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8.デバフ勇者、先代勇者暗殺計画

「暗殺予告!?」


オスカーだけでなく、エイダ達も驚きの様子を隠せない。

大司教兼先代勇者への暗殺予告など、王族の暗殺と同レベルに属する重罪だ。

一体、誰がそんなものを企てたのか。

暗殺を明かした事について神官達がどよめく。


「ローファン様! 彼らにそれを明かすのは……!」

「構わない。隠していても、何れは気付かれる事だ」


変に取られて余計な騒動を起こしたくないのか。

ローファンは神官達を制止しながらオスカーを見る。

依然として視線は半信半疑で、一定の距離を置いているように感じられた。


「商業都市の襲撃はフィリアから聞いている。だからこそ私は君達を測りかねている。魔族を倒す勇者なのか、魔族に寝返った裏切り者なのか」

「……これだけ事態が複雑になったのは、自分の責任でもあります。ただ、勇者としての責務を放棄したつもりはありません。そのために、此処まで来ました」

「それが君の意志か。確かに、王都の連中の殆どは君の実力に懐疑的だった。追放されたという話も寝耳に水、眉唾に感じられたが……」


一旦、言葉を区切る。

今までオスカーとローファンの間にそれ程の交流はなかったが、お互いの事は認めていた。

過去、オスカーはフィリアを勇者メンバーに引き入れる際、勇者に足る証明として、互いの力をその場で明かしていた。

その場には、先代勇者である大司教もいた。

最弱職の力が本物である事は、確かに理解していたのだ。

だからこそ、王国全土でオスカーの指名手配が行われる中、神殿都市側からは一切動きがなかったのだろう。

暫くの沈黙の後、ローファンは静かに語り始める。


「先日、結界外で不審な動きをする商人を見つけた。その者は捕まる前に自らに火を放って自害したのだが、その有様があまりに異常だったのでね。私達は力を結集して焼け焦げた残骸から一つの手紙を復元した。殆ど読めるものではなかったが、そこには確かに、大司教の暗殺を示唆する記述があった」

「商人が暗殺計画を? 何か、相手からの要求があったんですか?」

「要求はない。だからこそ不気味なのだ。かの大司教の暗殺を企むなど……単独犯とは考えられん。他にも暗殺を企む者がいる筈だ」


捕まる前に自害するという時点で、異常極まる事態だ。

命に代えても、暗殺の情報すら公にしたくなかったのだろうか。

となると、ローファンの言う通り単独犯である可能性は低い。

他にも大司教の命を狙う者がいるという事だ。

腕を組んで考えていたザカンがオスカーに小声で問う。


「何だか分からねぇな。相手はかの先代勇者様だぞ。そんなお人を敵に回すなんて、相当の自信がなくちゃ出来ねぇ筈だ」

「確かに。一線を退いても、先代魔王を倒したあの人の力は健在だ。暗殺なんて、簡単に出来る事じゃない。それにあの方の傍には、ヴァンダイン様もいる」


聞き慣れない人物の名を出したので、エイダが首を傾げる。


「ヴァンダイン?」

「大司教様の補佐をしている人だよ。グリム教の重鎮で、勇者並みの実力があるんだ。次代大司教の有力候補だって言われている」

「フィリアと同じくらい強いのね。じゃあ、その人がいれば安心なのね」


ヴァンダイン司教。

ローファンよりも地位が高く、大司教の右腕を担う人物だ。

実力はフィリアに匹敵するが、神殿都市を離れる訳にはいかないと、勇者の座を彼女に譲った経緯がある。

状況が違えば、彼が勇者メンバーの一人になっていただろう。

それ程の人物が傍にいる限り、大司教の暗殺は叶わない。

オスカーよりも、この場にいる神官達が十分に分かっている筈だった。

しかし神官を含めたローファン達は、表情を歪めて視線を逸らした。


「ヴァンダインは……もう、いない」

「えっ?」

「彼は暗殺の手紙を復元した翌日に亡くなった。今は、私がその代わりを務めている」

「な……!?」


突然の事にオスカー達も言葉を失う。

確かに、今の所ヴァンダインは一切姿を見せていない。

別件で席を外しているのだと考えていたが、既に命を落としているとは思わなかった。


「彼の死因は不明だ。外傷もなく、まるで眠るように亡くなっていた。だからこそ、我々も警戒しているのだ。早急に原因を解明しなければ大司教の命すら危うい」

「暗殺された……という事ですか?」

「恐らくは、な」

「まさかあの人が……その混乱の中で俺達が来たのなら、警戒されるのも当然ですね」

「そういう事だ。今は君達に関わっている時間がない。事が収まるまで、このまま拘束させてもらうぞ」


ヴァンダインを狙ったのは見せしめのつもりか。

大司教の直近が亡くなったとなれば、ローファン達の警戒も頷ける。

神官達が改めてオスカー達を取り囲む。

既に武器を没収されている身だ。

事を荒立てるつもりはなく、抵抗する気も毛頭ない。

全身武器に近いエイダも、拘束を是として大人しくしている。

そんな時だった。


「どういう事? 兄さん、この人達は一体!?」

「テリア!? 聞いていたのか!?」


見覚えのある少女がこの場に姿を現す。

先程盗賊から助けた修道女の一人、テリアだ。

彼女はローファンを兄と呼び、周りの状況に困惑している様子だった。


「さっきの女の子だわ」

「ローファンさんの妹だったのか……」


テリアの視線はオスカー達に向けられる。

変装したままでも、今までの会話を聞いていたなら自然と正体が分かる。

盗賊から救ってくれた恩人が、王国で指名手配されている大罪人であることに。


「もしかして、貴方は勇者・オスカーだったんですか!?」

「あ、あぁ……」

「そんな……じゃあ、あたしは何も知らずに……」


愕然とするのも無理はない。

オスカーの来訪は一部の信徒しか知らない筈だ。

自分を騙して近づいていたとなれば、裏切られたと思うのは道理だ。

困惑する視線は、次の瞬間には侮蔑のそれに変わるだろう。

だが彼女の行動は、オスカーの予想と違った。

兄であるローファンに駆け寄り、神官達を引き留めようとする。


「兄さん、待って! この人達は、襲ってきた盗賊を追い払ったんだよ!? それに大司教様の結界だって、通り抜けた所をあたしは見たよ!」

「……そうか。先程の盗賊騒ぎは、彼らが対処していたのか」


ようやくローファンも合点がいったようだ。

先程連絡を受けた、盗賊達を退けた旅人が何者であるか。

肯定も否定もしないオスカー達に対して、少しだけ目を伏せる。


「盗賊の件については感謝する。だが、それとこれとは話が別だ」

「兄さん……!」


それでも拘束する話に揺るぎはない。

テリアは非難したそうだったが、オスカーが横から口を挟む。


「いや、良いんだ。ローファン司教の言い分は正しい。ここで俺が勝手に動くのは、周りの不安を煽るだけだ」

「でも……」

「拘束だけで済ませてくれるんだ。俺はそれに従う。二人共、それで良い?」


本来なら大修道院に足を踏み入れることすら許されない。

拘束の二文字が、最大の譲歩であることは分かっていた。

オスカーが返答を求めると、二人も抵抗なく頷く。


「構わねぇぜ。こっちとしても文句はナシ、だ」

「捕まるのは好きじゃないけど、頑張るわ」


当事者の三人に異論はない。

彼らが口を揃えて肯定するので、テリアもそれ以上は何も言えなくなった。

複雑そうな表情をしたまま、兄にその場を譲る。

ローファンは気を取り直し、神官達に拘束の準備をするよう手で合図を送った。


「理解が早くて助かる。だが例外はいる。その者だけは、封印対象として私手ずから厳重に隔離しよう」

「一体誰を……まさか……!」


封印されるだけの危険人物。

オスカーは、自分の事かと危惧したがそれは違った。

ローファンや周囲の神官達は、一斉にエイダの肩に乗っている生物を見下ろす。

そこにいるのは銀色に輝く九尾の狐。


「他でもない魔王。お前の事だ」


冷徹な言葉にエイダがハッとして横を見る。

宣告されたギンコは何も言わず、静かに両目を瞑るだけだった。







大修道院の中心部、大聖堂。

色とりどりのステンドグラスが、静寂に包まれた聖堂内を照らしている。

ステンドグラスには四体の神が描かれており、雄大な雰囲気を醸し出していた。

そんな聖堂で一人、白髪の老爺が祈りを捧げている。

何人かの神官や信者達もその場にはいたが、男の祈りを邪魔しないように頭を下げたまま一線を引いていた。

身に纏う衣装から見ても、明らかに他よりも位が高く見える。

そこへローファンがやって来る。

暫く経って祈りが終わり、彼が静かに歩み寄ると男は黙って頷いた。


「すまない。待たせたようだね」

「いえ、問題はありません」

「彼の様子はどうだったかね?」

「非常に落ち着いていました。商業都市の襲撃を目論んだ男とは思えない程です」

「フィリアの伝言は正しかったという訳だね。出来る事なら、助力を頼みたいところだが……」

「安心はなりません、大司教。結界を抜けたとは言え、暗殺の危険がある状況です。細心の注意を払うべきかと」

「分かっているとも。今は拘束しておくべきだろう。それが最大の譲歩だ」


老爺の名はフェーネラル。

グリム教の大司教にして、先代勇者最後の生き残り。

十年以上前、先代魔王と戦い勝利した生ける伝説でもある。

フェーネラルは既にオスカー達の来訪を知っていた。

フィリアからの手紙を受け取り、彼女の意志を信用した上での行動。

もし受け入れられていなければ、オスカー達は路頭に迷う事になっていただろう。

しかし、これ以上の干渉は出来ない。

ローファンの言う通り、フェーネラルには暗殺予告がある。

本来なら彼らの言い分を聞き入れる所だが、余計な混乱は避けなければならなかった。

そして、フェーネラルの危惧するモノはもう一つあった。


「して、かの者は?」

「こちらに。既に彼によって力を制限されていますが、念のため封印処置を取っています。今の状態では身動き一つ取れません」


ローファンは合図を出す。

複数の神官達がやって来て、両手に抱える程度の巨大な水晶を持ってくる。

水晶の中には一匹の生物、魔王・ギンコが囚われていた。

オスカー達から引き渡された彼女は、デバフの弱体化を受けたまま更に封印処置を施されていたのだ。

ここまで厳重に隔離されては何も出来ない。

それでもギンコの態度に変化はなく、多少眉を動かす程度で殆ど動揺はない。

対するフェーネラルは、新たな魔王を見極めようとしていた。


「お初にお目にかかる。今代の魔王よ」

「貴様が先代を倒した勇者か。どれ程の者かと思うておったが……ここまで、老いているとはな」

「元より若くはなかったのでね。今ではこの老体、いつまで持つかも分からない程だ」

「だと言うのに、暗殺を予告されるとはのう。同族同士の争いとは、醜いものじゃ」


ギンコは敵同士のいざこざに呆れているようだった。

暗殺に関与している様子は一片もない。

仮に関与していれば、結界の時点で弾き出されるので当然ではある。

ローファンは小さく息を吐いた後、冷徹な声で言う。


「結界を超えた以上、大司教に敵意がないことは分かった。だが、あくまで貴様は魔族の王。本来ならこの場で斬り殺すのが道理だ」

「ならば何故殺さん? 人は魔王を殺すものじゃろう?」

「フィリアからの言伝だ。貴様を殺せば、勇者が死ぬ。それが呪いによるものなのかは分からないが、現状は無力化が最善と考えた」

「あの小娘め……」


既にフィリアは、フェーネラル達に商業都市での顛末を伝えていたのだ。

オスカーが敵ではないこと、そして魔王には何らかの呪いがあることを。

それを知っていたからこそ、彼らは封印するだけに留めたのだ。


「やはり貴方は自死を望んでいるようだね。今回の暗殺……ヴァンダインの死に関係がないとはいえ、貴方の死を引き金に何か良からぬことが起きる、という点に間違いはなさそうだ」

「……」

「今の貴方には自害をするだけの力もない。だからこそ、聞かせてほしい。何故我々人族を襲う? 先代魔王は何一つ答えてはくれなかった」


かつてフェーネラルは、同じ問いを先代魔王に投げ掛けた事があった。

しかし帰ってきたのは言葉ではなく、殺意の猛攻だけだった。

魔王を含め、魔族達は人族への敵対心を失くすことがない。

数百年では収まらない、過去の歴史がそれを物語っている。

目の前のギンコは、老いた彼の瞳を真っすぐに見上げた。


「知れた事。貴様達人族は我々とは異なる種族。決して相容れぬ、奪い奪われる関係なのじゃ。それ以上の理由は何処にも在りはせぬ」

「……どうやら、これ以上の問答は無駄なようですね。大司教、魔王は連れて行きます」


結局の所、魔王も他の魔族と変わりはない。

人族を滅ぼそうとしていることに変わりがないのなら、対話が成り立つ筈もない。

ローファンが神官達に、魔王を下げるように合図を送る。

すると直後、フェーネラルがおもむろに口を開いた。


「最後に一つ、聞かせておくれ。貴方は先代勇者達の最期を……私の仲間の死を見たのか?」

「……先代はお前たち勇者を道連れに死んだ。妾に伝わっているのは、それだけじゃ」


ギンコは視線を逸らしながら答えるだけだった。

人族の間でも伝わっている先代勇者達の散り様。

先代魔王と相打ちになり、勇敢な死を遂げたと言われている。

神官達によってギンコが運ばれていく中、ローファンがフェーネラルを気遣う。


「大司教……」

「すまない、ローファン。この歳になると、昔の事を思い出してしまうよ」


フェーネラルは大事ないと微笑む。

彼の脳裏にあったのは先代魔王との対話だけではない。

共に戦った戦友、先代勇者パーティーの面影があった。

過去の戦いではギンコが述べたように、死期を悟った魔王が勇者全員を道連れに大爆発を巻き起こした。

周囲一帯の地形を変え、更地にしてしまう程の巨大な衝撃だった。

爆発の後、フェーネラルの周りには何一つ残っていなかった。

防御結界を展開していたが抑え切れず、自分一人だけが生き残ってしまったのだ。

自身より遥かに若い勇者達をその一瞬で全て奪われる。

十年以上が経った今でも、その後悔は未だに彼を苛み続けていた。


「未だに私は、仲間達が生きていると信じたいのかもしれないね」


フェーネラルは目を細めて、四神が飾られたステンドグラスを見上げた。

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