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第十話:はじめてのステータス鑑定

ケントは、朝食の席でシオンが放った言葉に、思考が真っ白になった。

「ケント、あなたに伝えないといけないことがあるの」

「えっ、なに?」

「12歳になる年に、学校に行くための受験をすること。それと――今日から冒険者ギルドに行って、実績を積んでもらうわ」

「……えっ? じゅ、受験? それに、ぼ、冒険者……!?」

あまりに唐突で重い二つの宣告。ケントは、手に持っていたパンを危うく床に落とすところだった。

「冒険者は……なんとなく分かるよ。魔物を倒したりするんだよね? でも、受験って……?」

 ケントの戸惑いに、姉たちは顔を見合わせ、それから慈しむように微笑んだ。

「いい、ケント。今まであなたが頑張ってきた『文字の読み書き』の時間。明日からはそれを、『クラス分けのための勉強』に変えていくね」

雅がケントに試験について説明をし始めたのだった。

「……クラス分けの、勉強?」

 雅は頷き、その理由を丁寧に説いていく。

「ええ。学校にはたくさんの子が集まるけれど、みんなが同じ授業を受けるわけじゃないのよね。試験の結果によって『クラス分け』が行われるわ。成績が良い子ほど、より高度な魔法や武術を学べるクラスに入れるね」

 シオンはケントの目を見つめ、優しく、けれど力強く言った。

「……ケントには、最高の環境で学んでほしい。だから、自分の実力を証明するために試験を受けるのよ」

 前の家では、学ぶことすら許されなかった。けれど、ここでは「上」を目指すための努力が許されている。ケントはゴクリと唾を飲み込んだ。

「わかった。……けど、さっき言ってた冒険者の方は? いつから行くの?」

 ケントの前のめりな言葉に、凪は満足そうに目を細めた。

「安心して。準備はもうできているわ。……朝食が終わったら、まずは冒険者ギルドに行って、あなたの名前を登録しましょう」「今日、今から……!?」

 あまりの展開の速さにケントが慌てたのを見て、凪はクスリと笑って言葉を続けた。

「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。すぐに出発するわけじゃないわ。……その前に、まずはあなた自身に『ステータス』について知ってもらいたいから」

「ステータス……?」

 またしても知らない言葉。けれど、その響きには不思議な高揚感があった。凪は人差し指を立てて、ケントに語りかける。

「ステータスっていうのはね、あなたの心と体に宿る『力』を数字や言葉にしたものよ。どれくらい力が強いか、どんな魔法が得意か、そして――あなたにどんな『才能ギフト』が備わっているか。それがすべて記されているの」

「僕の……才能……」

「ええ。本来、それは魂の奥深くに眠っているもの。だから、ギルドや教会にある特殊な魔道具を使って『鑑定』を受けないと、最初は自分でも確認することができないわ。でもね、一度でもその扉を開けてしまえば、次からはいつでも自分の意思で、目の前に映し出すことができるようになるのよ」

 凪はケントの肩に手を置き、真っ直ぐに見つめた。

「今の自分がどれだけ強いのか。そして、これからどれだけ成長できるのか。それを知ることは、冒険者として生きるためにも大切な指標となるわ。」

「いい、ケント? ステータスは大きく分けて『パラメーター』『スキル』『加護』の三つに分類されるわ」

 凪は机の上に指で図を描くようにして説明を続けた。

「まず『パラメーター』には、レベル、体力、物理的攻撃力、物理的防御力、魔力量、魔力的攻撃力、魔力的防御力、運、そして速度……この合計九つの項目があるの。そして、レベルを除いた八つの数値を平均したものを『ステータス平均』と呼ぶわ。これが、その人の純粋な基礎体力を示す指標になるのよ」

「レベルだけじゃなくて、平均っていうのも大事なんだね……」

「そうよ。レベルが低くても、この平均値が高ければ、それだけ潜在能力が高い証拠になるわ。……次に『スキル』は、あなたが今できることを形にしたもの。そして『加護』は、神様から特別に授かった力よ」

 凪の説明を、ケントは一言も漏らさぬよう胸に刻んだ。

 自分の価値が数字で暴かれる怖さと、それ以上に、姉たちが信じてくれている「可能性」への期待。ケントは力強く頷いた。

「準備はいいかしら? 忘れ物はない?」

 シオンの問いかけに、ケントは自分の小さな手と、姉たちが用意してくれた清潔な服を確かめる。

「うん、大丈夫!」

「いい返事ね。じゃあ、行きましょうか」

 家を出ると、活気ある街の風景が広がっていた。

 道中、凪が

「何かあっても、私たちが後ろにいるから安心していいわよ」

と、物騒だが頼もしいアドバイスをくれる。

 賑やかな大通りを抜け、街の中心部へと差し掛かった時、その建物は姿を現した。

 ひときわ頑強な石造りの建物。

 入り口の上には、剣と盾を交差させた巨大な紋章が掲げられている。

 開け放たれた重厚な扉の奥からは、見たこともないほど体格の良い男たちや、鋭い眼光の戦士たちが放つ熱気が溢れ出していた。「ここが……冒険者ギルド……」

 ケントはゴクリと唾を飲み込み、その扉の前に立った。

「す〜、ふぅ〜。……よし!」

 深く呼吸を整え、ケントは自分の身長ほどもある巨大な両開きの扉を、精一杯の力で押し開けた。

 ――ギィ、と重厚な音が響き、中の熱気が一気に溢れ出す。

 直前まで響いていた荒々しい笑い声や、ジョッキがぶつかり合う音が、水を打ったように止まった。

 酒の匂いと、使い込まれた鉄の匂いが立ち込める広い空間。

 そこにいた何十人もの冒険者たちが、一斉に視線を入り口へと向けたのだ。

「……なんだ、子供か?」

「迷子じゃねえのか、ここはガキが来る場所じゃねえぞ」

「……なんだ、子供か?」

「迷子じゃねえのか、ここはガキが来る場所じゃねえぞ」

 大人たちの放つ強烈な「圧」に、ケントの心臓は早鐘を打つ。けれど、背後にいてくれる姉たちの気配が、ケントの震えを止めてくれた。

 ケントは真っ直ぐに顔を上げ、ギルドの奥に鎮座する大きな受付カウンターへと歩き出した。

 一歩、また一歩。

 荒くれ者たちの視線を跳ね除けるようにして進み、ケントはカウンターの縁をギュッと握って言った。

「あの……っ! 冒険者の登録をお願いします!」

 子供特有の高い、けれど澄んだ声が、静まり返ったギルド内に響き渡った。

 その瞬間、再び時が止まる。

「……は?」

「いま、登録って言ったか……?」

「あんなチビが、本気かよ!」

 周囲からどよめきが沸き起こる。鼻で笑う者、信じられないと頭を抱える者。

 だが、その騒ぎを切り裂いたのは、受付の女性の驚きに満ちた声だった。

「……は、はい。冒険者登録ですね。……ええ、わかりました。ギルドとしては、実力さえあれば年齢は問いませんので」

 受付の女性は、手際よく準備を始めた。

 彼女がカウンターの奥から取り出したのは、淡く青い光を放つ、透き通った水晶玉だった。

「では、まずはこちらの『鑑定の水晶』に手を触れてください。これであなたの現在のパラメーター、スキル、そして加護を確認します」

 ギルド内の冒険者たちが、固唾を飲んで見守る。

 先ほど凪から聞いたばかりの言葉――自分のすべてが数字になる瞬間が、すぐ目の前にあった。

「……っ」

 ケントは小さく息を呑み、震える右手を伸ばした。

 ひんやりとした水晶の感触が指先に伝わる。

 ケントが水晶を包み込むように片手を当てた瞬間、水晶の内部で激しい光が渦巻き、まばゆい輝きがギルド内を真っ白に染め上げた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。ついに鑑定が始まりました。ケントの隠れた才能がどんな形で現れるのか、私自身もワクワクしながら執筆しています。もしケントのこれからの成長を一緒に見守ってくださる方がいましたら、評価や感想の部分から応援いただけると、とても大きな励みになります

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