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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
一章:始まりの物語

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第17話:初の大物

 スライムを蒸発させて発生させた白い湯気が、平原の風に流されていく。

 湯気の向こうに現れたのは、一匹のスライムなど比較にならないほど巨大な狼たちだった。

 鍛え抜かれたようなしなやかな体躯に、鋭い銀の毛並みを逆立てたシルバーウルフの群れだ。

(……一、二、三……全部で二十匹はいる。シルバーウルフは一匹ならEランクだけど、群れになると一気にDランク相当になるって、エミルさんが言ってたやつだ)

 だが、ケントの視線はその群れの中央に佇む、一際巨大な個体に釘付けになった。他の個体が「銀」なら、あいつは「黒鉄」。毛並みの一本一本が金属のような光沢を放ち、地面を捉える爪は岩石をも容易に砕く重厚さを湛えている。

(あいつ、ただのシルバーウルフじゃない。……進化種の『シュタールウルフ』だ!)

 シュタールウルフ――シルバーウルフの進化種。鋼鉄のような毛並みを持ち、単体でもDランクに数えられる危険種だ。群れを率いた時、その脅威はCランクにも匹敵すると言われている。

(……エミルさんが言っていた『低ランクの場所に出る高ランクモンスター』って、あいつのことか。……逃げられそうにないし、倒すしかないか)

 シュタールウルフが鋭く遠吠えを上げると、それを合図に銀色の閃光たちが一斉にケントへと牙を剥いた。

 二十匹近い狼たちが、死角を突くように一斉に跳びかかる。

 ケントは叢雲を鞘に収めて、深く腰を落とし、居合の構えをとった。嵐のような襲撃を前にしても、その呼吸は驚くほど静かだ。

(凪姉さんに言われた通り……躊躇わずに、一気にいく!)

 ケントの意識は極限まで研ぎ澄まされ、周囲の音が消える。迫りくる爪の風圧。牙が空気を切る音。それらを全部、ケントは眼ではなく体全体で捉えていた。

 四方八方から肉薄する牙と爪。それらがケントの喉元に届く寸前、白銀の刃が円を描くように閃く。

(抜刀・疾・環⦅まどか⦆!)

 抜刀と同時に放たれたのは、自身を軸とした完璧な円を描く全方位一閃。『叢雲・白刀』の鋭利な刃が空気を切り裂き、襲いかかったシルバーウルフたちの胴体を易々と断ち切っていく。

 ギャウッ! という短い悲鳴と共に、十体のシルバーウルフが地面に転がった。

 他の生き残った個体はシュタールウルフの鋭い咆哮に反応し、間一髪でその刃から逃れていた。

「……っ、浅かったか」

 シュタールウルフは一瞬で技の間合いを見切り、再び吠える。それは「付かず離れずの間合いを保ち、隙を突け」という、冷徹なまでの包囲殲滅の命令だった。

 さらに、シュタールウルフの鋼鉄の毛並みがバチバチと青白い火花を散らし始める。

「雷魔法まで使うのか……!」

 シュタールウルフが天に向かって咆哮すると同時に、晴天の平原に激しい雷鳴が轟いた。

ドォォォンッ!!!

 ケントの頭上から、容赦のない落雷が降り注ぐ。焦げた土の匂いが鼻を突き、衝撃波が草を薙ぎ倒した。

(……くっ、ただの肉弾戦だけじゃないんだ! 距離を取って魔法で削るつもりか……!)

 ケントは『叢雲・白刀』を構えて、地面を焼く雷撃を紙一重で回避する。しかし、その着地を狙って、周囲のシルバーウルフたちが主の魔法に合わせるように波状攻撃を仕掛けてきた。

 狼たちは雷撃に合わせるように包囲を狭める。

 絶体絶命の光景だが、ケントの瞳にはまだ静かな闘志が宿っていた。

(……くっ、素早い上に遠距離から魔法なんて。だったら……!)

 ケントは迫りくる雷撃を横跳びに回避しながら、空いた左手を地面へと向けた。

「相手が速いなら……こっちの土俵に来てもらう!」

(――重力系統初級拘束魔術・グラビティープレス!)

 ケントが魔力を一気に解放した瞬間、彼を中心とした半径数十メートルの空間に、目に見えない重圧がのしかかった。

「……ガウッ!?」

「クゥン……!」

 平原の草が地べたに張り付き、ケントに飛びかかろうとしていたシルバーウルフたちが、まるで巨大な見えない手に押さえつけられたかのように、その場に崩れ落ちる。鋼鉄の進化種であるシュタールウルフでさえ、突然の重力負荷に足がもつれ、地に伏した。落雷の魔法も、術者の集中が乱れたことで空中で霧散していく。

「ここで決める!」

 重力の影響を自らの魔力で相殺しているケントだけが、鉛のような空気の中を滑らかに動き出す。

 その手に握られた『叢雲・白刀』が、青白い火花を散らしながら吼えた。

(――断刀・雷・十六連!)

 刹那。重力に縛られた狼たちの間を、ケントの斬撃が雷となって駆け抜けた。一閃、二閃と重なるたびに雷鳴が平原に轟き、生き残っていたシルバーウルフの群れを一瞬にして沈めていく。

 十六の斬撃が止んだ時、重力圏内にいたシルバーウルフはすべて、その場に崩れ落ちていた。

「……あとは、君だけだ」

 ケントが『叢雲・白刀』を構え直し、静かにシュタールウルフへ歩み寄る。

 だが、群れの王はまだ諦めていなかった。

 重力に押し潰され、四肢から血を流しながらも、シュタールウルフは最期の力を振り絞って天を仰いだ。

――ガァァァァァァァァッ!!!

 それは、これまでとは比較にならないほど、魂を震わせるような咆哮だった。直後、周囲の魔力が暴走し、空が真っ黒な雲に覆われる。生き残っていた草が、嵐の前のように激しく揺れた。

「っ……また落雷!? さっきよりずっと大きい……!」

ドォォォォォォンッ!!!

 それはまさに、天の怒りそのものだった。シュタールウルフの「最後の足掻き」として放たれた巨大な落雷が、ケントを、そして立ちはだかるすべてを焼き尽くさんと頭上から降り注ぐ。

 平原全体を飲み込むような広範囲の雷撃。地響きと共に迫る光の柱を前に、ケントは逃げるのではなく、逆に刀を深く、低く構えた。

(……この落雷ごと、斬るしかない……!)

 その瞬間、まるで刀が反応したかのように『叢雲』が眩い白光を放ち、ケントは直感的に理解した。

(……これだ!)

 ケントは迷うことなく、迫りくる雷霆に向けて叢雲を突き出した。すると、シュタールウルフが放った巨大な落雷は、ケントを焼き尽くすことなく、吸い込まれるように刀の刀身へとまとわりついたのだ。

 まるで刀そのものが雷を喰らっているかのようだった。

 白い刀身は歓喜するように震え、眩く輝いた。

(――断刀・雷・撃!)

 ケントが雷を纏った刀を一気に振り抜くと、凝縮された雷撃が一直線にシュタールウルフへと奔った。

「…………ガッ!?」

 自分の放った雷に貫かれ、鋼鉄の身体を持つシュタールウルフが、断末魔の叫びを上げる間もなく光の中に飲み込まれていく。

 轟音が止み、光が収まったとき。地面には黒く焼け焦げた跡だけが残り、沈黙した鋼鉄の王の死体だけが横たわっていた。

「……ふぅ。……危なかった」

 ケントがゆっくりと刀を鞘に納めると、平原を覆っていた重苦しいプレッシャーが霧散し、静寂が戻ってきた。風が戻り、草がゆっくりと揺れ始める。さっきまでの轟音が嘘のような、穏やかな午後だった。

 ケントはふと思った。クエストがまだ途中だったことを。

「あ……そうだ、まだ薬草もスライムも足りてないんだった」

 目の前に広がるのは、激戦の末に焼け焦げた地面と、横たわる狼たちの死骸。ケントは苦笑いしながら、空間魔法を発動した。

(空間系統初級魔法・アイテムボックス)

 ケントの近くに、ぽっかりと空間の裂け目が現れた。

「とりあえず、放置しておくわけにもいかないし……」

 ケントは手際よく、シュタールウルフの巨体と、倒したシルバーウルフたちの死体を次々と空間の裂け目へと収納していく。

「よし、片付け終わり。……さて、残りのスライム十四匹と、薬草九株を探さないと。この辺りは焼けちゃったから、少し場所を変えないとダメかな」

 ケントは『叢雲』の状態を一度確認して鞘の走りを確かめると、何事もなかったかのように再び平原の奥へと歩き出した。その背中には、先ほどの死闘の気配など微塵もない。

     *

 お昼を過ぎたあたりになると、残りの薬草探しとスライム討伐も無事に終え、ケントは街の冒険者ギルドへと戻ってきた。

 ギルドの重厚な扉を押し開けると、昼下がりで少し落ち着いた空気のフロアが広がっていた。午前中の喧騒が嘘のように、会話の声も穏やかだ。

「あ、ケント君! お帰りなさい!」

 受付カウンターの奥から、エミルがパッと顔を輝かせて声を上げた。彼女はケントの姿を見るなり、安堵したように微笑んだが、すぐに公私の区別をつけようと背筋を伸ばした。

「無事でよかったわ……いえ、当然よね。薬草十五株とスライム三十匹、ちゃんと終わったかしら?」

「はい、エミルさん。薬草もスライムの核も、指定の数あります」

 ケントがカウンターに採取袋を置くと、エミルは手際よく中身を確認し始めた。

「ええ、完璧ね。……あら、ケント君。なんだか少し、煤で汚れてない? どこかで火でも使ったの?」

「あはは、ちょっと……スライムを倒す時に、少し派手にやっちゃって」

 ケントが苦笑いしながら答えると、エミルは不審そうに彼を見つめた後、ふと思い出したように声を潜めた。

「そういえば……さっき平原の方で、すごい雷の音が聞こえたって報告が入ってるの。高ランクモンスターの仕業かもしれないから、すぐに調査隊が出る予定なんだけど、ケント君は何か見なかった?」

 その言葉に、ケントは一瞬、アイテムボックスの中にしまってある「鋼鉄の狼」の巨体を思い出した。

「ええと……あ、はい。……実は、それなんですけど」

 周囲の冒険者たちの視線が、一斉にケントの手元へ集まる。

 次の瞬間――誰もが息を呑んだ。


無事にギルドへ帰還したケント。エミルさんの心配をよそに、いよいよ「お土産」を披露する時が来たようです。調査隊が出るほどの異変を、まさか目の前のEランク少年が解決したとは、まだ誰も思っていません。そこまで和数をかけるつもりはありませんので、次回の「驚愕の査定タイム」をお待ちいただけると嬉しいです!また、ブックマークや評価などをしてくれると何よりの励みになります。よろしくお願いします!

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