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25.デバフ勇者、銃撃を越えて

大灯台・ロベルバが間近に迫る中、突如として多数の爆発音が前方から聞こえてくる。

周りの雑木林も俄かに騒ぎ出し、オスカー達は驚いて立ち止まった。


「今の爆発音は!?」


言い終わる直後にも、更に巨大な爆発が巻き起こったようだ。

地響きが三人の足元を揺らし、周囲に潜んでいた獣達が逃げるように立ち去っていく。

前方に見えるのは巨大な黒煙。

ナワテコ村で得た情報から考えて、既に王国軍が戦いを始めているのだ。

戦況はどうなっているのだろうか。

圧しているのか、それとも圧されているのか。

ここからでは何も判断できないため、オスカー達は焦る気持ちを抑えつつ、注意深く現場へと向かった。


「気を付けて。血の匂いがするわ」


そうして十分後。

大灯台が見上げる程に視界に広がった時、エイダが静かにそう言った。

既に新たな爆発音も、戦いの気配も感じない。

先程の騒ぎが嘘だったように静まり返っている。

オスカーは奇襲を警戒しながら、静かに剣を抜いた。

雑木林を抜けた後は、数百mの更地が続き大灯台の正門が待ち構えている。

以前、彼が護衛に就いた時から敷地内が変わったという話は聞かない。

だが雑木林を出た瞬間、咽返るような血の匂いが迫ってきた。

微かに漂う土煙の先にあったのは、百を超える騎士達の倒れ伏す姿だった。


「これは……王国兵の皆が……!」

「コイツはひでぇ……!」


大灯台に辿り着く前に瓦解したのだろう。

殆どの者が身体に大きな傷を負っている。

破損した盾や鎧の残骸が、至る所に散らばっている。

どうにか仲間を連れて後退する者もいるが、焼け石に水のような状態だ。

指示を出来る者も、それを受けて行動する者もいない。

薬師であるザカンが思わず声を漏らす程の惨状だった。

その中でオスカーは、傷ついた見覚えのある騎士を見つけ、その場に駆け寄った。


「しっかりして下さい!」

「う……まさか、オスカー・ヒルベルトですか……?」

「貴方は宮廷騎士団の副団長さんですね? 一体何が……」

「分かりません……。正体不明の敵襲を受け、反撃する間もなく我々の部隊は敗走……。ウィルズ様だけが、大灯台の内部に……」

「ウィルズが……!?」

「まさか、宮廷騎士団である我々が手も足も出ないなんて……」


王国一と呼ばれた宮廷騎士団を全く近寄らせずに壊滅させるなど、通常ならば有り得ない。

やはり此処には常識から逸脱した力を持つ者、魔将がいると結論付けて良いだろう。

先に進んだというウィルズの姿を探すために視線を巡らせると、副団長が苦しそうに血を吐いた。

吐血は臓器が傷ついている可能性が高く、放置すれば命に関わる。

他の騎士達もそれは同じだ。

どうするとオスカーが考えた直後、ザカンが自ら進み出て、懐からポーションを何本か取り出す。

そして真剣な様子でオスカー達を見返した。


「二人は灯台に行くんだ。ここは俺が何とかする」

「何とかって、まさか……!」

「止めを刺さない所を見ると、やっこさん、騎士団は眼中にないみてぇだ。寧ろ、運が良かった。お前達に付いてきたからこそ、こうやって薬師の本領が発揮できる」


オスカーもエイダも、治療は専門外だ。

ここで留まっていても、事態が好転する訳でもない。

だがザカンも一人で全ての騎士を看られる筈もなく、ポーションの量も足りない。

それは本人が一番分かっている事だ。

それでも自分が出来る事を選び、二人に先を進ませようとする。


「どの道、この先は足手纏いだ。だからお前達は後ろを振り返らずに、前だけを見て進め。良いな?」


迷っている場合ではない。

これ以上の被害を増やさないためにも、今出来るのは大灯台を占領する魔将を倒すことだけだ。

傷ついた騎士達を置いて行くのは気が引けるが、こればかりは父を信じるしかない。

少しだけ考え、オスカーは頷いた。


「……分かった。エイダ、行こう!」

「本当に、大丈夫?」

「俺達に治癒はできない。だったら今は、目の前の敵を倒すことに集中しよう。大丈夫。父さんの薬師としての腕は本物だ」

「ん……ザカン、無茶しないでね」


オスカーに説得され、エイダも同行を決意する。

そして無言で頷くザカンや騎士団を置いて、二人は更地を駆けだした。

狙いは当然、大灯台の入り口。

既に正門は騎士団が破壊した後なのか、大きな穴が開かれている。

塔自体も攻撃を受けたようで、壁が破損して崩れ落ちている箇所が見られた。

それ以外で気になるのは、辺りの地中。

爆発の跡が色濃く残っており、一面の殆どがささくれ立っていた。


「やけに荒れてる。さっきの爆発が原因なのか?」

「地面が普通より温かいわ。爆発が起きたのは、間違いないわね」


微弱な温度の変化をエイダは感じ取る。

遠距離魔導の如く、火炎の球が弓なりに飛来し着弾したのだろうか。

オスカーが爆発の正体を思案するが、突然、足元が光を放ち炸裂する。

何の前触れもない完全な不意打ち。

反射的に二人は、その場から飛び退いて事なきを得る。


「設置型の爆発!? しかもこれは魔導じゃない、もっと物理的な……」


魔力の気配は一切感じなかった。

火の魔導ではない、火薬を用いた単純な爆発のように思えた。

聞いたこともない戦術だが、騎士団が来ることを見越して、予め地面の中に爆発物を仕込んでいたのだろう。

直後、破損した灯台の壁の隙間から、幾つもの風切り音が聞こえる。

爆発とは異なる新たな奇襲。

目視が困難な物体が、高速でオスカー達に飛来した。


「何かが沢山飛んでくるわよ!」

「正体不明の奇襲ってのは、こういう事か……!」


やはり魔導の気配はない。

魔力を使用しない得体の知れない攻撃が、息つく間もなく迫り続ける。

これらの奇襲は、全て前例のない戦い方だった。

正攻法で戦う騎士団が混乱するのも無理はなかった。

ただエイダはそれらを目で捉えられるようで、手足を使って弾き落していく。

それでも人の身であるオスカーには、躱すことは出来ても、タイミングを合わせて弾くことは難しい。

元より正面から戦う事は彼の戦術ではない。

相手の掌で踊るつもりもなく、そのまま横薙ぎに剣を振るった。


「不動剣」


半径数mに渡って、デバフを行使する。

結界のように球状にデバフを持続させ、そこに触れたモノを強制的に停止させる。

魔導でも物理的な衝撃でも、関係なくその場で止めてしまう。

防御と併せて、これで人の目でも正体を見破ることが出来る。

結界に触れたソレらが、何十もの数でオスカー達の前で止まり、ようやく姿を現す。


「これは……」

「石、ね」

「石?」

「小さくて硬い石を思いっきり飛ばして来ているみたい。普通の人が受けたら、貫かれるかも」

「矢を飛ばしているようなものか。しかもこの石、妙な力を感じる」


飛来するモノの正体は、指で摘まめる程度の小さな金属だった。

先端が尖っており、対象を貫くという事に特化した構造をしている。

加えてこの金属は、触れた魔力を吸収しているようだった。

オスカーのデバフには貫通能力があるので吸収されなかったが、騎士団が壊滅した原因は、この特異な力によるものらしい。


「これを矢と考えるなら、それを飛ばす弓がある筈だ。このまま近づいて破壊しよう」

「だったら、先に目暗ましが必要ね」


相手はこちらの場所を探して狙撃してきている。

先ずは視界を奪うべきだとエイダは判断したようだ。

周囲の砂や石ごと、空気を大きく吸い込み始める。

何をしようとしているのかは、一瞬で判断がついた。

オスカーが不動剣を解除すると同時に、彼女は思いっ切り息を吐きだした。


砂塵吹クレクス


灯台の頂上に届きそうな程の巨大な竜巻が発生する。

砂の渦が地面を抉りながら辺りの視界を遮る。

オスカーがいる場所についてはエイダが調整しているのか、風圧の影響が一切ない。

ただ、彼女が砂を体内に取り込んで吐き出した事実について、彼は少し気掛かりだった。


「お腹的に大丈夫なのか、それ……」

「おやつは別腹って聞いたわ」

「……それは、意味が違うと思うな」

「そうなの? 言葉って、難しいわね?」


普通の人が砂を吸い込めば、間違いなく身体に害なのだが、エイダはきょとんとしている。

やはりと言うべきか、普通の人とは体質がかけ離れていると思わざるを得ない一面だった。

それでも気遣う事に変わりはなく、竜巻が辺りを遮っている間に、二人はその中を潜り抜けて大灯台へと到達する。

崩れた正門から灯台の一階に辿り着くと、ホール内に小さな砲台が何台も設置されていた。

以前にオスカーが来た時にはなかった代物である。

今も尚、自動で石礫を発砲するそれらを、オスカーは不動剣を振るって停止させる。

そこにエイダが足蹴りで粉砕し、奇襲したモノを全て沈黙させた。


「これは、小型の大砲みたいだ。今まで攻撃してきた石の礫は、この砲台から撃たれたものなのか」

「見て、エイダが動くとちゃんと狙ってくる。誰もいなくても、勝手に動くみたい」

「魔導を使わない高度な技術……前に来た時には、こんなモノはなかった。やっぱりこれは、ギンコを連れ去ったアレと似ている」


物理的な構造だけで魔導に似た現象を引き起こす。

それは、大司教・フェーネラル暗殺の手口と似ている。

暗殺を企てローファン司教達を洗脳し、魔王を奪い去った者が此処にいる。

そう確信すると同時に、上階から金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。

立て続けに何度も響き、戦闘音にも近いものにも思える。


「上から物音が聞こえる? 行ってみよう!」

「先頭は任せて。いくらオスカーでも、さっきの石礫が当たったら大怪我よ。でも、エイダなら掠り傷にもならない」

「これだけの武器でもエイダには無傷、か。分かった。俺は後方で援護するよ」


何が出てくるか分からない以上、前衛と後衛の役目はキッチリと果たすべきだろう。

先頭に出る彼女に頷き、彼らは上階を目指した。

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