9.デバフ勇者、敵の思惑
ローファン達によって魔王を取り上げられたオスカー達は、変装を解除した上で、余計な騒ぎを起こさないよう拘束されることになった。
三人は神官達の手によって特殊な手錠をかけられる。
魔力を遮断して術式発動と魔力行使を封じる拘束具だ。
非常に希少で、本当に危険な人物にしか与えない代物である。
流石のオスカーも魔力を封じられてはデバフを使えないと見越して、ローファンが用意したのだろう。
大人しく応じ、そのまま修道院地下にある牢屋へと案内される。
オスカーは、この大修道院には賊を収容する監獄があることを予め知っていた。
神を信仰する場である以上、それに仇成す者を収容する場所なので、質の良い場所でないことも予想していた。
「牢屋に入れられるって言うから、どんなものかと思っていたけど……」
しかし放り込まれた牢屋を見て、彼は目を丸くする。
清潔感のある壁やタイル床。
真新しいベッドやソファーが並べられ、身体が休められるような物が揃っている。
浴室などの設備もあり、それらは別室で完全に仕切られている。
とても牢獄には見えず、鉄格子のついた鋼鉄の扉だけが、辛うじて牢屋らしさを醸し出しているだけだ。
後から入ってきたザカンとエイダも不思議そうに見渡す。
「中は宿泊施設同然じゃねぇか」
「うん……しかもかなり高級なヤツだよ」
何かの間違いかと思ったが、案内役の神官達にこれといった反応はない。
自分達のためにわざわざ工面したのだろうか。
後ろから様子を見に来ていたテリアが、小さく首を振った。
「当代の勇者様に酷い扱いなんて出来ませんよ。本当はこれでも足りない位です」
「でも俺達は大罪人……」
「事の真相は私には分かりませんけど、盗賊から助けてくれた貴方達が悪人だとは思えません。兄さん達もそれを分かっているから、王国側に渡さないんだと思うんです」
ある程度の信用を置かれているのは、オスカーにも理解できていた。
そうでなければ断罪と言う名目で斬り捨てられている筈だ。
ただし、この事が王国側に知れれば国際問題に発展する。
下手をすれば国同士の争いになりかねない。
大司教達もギリギリの綱渡りをしている事が分かる。
「大司教様やローファン司教には感謝しないとな。出来る事なら、暗殺の件も協力したいけど……今はこのままジッとしているしかないか」
「……ごめんなさい」
「いや、気にしなくて良いんだ。それと今回の件で、何か気になることがあったら、教えてほしい。助言くらいは出来るかもしれない」
「そうですね……でも多分、詳しいことは兄さんも分かってないと思うんです。暗殺予告を出していた人は直ぐに自殺しちゃいましたし。ただその人は一月前に、兄さんや他の人達と一緒に境海へ探索に出掛けていたんです」
「境海に?」
境海とは、神都と王国に面している広大で底の深い海のことだ。
加えて人族の領土と魔族の領土を隔てているため、そう呼ばれている。
境海がある限り、人族も魔族も海を越えて相手の領土に攻め込まなければならない。
お互い攻めあぐねているのは、この海が原因とも言える。
しかし海を越えて侵入する魔族は当然存在する。
商業都市でのギンコの例が最たるものだ。
そして王都でも魔族騒ぎが起きていた上に、魔将・アリアスにも占領されつつあった。
境海付近で警備に当たっている者もいるが、それでも完全ではないという事だ。
故にローファン達は警備に穴がないかと、今一度探索に向かったのだろう。
「そのせいで、兄さんまで犯人かもって疑われて……ヴァンダインさんを死なせたのも兄さんなんじゃないかって」
「証拠もないのにそんな事……あの人が暗殺を企んでいるなんて、俺には考えられないな」
「ありがとうございます。その言葉、兄さんにも伝えておきますね」
ローファンの妹であるテリアにも、疑いが向けられているのは察しが付く。
皆、暗殺騒ぎで気が立っているのだろう。
犯人の目星すらつかないからこそ、むやみやたらに疑惑ばかりが広がっているのだ。
彼女はオスカーの擁護に少しだけ笑みを浮かべながら、他の神官達と共に牢獄を後にした。
足音が遠くなる中、オスカー達は錠の掛けられた牢獄、もとい宿泊部屋に閉じ込められる。
早速ザカンが背負っていた荷物を降ろし、ゆっくりとベッドに腰かけた。
「仲間割れは犯人にとって一番好都合だろ。状況はかなりマズそうだな」
「疑心暗鬼になるのも無理はないけど、確かに今のままじゃ……」
内部分裂が起きるかもしれない。
先代の結界は確かに強力だが、それを突破する方法を犯人が編み出しているのなら、修道院内も安全ではない。
鍵の掛かった牢屋に閉じ込められていた方が、まだ安全とも言える。
しかし結界を抜ける力量を持つ者など、片手で数える程度しかいない。
「もしかして、ギンコが関係してるのかな?」
「どうだろう。力は封印されているし、何か出来る訳じゃない。パラミナに来たのも殆ど偶然だ」
「……」
「やっぱり、彼女の事が気になる?」
「ん。もっと話したかったんだけど、もう会えないのかな?」
「仮にも魔王だ。直ぐに倒されることはないだろうけど、それ以上の事は俺にも……」
ギンコに関しては、完全に修道院側に奪われてしまった。
オスカー達の手で横槍を入れることは出来ない。
一応、フィリアの伝言によって生かされる方面で話は纏まっている。
期限は決まっておらず、命が尽きるまで永久に封印されるという事もあり得る。
ただ少なくとも、彼女は今回の暗殺には関与していない。
「ギンコはまだ隠し事をしている。それが分かるまでは安全な筈だ。暗殺の件が終わったら、大司教に話をしに行こう」
「そうね。今は先代の人をなんとかしないと。でも、何が出来るかな?」
エイダは両目を閉じて腕を組む。
実際の所、今出来る事は殆どない。
無理矢理牢屋から出る訳にもいかないので、思考を巡らせるくらいしかない。
どうしたものかとオスカーも一緒に考え込んでいると、不意に物音が聞こえる。
向かいにある牢獄からだった。
扉の小窓が開いていたので彼が覗き込んでみると、そこには見覚えのある男達が捕えられていた。
「チッ! まさか偽りの勇者が現れるなんて、ツイてねぇ……!」
「おぉ、その声……さっきの盗賊さんか? 随分とお冠だな。まぁ、同じ牢のよしみだ。少し落ち着こうぜ」
「うるせぇ! お蔭で俺達はこのザマだ! お前達のせいでなぁ!」
「そりゃ気の毒だとは思うが、自分のやったことを棚に上げるなっての。アンタらだって、若い子らを殺そうとしたじゃねぇか。因果応報ってヤツだぜ」
「大体、何でテメェらと待遇が違ぇんだよ!? 俺らは便所ような牢獄だってのによぉ!」
「それは司教様に聞いてくれ。俺に出来るのは、薬草パーティーを振る舞う位だな。武器は没収されたが、薬草はたんまりあるんだ」
「チッ! 話が通じねぇ……!」
盗賊達は陽気なザカンに対して舌打ちをする。
どうにも自分達が捕まった事を根に持っているようだ。
互いに捕まっている身だが、あまり刺激しても仕方がない。
危なっかしい父親をオスカーは忠告する。
「父さん、あまり変なことを言うなよ」
「変な事ってお前……仲良くやろうって話だぜ。暗殺の件だって何か知ってるかもしれねぇし、今のままじゃマトモな話も出来ねぇだろ」
「話が通じないって言われたじゃないか」
「そりゃぁ、なんつーか……な?」
「な、じゃないだろ? そういう所が、危なっかしいんだよ」
「ん? まさかお前、父さんのことを心配して?」
「ど、どうだって良いだろ……」
茶化そうとされるので、思わずオスカーは顔を逸らす。
昔からこうである。
こういう所があるから、結局言いたいことが伝わっている気がしない。
気を紛らわすように彼は扉の小窓を閉じ、向こうからの音を完全に遮った。
「まぁこんな状況だし、身体より頭を動かした方が良さそうだ」
「頭? こう?」
「いや……実際に頭を動かすんじゃなくて、考えてみようって話だよ」
「考える? 難しいかも……」
変わらずエイダは色々と思案している。
傍にあった椅子に座りながら、少しでも役に立とうと頑張っている。
暫くして、彼女なりに浮かんできたものを質問として投げてきた。
「さっきの結界、壊せるの?」
「普通は出来ないかな。敵意のある人を追い出すだけじゃなくて、攻撃から守る力がある。一軍隊が攻め込んできても、多分壊せないと思うよ」
「んー。じゃあ、敵がもう潜り込んでいるって事かしら?」
「ヴァンダインさんが亡くなったとなると、有り得る話だと思う。どうやって結界を抜けたのかは分からないけど……だから、皆も警戒しているんだ」
ヴァンダインの死は偶然とは思えない。
彼が亡くなったのは暗殺計画が周知のものになった後だ。
誰であってもそれらに関連性があると思ってしまうだろう。
するとザカンが急に口を挟む。
「待てよ、オスカー。そのヴァンダインって人が暗殺されたのは本当なのか? 今回の件と結びつけるのは早過ぎだろ」
「外傷もなくて死因も不明。あの人は持病もなかったし、どう考えても不自然だ。寧ろ、暗殺と結びつけない方が難しいんじゃないか?」
「そうかもしれねぇが……」
「まぁ確かに、ヴァンダインさんの件は色々と気になる所がある」
暗殺と仮定するなら、何故真っ先にフェーネラルを狙わなかったのか。
側近である彼を暗殺することで、大司教の警備を薄くしたかったとも考えられる。
だがこうして暗殺された事実が広まれば、更に警備は強まる。
犯人が何を考えて凶行に至ったのか、分からないことだらけだ。
「ただ、犯人はこの大修道院に隠れている。そう思った方がいいかな」
「……もし大司教様が倒れることになったら、俺達は縛り首だぜ?」
「分かってる。今は、あの人のお蔭で拘束されているんだ。後ろ盾がなかったら、俺達は直ぐに切り捨てられる」
「クソッ……見ているしかないってのは、本当にもどかしいな」
結局、振出しに戻ってしまう。
自由に大修道院を歩けるならば、まだ調査のしようがあるのだが、この有様ではどうしようもない。
このまま事が過ぎ去るまで、留まるしかないのだろうか。
思考が止まりかけると、ザカンが背伸びをしながら立ち上がった。
「やっぱり、こうやって待つことしか出来ねぇ。だったら、久しぶりのベッドで熟睡した方が建設的かもな。いや……それよりも浴室で汗を流すのが先か?」
「一応捕まっている身なのに、伸び伸びし過ぎじゃないか?」
「馬鹿言え。こういう時に羽を休めないで、いつ休むんだ。それに二人共、今までずっと歩き詰めだっただろ? 俺以上に疲れてる筈なんだから、少しは休んどけっての」
彼はそう言いながら、もう一度ベッドに腰かけた。
勢いに合わせて、マットレスが柔らかい音を立てる。
既に思考放棄して休む気満々のようだ。
「うぅ……頭、痛くなってきたわ」
「だ、大丈夫?」
「ちょっと考え過ぎただけ。頭を動かすの、やっぱり難しいわね」
続いてエイダも、両目を瞑りながら片手で頭を抑える。
確かに商業都市から大修道院に来るまで、まとまった休息は取れなかった。
逃亡犯という身分では、溜まった疲れを癒すのも一苦労だった。
ならば捕まっているという事を前向きに捉え、今の内に休んでおくと言うのも一理ある。
オスカーは二人の様子を気に掛け、軽く息を吐いた。
「そうだな……身動きも取れないし、休んだ方が良いかな。エイダ、浴室を使いたいなら先に使っていいよ」
「浴室?」
「この牢屋は結構設備が整っているみたいだ。気分転換がてら、身体を洗えばサッパリするんじゃないか?」
「水浴びの事ね。でも、先に使って良いの? オスカーもザカンも、先に浴びたいんでしょ?」
「俺は後でも良い。父さんも、別に良いだろ?」
取りあえず、汗ばんだ身体を洗い流す時間はありそうだ。
オスカーはエイダに浴室を使うように促す。
順番は決まっていないが、彼女は割と綺麗好きな一面がある。
自らの魔力で水を生成できる事もあって、水浴びに関しては毎日欠かしたことがない。
その辺りを分かっていたので、彼はザカンと示し合わせた。
「おう、おっさんは後で入らせてもらうぜ。レディーファーストってヤツだな」
「……れでー?」
「紳士たるもの、淑女は丁重に扱えって事さ」
「そうなの? じゃあ、先に入るわね?」
「おっと、浴室の蛇口は丁寧に扱えよ? 力任せに捻ると壊れちまうからな」
「分かった! 待ってて、直ぐに洗ってくるから!」
二人で共に譲ると、エイダは強く頷いた。
多少なりとも心待ちにしていたようだ。
座って椅子から軽やかに降り、小走りで浴室へと向かっていく。
切り替えが早いと言うべきか、事態を深刻に捉えずに前向きでいようとするひたむきさがあった。
そんな後姿を見て、ザカンが思わず微笑んだ。
「何で笑ってるんだ?」
「いや、ああいう子がいると色々助かるって思ってな」
「なんだそれ」
「お前だって分かってる筈だぜ。一緒に戦ってくる人ってのは、それだけで貴重なんだ。お前は生真面目過ぎるからな。悪いことをそのまま受け取っちまうだろ?」
「そう、かな……?」
「別にそれが悪いとは言わねぇさ。ただ、気負い過ぎると考えが傾いちまう。あの子には、感謝しときな」
そう言われて、オスカーは物音のする浴室の方へと目を向けた。
元々エイダは二人に同行する必要がない。
指名手配されているのも勇者であるオスカーと父親のザカンだけだ。
彼女ほどの身体能力があれば、逃げようと思えばいつでも逃げ切れる。
魔力封じの手錠も、自力で簡単に破壊できるだろう。
それでも手錠を掛けられたまま、汚名を受けるリスクを背負ってまで付いて来てくれている。
無言でオスカーが頷くと、不意にエイダが浴室から顔を覗かせた。
表情からは困惑している様子が伺える。
どうかしたのかと思っていると、彼女は申し訳なさそうに目をしていた。
「ええと、蛇口ってどう使うの? コレ、取れたんだけど……」
「あっ」
成程、そうきたか。
浴室を知らなかった彼女に対し、オスカーも僅かに苦笑するのだった。
●
「どうする?」
「魔力封じの手錠で拘束されているんだ。今の奴は何も出来ない」
「警備も薄い。やるなら今しかない……!」
オスカーが牢獄内で順番に浴室を使っている間、大修道院内では不穏な空気が流れていた。
牢獄に繋がる地下通路で、複数人の神官が武器を持って囁いている。
彼らはオスカーが捕えられている事を知っており、警備のためではなく、標的を仕留めるために集っているようだ。
その狙いは一つ。
全員の視線は、先にある牢獄一点に注がれていた。
そこへ新たな人物が現れる。
驚いた神官達が後ろを振り返ると同時に、その人物が言葉を発する。
「何の話をしている?」
「ッ!? ローファン司教!?」
「この先はオスカー・ヒルベルトを投獄している牢屋だ。まさかとは思うが……?」
ローファンは彼らの動きに一早く気付いていた。
意味深な言い方で逃げ道を失くしていく。
厳格な態度からして、そのまま見逃すようには見えない。
退路を失った神官達は、彼に向かって感情的に言い分を放った。
「ローファン司教! 奴は危険です! ヴァンダイン司教が亡くなった件も、あの男が関与しているかもしれない! 不安の種はここで潰すべきです!」
「ヴァンダインが亡くなった時、彼らはまだ王国にいた。君達の考えは距離的に不可能だ」
「しかし……!」
「不安なのは分かるが、彼らは正面から大司教の結界を抜けた。そして看破の術式にも真実を以って語った。これ以上を疑うなら、我々と大司教の力を疑わなくてはならない」
ローファンはあくまで客観的な視点で彼らの主張を退けていく。
オスカーが勇者である事や、大罪人である事を度外視し、彼らには実現不可能だと反論する。
流石に大司教の名を出されては、何も言えない。
神官達は観念したように武器を降ろし、すごすごと立ち去っていく。
事を荒立てるのは、彼らとしても好ましくないようだ。
ただすれ違いざまに、ローファンに向かって小声で語り掛ける。
「分かっていますよね? 貴方自身、疑われている状況だということを」
ローファンは何も言わなかった。
静寂が流れ、通路で灯っていた蝋燭の火が微かに揺れ動く。
直後、神官達が立ち去った通路から別の気配が現れる。
彼が振り返ると、そこにいたのは妹のテリアだった。
今の話を聞いていたのか、彼女は複雑な表情で歩み寄る。
「テリアか」
「兄さん……オスカーさん達の事、疑っていたんじゃないの?」
「勿論、疑いはある。だが今の状況を考えてみれば、彼らが暗殺に関わっている可能性は低い。何もかもを疑う程、私は落ちぶれていない」
「ねぇ……オスカーさん達に協力してもらうのは、やっぱり駄目なの?」
「駄目だ。暗殺の可能性が低くとも、王族殺害や商業都市襲撃の容疑が晴れた訳ではない。今ここで解放すれば混乱を招き、暗殺犯の利になりかねない」
「でもそれを分かってて、兄さんも大司教様も、あの人達を招き入れたんでしょ?」
「……毒を以って毒を制する。暗殺犯にとって、彼らがやって来ることは想定外の筈だからな」
暗殺犯は既に内部に潜り込んでいるかもしれない。
だとするなら、それ程までに狡猾な犯人が、オスカーの存在を見逃す筈もない。
彼の実力は間違いなく勇者足りえるものだと、ローファンは理解していた。
牽制するにしろ、直接叩くにしろ、必ず何かしらのアクションを起こすに違いない。
囮のようではあるが、それを咎められる程の余裕はなかった。
テリアはその話に驚きながらも、今更非難する事も出来ず、一抹の不安を口にした。
「周りの人達は兄さんを疑っている。このままじゃ、兄さんの味方をしてくれる人がいなくなっちゃうよ……」
「或いは、それが犯人の狙いかもしれない」
「どういう事?」
「ヴァンダインを暗殺し、疑いの目をこちらに向けさせる。大司教の警備を更に薄くさせることが目的、とも考えられる。だからこそ、ここで折れる訳にはいかない」
修道院内は疑心暗鬼になりつつある。
大司教がいる手前、どうにか体裁を保ってはいるが、それも時間の問題だ。
その前に何としてでも、犯人の糸口を探らねばならない。
旧友であるヴァンダインを亡くした今、ローファンにあるのはこれ以上の犠牲を生まないという、確固たる思いだった。
「テリア、今後は私と会話することを控えろ。お前にまで疑いの目が向けられては元も子もない」
「そんな……! 兄さん……!」
「お前はまだ子供だ。自分の身の安全だけを考えろ。後の事は、私に任せてくれ」
有無は言わせない。
返答を待つことなく、ローファンはその場から立ち去る。
薄暗い通路の中、悲しそうな様子のテリアだけが一人残された。




