冷たい静寂が訪れる。

 雅はまだ涙の残る目でケントをキッと厳しく睨みつけ、ケントもまた、姉の視線を睨み返すような形で見つめ合った。

 夜風が二人の髪を揺らす中、一歩も譲らない姉弟の視線がパチパチと交錯する。

 ……けれど、そんな風に互いに意地を張って睨み合っているうちに、どちらからともなく、急にその状況がおかしくなってきてしまった。

 雅の口元が、堪えきれずにぷるぷると震え始める。

「ふふっ……あはは! 本当にそうだね。私がここに登ったのが悪かったわ」

「あはは、そうだよ。だからお互い様、だね」

 張り詰めていた視線は一瞬で解け、二人は夜空の下で顔を見合わせ、声を合わせて優しく笑い合ったのだった。

 ひとしきり笑い合った後、雅はふう、と小さく息を吐いて、今度は優しくケントの頭を撫でた。

「……ケント、さっきは講堂で大声をあげて怒ったりして、ごめんね。あなたのために動いていたつもりだったのに、結局、私の身勝手な執着でケントを傷つけちゃってたんだわ」

 そう言って少し寂しそうに微笑む姉に、ケントもまた、真っ直ぐに視線を返した。

「ううん、僕の方こそ。雅ねぇが僕を想ってくれているのを知っていたのに、あんなに強い言い方をしてごめん。……でもね、僕、本当に雅ねぇに守ってもらえて嬉しかったんだよ」

 ケントの真っ直ぐな言葉に、涙の痕が残る顔で心からの満面の笑顔を咲かせた。

「うん……! ありがとう、ケント」

「こちらこそ、ありがとう、雅ねぇ」

 こうして、二人は月明かりが照らす塔の屋根の上で、しっかりと手を握り合い、仲直りを果たしたのだった。

「それじゃあ、シオン姉さんたちのところへ戻ろうか」

「ええ、そうね。みんな心配して待っているわ」

 二人は並んで、温かい笑顔を交わしながら夜の廊下を歩き出した。

 ――時を少し、遡り夕方、誰も来ない静かな一室。

「みんな、ありがとう! 行ってきます!」

 そう言ってケントが雅を探すために、勢いよく部屋を飛び出していった、まさにその瞬間のこと。

 パタン、と扉が閉まり、廊下を走っていくケントの足音が遠ざかっていく。

 部屋には、シオン、凪、ノノと、隼人、フローラの五人が残されていた。

 静寂が室内を満たす中、シオンは閉まった扉をじっと見つめた後、深く、重いため息をついた。その表情は、どこか冷徹で、底知れない決意を秘めた顔へと変わっていた。

 シオンはゆっくりと振り返り、隼人とフローラの二人を真っ直ぐに見据えた。

「さて……ケントが行ったわね。フローラさん、隼人君。ケントの『過去』について……今からあなたたちに、すべてをお話しします」

 その言葉に、隼人はゴクリと息を呑み、フローラもまた、緊張を走らせて背筋を伸ばした。

「……ケントを、……あそこまで追い詰めた、……元の世界の、偽物の家族たちのこと。……全部、……話すよ」

 ノノがボソボソとゆっくり呟くと、それを引き取るようにシオンが静かに頷き、二人を真っ直ぐに見据えて重い口を開いた。

「フローラさん、隼人君。あなた方がどこまで知っているかは分かりませんけれど……ケントは昔、私たちと離れ離れになってしまいましたの。その時に『魂だけ』の状態になり、別の世界へと行ってしまったのですわ」

「魂だけ……別の世界に、ですの?」

 フローラが驚きに目を見張る。シオンは当時の悔しさを滲ませながら、言葉を続けた。

「ええ。そしてその世界で新しい肉体を得て、ケントはそれが自分の本当の肉体だと思い込み、ずっと生活していたのですけれど……そこでの生活は、まさに地獄だったのですわ」

 シオンの口から語られるあまりに凄惨な事実に、室内は水を打ったように静まり返る。

「学校では酷くいじめられて、教師はそれを知りながら全て見て見ぬ振り。帰り道などでは、知らない人たちからも理不尽な陰口を叩かれる……。おまけに、その時のケントが家族と信じていた人たちは、まだ小さかったケントに家の家事すべてをやらせていて、少しでもできないと暴言と暴力が続いたのよ」

「なっ……なんだよそれ……っ! 家族のくせに、そんなのあんまりだろ!」

 隼人があまりの理不尽さに拳を握りしめ、怒りに声を震わせる。

「……そんなこと、信じられませんわ……」

 フローラもあまりの残酷さに顔を青ざめさせて立ち尽くした。

 シオンはそっと目を伏せ、あの世界へケントを救いに行った瞬間のことを思い出すように呟いた。

「そこから、私がケントの精神世界へ行って、今の世界へと連れて帰ってきたの。ケントは私について来てくれて……だから、今があるのよ」

 語られたあまりに壮絶な魂の救出劇に、隼人もフローラも言葉を失い、ただシオンを見つめることしかできなかった。しかし、シオンの告白はそれだけでは終わらなかった。

「そしてね……この世界へと来る、まさにその直前のことですわ。ケントは私にお願いしたの」

「お願い……ですの?」

 フローラがごくりと息を呑む。シオンはどこか遠くを見るような目をしながら、言葉を続けた。

「ええ。……そしてその結果、今のケントの身には、『あること』が起きていますわ」

 シオンの言葉に、室内の緊張感はピークに達した。

 あまりの不穏な響きに、隼人とフローラは思わず身を乗り出し、焦ったように声を揃えて問い詰めた。

「おい、シオン先生! それって……それってまさか、ケントの命に関わるようなことなのか!?」

「そうですわ! 彼が危険に晒されるような、恐ろしい何かなのですの!?」

 二人の必死な焦りに対し、シオンはふっと張り詰めていた表情を緩め、安心させるように優しく首を振った。

「いいえ。そんな大層なことではありませんわ。あの子の命に関わるようなことでは、全然ありません。ですから、そんなに焦らないで頂戴」

「なんだよ、違うのか……。心臓に悪いぜ……」

 隼人が大袈裟に胸を撫でおろし、フローラも心底ほっとしたようなため息を漏らす。

 シオンは閉め切られた部屋の扉へと視線を向けた。

「ただ――この話の続きは、雅と一緒にケントが帰ってくるまで、待ってほしいのですわ。あの子自身の口から、ちゃんとあなたたちに話してもらいましょう」

 シオンがそう言葉を結んだ、まさにその時だった。

 パタン、と部屋の扉が静かに開き、ケントと雅の二人が中へと入ってきた。屋根の上でお互いに謝り合い、わだかまりの解けた二人の表情は、いつもの穏やかな笑顔に戻っている。

「みんな、お待たせ。雅ねぇとちゃんと仲直りできたよ」

「心配かけてごめんなさい、みんな」

 ケントが優しく微笑み、雅も少し照れくさそうに手を振る。

 その二人の帰還を待っていたシオンは、深く頷くと、隼人とフローラに向き直って話を再開した。

「おかえりなさい、二人とも。……では、話を続けましょう。ケント、あなたが元の世界を去る直前、私に何をお願いしたのか……今ここで明かしますわね」

 シオンはケントを愛おしそうに見つめた後、隼人たちへと言責を紡ぐ。

「あの子が私にお願いしたのはね……『あの地獄の世界に残される、元の肉体の持ち主が可哀想だから、僕の魂の半分をあっちに残して、彼を支えたい』ということでしたの」

「魂を、残した……!?」

 フローラが声を上げ、驚愕に目を見張る。

「ええ。魂を分割して別世界に残す――その結果として、今のケントの身には、ある決定的な変化が起きていますわ。ケント、あなたのステータスのパラメーターは……『レベル以外のすべてが、本来の数値の半分』になっていますのよ」

「……は? 半分……!?」

 隼人が、椅子から飛び上がらんばかりに目を見開いた。

「冗談だろ……? あいつ、その半分しか力が出せない身体で、昨日の凪先生の授業中、俺と戦って五勝もしたっていうのかよ……っ!」

 フローラもまた、息をするのを忘れたかのように呆然と立ち尽くしていた。

 シオンはさらにこう言葉を続けた。

「ケント。……二人へ、あなたのステータスのパラメーターだけ見せなさい」

「えっ? あ、うん……分かったよ」

 ケントは言われるがままに操作し、自身のステータス画面を空中へと半透明に公開した。

⦅パラメーター⦆

レベル25

体力:18,500/18,500

物理的攻撃力:18,800

物理的防御力:17,450

魔力的攻撃力:18,800

魔力的防御力:17,450

魔力量:18,000/18,000

運:17,500

速度:17,500

ステータス平均:18,000

 青白く光るパラメーターを凝視したまま、隼人は声を出すことすら忘れて硬直した。

 フローラもまた、驚愕のあまり両手で口元を覆っている。

「な……なんだよ、この数字……っ!」

 隼人が震える声でようやくそれだけを絞り出した。

「これが、本来の『半分』に固定された数値だというのですの……!? ということは、本来のケント君は、すべてが30,000を超えるという事になりますわよ……っ!」

 フローラの戦慄した叫びが部屋に響く。



 ケントのあまりの規格外の数値に隼人とフローラが言葉を失う中凪が、二人を真っ直ぐに見据えた。

 その瞳には、一人の姉としての切実な祈りが宿っていた。

「……強い力というものはね、いつか周囲の人から恐れられ、避けられるようになってしまうもの。私たちは、ケントにそんな寂しいことになってほしくない。……だから、あの子のこのステータスの真実は、私たち家族以外だと、今ここにいるあなたたち二人しか知らない」

 凪の重みのある言葉に、講堂の一室はしんと静まり返った。

「俺たち……二人だけ、か……」

 隼人が空中を漂うパラメーターを見つめた。

 フローラもまた、瞳にはケントの秘密を預かることへの、確かな覚悟の色が灯っていた。

「凪先生。……そんな大切なお話を、わたくしたちに共有してくださって感謝いたしますわ。誓って、このことは誰にも口外いたしません。あの方はわたくしたちの、大切な友人ですもの」

 フローラが真っ直ぐに宣言すると、隼人もまた、ケントの肩にぽんと腕を回してニカッと笑ってみせた。

「当たり前だろ! どんだけ強かろうが、ケントは俺の友達だ。誰が避けるかってんだよ。なぁ、ケント?」

「……うん。ハヤト君、フローラさん、ありがとう」

 二人のどこまでも温かい言葉に、ケントの胸に安心感と、熱い喜びが込み上げてきた。

 その様子を周りで見守っていたシオンや雅、ノノたちも、ケントに本当に素晴らしい友達ができたことを確信し、微笑み合うのだった。

どうでしたでしょうか?今回の話が面白いなどとを思ったならブックマークと評価などをしてくれると嬉しいです。

また、この話を読んで気になる点、またはわからないところがあればどんどん質問して来てください。

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