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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第30話:凪の授業

 次に始まった凪の授業は、先ほどのシオンの授業とは打って変わって、実にシンプルなものだった。

「皆さん、自分の武器と同じ木製の武器を持ってください。今日は時間まで、ずっと素振りをしてもらいます。基本をしっかり身体に覚えさせましょう」

 凪の指示を受け、生徒たちはそれぞれ木刀などを手に取った。その後、木が擦れ合う乾いた音が、訓練所のあちこちから一斉に響き始めた。

 けれど、全員が同じメニューというわけではなかった。

「ケント、それに隼人君。二人は受験の実技試験で点数が高かったので、二人一組になって打ち込み稽古をしてください。お互いに高め合ってください」

 凪に指名され、ケントの前に歩み出たのは隼人だった。

「シオン先生の授業じゃお前に先を越されたからな。こっちの授業では俺が勝つ。手加減なしだぜ、ケント」

「そんな不敵に笑わないでよ、隼人君。……こっちだって、負ける気はないから」

 ケントもまた、木刀を構えて隼人と正対した。足の位置を細かく調整し、呼吸を静かに整える。

 二人の間に、一瞬でピリついた緊張が走った。

「――始めてください」

 凪の掛け声と同時に、隼人が床を蹴った。

「おおおおっ!」

 鋭い気合と共に放たれた隼人の一撃。上段から真っ直ぐ振り下ろされた木刀を、ケントは一歩引き、木刀の側面で受け流した。

 バチィィン! と乾いた衝撃音が室内に響き渡った。

(速い……! でも、見えない速さじゃない!)

 隼人の流れるような連続攻撃がケントを襲う。右からの薙ぎ払い、左の返し、そして鋭い突き。

 ケントは木刀を傾け、薙ぎ払いを受け流した。続く返しの一撃を弾き、最後の突きを紙一重でかわす。

「へえ、全部受けるかよ……!」

 そう言いながら、隼人は口角を上げた。

 カン、ゴツ、と木刀がぶつかり合う音が、訓練所に何度も響いていた。

 周囲で素振りをしていた生徒たちが、思わずそのハイレベルな攻防に目を奪われ、いつしか手を止めて見入ってしまっていた。

 何度か激しい打ち合いをした後、二人は同時に後方へ飛び、一旦、距離をとった。息が少し弾み、額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 お互いに鋭い視線を外さないまま、ケントが小さく息を整える。

「……今度はこっちからいくね、隼人君」

 ケントはそう告げると、木刀を腰のあたりへと引き、静かに居合の構えを取った。

 刹那、ケントの腕が閃き、木刀が鋭く振るわれる。

 放たれたのは、空気を切り裂く不可視の斬撃だった。

「――っ!?」

 隼人は目を見開き、とっさに横へ跳んだ。不可視の斬撃が、すぐそばを通り過ぎていく。

 しかし、ケントの狙いはそこだった。

 かわした先には、すでに踏み込んでいたケントの木刀が、猛烈な勢いで迫っていたのだ。

「しまっ……!」

 隼人は慌てて防御の姿勢を取ろうとしたが、完全に後手に回っていた。

 パシィィン!!

 強烈な打撃音が響いた。隼人の手から木刀が弾き飛ばされ、床を滑るように転がっていく。

「そこまでです」

 勝負が決した瞬間、凪の声が響き渡った。

 空になった自分の手を少しの間見つめていた隼人だったが、すぐに頭を掻きながら、悔しそうに顔を歪めた。

「あーあ、完全に読まれてたか! まさか斬撃のあとにそこまで踏み込んできてるとは思わなかったぜ」

 隼人は床に落ちた木刀を拾い上げると、ケントに向かってニカッと笑った。

「次は絶対に勝つからな、ケント」

 その真っ直ぐな言葉に、ケントもまた表情を和らげ、嬉しそうに微笑み返す。

「うん、僕も負けないよ、隼人君」

 二人の間には、先ほどまでのピリついた空気とは違う、爽やかな信頼感が満ちていた。

 その後も二人は何度も木刀を合わせ、今日の授業時間内だけで、実に八回もの模擬戦を繰り広げた。

 やがて終了を告げるチャイムが鳴り響き、凪の「そこまでです」という声で、長かった授業が幕を閉じる。

 汗を拭いながら、隼人がふと指を折り曲げて、今日の戦績を数え始めた。

「あーあ、これで通算三勝五敗か……」

 そう呟いて、隼人はケントを振り返り、心底惜しそうに顔をしかめる。

「あと一回勝てていれば、四勝四敗だったのになあ! 次は絶対に勝ち越してみせるからな」

 悔しがりつつも、その目はすでに次の勝負を見据えて輝いている。

 しかし、隼人はふと真面目な表情になると、少し声を落としてケントに問いかけた。

「……なぁケント。さっき俺が勝った試合でさ、お前、俺に攻撃を当てられるタイミングがあっただろ? なのに、なんであの時、一瞬ためらったんだ?」

 隼人は、自分が勝利した試合で、ケントの動きにわずかな「迷い」があったことを見抜いていたのだ。

 核心を突かれたケントは、少し気まずそうに視線を落とし、ぽつりと本音を漏らした。

「……うん。実はね、敵だと認識した相手には躊躇(ちゅうちょ)なくいけるんだけど……友達や家族が相手だと、どうしても攻撃をためらっちゃうんだよ」

「友達、か……」

 呆れたように、けれどどこか嬉しそうに隼人が呟く。

 ケントは苦笑混じりに、自身の木刀を見つめ直した。

「だから、隼人君が相手だと、本気でやっていても、最後の最後で『怪我をさせちゃうかも』って怖くなっちゃうんだよね」

 それを聞いた隼人は、複雑な苦笑いを浮かべた。

「……嬉しいような悲しいような話だな。俺を友達だと言ってくれるのは最高に嬉しい。だけど、その優しさが弱点になって、いつかお前自身が危険に晒されるのは嫌だぜ」

 隼人はそう言うと、頭の後ろで両手を組み、不敵に笑ってみせる。

「まぁ、いいさ。お前が躊躇したところで、俺が怪我もしないくらい強くなればいいだけだな」

「あはは、言うね。だったら僕も、隼人君にそんな心配をさせないくらい、圧倒的に強くなってみせるよ」

 二人が顔を見合わせて笑っていると、背後からツカツカと、少し不機嫌そうな足音が近づいてきた。

「ちょっと、二人とも何をのんきに笑っていらっしゃいますの」

 ようやく道具の片付けを終えたフローラが、腕を組んで二人を見据えていた。

「剣などの武器なら、基本を叩き込むために木製で素振りをするのも納得がいきますわ。けれど、魔法使いや魔術師を目指しているわたくしが、なぜわざわざ木の杖でずうっと素振りをしなければなりませんの!? 杖を振り回したところで、魔法の威力が高まるわけでもありませんのに……本当に不満でしかありませんわ!」

 息を吐きながら不満をぶちまけたフローラに対し、ケントは頬を掻きながら、いかにも困ったような苦笑いを浮かべた。

「あはは……。でもそれね、たぶん凪姉さんのことだから『持ち歩く武器は少しでも少ない方がいいから、魔法や魔術で使う杖をそのまま物理武器として使えばいいんじゃない?』って考えたんだと思うよ」

「はあ……? 杖を、物理武器に、ですの?」

 フローラが信じられないものを見るような目で固まる。ケントはさらに肩をすくめて言葉を続けた。

「あの人、魔法とかに関してはあんまり気にしてないからさ。いざとなったらその杖で相手を叩きのめせるように、素振りをさせられたんじゃないかな」

 姉のあまりに脳筋な思考に、ケントがため息をつく。

 すると、それまで黙って聞いていた隼人が、手を叩いて爆笑し始めた。

「ぶはっ! ハハハ、なるほどな! 凪先生ならマジでやりかねねえわ。おいフローラ、うっかり近寄ってきた敵の頭をその杖でカチ割る練習だと思えば、めちゃくちゃ有意義な授業だぜ?」

「そんな野蛮な魔法使いがいてたまるものですかーっ!」

 フローラも、これには声を大にしてツッコミを入れざるを得なかった。

 そんな賑やかなやり取りを交わしながら、三人はお腹を満たすために食堂へと向かった。

 お昼時の食堂は生徒たちの熱気に包まれており、料理の湯気と話し声が入り混じる賑やかな空間だった。三人はそれぞれ好みのメニューを注文して席についた。

 フローラの前には、仕切りのあるプレートに色とりどりの料理が少しずつ盛り付けられていた。

 対する隼人の前には、いかにもガツガツとした、大盛りの丼ものがどんと鎮座している。

 そしてケントが選んだのは、主菜に副菜、汁物が綺麗に揃った、バランスの良い定食だった。

「やっぱり、運動の後はしっかり食わねえとな!」

隼人はそう言って箸をつけると、大盛りの料理を勢いよくかき込んでいく。

「隼人君の食欲にはいつも感心しちゃうよ。」

 ケントが感心しながら定食の箸を進めると、フローラも自身の食事を味わいながら同意した。

「たくさん召し上がるのは結構なことですわ。それだけ気持ちよく食べていると、見ていて清々しいくらいですもの」

 フローラはそう言ってプレートにフォークを伸ばすと、ふと思い出したように二人へ視線を向けた。

「そういえば、前から少し気になっていましたの。隼人は『立風(たちかぜ)』、ケントは『雪月(ゆきづき)』という立派な姓を持っていらっしゃいますけれど……お二人は、どこの貴族の御令息(ごれいそく)なんですの?」

 すると、大盛りの丼を綺麗に平らげつつあった隼人が、あっけらかんとした様子で首を振った。

「ん? いや、俺は貴族じゃねえぞ」

「平民……ですの? ですが、その姓は一体……」

「俺の両親の出身国じゃ、平民とか貴族とか関係なく、みんな苗字を持ってるんだよ。そういう文化の土地なんだろ」

「あら、そうなのですのね……。それは納得いたしましたわ」

 珍しい文化に感心したように頷くと、フローラは次にケントへと視線を移した。

「では、ケント君はどちらの貴族なんですの?」

「あはは……。僕はね、たぶん貴族じゃないかな、としか言えないんだ」

「『たぶん』とは、どういうことですの?」

 フローラが不思議そうに眉をひそめる。ケントは箸を置き、少し寂しげに苦笑した。

「僕、姉さんたちから『自分の両親はもういなくなっちゃったんだよ』って聞いたからさ。両親の顔も全然わからないんだよね」

 それを聞いたフローラは、ハッとしたように表情を引き締め、すぐに真摯な目をケントに向けた。

「……そんな事情がありましたのね。デリカシーのない、失礼なことを聞いてしまってごめんなさい」

 フローラはすぐに謝罪した。

 ケントは慌てて首を振ると、いつもの穏やかな笑みを浮かべて彼女を安心させる。

「ううん、本当に気にしないで、フローラさん。悲しんでるわけじゃないんだ。僕にはシオン姉さんたちが一緒にいてくれるから……少し寂しい気持ちはあるけど 、両親のことはそんなに気にしてないんだよ」

「ケント君……」

「それに、こうして今は隼人君やフローラさんみたいな友達もできたしね。だから本当に大丈夫だよ」

 ケントがそう言って微笑むと、フローラもほっとしたように表情を和らげ、隼人はニカッと笑ってケントの肩を軽く叩いた。

三人はそのまま賑やかに残りの食事を済ませ、トレイを片付けて食堂を後にした。

「さて、次は確か……錬金術の授業でしたわね」

 廊下を歩きながら、フローラが時間割を確認するように呟いた。

「あぁ、次の担当は雅(みやび)先生だろ? ケントのところの四姉妹の三人目だな。シオン先生が魔法理論、凪先生が実技ってきて、次は錬金術か。どんな授業になるか楽しみだぜ」

 隼人がワクワクした様子で拳を握る。ケントは新しい教科書を胸に抱えながら、苦笑混じりに頷いた。

「雅ねぇの授業かぁ……。二人の授業も凄かったけど、雅ねぇの錬金術も、色んな意味で目が離せない授業になると思うよ」

 次の科目担当の姉であり、どこか掴みどころのない雅の顔を思い浮かべながら、ケントたちは錬金術の講義室へと向かった。

どうでしたでしょうか?この話が面白い、よかったと思ったらブックマーク、評価をしてくれると執筆の励みになります。

また、この作品を読んで気になった部分、分からないところがあれば感想として質問して欲しいです。

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