20.手首は常に柔らかく保て
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、軽い冗談じゃよ」
「いや、重いって。おじいさんに、抹殺指令が下ってもおかしくない位に」
おじいさんがこれ以上何か危ない発言をしでかさないかと、少しハラハラしてきたモウルです。
「なあに、ワシのような無名のワナビが何を言った所で、誰も気にしやせん。読者の数も少ないしのう」
「悲しい現実だね。でも、僕はこのおじいさんの作品が気に入ったから、ちゃんと評価しておくよ」
そう言って、モウルは読み終わった童話に、最高評価点を付けました。
「ああ、ありがとうよ。たとえ読者の数が少なくても、自分の作品を楽しんでもらえたのなら、作者にとっては何よりの喜びじゃ」
「今日はこれで帰るけど、いつかまた、おじいさんの作品を読みにここへ来るよ」
そう言って、モウルはおじいさんの住居を後にします。
帰る道すがら、モウルはおじいさんの今後の人生について色々と思いをめぐらし、だんだん暗い気分になっていきました。
「すごい高齢ワナビもいたもんだ。七十歳は過ぎているだろう。いくら、ああいう素晴らしい作品を書く才能があるからと言っても、夢を見ていい年齢じゃない。そりゃあ、家族だって見放すさ。数少ないコアなファンにだけ評価されて、結局作家としては無名のまま、一生を終えてしまうんだろうな。ああ、考えるだけで悲しくなってきた」
数日後、モウルがいつものスコッパーとしての活動を終えて、自分の住居に戻ると、そこにはちょっとした変化がありました。自分が留守にしている間、作品の一つに、誰かが新たに最高評価点を付けてくれていたのです。
もしや、と思い、モウルは住居の機能を使って、おじいさんが評価を付けた作品のリストを調べました。予想通り、そこには自分の作品の名前が追加されています。
「おじいさんは近い将来、きっと大ベストセラー作家になるに違いない」
巨大都市ツーの住人だったモウルは、掌を返すのがものすごく早いのです。




