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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第27話:初めての同い年の知り合い

 姉たちに見送られ、ケントは一人で学内を見て回ることにした。

 広大な敷地に、歴史を感じさせる厳かな校舎が建ち並んでいて、石造りの外壁には長い年月を感じさせるほど蔦が絡まっていて、昼の柔らかな光が中庭の芝生をきらきらと照らしていた。どこからか小鳥のさえずりが聞こえ、澄んだ空気が胸の奥まで染み渡っていたのだった。

 ここがこれから自分の通う学び舎なのだと思うと、 ケントは新鮮な気持ちでゆっくりと歩みを進めた。

 ――しかし、その穏やかな時間はすぐに破られることになる。

「おい、お前……! 雪月ケントだな!」

 背後からかけられたトゲのある声に、ケントは足を止めて振り返った。

 そこに立っていたのは、見覚えのある端正な顔立ち――しかし今は、不機嫌そうに顔を歪めたギルバートだった。

「……ギルバート、さん?」

 ケントが小首をかしげると、ギルバートは悔しげに歯噛みしながら、ケントの制服の胸元――そこに輝く「S」のバッジをキッと睨みつけた。

「お前がSクラスだと……!? ふざけるなッ!」

 ギルバートはケントに詰め寄り、激しい剣幕で怒鳴り散らした。唾が飛びそうなほどの勢いに、周囲を歩いていた生徒たちが何事かと足を止める。

「お前のようなチビが、学園最高峰のクラスの首席などあり得るはずがない! どうせあの女たちに、裏から手を回してテストの点数でも改竄(かいざん)してもらったんだろ!」

 合格発表の日の屈辱と嫉妬を引きずるギルバートに対し、ケントはため息を堪えながら、冷ややかな視線を向けた。

「……違いますよ。ちゃんとした実力です。それに、僕の姉たちのことを悪く言うのはやめてもらえますか?」

 これ以上相手にするのは時間の無駄だと、ケントは適当にあしらってその場を離れようとする。しかし、プライドを傷つけられたギルバートはしつこく回り込み、ケントの行く手を遮った。

「とぼけるな! 不正の証拠を吐くまで逃がさんぞ!」

 ギルバートの執拗な言いがかりに、ケントが困り果てていた、その時だった。

「――そこまでになさい、見苦しいわよ」

「おいおい、新入生代表に言いがかりか? みっともねえ真似すんなよ」

 鋭い凛とした少女の声と、どこか不敵でハツラツとした少年の声が同時に響き渡る。  声のした方へ目を向けると、ケントを庇うように二人の男女が割って入ってきた。一人は仕立ての良い制服を上品に着こなした少女。もう一人は、引き締まった体躯の良い少年だった。

 どうやら、理不尽な絡まれ方をしていたケントを助けるために、二人は同時に行動を起こしたようだ。

 しかし、二人が同時に止めに入ったことに気づくと、二人はピキリと眉を動かし、ギルバートをそっちのけにしてバッと互いの顔を見合わせた。

「ちょっと、気安く私と同じタイミングでしゃべらないでくださる? ……だいたい、誰ですの、あなたは?」

 令嬢は不快そうに美しい眉をひそめて少年を睨む。

「それはこっちのセリフだ。せっかく格好よく助けに入ろうとしたのに、タイミングが丸被りじゃねえか。……つーか、誰だあんた?」

 少年もまた、頭の後ろで腕を組みながら、怪訝そうな顔で令嬢を見返した。  目の前で始まった予想外の小競り合いに、突っかかっていたギルバートも、助けられたはずのケントも、思わず呆然と立ち尽くすのだった。

「……あの、二人とも、落ち着いてください」

 これではどちらが助けられたのか分からないと、ケントは苦笑しながら両手を広げて二人をなだめた。ケントに諭され、隼人とフローラはハッと我に返り、少しバツが悪そうに視線をそらす。

「失礼いたしましたわ。取り乱してしまいました。……私はフローラ・ラザフォード。貴方と同じで、Sクラスに籍を置いておりますわ」

 フローラは制服の裾を優雅につまみ、完璧な作法で一礼した。指先まで洗練された所作に、思わず見惚れてしまいそうになる。

「おっと、悪かったな。俺は立風隼人(たちかぜはやと)。お前と同じSクラスの人間だ。新入生代表の挨拶、最高だったぜ!」

 隼人はニカッと白い歯を見せて笑い、親しみやすく拳を突き出してきた。  お互いの自己紹介を終え、ケントは新たな出会いに、自然と笑みをこぼした。

「それじゃあ、二人とも。フローラさんと隼人くんですね。一緒に学内を見て回りましょうか」

「ええ、喜んで。こんな不届き者は放っておきましょう」

「おう、案内してくれよ、代表!」

 三人はギルバートをその場に残したまま、楽しげに歩き出そうとした。

 しかし、プライドをズタズタにされたギルバートは、引き下がるどころか激昂して声を張り上げた。

「待てッ! 逃げるのか、雪月ケント!」

 その言葉に、ケントは振り返ることもせず、歩みを止めて冷淡に言い放つ。

「……逃げるというか、あなたとこれ以上お話しする必要性を感じないだけです」

「な、んだと……ッ!?」

 一瞥すらされない屈辱に、ギルバートの理性が完全に吹き飛んだ。彼は顔を真っ赤に染め、またもや言ってはならない一線を越えた暴言を口にする。

「調子に乗るなよ、この寄生虫が! どうせあの色目を使った姉どもに、体を売ってでも点数を――」

 ――その瞬間、空気が凍りついた。

 ギルバートの言葉は、最後まで続くことはなかった。

 シャイン、と鋭い金属音が響く。

 気づけばケントが音もなく踏み込み、ギルバートの目の前に立っていた。先ほどまでの優しい雰囲気は消え、その瞳には冷たい怒りが宿っている。

 ケントの右手は、腰にある刀の柄を逆手にしっかりと握りしめていた。

 鞘からわずかに覗いた銀色の刃が、一筋の光を鈍く反射している。

「……僕のことを悪く言うのは構わない。だが、次に僕の大切な人を冒涜してみろ。――その時は、お前を殺すことを躊躇(ためら)わない」

 感情の消えた、氷のように冷たいケントの声が響く。

 ギルバートは、自分が一瞬で命を奪われかけていたことを本能で理解した。声も出せないままガチガチと歯を鳴らし、恐怖でその場にへたり込む。

 ギルバートが完全に戦意を喪失したのを見届けると、ケントは静かに右手の力を抜いた。

 カチャリ、と小さな音を立てて、引き抜かれていた白刃が鞘へと完全に収まる。

 それと同時に、先ほどまでその場を支配していた圧倒的な殺意と威圧感が、嘘のように霧散した。張り詰めていた空気がふっと緩み、周囲の生徒たちが止めていた息をようやく吐き出す。

 ケントはいつもの穏やかな表情に戻り、地面に腰を抜かしたギルバートを冷たく見下ろす。

「……行きましょう、フローラさん、隼人くん」

 ケントが声をかけると、二人は驚きつつも、

「ええ、行きましょう」

「おう、そうだな」

と頷いて歩き出した。ギルバートは涙目になったまま、地面にへたり込んでいる。

 並んで廊下を歩き出すと、隼人がのんきな調子で頭の後ろに手を組み、ケントに話しかけた。靴音が高い天井に心地よく反響する。

「それにしてもケント、さっきは驚いたぜ。お前が刀を抜きかけた時、一瞬、俺の剣の師匠と同じ威圧感があったんだぜ」

 その言葉に、フローラも深く同意するように頷いた。

「ええ、本当に。私も息が止まるかと思いましたわ。ケントのあのお姿を見れば、先ほどのギルバートとかいう方の『点数改竄』という言いがかりが、いかに滑稽だったか分かりますわね」

 三人はそのまま学内の食堂へと向かった。まだ新入生しかいない広々とした食堂の席に着くと、フローラがお茶を口にしながら、クスクスと微笑んだ。

 湯気の立つカップから、ほのかに甘い紅茶の香りが漂っていた。

「せっかくこうして集まりましたし、お互いの自己紹介代わりに、受験の時の点数を発表し合いません?」

「お、それ面白そうだな!」

 フローラの提案に、隼人がのんきに身を乗り出した。

「じゃあ、まずは僕から――」

 ケントが自分の点数を言おうとしたが、すかさずフローラと隼人が同時に手を振ってそれを遮った。

「あ、ケントの点数は言わなくて結構ですわ。私たち、もう知っていますもの」

「そうそう。合格規定レベルを遥かにぶっちぎった首席の点数なんて、みんなの記憶に焼き付いてるって。それ以外の、例えば得意な魔法とか、別の情報が知りたいぜ!」

 二人に笑顔で言われ、ケントは

「あはは……そうなんだ」と少し照れくさそうに頭を掻いた。

「じゃあ、まずは俺たちの番だな! ケントはその間に他の話す内容を考えてくれ」

 隼人が胸を張って、自分の点数を口にする。

「俺は剣の実技でかなり稼いでな。筆記含めてトータルで900点満点中874点だったぜ! 魔法や魔術、錬金術のテストはギリギリだったけどな!」

 続いてフローラが、カップを置いて自身の点数を明かした。

「私は隼人とは逆で、座学と魔法と魔術で点数を伸ばしましたの。合計は900点満点中869点ですわ」

 二人ともさすがSクラスに選ばれるに相応しい高得点だった。 お互いの点数を聞き終えた二人の視線が、自然とケントへと戻る。

「さて、ケント。考える時間は十分にありましたわね? 点数以外の、あなたについての情報を教えてくださる?」

 フローラが楽しそうに小首をかしげ、隼人も「おう、何が得意なんだ?」とのんきに身を乗り出してきた。

「ええっと……得意というか、苦手なものはないかな。僕は全体的にバランスよく伸びているから」

 ケントが少し申し訳なさそうにそう答えると、隼人とフローラは一瞬ポカンとした後、同時に深くため息をついた。

「……おいおい、苦手がないって、とんでもねぇ規格外じゃねえか」

「全科目を満遍なくこなしての首席ということですわね。恐ろしい子……」

 二人の呆れ交じりの称賛に、ケントは慌てて両手を振った。

「ううん、そんなことないんだ! 姉さん……あ、先生たちに『そこは気をつけろ』って厳しく言われてるんだよ。僕みたいにバランスよく伸びているタイプは、ある一つの分野に特化して、なおかつ自分以上のステータス平均を持っている人が相手だと、確実に負けるらしいから」

 その言葉を聞いた瞬間、それまでどこかのんきだった隼人とフローラの目の色が変わった。

「……なるほどな。突出した一撃を持つ強者には、平均値の高さだけじゃ押し切れないってことか」

 隼人が、自分の手のひらを見つめながら真剣な表情で呟く。

「つまり、私たち以外のクラスの『一芸に秀でた天才』たちが、ケントにとっての天敵になり得る……ということですわね」

 フローラもまた、これから始まる授業の厳しさを察したように表情を引き締めた。

 お互いの実力や特徴について話し終えたところで、隼人がふと思い出したように、のんきな調子で頭の後ろを掻いた。

「そういえばさ、これからの授業についての相談なんだけど。俺たちのクラス、教科書の指定が全くないんだよな。みんなはどうするつもりだ?

 特に魔法とかの実技に関わる本って、どれを選んだらいいのか全然わからないんだよな」

 その言葉に、フローラも手元のプリントを見つめながら深く同意した。

「ええ、本当に。私も本屋へ行っても、どの魔導書が自分たちのレベルに合うのかさっぱり分かりませんわ」

 二人に意見を求められたケントは、先ほど配られたプリントに視線を落とし、少し苦笑いを浮かべながら答えた。

「うーん、僕は何も用意してないよ。っていうか……あの姉さんたちのことだから、たぶん教科書は必要ないと思うんだよね」

「……え?」

 ケントのその言葉に、フローラと隼人は驚いたように顔を見合わせた。

「本に書いてある理論だけを頭で分かっていても、いざという実戦では全く使えないでしょ? だから先生たちは実戦でも使えるように、魔法や技を実際に体験させて、理解させる授業をするはずなんだ。だから教科書はいらないんだと思う。あ、でも、その体験したことや言われたことを忘れないためのメモは、持っていた方がいいと思うよ」

 ケントの説得力に満ちた言葉に、フローラと隼人は「なるほど」と深く納得した。二人は感心したように頷き合い、どこか期待に満ちた面持ちで、これから始まる授業へと思いを馳せていた。


第27話をお読みいただきありがとうございました!

姉たちをバカにされて、一瞬で「殺すことを躊躇わない」と冷徹な目になったケント、いかがでしたでしょうか。

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