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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第31話:雅の授業

 講義室の扉を開けると、そこは数々の実験器具や怪しげな薬瓶が並ぶ、独特の硝石の匂いが漂う空間だった。

「はーい、みんな集まった? 席について席について!」

 教卓の後ろからパンパンと手を叩き、弾んだ声を響かせたのは、この授業を受け持つ雅だった。

「今日の錬金術の授業は、座学じゃなくていきなり実践! それぞれに課題を出すから、しっかりこなしてねー。一人じゃ大変って人は班を組んでやってもいいからね。それじゃ、スタート!」

 雅の号令がかかると、室内は一気に騒がしくなった。

「おい、ケント、フローラ。俺たちで班を組むぞ」

 隼人が迷うことなく声をかけると、フローラも髪をかき上げて同意した。

「異論はありませんわ。頼りにしていますわよ、ケント」

「おいおい、フローラ? 俺は無視かよ」

 あからさまに除外された隼人が眉をひそめて不満を漏らすと、フローラはサバサバとした視線を彼に向けた。

「だって、隼人君。あなた、こういう頭を使う作業は苦手でいらっしゃるでしょう?」

「誰がバカだ!」

「誰もバカだなんて言っていませんわよ」

 そう言って不敵に胸を張る隼人を、フローラは涼しい顔でいなしてみせる。ケントは苦笑しながら、二人の間に慌てて割って入った。

「まあまあ、二人とも。三人で協力した方が絶対に早く終わるから、一緒に課題をしよ? ほら、まずは必要な道具を取りに行こう」

 ケントの優しい仲裁に、隼人は

「ちぇっ」

と頭を掻き、フローラもフッと息を吐いて席を立つ。

 三人はそのまま、課題に必要な実験器具や素材を棚へと取りに向かった。



 三人は協力してベースとなる薬剤を完成させ、それぞれの植木鉢へと注ぎ込んだ。そして最後に、自分の魔力をじっくりと流し込んでいく。

「――できましたわ。見てくださいな」

 一番最初に魔力を込め終えたフローラの植木鉢からは、みるみるうちに茎が伸び、目を見張るほど綺麗で鮮やかな花が咲き誇った。お嬢様らしく、色彩豊かな実に見事な出来栄えだ。

 満足そうに微笑んだフローラが、ふと隣の隼人の手元へと視線を移す。

「……って、なんですのそれ!?」

 フローラは思わず声を上げ、目を丸くした。

 隼人の植木鉢から生えていたのは、植物の概念を疑うような代物だった。なんと、バチバチと激しい火花を散らしながら、赤々とした炎と紫の雷をその身に纏っている、得体の知れない謎の花が誕生していたのだ。

「いや、俺に聞かれても知らねえよ。なんかできちまったんだからしょうがねえだろ」

 隼人は頭を掻きながら、自分でも信じられないといった風にその謎の花を見つめている。

「本当に、あなたの魔力コントロールはどうなっていらっしゃいますの……」

 すっかり呆れ果てたフローラは、救いを求めるように、今度は逆隣にいるケントの方へと視線を向けた。

「ケント、あなたは一体どんな花を――」

 しかし、言葉の途中でフローラは息を呑み、隼人もつられてケントの手元を覗き込んで硬直した。

 ケントの植木鉢に佇んでいたのは、お世辞にも「花」とは呼べないものだった。

 そこにあるのは、禍々しいほどの鋭さを持った無数のトゲトゲ。それがまるで自らを外界から拒絶するように、あるいは内なる何かを閉じ込めるように、堅固な「檻」の形を形成して周囲を囲っていたのだ。

 その異様な光景に周囲の生徒たちもざわつき始め、騒ぎに気づいた雅が三人の席へと歩み寄ってきた。

「あらら、みんなすごいのができたねー……って」

 いつものフランクな調子で覗き込んだ雅だったが、ケントの植木鉢の「トゲトゲの檻」が目に入った瞬間、言葉を失った。

 そして、いつも明るい彼女からは想像もつかないほど、胸が締め付けられるような、ひどく悲しそうな顔をしてその植物を見つめたのだった。

 やがて終了のチャイムが鳴り、錬金術の授業は幕を閉じた。

 片付けを終えた後、フローラは

「先に部屋に戻っていてくださいな」

とケントとハヤテに告げ、二人から一旦別れた。どうしても気になることがあり、雅に直接質問するためだ。

 誰もいなくなった静かな講義室。教卓で片付けをしていた雅の前に、フローラは真っ直ぐに歩み寄った。

「雅先生、少々よろしいでしょうか」

「ん? ああ、フローラちゃん。どうしたの?」

 雅はいつもの明るい笑顔を作ってみせたが、その瞳の奥にはまだ陰りが残っている。フローラは真剣な眼差しで切り出した。

「先ほどのケント君の植物についてですわ。魔力の性質がこうして外へ具現化する時、その根底には、本人の精神状態や心の在り方が大きく影響するもののはずです。……けれど、あのおぞましいトゲトゲの檻は、一体何なんですの? ケント君の心は、一体どうなっていらっしゃいますの?」

 真っ直ぐに核心を突いてくるフローラの瞳を見つめ返し、雅は小さく、深くため息をついた。これ以上は隠し通せないと悟ったように、その顔からいつものフランクな笑顔が静かに消えていく。

「……さすがね、フローラちゃん。」

 雅は自嘲気味に呟くと、誰もいない講義室の窓の外へ視線を向け、ぽつりぽつりと大まかな事情を語り始めた。

「ケントはね、まだ小さかった過去に、私たち家族と離れ離れになっちゃった時期があるの。……それで、私たちがケントをようやく見つけて、再び一緒に暮らせるようになるまでの間、あの子、ずっと酷い目に遭い続けていたのよ」

「酷い目……ですの?い…一体なんなのですか?!」

 フローラが小さく息を呑む。雅の拳が、絞り出すような悔しさに震えていた。

「……ごめんなさい、フローラちゃん。それについては、あなたには絶対に話せないわ」

「……それは、わたしがまだ、信用に足りないから、ですの?」

 フローラが少し悔しそうな視線で問い返す。 雅は静かに、けれど明確に首を縦に振った。

「ええ。私はあなたを『ケントの大切な友達』としては、とても好ましく思っているし、信頼もしているわ。だけどね……あの子の過去に何があったのかを話すほど、あなたのことを信用できているわけでもないの」

 その瞬間、雅の瞳の奥に宿ったのは、冷徹なまでの拒絶の光だった。

「ケントが昔、どんな目に遭って、どんな痛みを抱えたのか。私たち四姉妹はすべて知っているけれど、それを他人に開示するつもりは一切ないわ。これは私たち四姉妹が、命に代えても守ると決めた秘密だから」

 完璧な拒絶。しかし、フローラは、そこで引き下がるような殊勝しゅしょうな性格ではなかった。ケントを心配する気持ちと持ち前のプライドが、彼女をもう一歩先へと突き動かす。

「……それでも、わたくしは知るべきだと思いますわ! ケントはわたしの友人ですもの、何も知らずに上辺だけの付き合いを続けるなんて――」

 フローラが無理にでもその秘密を暴こうと、言葉を荒らげた、その瞬間だった。

 ――ドンッ!!

 心臓を直接素手で掴まれたかのような、凄まじい衝撃が講義室を支配した。

 雅の表情は、変わっていなかった。声を荒らげたわけでも、恐ろしい形相で睨みつけてきたわけでもない。いつものフランクな顔のままで、ただそこに佇んでいるだけだ。

 それなのに、空間そのものが悲鳴を上げるようにガタガタと教室全体が激しく震え、次の瞬間、

パキパキパキッ

と乾いた音を立てて、周囲の頑丈な壁に無数のひび割れが走ったのだった。

「……これ以上は、ダメって言ったよね?」

 雅の口から漏れたのは、いつもと変わらない軽やかなトーン。

 呼吸をすることすら拒絶するほどの重圧。

 フローラは全身を襲う凄まじい恐怖に耐え、彼女のプライドを奮い立たせて、負けじと声を絞り出そうとした。

「わたし、は……っ」

 しかし、格の違いすぎる魔力の奔流の前に、彼女の細い身体は限界を迎えていた。視界が急速に暗転し、フローラはその場に糸が切れたように崩れ落ちる。

 意識を手放し、フローラの身体が地面に衝突する――その直前だった。

 フワリ、と風が揺れ、雅の手がフローラの身体を優しく抱き抱えていた。

 教室を震わせていた圧倒的なプレッシャーは嘘のように消え去り、静寂だけが室内に戻ってくる。

 雅は気絶したフローラを腕の中にそっと収めると、その綺麗な髪を労わるように撫でながら、誰もいない空間に向けてぽつりと呟いた。

「……ケントのことをそこまで想ってくれるのは、本当に嬉しいんだけどね」

 その声には、先ほどまでの冷徹な拒絶ではなく、一人の姉としての寂しさと申し訳なさ、そしてフローラへのささやかな感謝が滲んでいた。

「だけどね、こればっかりは……まだあなたに伝えるのには早すぎるんだよ、フローラちゃん」

 雅は眠るフローラの顔を悲しげに見つめた後、彼女を保健室へと運ぶために、静かに歩き始めた。

 雅によって保健室のベッドへと運ばれたフローラは、静かに寝息を立てていた。

 それからしばらくして、夕方の心地よい風が窓から吹き込む頃、保健室の扉が静かに開いた。

「失礼します。……あら、雅先生」

 入ってきたのは、フローラたちが暮らす女子寮の寮長を務める、ヴィオラだった。フローラが寮に戻る時間を過ぎても帰ってこないことを心配し、心当たりを探すうちに保健室へとたどり着いたのだ。

「あ、ヴィオラちゃん、お疲れ様ー。わざわざ迎えに来てくれたんだ?」

 雅はいつもの明るくフランクな笑顔に戻り、ひらひらと手を振ってヴィオラ先輩を迎えた。

「ええ。フローラが時間を過ぎても戻らないので心配していたのですが……どうされたのですか?」

「うーん、ちょっとね。今日の調合実験でちょっと魔力を込めるのを頑張りすぎちゃったみたいで、疲れが出て気絶しちゃったの。もう体調は落ち着いてるから、連れて帰ってあげてくれる?」

 雅のフランクな説明に、ヴィオラは納得したように

「なるほど、あの子らしいですね」

と小さく苦笑した。負けず嫌いなフローラなら、授業で限界まで魔力を使い果たすことも十分にあり得ると納得したのだろう。

「分かりました。では、寮へ連れて帰りますね」

 ヴィオラが声をかけると、ちょうどタイミングよくフローラが

「う、ん……っ」

と微かに声を漏らし、ゆっくりと目を覚ました。

「フローラ、気がつきましたか? 迎えに来ましたよ。一緒に寮へ帰りましょう」

「ヴィオラ先輩……? わたし、一体……」

 フローラはまだ頭がぼんやりとするのか、眉をひそめて周囲を見回した。そのサバサバとした瞳には、気絶する直前の雅の圧倒的なプレッシャーの記憶が、かすかな衝撃として残っているようだった。

「それじゃあフローラちゃん、無理しないでゆっくり休んでねー!」

 教卓で見せた冷徹な拒絶など最初からなかったかのように、雅は満面の笑みで手を振る。

 フローラは複雑な想いを胸に秘めたまま、それ以上は何も言わず、ヴィオラに支えられながらそのまま女子寮へと帰っていった。

 その日の夜、ケントは自室のベッドの上で、昼間の錬金術の授業のことを思い出していた。

どうでしたでしょうか?今回フローラがケントのことを少なくとも友達と思っていることがはっきりと分かりましたね。

この話が良いと思った方はブックマーケや評価をしてくれると嬉しいです。

また、気になる部分などは感想などで送ってくれれば可能な限り答えようと思います。答え方がわからないので後書きになどに書く可能性がありますがご了承ください。

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