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異世界で英雄な俺。パート4
「ん?おおおおおお、なんだこの力は!」
勇者ルイスは抑えられていたであろうその力をさらに増幅させ、この薄暗い坑道を眩い光に包んだ。
集中しなければ見えないマナがむしろ強制的に目視させられるレベルであり、目つぶしの類かと思わせられるほどだ。
「力が…!溢れて、止まらないぞ!」
俺は光輝くその瞬間で、視界の端にアリアを見た。
とてつもなく体調が悪いのか、ぐったりとしておりもどしてもいた。
すぐに駆け付けたいところではあるが、ルイスのマナで何も見えない。
「ルイス!何も見えない。力を抑えてくれ」
「無理だ!制御できない!」
これは困った。
マナとは消費するものであり、ほっておけばこれだけのエネルギーだ。
すぐに落ち着く事は想像ができるが、
アリアのもとに行きたい。
「…お父様」
目隠しをされた状態で手探りでアリアの方角に向かった時、アリアに優しく抱擁された。
「アリア、大丈夫なのか」
「はい、いえ、大丈夫ではありませんが、覚悟していたことです」
「…覚悟?」
「私の話です。お父様は気にせずとも問題ありません。それよりもあの女の力、制御させないと話になりませんね」
ルイスはそのパワーに酔っているのか、高笑いをしながら上限なくマナを放出している。
どちらにしても消費してもらわないと制御ができないのであればこれはこれでいいのではあるが。
「おそらくは、このマナの光が地表にまで到達していると思います。地上から見えれば光る大地。危険です」
俺たちはヒューマンから追手が掛っており、身を隠す必要がある。
センターアースからドワーフの里までどの程度離れているかは知らないが、アリアの落ち着きようからしてかなりの距離ではあるのだろう。
「ここがドワーフの里近郊であることも良くありません。ドワーフの里が突如として光輝き、異質なマナを大量に放出しているとなると」
「…異世界人の召喚」
「さすがお父様。その通りです。他の3大陸のそれぞれが疑心暗鬼になりせめぎ合い、一触即発の状態です。でも悪い事だけではありません」
時間が稼げるという事か、今はどの国も動きがとりずらい。
ヒューマンに関してはそれらしい俺たちが暴れまわったあとで、この召喚の為の陽動と考えるのが自然だ。
ルイスの力がヒューマンの抑止になるとは皮肉なものだな。
「頭がおかしくなりそうだ!マナが…とまらない!」
ルイスはハイになっている。
それにしても着衣してほしい。
目のやり場に困るが、光でなんとなくぼやけてしか見えないが、それはそれでクルものがある。
「…お父様。まだ高ぶりますか?」
かなり気まずい。
それとなく俺は自分の方向をアリアとは別に向けた。
「あの女もしばらくはそのままでしょうし、まさかこのままドワーフの里にはいるわけにもいきませんから時間も持て余しますし」
俺は冷静に考えた。
先ほどまで獣のようだったわけだが、勢いに任せてアリアまで…それはダメだ。
「いや、それはよくない…」
言い終わる前に、目の前が真っ白になった。
アリアの怖い笑顔だけが瞼のうらに焼き付く。
「お父様、あれだけの事を見せられて、私だけ拒否するなんて、なんてお優しい。きっと私の事を想っての事に違いがないわ。でも大丈夫です、お父様。今私はお父様にめちゃめちゃにしてほしいのです。お父様ご自身の意志でない事は寂しいですが、もう我慢できません。魔性の魔法を使います」
魔性の魔法。
これは魔族の中でも禁術中の禁術です。
催眠などの魔法でいう最上級にあたります。
これは対象だけではなく、双方にかける事でマナの循環のような作用があり、どこまでも増幅をしてしまいます。
本来であれば、マナは有限なのでどちらかのマナが尽きると魔性の魔法は止まりますが、お父様相手では、実質マナは無限であり、止まりません。
あの女が壊れてしまう危険性を考えて、先ほどはお父様しか掛けませんでしたが、今回は違います。
お父様と私、双方に念入りに魔性の魔法をかけ、お父様のマナを十二分に循環し、どこまでも…。
気絶と覚醒を何度も繰り返し、思考が無可能となり、お父様に身を任せてこのままここで終わってもいいと思っていたころ、ルイスの光がようやく落ち着きはじめた。
「お前たちも魔力チェックか、しかし小娘は私のようにはならないな」
反論をしたいところではあるが、上手く喋れない。
それにお父様の動きもあって、意識を保つ事ができない。
「私とお前では何かが違うという事だな。止めてほしいか」
私は止めてほしくなかった。
もう考えたくない。
もう戦いたくない。
お父様と二人だけでこのまま静かに暮らしたい。
姉妹たちの事もあるけれど、心配ではあるのだけど、きっとあの子たちもお父様の寵愛を受ける。
私は特別ではなくなり、何人かいる子供の一人になる。
優しいお父様の事だから、特別扱いなんてしない。
それがわかる。
私はきっと耐えられない。
私は今がいいのだ。
おそらくあの女がマナの制御ができるようになれば、イシス様は協力してくれる。
表向きドワーフとヒューマンは友好国。
堂々と戦えるだろう。
そうなればオーデンガルドは確実に墜ちる。
あの御仁は、姉妹たちはいないと言っていたが、さだかではない。
確かに魔力は感じなかったが、魔力を封じるアイテムもある。
オーデンガルドにいなかったとしても、ヒューマンは終わりだ。
姉妹が見つかるのも時間の問題である。
そうなった未来を感じた時、お父様を一瞬だけ信じる事ができなくなった。
私を特別扱いしてくれなくなる。
それだけはいやだ。
エルフのファーストはまだ幼い。
私より使えるという事はない。
ドワーフの子供もまだだ。
魔族の子供だけが、今、お父様の力になることができる。
私は、お父様の身体的特徴をあまり受け継がなかった。
もし姉妹の中に、黒い髪や、ルイスのような顔立ちがいたら。
お父様はどうなってしまうのだろうか。
私は、深く深く思考を鎮め、今目の前の愛しい人に集中した。
本当に幸せだった。
その幸せをルイスは破壊した。
「その辺でいいだろう。もうお前のマナも変わらないし、見ていて面白くもない」
私は急激な現実に戻され、殺意を覚えた。
眠くて眠くて、ようやく眠れたその瞬間に起こされたような気分だ。
「ルイス!え、アリア!俺はまた…本当に…すまない」
お父様も正気に戻ってしまった。
「私とその男の魔力チェックがすさまじい何かの効果がある事だけはわかった。して、これからどこかに向かうのだろう。呪いを解いてもらった恩で少し力になってやろう」
私の想定通りになっているのに、なってほしくなかった。
「本当かルイス!お前の力があれば怖いものはないな」
お父様もその気だ。
「アリア?」
お父様が不安げに私を見てくる。
それに今しがたまでめちゃめちゃにしてしまった私を気遣ってくれる。
お父様はお優しい。
でも、このやさしさは私だけのものではないのだ。
きっとルイスもこの旅を経て、どうぜお父様にくっつく。
ヒューマンの国には戻れないし、どうせ滅ぶ。
かといって、女である正体を隠されていたルイスは他の国にいっても不審者だ。
勇者でもなく、ただの女でもなくなる。
この旅が終わりを迎える時、どうせお父様は手を差し伸べる。
そしてこの女は、満面の笑みでその手を取るのだ。
お父様の価値観は特殊であり、娘である私と婚姻関係を結ぶ気がない事はわかっている。
私もそこまでは望まない。
お父様が嫌がる事は絶対にしたくない。
そこでこの女だ。
同じ種族、同郷の面持ち、私を除けばこの先もっとも関係が長くなるであろう関係値。
私はわかってしまった。
お父様には他にも奥方がそれぞれの大陸に存在している。
きっとお父様という光がこの大陸の争いを止めるのだ。
しかしお父様とて種族はヒューマンであり、肉体はひとつ。
どこかで身を落ち着けたい時、お優しいお父様の事であるから、どこかの地に偏った生活はおそらくしない。
であるならば、どの種族にも属さない、特別な存在が光る。
元ヒューマンの勇者であるが、ヒューマンに属さない特別な女。
どの種族の奥方も、この女の面構えを見えれば理解せざるを得ない。
…勝てないのだ。
わかりやすい言葉でいえば、お似合いという事だ。
私はこのストーリーを今、視えてしまった。
こんなものは千里眼でもなんでもない。
至極当然の流れになるだろう。
お父様もこの女も今はわかっていないだろう。
だからせめて、今この時はお父様を独占させてほしかった。
どうせこの先私は必要なくなる。
それほどまでにこの女の戦闘力、スキルは圧倒的だ。
唯一ものを知らないと欠点はあるが、逆にそこがお父様好みともいえる。
世の中を知らない者同士、意気投合するだろう。
そのうちマナの循環も体で覚えるくちだ。
そうなったらもう止められない。
女はどこまでも強くなり、同時にお父様も強くなる。
循環できるキャパシティが大きければ大きいほど、その力は蓄積されていく。
私程度では限度が知れているのだ。
そしてお父様は気づく。
自分の娘に対し、後ろめたさを感じていた行為がそう感じない相手がいる事に。
もう私にはこういった事はしないだろう。
私もお父様が求めていない事を無理やりもうしたくない。
私の存在価値はどんどん薄く、なくなり。
あの女の事だから、もう私に任せて魔族の領土に帰れとか言い出す。
お父様は、前に話をしたアルクエイド様の事を思い出し、危険な旅よりも安全な故郷に帰らせようとするだろう。
それは絶対に阻止しなくていけない。
これまでもお父様のお優しさを考えれば、懐妊してはいけなかった。
当然、足手まといになる。
だからまだその時期ではないとお父様に嘘をつき、魔法を絶やさなかった。
だがこの女はそんな器用なことはできない。
時間の問題だろう。
そうなればお父様の偉業の妨げにもなる。
ヒューマンは魔族とは違い、出生に時間がかかる。
お父様は身寄りのないこの女を絶対にひとりにさせない。
だから私は誰にも気づかれずこの女に魔法を使い、懐妊しないようにするだけの装置になるのだ。
私の唯一の存在価値ともいえる。
が、お父様もこの女もそんな事絶対に気づかないし、気づかせない。
「…お父様、私を愛していますか?」
私の声は震えていた。
答えなんて決まっている。
これは、いじわるだ。
「もちろんさ、アリアは俺の自慢の娘だからね」
ああ、私は一生出来のいい子供なのだと思い知る。
お父様の子供でなければ…
「もういいか、こんな薄暗くて狭いところではなく、広い場所に進むぞ!楽しみだ」
こいつ…
「まあさっきまでお前のせいでめちゃ明るかったがな」
もうお父様とこの女の距離が縮んている。
これにはお父様の力の要因もあるのだろう。
わかってはいるのに、心が…。
「アリア?」
ダメだ、お父様に心配をかけてはいけない。
私は、私だけはお父様の邪魔をしてはいけないのだ。
「いきましょう!お父様!」
私は今までで、一番の笑顔が作れたと思った。




