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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第28話:ケントの実力と騒がしい朝

 話を聞き終えた二人は、早くその授業を体験してみたいとばかりに、目を輝かせて

「早速、訓練所に行ってみましょう!」

とケントを促した。

 三人はそのまま足早に訓練所へと向かう。

 広々とした訓練所に到着すると、隼人が興味津々な様子でケントに声をかけた。

「なぁケント、お前がいつも一人でしているルーティンを見せてくれないか?」

 フローラも

「ええ、ぜひ拝見したいですわ」

と期待の眼差しを向ける。

 二人に頼まれ、ケントは少し照れくさそうにしながらも、いつも一人でいる時に行っている決まった鍛錬を披露することにした。

「じゃあ、僕が合図をしたら、何かものを投げてくれる?」

 ケントが斬るものを探していると、隼人が

「任せろ! さっき受付で適当にもらってきたぜ!」

と、のんきな顔でいくつかの道具を取り出した。

 彼が持ってきたのは、ふわりとした羽毛、いくつかの木の葉、そしてボタン一つで水滴や霧を発生させる装置の二つだった。

 それを見たフローラは、呆れたようにパッと扇子で顔を仰いだ。

「……ちょっと隼人、あんたバカじゃないの?」

「へっ!? なんでだよ!」

「羽毛や霧なんて抵抗がなくてまともに斬るのが難しいのですから、普通は練習にならないはずでしょう。そんな無理難題を投げてどうするのですか」

 フローラの言う通り、それらは普通の剣士なら刃を当てることすら不可能な代物だった。しかし、ケントは愛刀である『叢雲・白刀むらくも・はくとう』を静かに引き抜くと、にこりと微笑んだ。

「ううん、大丈夫だよ。ちょうどいつもやってるのと同じだから。――よし、お願い!」

 ケントの合図と同時に、隼人が羽毛と木の葉を宙へ投げ放ち、霧の装置を起動する。

 ふわりと不規則に舞う標てきと、辺りにモウモウと立ち込める白い霧。その空間へ、ケントは音もなく踏み込んだ。

 シュッ、シュッ、

と鋭い風切り音が響く。

 小さな体から繰り出される刃は、風に流れる柔らかな羽毛や木の葉を的確に両断し、目に見えない霧の塊さえも、鋭い太刀筋で次々と斬り裂いてみせた。

そして斬られた水滴と霧は霧散していき消えるのであった。

「……剣はこんな感じかな」

 ケントが『叢雲・白刀』を美しく鞘に収めながらのんきに言うと、フローラはパチパチと瞬きをして、ようやく我に返った。

「……こんな感じ、で片付けられるレベルではございませんわ。ですが、魔法や魔術の方も気になります。魔法や魔術は、一体どのようなことをしていらっしゃるのですか?」

 フローラが興味深そうに尋ねると、隼人も

「おう、気になるぜ!」

と身を乗り出す。

「それじゃあ、ちょっとやってみるね」

 ケントは二人に微笑みかけると、静かに目を閉じて深く息を吐いた。

 そして、ケントは魔法と魔術の鍛錬に移った。

 体内で絶え間なく魔力を高速循環させ、ケントがそっと両手を広げる。

 すると次の瞬間、彼の周囲の空中に、あり得ない光景が広がった。

 ケントを中心とした空間に、赤々と燃え盛る【炎】の球、激しく渦巻く【風】の球体、冷徹な輝きを放つ【氷】の塊、そしてバチバチと青白い火花を散らす【雷】の奔流が同時に浮かび上がる。

 それだけに留まらず、空中に浮かぶ標的を守るように【土】の塊が形成され、その下には形を保った【水】の弾丸がいくつも整然と並んだ。

 極めつけは、そのさらに外側だった。

 すべてを呑み込むような漆黒の【闇】の球体と、それと相反する神聖で眩い【光】の輝きが、空中で完璧な均衡を保ったまま同時に具現化したのだ。

 魔法と魔術の基本属性である、【炎、水、風、雷、土、氷、闇、光】の全八属性。

 そのすべてがケントを取り囲むように、空中に一斉に展開された。お互いの属性が反発し合うこともなく、完全に制御された状態で静かに維持され続けている。それは、常識を遥かに超越した極限の魔力操作だった。

「ふう……。あ、錬金術の鍛錬もしたいんだけど……ここには専用の窯がないから、今はできないんだよね」

 ケントがすべての属性を一瞬で消し去り、いつものように苦笑いを浮かべると、一部始終を目の当たりにしたフローラと隼人は、もう言葉すら出ない様子で呆然と立ち尽くしていた。

「……ケント様、あなたの特訓、色々と規格外すぎますわ」

 フローラがようやく絞り出すように声を漏らす。隣にいる隼人も、ただただ顎が外れそうな顔で頷くばかりだ。

「ああ。正直、すごすぎて何がどうすごいのか、もう俺の頭じゃ追いつかねえよ……」

「本当に。先ほどの羽毛の件といい、隼人がいかに何も考えていないバカであるかが、改めてよく分かりましたわね」

 フローラがやれやれと肩をすくめて呆れたように言うと、言われた隼人は頬を少し引きつらせた。

「うるっせーよ!」

 そう言いながらも、隼人はすぐにのんきで実直な笑顔に戻り、ふとした疑問をケントにぶつけた。

「なぁケント、一つ気になったんだけど。今見せてくれた魔法も剣術も、めちゃくちゃ凄かったけどさ。……さっき廊下でギルバートに向けたような、あの肌がヒリつくほどの『圧』は感じなかったんだよな。あれはやっぱり、本番の戦いの時だけしか出さないのか?」

 その質問に、フローラも「確かに」と真剣な顔でケントを見つめる。

 ケントは二人の視線を受け、少し困ったように眉を下げながら微笑んだ。

「うん。あの圧は普段はしないよ。魔物とかにはしていなくて……僕が完全に自分の敵と思った人物にのみ、しているんだ」

 ケントの秘密の一面に少しだけ触れた二人が静かに息を呑む中、タイミングを見計らったように、訓練所のスピーカーから終わりのチャイムが鳴り響いた。

「――おっと、もうこんな時間か。今日の自由時間はここまでだな」

 隼人が時計を見上げてのんきに声を上げる。

「ええ、有意義な時間でしたわ。それでは、各自のお部屋へ向かいましょうか」

 フローラが優雅に髪をかき上げ、ケントも「うん、そうだね」と笑顔で頷いた。

 その後、三人は訓練所を後にして自分たちの寮へと戻った。

 この学園は完全な全寮制となっており、特別な休日を除いて、夜間は学園内の敷地から出ることはおろか、寮の外に出ることすら許されないのが基本の鉄則であった。

 重厚な石造りの寮のロビーにたどり着くと、三人はそれぞれ足を止める。

「じゃあケント、また明日な! 最初の合同授業、楽しみにしてるぜ!」

「ええ、明日からはお姉様方……いえ、先生方の恐ろしい、いえ、素晴らしい授業が始まりますものね。ケント様、また明日お会いしましょう」

「うん、二人ともまた明日ね。おやすみなさい」

 それぞれ自分の部屋へと向かう二人を見送り、ケントもまた、あてがわれた自室へと歩みを進める


 翌朝、ケントが目を覚まして身支度を整え、部屋の扉を開けた時のことだ。

 一歩外へ出た瞬間、建物全体が地鳴りのように細かく震えていることに気がついた。上の階からでは何が起きているのか分からず、ケントは首をかしげながら階段を下りていく。

 そして、一階の玄関フロアにたどり着いた瞬間、ケントはあまりの光景に足を止めて絶句した。

「――ちょっとそこをどきなさいよ!?」

「顔だけでも見せなさいよ! すっごく可愛いって噂なんだから!」

 開け放たれた広大な玄関の向こう側には、黄色い歓声を張り上げる女子の先輩たちが大勢、文字通りの黒山の人だかりとなって押し寄せていたのだ。

 入学式での澄んだ元気な挨拶や、小柄で愛らしい姿が上級生の間で瞬く間に話題になったのだろう。ケントを一目見ようと詰めかけた女子の先輩たちの熱気はすさまじく、フロア中を狂乱の渦に巻き込んでいる。

「おいおいおい! 押すな押すな! ここから先は男子寮の敷地内だぞ!」

「規則違反だ、戻れ戻れーっ!」

 そんな女子たちの突撃を、ラグビーのスクラムさながらに体を張って必死に防いでいるのは、これまた大勢の男子の先輩たちだった。先輩たちは必死の形相で文字通りの人間の壁を築いている。

「……うわぁ、朝からとんでもないことになってるな」

 そこへ、同じく部屋から出てきた隼人が、のんきな調子で頭を掻きながらケントの隣に並んだ。

「あ、隼人くん。おはよう。……これ、どうなってるの?」

「おう、ケントおはよう。どうやらお前がお目当てみたいだぜ? まぁそれはそれとして、腹減ったし食堂に行こうぜ」

 あまりの騒ぎに圧倒されるケントを促し、隼人と共に朝食をとるべく一階の奥にある食堂へ向かおうとした、その時だった。

「キャーーーッ!! 雪月くんよ!!」

「本当にいたわ! こっち向いてーーーっ!!」

 移動しようとしたケントの姿が、男子の先輩たちの隙間から一瞬だけ見えてしまったらしい。

 彼を見つけた女子の先輩たちのボルテージは一気に最高潮に達し、黄色い悲鳴と共に、押し寄せる勢いがさらに何倍にも跳ね上がった。

「ぐわあああぁっ!? 耐えろ! 決壊するぞッ!」

 男子の先輩たちの悲鳴が響き渡る中、ケントは隼人に袖を引かれながら、「ボ、僕のせいなのかな……」と冷や汗を流して大慌てで食堂へと避難するのだった。

「……はぁ、びっくりした。隼人くん、なんで朝からあんなことになっちゃってるの?」

 食堂の席に駆け込み、ようやくホッと息を吐きながら、ケントはメニュー表を片手に困惑の声を漏らした。

 すると、トレイに乗った山盛りの朝食をテーブルに置きながら、隼人が面白半分のような顔をしてニヤリと笑った。

「なんだケント、自覚ねえのか? この国の大半の女性はな、年下好き(ショタコン)なんだよ。しかも、お前みたいな可愛い系の男子が大大大好物なんだわ」

「え、ええっ……!? そうなの……?」

 隼人ののんきで身も蓋もない解説に、ケントは顔をパチパチと目を丸くした。

「特にあの女子の先輩たちの目の血走り方は本物だったぜ? お前、今日からの学園生活、別の意味でも命を狙われるかもしれないから気をつけろよな」

「笑い事じゃないよ、隼人くん……」

 クスクスと楽しそうに笑う隼人を前に、ケントはこれからの学園生活に別の不安を覚えながら、用意された朝食に手を付け始めるのだった。

 朝食を済ませて食堂を出たものの、玄関フロアにはまだ大勢の女子の先輩たちが目を光らせて待ち伏せしていた。男子の先輩たちの防衛線も限界に近く、正面から普通に突破するのは不可能な状態だ。

「おいおい、まだあんなにいるぞ。どうするよ、ケント」

 隼人がのんきに首をすくめた、その瞬間だった。

「――隼人くん、ちょっと失礼するね」

「へ? うおわっ!?」

 ケントは躊躇なく隼人の体をひょいと横抱きにした。小柄なケントが自分より体格の良い隼人を軽々と持ち上げたことに、隼人は驚愕して声を上げる。

 ケントが床を強く踏み締めた瞬間、その小さな体から爆発的な脚力が解き放たれた。

 ドンッ!と重低音を残し、ケントは隼人を抱えたまま天高くジャンプした。

 二人の体は天井近くまで一気に跳ね上がり、玄関フロアを埋め尽くしていた女子の先輩たちと、必死に止めていた男子の先輩たちの頭上を、大きな放物線を描いて綺麗に飛び越えていく。

「え……!? 今、頭の上を誰か飛んで――」

「キャーッ!? 雪月くんが空を飛んでるわ!!」

 先輩たちが驚いて上を見上げた時には、ケントはすでに玄関の遥か外の地面へと、音もなくしなやかに着地していた。

「ぷはっ! お前、可愛い顔してとんでもねえ身体能力してんな!」

 腕の中から下ろされた隼人が、目を丸くしながらも興奮気味に笑う。

「あはは……お姉ちゃんたちの特訓に比べたら、これくらい普通だよ。さあ、遅刻しちゃうから訓練所へ急ごう!」

 驚く先輩たちの歓声を背に受けながら、二人は最初の合同授業が待つ訓練所へと向かって一気に駆け出していくのだった。

 なんとか先輩たちの包囲網を突破したものの、朝一番からの騒動により、訓練所にたどり着いた二人は精神的にすっかり疲れ果てていた。

 訓練所の入り口付近で待っていたフローラは、そんな二人の様子に気づくと、驚いて駆け寄ってきた。

「ちょっと、二人ともどうしたのですか? そんなにボロボロになって……。特にケント、一体何があったのよ?」

 息切れしてないのにげっそりしているケントを見て、フローラは本気で心配そうな声を上げる。

 すると、隣で隼人が、のんきに笑いながら口を開いた。

「いやぁ……聞いてくれよフローラ。朝起きたら男子寮の周りがケント目当ての女子の先輩たちで埋め尽くされててさ。そこをケントが俺を抱えて大ジャンプで飛び越えてきたんだよ」

「……ああ、そういうことでしたのね」

 隼人の説明を聞いたフローラは、納得したように深く頷いた。

「実は私も、女子寮の先輩たちが朝から『新入生代表の可愛い子が男子寮にいるわ!』と、血眼になって走っていくのを見かけましたの。……本当に災難でしたわね、ケント」

 フローラはトホホと苦笑いしているケントへ、心底気の毒そうな同情の眼差しを向けた。

 そうして三人が話していると、訓練所の大きな扉が開き、AクラスとBクラスの生徒たちがぞろぞろと入場してきた。その中には、昨日ケントに圧倒されて腰を抜かしたギルバートの姿もあり、彼はケントたちを見つけると、悔しさと敵意の入り混じった視線を向けてくる。

 そして――キーンコーンカーンコーンと、授業の開始を告げるチャイムが広大な訓練所に鳴り響いた。

いかがでしたでしょうか?

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