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はちゃめちゃな異世界帰還〜実の姉が迎えに来たので本来の世界へ戻ります〜 【旧:Reminiszenz】  作者: 龍運
一章:始まりの物語

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第16話:ケント初めての剣技

 家に帰るなり、ケントはリビングの床を指差した。

「……姉さんたち、そこに並んで正座して」

 普段は滅多に怒らないケントの低い声に、四人の姉は思わず背筋を伸ばした。

 凪でさえ軽口を叩くことなく、四人は顔を見合わせ、おずおずとフローリングへ正座する。

 四人揃って正座するその光景は、どこか滑稽でありながら、誰も笑えなかった。

「いい、今から僕が質問することに正直に答えて。……さっきの『寵愛』の加護。あれがとんでもないものだって……姉さんたちは最初から知ってたんだよね?」

 ケントがジト目で問い詰めると、四人の肩がびくりと跳ねる。

「え、えーっと……ちょっと珍しいかなー、くらいには……ね?」

 凪が目を泳がせながら答えると、シオンが観念したようにため息をついた。

「……そうね。正直に言うわ。あなたが誕生日に神様から直接加護をもらった瞬間から、それが『寵愛』の加護だってことは理解していたわ」

 シオンの告白に、ケントは一瞬絶句した後、さらに声を大きくした。

「……じゃあ、どうして教えてくれなかったの!?」

「……だって……ケントが……怖がっちゃうと……思ったから……」

 ノノが申し訳なさそうに俯くが、ケントの追及は止まらない。

「怖がる以前に、心の準備が必要だよ! 僕、普通に冒険者登録しただけなのに、いつの間にか神様からとんでもないものをもらっているなんて……。称号の部分もそうだけどそれを黙ってるなんて、無責任すぎるよ!」

 最強の姉たちが、正座したまま弟の正論に縮こまっている。特に「誕生日のあの日」からずっと黙っていられたという事実に、ケントは驚きと、少しの呆れを隠せなかった。

「もう……。他にも何か隠してること、ないよね?」

 ケントが疑いの眼差しを向けると、四人はぴたりと動きを止めた。

 次の瞬間、揃って視線を逸らした。

 その様子を見て、ケントは深く、長くため息をついた。

「……はぁ。もういいよ。どうせ今聞いたって、また『怖がると思ったから』とか言って誤魔化すんでしょ」

 意外な言葉に、正座していた姉たちが顔を上げる。

「姉さんたちが、僕のことを思って黙ってたのは分かったよ。だから、無理に今すぐ全部話せとは言わない。……でも、いつか話せる時が来たら、その時は全部隠さずに話してね。約束だよ?」

「ケント……」

「……うん……約束……する……」

 姉たちの少しだけ安心したような、それでいて申し訳なさそうな顔を見て、ケントはパンパンと膝を叩いて立ち上がった。

「よし、この話はおしまい! 今日も一緒にご飯食べよ?」

 その明るい提案に、正座していた姉たちの顔がパッと輝いた。

「ええ、もちろん! 今日はケントの冒険者登録とお祝いの日だもん。腕によりをかけて作るわね!」

「……私……ケントの……好きな……ハンバーグ……作る……」

 さっきまでの重苦しい空気はどこへやら。姉たちは競い合うようにキッチンへと向かい、包丁の音や鍋のぶつかる音が、リビングまで賑やかに響いてきた。いつもの温かな食卓の準備が始まった。

     *

 あれから半年。

季節は春から秋へ移り、金曜日に依頼をこなしてきたケントの冒険者ランクは、FランクからEランクに昇格していた。

 ケントが選ぶのは常に自分の身の丈に合った、それでいて誰かの役に立つ仕事だった。

「ええと……今日の依頼は……」

 掲示板の前でケントが手に取ったのは、二枚の依頼書。一枚は、街の薬師から出されている『薬草探し』。もう一枚は、街道近くに増えすぎた『スライムの討伐』だ。

「よし、この二つにしよう」

 派手な魔物退治や名声には目もくれず、淡々と、けれど丁寧に仕事をこなす。その姿勢はギルドの職員たちからも高く評価されていた。

「おはよう、ケント君。今日もまた手堅い依頼だね」

 受付で声をかけてきたのは、エミルだった。

「はい。今日は薬草探しと、スライムの討伐をお願いします、エミルさん」

「……ええ、受理したわ。でも、ケント君ならもう一つ上のランクの依頼でも……いえ、なんでもないわ。基礎を大事にするのはあなたの良いところだものね」

 エミルはテキパキと手続きを進めるが、依頼書を返す際、指先がほんの一瞬だけケントの手に触れた。それに気づいているのかいないのか、エミルは少し頬を上気させ、居住まいを正した。

「いい? 最近、低ランク向けの場所に高ランクのモンスターが出るっていう報告が入っているわ。スライム討伐の際も、無理は禁物よ。……ケント君に何かあったら、私が、その……ギルドにとって大きな損失になるから」

「はい! 気をつけます。いつも心配してくれてありがとうございます、エミルさん」

 ケントの無邪気な笑顔に、エミルはバインダーで顔を半分隠した。

 ギルドを出ていくケントの背中を、エミルは「今日も無事でありますように」という願いを込めた熱い視線で見送った。

 一方、ケントはエミルの言葉を胸に、クエストの場所へと足を向けた。

(高ランクモンスターが、低ランクの場所に出現か……。何もないといいけど)

     *

 街の外に広がる、どこまでも続くような緑の平原。

 秋の日差しを受けた草が、風に揺れてさらさらと鳴っている。遮るもののない青空の下、ケントは膝をついて慎重に地面を探索していた。

「……よし、これで六株目。あと九株か」

 依頼された薬草を丁寧に摘み取り、腰につけたポーチに収める。目指す数は十五株。まだ目標の半分にも届いていないが、ケントの作業に焦りはない。一株ずつ、品質を確かめながらの作業は、この半年の間にすっかり手慣れたものになっていた。

 ふと、ケントが顔を上げると、少し離れた草むらが不自然に揺れているのが見えた。

ポヨン、ポヨン。

 聞き覚えのある独特の音と共に、数体の青い個体が姿を現す。

「……スライムだ。ちょうどいいや、あっちも並行して片付けちゃおう」

 ケントは腰に下げた、今や相棒とも言える刀の柄を軽く叩く。

(……まだ、抜刀はしなくていいかな)

 ふと、半年前のあの日、武器屋から帰った次の日のことを思い出す。

 無事に冒険者登録を済ませたケントに、凪は真剣な表情でこう告げたのだ。

『ケント。これからは外の世界に出るんだから、私が教えた「技」を使ってもいいわよ。人に使う時もあるかもしれないけど、それでも躊躇わずに使いなさい。いいわね?』

 凪がずっと禁じていた、実戦用の技術。それを解禁されたことが、ケントにとっては「一人前」と認められたようで何より嬉しかった。

 さらにその夜、姉たちが見守る中でこの刀の名前を決めたことも忘れられない。

『……そうだ、この刀の名前、何にするの?』

 夕食の席で凪にそう尋ねられ、ケントは手元の刀を見つめて『そうだな……』と少し考え込んだ。

『叢雲・白刀』

 その名を口にした瞬間、姉たちは皆「いい名前ね」と笑ってくれた。

――そこで回想は途切れるのだった。

 その瞬間、ケントの思考の隙間を縫うように、一匹のスライムが鋭く飛び込んできた。

 だが、ケントは動じない。鞘から抜いた刀の一撃は、柔らかな体をすり抜けるように核だけを正確に捉え、一撃で両断した。

「これをあと二十九個か。多いな〜」

 核以外が霧散していく個体を横目に、ケントは腰を落として薬草採取を再開しようとした。……が、すぐにその手は止まった。

ポヨン、ポヨン……。

 周囲の草むらから、次々と青い影が這い出してくる。一匹、二匹ではない。数えるのも億劫になるほど、なんと十五匹ものスライムが、ケントを包囲するように現れたのだ。

「えぇ……今度は十五匹? さすがに一匹ずつ相手にするのは面倒だなぁ」

 ケントは苦笑いしながら立ち上がる。

(……凪姉さんに教わったあの技、こういう時に使ってみるのもアリかな?)

 まだ抜刀はしていない。しかし、ケントの手は自然と『叢雲・白刀』の柄へと伸びていた。

(斬刀・煉──十五連!)

刹那。

 目にも留まらぬ十五条の閃光が平原を駆け抜けた。十五匹のスライム全ての核が寸分の狂いなく両断された直後、切り口から噴き出したのは、紅蓮と形容してしまうほどの炎だった。

 ボッ、という激しい音と共に、スライムの核を包んでいた肉体が一瞬にして蒸発し、平原に白い湯気が立ち込める。後に残ったのは、高熱で断面が焼き切られた十五個の核だけだった。

 風が湯気を散らし、平原の草がしんと静まり返った。

 そこへ、かすかな異臭が鼻を突いた。

 鉄錆のような、嫌な匂い。のどかな草の香りとは明らかに混じり合わない、血を連想させる臭気だった。

(……変だな。ただのスライムが出る場所で、こんな臭いがするなんて。さっきエミルさんが言っていた『高ランクモンスター』の影響、かな……)

 ケントは摘みかけの薬草から手を離し、周囲の警戒を強める。風が止み、草一本も揺れない静寂の中で、ケントだけが呼吸を整えながら立っていた。

「これならあと十四匹もすぐ終わるかな。……あ、でもこれだけ派手にやっちゃうと、エミルさんの言ってた『高ランクモンスター』に気づかれちゃうかも」

 ケントが苦笑いしながら、熱を帯びた刀を鞘に納めようとした、その時だった。

――グォォォォォォォォォッ!!!

 湯気の向こう側、平原の奥深くから、空気を震わせるほどの咆哮が轟いた。地面が、足の裏からかすかに揺れた。

 同時に、先ほどまで漂っていた鉄錆の臭いが、むせ返るような血の臭いへと変わる。

(……来た。今の炎と音で、呼び寄せちゃったみたいだ)

 ケントは納刀するのをやめ、再び柄を強く握り直した。

 湯気が晴れた先に、ゆっくりと姿を現したものがいた。

 その姿を見た瞬間、ケントの表情から笑みが消えた。

 Eランク冒険者が活動するこの平原に、本来なら決して現れるはずのない存在が、ゆっくりと姿を現した。

ついに『叢雲・白刀』を使い、剣技を披露したケント。スライムを一瞬で蒸発させる圧倒的な威力でしたが、その派手な炎が、平原に潜んでいた凶悪な魔物を引きずり出してしまったようです。この『叢雲・白刀』を振るう本格的な高ランクモンスター戦は、まさにこの直後が「初」となります!あまりお待たせしないよう、テンポよく進めていきます。お待ちいただけると嬉しいです!また、ブックマークや評価などをしてくれると何よりの励みになります。よろしくお願いします!

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