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第15話:青い可能性

 凪に首根っこを掴まれたまま、引きずられること数分。

 活気ある大通りを一本外れた、重厚な鉄の叩き合う音が響く一角に、その「場所」はあった。

「ふふーん、着いたわよ! ここが私イチオシの場所。腕利きの冒険者がこぞって通う、この街一番の武器屋よ!」

 凪が武器屋の扉を勢いよく開け、店内に向かって朗らかな声を上げた。

「おっちゃん死んでるか〜? それともまだ生きてる〜?」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、奥の作業場から威勢のいい声が返ってくる。

「おう、誰が死ぬかよ! ったく、入ってくるなり縁起でもねえことを。凪、お前さんの声は相変わらず店中に響くなあ!」

 煤で汚れた顔をタオルで拭きながら、ニコニコと笑って出てきたのは、小柄だが岩のようにがっしりとした体格の男――親方の剛吉だった。

「ひゃはは! だっておっちゃん、この前会った時『もう腰が限界だ〜』とか言ってたじゃない」

「へっ、あんなのただの愚痴だ。ほれ、今日はお客さん連れか?」

 剛吉が視線を凪の背後に向ける。そこには、二人のやり取りに呆気に取られていたケントが立っていた。

「そうよ。私の可愛い弟のケント。今日、冒険者登録したばっかりなの。ケント、ほら。このおっちゃんがここの店主の剛吉さん。腕は確かだから、挨拶しときなさい」

「あ……初めまして、ケントです。よろしくお願いします、剛吉さん」

 ケントが丁寧にお辞儀をすると、剛吉は「お、いい返事だ」と満足げに笑ってケントの肩をバシバシと叩いた。

「おう、よろしくなケント坊主! 凪の弟か、こりゃまたとんだ災難……おっと、賑やかでいいお姉さんを持って幸せだなあ!」

 剛吉はケントの手をひょいと取ると、まじまじとその掌を観察し始めた。

「……ほう。いい手をしてる。ただの新人じゃねえな。凪、こいつは本物だ。……いいだろう、今日は登録祝いだ。奥の『とっておき』から、お前さんにぴったりの獲物を一緒に選んでやろうじゃねえか」

「本当!? やったわねケント! おっちゃんの『奥』は、普通の人には見せないんだから!」

 ケントは剛吉の気さくな態度にホッとしながらも、心の中で首を傾げていた。

(……奥? 売っていない商品があるのかな。表の武器とは何が違うんだろう)

 剛吉に案内された店の奥には、表の棚とは空気が違う、抜き身のままでも寒気がするほどの業物がずらりと並んでいた。

「……ほう、これだけのモンを見て気圧されねえか。いい度胸だ。で、ケント坊主。おめぇさん、何が使えるんだ?」

 剛吉の問いに、ケントは指を折りながら素直に答えた。

「ええと……一通りのことは教わったので、剣一本、双剣、槍、弓なら使えます。でも、一番長く触っていたのは剣一本のやつです」

「……全部だと? ったく、器用な坊主だ。だが、まずは基本を見せてもらうぜ」

 剛吉は並んだ業物には目もくれず、壁に立てかけられていた一本の木剣をひょいと放り投げた。受け取ったケントは、その重さに少しだけ驚く。木製とは思えないほど、ずっしりと芯の詰まった感触だ。

「いいか、そいつでいい。そこら辺で軽く一振りしてみな。……もちろん、本気じゃなくて『軽く』だぞ?」

「分かりました。……えいっ」

 ケントは言われた通り、足場を固め、空を切るようにして右から左へ横に一閃した。――ヒュンッ!!!

 鋭い風切り音と共に、目に見えない「何か」が空気を切り裂いて飛んだ。直後、数メートル先にある石造りの壁から、パキッという硬質な音が響く。

「……あ。すみません、剛吉さん。壁に傷をつけちゃいました……」

 ケントが申し訳なさそうに指差した先。そこには、数センチほどの深さで、一直線の「斬撃の跡」が刻まれていた。刃のない木剣で、それも軽く振っただけの風圧で、石壁を物理的に切り裂いたのだ。

「…………おいおい、嘘だろ」

 剛吉は開いた口が塞がらないまま、その傷跡をまじまじと見つめた。木剣で「打撃」を与えるならまだしも、風圧だけで「斬撃」を飛ばすなど、一流の剣士でもなければ不可能な芸当だった。

「ケント……お前、今のを『軽く』振ったのか?」

「…はい。すみません。」

 平謝りするケントの横で、凪は腰に手を当てて胸を張った。

「ふふん、どう? 驚いたでしょ、おっちゃん! これが私の自慢の弟、ケントなんだから。すごいでしょ!」

 剛吉は呆れたように凪を一瞥したが、すぐに視線をケントに戻し、ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべた。

「……へっ、全くだ。とんでもねえ掘り出し物だぜ。おい坊主、謝るんじゃねえ。……むしろ、今日までこいつが眠ってたのは、おめぇさんと出会うためだったのかもな」

 剛吉は踵を返し、作業場の最奥、厳重に布が掛けられた一角へと迷いなく向かった。奥から取り出されてきたのは、装飾こそ質素だが、鞘に収まったままでも空気が震えるような存在感を放つ一振りの刀だった。

「……こいつは、俺が数年前に打ったもんだ。だが、自分でもどうやって完成させたのか、今となっては製法すらさっぱり分からねえ」

「えっ、剛吉さんが作ったのに、分からないんですか?」

「ああ。……正直に言えば、打っていた時の記憶が一切ねえんだ」

 剛吉の言葉に、ケントと姉たちが顔を見合わせる。

「自分が打った武器かどうかなんて、職人なら触れば一発で分かる。こいつは間違いなく俺が打った俺の作品だ。だが、どうやって火を入れ、どうやってこの形にしたのか……。あの時の俺が何を見ていたのか、思い出そうとすると霧がかかったようになりやがる。……ただ、終わった後は立っていられねえほど泥のように疲れ果ててたことだけは覚えてるぜ」

 剛吉は刀をケントへと差し出した。その、人を寄せ付けないような冷たい美しさを湛えた刀を見ていたケントと凪を横に、それまで静かに場を観察していた雅が突如口を開いた。

「おっちゃん、この武器の説明の紙は?」

 その冷静な指摘に、剛吉はハッとしたように自分の頭を叩いた。

「いっけね、忘れるところだった。……これが武器の特性について書いた紙だ」

 剛吉がカウンターの奥から引っ張り出してきた古びた紙を、ケントと姉たち四人全員が覗き込む。そこに記されていたのは、およそこの世の理を超えた「異常」な数値だった。

「……っ、何よこれ。嘘でしょ……?」

 普段は快活な凪が、その紙を見た瞬間に息を呑んだ。

【鑑定結果】

 名称: (未設定)

 耐久値: 12,600

 保有スキル:『自動修復』

       『自己成長・進化』

「……耐久値、一万二千六百。なるほどね」

 シオンが短く呟く。業物として見れば確かに高い数値だが、伝説級とまではいかない。自動修復にしても、稀ではあるがこの世に存在しないわけではない。

「耐久値と修復……。これなら『良い武器』で済む。……異常なのは、こっち」

 ノノの細い指が、二つ目のスキル――『自己成長・進化』を指し示した。

「……持ち主の……成長に合わせて……武器そのものが……進化? これって……『神器の卵』と……同じ特性……だよ……」

 その言葉に、店内の空気が凍りついた。神器。神の領域に属する、世界の理を書き換えかねない武具。その「雛形」とも言える性質を、目の前の無骨な職人が、あろうことか「無意識に」打ち出してしまったのだ。

「おっちゃん……これ、自分が何を作ったか分かってるの?」

 シオンがいつになく真剣な表情で、剛吉を睨み据えた。

「ああ、分かってるさ。だからこそ、誰にも見せずに奥にしまってたんだ」

 剛吉が頭をかきながら苦笑いするが、姉たちの追及は止まらない。

「いい、剛吉さん。約束して。こんな代物、二度と作らないで。……いいわね?」

 普段は穏やかな姉たちまでが、逃げ道を塞ぐように剛吉に釘を刺す。神の領域に触れる技術は、時として職人自身を、そして世界を破滅させかねないことを彼女たちは知っていた。

「へっ、言われなくても分かってるよ。さっきも言ったろ? どうやって打ったか記憶にねえんだ。二度と、なんて言われても、逆立ちしたって作れやしねえよ」

 剛吉は降参だと言わんばかりに両手を上げると、再びニヤリと不敵に笑い、ケントを見た。

「さあ、話は終わりだ。……ケント坊主、こいつを握ってみな。その武器が、お前を主として認めるか……試させろ」

 ケントは姉たちのただならぬ様子に緊張しながらも、ゆっくりと、その柄を握りしめた。

 ケントが柄を握りしめた瞬間、静まり返った店内に異変が起きた。

 ケントの足元から、揺らめくような薄い青色の気体が立ち昇り、一瞬にして彼を包み込んだのだ。

 それは静かながらも圧倒的な圧を放ち、鮮烈に輝きていた。そして、スッと消えていった。「…………今の、なんだったの?」

 呆然として自分の手を見つめるケントに、剛吉はニヤリと笑って横の凪を顎で示した。「へっ、俺が説明するより、その熱烈なファンのお姉ちゃんに聞いた方が分かりやすいだろうぜ」

 振られた凪は、待ってましたと言わんばかりに胸を張り、ケントの肩に腕を回した。「いい、ケント? 今の青いのは、あなたの内側に眠ってる『潜在能力』が形になったものよ! あなたがこれからどれだけ強くなれるのか、その可能性の大きさを武器に見せつけたの!」

「僕の……可能性?」

 聞き返すケントに、凪は「そうよ!」と力強く頷く。

「……でも、武器が認めるって、どういうことなの?」

 ケントが不思議そうに首を傾げると、剛吉が腕を組みながら言葉を添えた。

「ああ。普通のなまくらなら誰が振ろうと同じだが、魂の入った優れた武器ってのはな、誰に使われるかを自ら選ぶのさ。そいつはおめぇさんの今の青い光を見て、歓喜してやがった。……おめぇさんは、この『神器の卵』の主に選ばれたんだよ」

 凪は自分のことのように鼻を高くして、ケントを抱き寄せた。

「すごいでしょケント! この子は、あなたじゃないとダメだって言ってるのよ!」

 ケントは自分の手に残る、あの温かな余韻を噛み締め、改めてその刀を強く握り直した。

職人の記憶にない禁忌の一振り。ケントの持つ『龍運』が引き寄せた運命の出会いでした。この武器の真価は、次なるクエストの初陣で明らかになります!長々と溜めるつもりはありませんので、テンポ良く物語を動かしていきます。ぜひ評価やブックマークでケントたちの旅を応援してくださると嬉しいです。よろしくお願いします!

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