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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
第二章:学園編

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第26話:担当教師4人

 講堂内が静まり返る中、壇上の教員が拡声の魔導具の前に立ち、名簿を開いて厳かに声を響かせた。

「――それでは、新入生代表の挨拶を行う。新入生代表、雪月ケント君」

「はい!」

 会場の後方までしっかりと届く、澄んだ元気の良い返事。

 それと同時に、ケントはすっと席から立ち上がった。少しだけ乱れた制服の裾を直し、胸ポケットの原稿を一度だけ確かめる。

 ケントは落ち着いた足取りで中央の通路へと進み出た。

 小さな彼の姿が動くたび、周囲の生徒たちからは

「え……あの子が代表なのか?」

「随分と小柄な子だな……」

と、驚きと好奇の視線が集中する。

 ケントはまっすぐに前を見据えてトコトコと歩みを進める。

 緊張で小さな心臓をドキドキと高鳴らせながらも、ケントは一歩、また一歩と、すべての視線が集まる教壇の階段を上り始めた。

「新入生代表の雪月ケントです。私は、新入生の中で一番と判断されて、今この場にいますが……私は自分が一番などとは考えていません。私はまだまだ未熟です。なので、この学園生活で強くなれるように、皆さんと共に研鑽していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」

 ケントが深々と頭を下げると、講堂内は水を打ったように静まり返った。

 自慢する風でもなく、傲慢に振る舞うでもない。その真っ直ぐな瞳と純真な言葉は、並み居るエリート貴族たちの胸に刻まれた。

 パチ、パチ、パチ……。

 静寂を破るように、まずは壇上の教員たちから、そして続いて会場の生徒たちからも、割れんばかりの大きな拍手が湧き起こった。

 ケントは少し照れくさそうに頬を染めながら、ホッと胸を撫で下ろして壇上の階段をゆっくりと下りていく。

 しかし、式典はまだ終わらない。

 無事に大役を終えたケントが自身の席へと戻った。

 すると、壇上の教員が再び拡声の魔導具の前に立ち、新入生たちへ向けて次のようにアナウンスを流した。

「式典の終了に伴い、これより教科の担当教師の紹介をする。……【Sクラス】の生徒は、直ちに専用のS棟教室へと向かいなさい」

 その指示に従い、ケントを含めたSクラスの面々はSランク専用の教室に移動した。

 この学園において、最上位であるSクラスはあらゆる面で完全に特別視されている。毎年、Sクラスの授業を受け持つ担当教員は、ごく一部の例外を除き、他のAクラスからFクラスの授業を一切持たないのが通例だった。

 そしてケントたちSクラスの人はSクラスの教室に着いたのだった。

 Sクラスの教室は、前方にある教卓から離れるにつれて、席が段々と高くなっていく階段状の造りだ。

 教室に入った生徒たちは、それぞれ思い思いの席へと向かい、自由に着席していく。

 ケントもまた、落ち着ける席を選んで腰を下ろした。

 新入生たちが全員席に着き、静かにその時を待っていると、教卓の重厚な扉が静かに開いた。

 カツ、カツ、カツ――。

 足音を響かせて入ってきた人物たちの姿を見た瞬間、ケントは思わず目を見開いた。

「え……っ!?」

 驚愕のあまり、小さな喉から声が漏れる。

 教卓の前に並び立ったのは、四人の女性。それも、ケントがこの世で誰よりもよく知る人物たち――彼の「姉たち」だったのだ。

 代表の挨拶での緊張とは全く違う衝撃に、ケントの心臓は激しく跳ね上がる。

 そんなケントの動揺をよそに、四人の姉たちは階段状の席に座る生徒たちをゆっくりと見回した。

 教卓の前に並んだ四人の姉たちは、階段状の席に座る生徒たちを鋭い眼光で見回した。

 そして、シオンが一歩前に出て、凛とした声を教室内に響かせる。

「――静粛に。これより自己紹介と、それぞれの担当教科を発表するわ。私は雪月ゆきづきシオン。担当は【魔法】と【魔術】の二科目だわ」

(えっ、雪月……!?)

 新入生代表であるケントと同じ苗字に、周囲の生徒たちが一瞬ピクリと反応する。

 しかし、そんな動揺を置き去りにするように、腰に得物を帯びた凪が後に続いた。

「私は雪月凪。担当教科は【武器全般の扱い方】を教える」

 無駄のない、引き締まった声。

 次に進み出たのは、怪しげな光を放つ魔石を指先で弄ぶ雅だった。妖艶な笑みを浮かべながら、生徒たちを見つめる。

「雪月雅よぉ。私の担当は【錬金術関係】。全員とは言わないけど、錬金術の道具を使わないで錬金術ができるようにするつもりだから」

 さらりと言ってのけた常識外れの目標に、エリート貴族の生徒たちの間に緊張が走る。

 最後に、身軽な衣装に身を包んだノノが、ボソボソとした声を絞り出すように発した。

「雪月ノノ……担当は……【体術】……体を動かすことは……魔法使いや……魔術師でも……大事」

 四人がそれぞれの専門科目を告げ終えると、再びシオンが前に出て全体を統括するように言葉を付け足した。

「なお、【歴史】などの座学の一般科目については、私たち四人が交代制で教鞭を執ることになっているわ。この後は、君たちの自己紹介をして欲しいわ」



 Sクラスの生徒たちは前方の席から順に、一人ずつ立ち上がって自己紹介を始めた。

 エリート貴族の出身者が多いクラスということもあり、誰もが自身の家柄や得意な魔法について、自信に満ちた口調で語っていく。

 やがてケントの番が巡ってくると、彼は少し緊張しながらも、新入生代表の時と同じように

「よろしくお願いします」

と誠実に頭を下げた。

 全員の自己紹介が一通り終わると、教卓の前でシオンが頷いた。

「みんな、よく分かったわ。それじゃあ、これからの授業の進め方について書かれたプリントを職員室に取りに行ってくるわね。少しの間、静かに待っていなさい」

 そう言い残し、四人の姉たちは足並みを揃えて、一度教室から出て行った。

 教師たちの姿が見えなくなった、その直後だった。

 張り詰めていた空気が一気に緩むと同時に、周囲の席にいた生徒たちが、一斉にケントの席の周りへと集まってきた。

「ねえ、雪月くん! さっきの先生たちって、もしかして君のお姉さんたちなの?」

「四人ともすごく綺麗だけど、全員がSクラスの先生だなんて凄すぎるよ!」

「もしかして、家ではいつもあんなに厳しい魔法の特訓を受けているの?」

 彼らの瞳に敵意や嫌味はなく、あるのはただただ、純粋な驚きと好奇心だけだった。

 ケントはあっという間に純粋な疑問の質問攻めに遭ってしまった。

「あ、えっと……うん、僕のお姉ちゃんたちなんだ。家では……うーん、みんなすごく優しくて、魔法を教えてもらったりするよ」

 ケントは照れくさそうに頬を掻きながら、クラスメイトたちの純粋な疑問に一つひとつ丁寧に対応していった。代表の時とは違う、等身大の彼の柔らかい物腰に、周囲の生徒たちも自然と笑みをこぼし、教室は和やかな空気に包まれていく。

 そんな中、廊下から再びカツ、カツと足音が近づき、教室の扉が開いた。

 生徒たちは慌てて自分の席へと戻り、背筋を正す。

「待たせたわね。これが年間スケジュールを記したプリントよ」

 戻ってきたシオンが教卓の上に資料を置き、凪、雅、ノノの三人が手際よくそれを全員に配っていく。

 全員の手元にプリントが行き渡ったのを見届けると、シオンが再び凛とした声で説明を始めた。

「これからの授業内容についてだけど、私たちのクラスは座学よりも実技を重んじるわ。そして――」

 シオンは一度言葉を区切り、階段状の客席を見渡して不敵に微笑んだ。

「記念すべき最初の授業だけど、今回は特別にAランクとBランクのクラスも合同で参加することになっているわ」

 その言葉に、教室内の生徒たちがざわついた。

 本来なら完全に隔離されているはずの最上位Sクラスの授業に、下位のクラスが交ざる。

「……彼らにも、Sクラスの基準というものを肌で知ってもらう必要があるからね」

 凪が当然のように補足し、雅がクスクスと妖艶に笑う。ノノもボソボソと「……負けないでね」と呟いた。



「――今日のところは、この後の合同授業の告知までよ。これより放課後とするわ。最初の授業が始まるまでは、各自で自由に学内を見て回りなさい」

 シオンがそう告げると、張り詰めていた教室の空気が一気に解き放たれた。

 生徒たちは

「それじゃあ、さっそく訓練場を見に行こうぜ!」

「購買部に行ってみない?」

と、それぞれ期待に胸を膨らませて教室を出ていく。クラスメイトたちはケントにも声をかけようとしたが、彼が教卓の前に立ち尽くしているのを見て、気を利かせたのか先に部屋を後にした。

 あっという間に、広い階段教室には雪月家の五人だけが取り残される。

 静まり返った教室で、ケントは一歩、また一歩と教卓へ近づき、四人の姉たちを見上げた。

 そして、ずっと胸の中でぐるぐると渦巻いていた疑問を、ついに口にする。

「……ねえ、シオン姉さんたち。なんで学校にいるの? それに、なんで僕に何も教えてくれなかったの?」

 少しむくれたような、純粋な抗議の視線を向けるケント。

 すると、先ほどまで「威厳ある教師」の顔をしていた姉たちの表情が、一瞬でとろけるように崩れた。

「ケント、お疲れ様。新入生代表の挨拶、すっごく格好良かったわよ」

 シオンがさっきまでの凛とした態度をどこへやら、嬉しそうに両手を広げる。

「ふふ、驚いた? 驚かせようと思って、みんなで内緒にしてたんだから」

 雅がクスクスと笑い、凪も満足そうに腕を組んで頷いた。

「ケントの驚く顔が見たかったから。」

「ケント……寂しかった……? でも、これからはずっと一緒……」

 ノノもボソボソと、しかし嬉しさを隠しきれない様子で一歩踏み出してくる。

 家と変わらない姉たちの溺愛ぶりに、ケントは呆れつつも、どこかホッとしたように小さく息を吐くのだった。

「えへへ、実はね、ケントがこの学園の入学試験を受けるって聞いた時、私たち心配になっちゃって」

 雅が愛用の魔石をポケットにしまいながら、いたずらっぽくウインクをした。

「そうよ。ケントの実力なら合格するのは分かっていたけれど、生半可な試験でケントの本当の凄さが測れないのは納得がいかなかったわ。だから私たち、学園長直談判して『試験の難易度をもっと上げなさい』って要求したの」

 シオンが胸を張り、当時の様子を誇らしげに語る。ケントは

「ええっ、試験が難しくなったの、お姉ちゃんたちのせいだったの!?」

と目を丸くした。

「ああ。だけど、学園長もただで首を縦に振るような男じゃなくてね。『そこまで言うなら、難易度を跳ね上げる条件として、お前たち四人がSクラスの教師になれ』と交換条件を突きつけられたんだよ」

 凪が苦笑しながら腕を組み、事の顛末を明かす。

「ケントの近くにいられるなら……そんな条件、お安い御用……。だからみんなで、教師になるのを引き受けたの……」

 ノノがボソボソと、しかし満足げに拳をぎゅっと握りしめた。

 まさか自分が受けた超難関試験の裏に、姉たちの規格外な過保護ぶりと、それが原因で教師に就任するという驚きの取引があったとは。

 ケントは呆れ半分、嬉しさ半分で頭を掻きながら、

「もう、お姉ちゃんたちは相変わらずだなぁ……」

と、小さくため息をつくのだった。

どうだったでしょうか?今回でカントはついに学生となりました。今後のお話が気になる方はブックマーク、評価などをしていただくと執筆の励みになります。

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