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26.神への抵抗

神の裁きは終わった。

氷山脈は一瞬の内に崩壊し、余波だけで周りの氷塊すら尽く破壊された。

まるで隕石でも落ちたかのようだった。

街一つ分を呑み込む程の巨大な破壊痕だけが残る。

クレーターのように海が裂け、そこを満たすように海水が渦を巻いて注がれ、大きな音を立てていく。


「嘘だろ……?」


ザカンはその有様を見て、声を震わせる。

唯一、彼は裁きを受けず全くの無傷だった。

同じように拘束されていたオスカーは、自力で紋章を解除したが、彼にその力はなかった。

そのまま息子達が、抗い続ける様子を見ている事しか出来なかったのだ。

そして残ったのは、自分一人だけ。

氷の魔力が溶けて次々に氷解する中、やっとの思いで渦巻く海を見渡す。


「オスカー! エイダ! 返事をしてくれッ!!」


二人の居場所を探す。

オスカーは裁きを防ぎ切ったのか。

エイダは助かったのか。

光の中に消えた彼らが何処に行ったのかは、ザカンには分からなかった。

本来なら脇目も振らずに探し出したいが、辛うじて残っていた氷の地も溶けかかっている。

荒れ狂う海の中を飛び込む訳にも行かない。

まるでこの場を去れと言わんばかりに、足場が徐々に失われていく。


「どうして……こんな……」


晴れた日の光だけが、ザカンを照り付ける。

喪失感に苛まれ、彼はその場から動こうとはしなかった。

するとその瞬間、泡立てる海の底から新たな気配が浮上する。


「そうか……お前が、寵愛者アマデウスか……」

「!?」


水飛沫を上げながら、目の前に何かが打ち上がると共に、ザカンの身体が巨大な鉤爪に掴み取られる。

これは竜族の手、先程まで見た氷の竜。

見間違えなどではない。

疲弊した魔将・エスゼリクが、彼を捕らえたのだ。

裁きを受けながらも魔将が生き延びていたことを知り、思わずザカンは目を見開く。


「お前はッ!?」

「良いだろう……今は、退いてやる……。この男と、引き換えにな……」


ザカンを見て、何かを察したのか。

エスゼリクは彼を殺すような真似をすることなく、翼を広げて空を舞う。

深手を負い、ふらつきながらも裁きの下った境海から飛び立つ。

力を弱らせながらも竜の力に、人の手では抗えない。

彼はそのままエスゼリクによって連れ去られる。

そうして元来た場所へ、魔族の領土へと飛び去った。







「何が、何が起きたんだ!?」

「分かりません! ただ、巨大な爆発音が……!」

「ッ! 直ぐに彼らの救助に向かう! 急ぐんだ!」

「か、畏まりました!」


神の裁きによる轟音は、大灯台にも届いていた。

眩い閃光が走った後、水平線に近い場所が爆ぜたのだ。

吹雪によって殆ど遮られながらも、地震すら起こり、大灯台の皆が恐れ戸惑う。

状況が理解できない中でも、せめてもの抵抗として警戒態勢にすら入る。

だが、そこまでだった。

時間を置かずに監視員達の目に映ったのは静かな境海、広大な海原だった。

雪雲は晴れ、あれだけの脅威だった雪嵐は、まるで幻影だったかのように全て消失した。

国を脅かしていた悪しき魔力の気配も消滅する。

オスカー達が魔将を討伐したのではないか。

この国の危機を救ったのではないか。

残った監視員達が口々に嬉しそうな声を上げる。

確かにそう思えない事もなかったが、ローファンは自然とその考えを振り払った。

楽観的な考えは出来なかったのだ。

地形を変えるほどの爆発。

魔将の討伐。

勇者の壊滅。

その状況に、彼は覚えがあったのだ。


「伝承と変わらない……あれではまるで、先代の戦いと同じではないか……!」


先代魔王が自爆し、フェーネラルを含めた先代勇者達が壊滅した戦い。

過去と同じ繰り返しが起きたような覚えが、ローファンの思考を支配した。

どうか、無事であってくれ。

すぐさま境海に向けて、魔導による捜索を行うように指示する。

魔力を無効化にする彼では捜索は行えない。

爆発直後に船を使って物理的に渡るのも危険すぎる。

ただ、境海を祈るように見守ることしか出来なかった。







『何故……?』


パラミナの大聖堂には、その距離故に裁きの余波は届いていない。

ただ女神・アナスタシアだけは顛末を理解していた。

人々を守る役目を持つ勇者が、魔将を庇ったことに関して疑問を覚える。

あのまま手を出さなければ、確実に魔将は消滅していた。

絶大な魔力を持つ邪神の徒を滅ぼすことが出来た筈だった。

それを妨害するなど、本来ならば有り得ない。

道理に反していると、彼女は伝えられていたのだ。

傍で控えていたフェーネラルは、そんな女神の様子に畏れを抱いたまま問う。


「い、一体、何が起きたのですか?」

『いえ……そうですか、引き受けます……』


すると女神は不意に宙を見上げ、何者かからの声を受け取る。

そこで答えを得たのだろう。

裁きを抗った者が現れた事で、一瞬だけ動揺を見せたが、直ぐに元の無表情に切り替わる。

疑問に思う必要はない。

ただ、あの方の指示に従えばいいのだと。

そして守るべき人族の代表、フェーネラルに告げる。


『皆に伝えよ。危機は、去ったと』


後にパラミナだけでなく、オルテシア王国にも境海の戦いは伝わった。

氷結の化身である魔将・エスゼリクと、勇者・オスカー達の戦い。

その結末は、魔将の自爆で幕を閉じた。

同時に、巻き込まれた勇者達は行方知れずとなった。

吹雪が止み、境海が元の海に戻っても、彼らが戻ってくることはなかった。

当然、騎士団を含め懸命の捜索が行われたが、痕跡は全く掴めなかった。

そして数週間もの時を経て、捜査は打ち切られる。

魔将と戦いを繰り広げたオスカー・ヒルベルト達は全員、生死不明と断定。




名誉の戦死、実質の死亡扱いとなった。

四章終了。

書き溜めがなくなってきたので、更新頻度が落ちますがご容赦ください。

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